アストルティア《裏》プロフェッショナルズ   作:鹿羽 直之

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【第二話】今際の願い請け負います(#05)

「ほう~、それで、その地図を頼りにここに来たって訳だ……」

 ハンテツの話を聴き終わったレミィーが言った。

「ああ、俺は、あの娘の代わりに、地図に描いてある赤丸の場所に勾玉を持ってきただけだ」

「あのエルフのガキ、命拾いしたな!」

 確かに、リンナでは洞窟の罠を抜けることすらできなかったに違いない。

「まさか、地図に記されていたのは《化物の壺》の場所だったったとわねぇ……」

 そのレミィーの言葉など耳に入ってこないのか、ハンテツは琥珀の勾玉を手にし、ジッと見定めながら深く考え込んでいた。

(この勾玉にどんな意味があるのか?

 今、思いつく可能性は2つ……

 勾玉には壺の封印の力を弱める効果が施されてたとすれば……俺が壺に近づいたことにより、あのモンスターは一部を壺から出せた。

 だとすると、死んだエルフの男は、壺の中のモンスターを世に出そうとしていたことになる。封印を解いたモンスターを何かに利用しようとしていたのか?

 ありえない!

 自分が死んでだ後では、モンスターを世に出しても、自分では利用できない。無意味である。

 もっとも、他の誰かがモンスターを利用するため、たとえ自分が死んでもモンスターの封印を解きたかった。ということも考えられるが……

 では逆に、勾玉に封印の力を増す効果が施されていたとすればどうか……そもそもあの壺の封印は限界で、俺が壺に近づいたことにより御札の効力が強まり、何とか御札1枚で堪えた。

 だとすれば、死んだエルフの男は、死んでもなお、凶暴なモンスターが世に出るのを阻止したかった。ということになる。

 確かにその方が自然のような気もするが……

 それとも、他に、俺の想像が及ばない何か全く別の意図があったのか……

 ともかく、死んだエルフの男は、何故、自分が死んだ後もこの勾玉を壺の所へ持ち込みたかったのか。その事情を探らなければ……)

 そんな深刻な面持ちのハンテツを一蹴するかのように、レミィーは、

「まぁ、あたいにとっては、壺の中身なんてどうでもいいけど……中は知らなかったことにして、壺を依頼主に届けるだけさ!」

 と気楽に言い捨てた。

 ハンテツが鋭い眼をレミィーに送るが、レミィーは引く様子はなく、逆に言い返してきた。

「ハンテツ、あんたにとって、あの壺は何でもないんだろ!……あんたが頼まれたのは『琥珀の勾玉を洞窟の奥に持って行く』ことだけだったんだから!あんたがやるべきことは、もう済んでるよな!ってことは、壺ははあたいが好きにして構わないって訳だ!

 それとも何かい?明らかにヤバイことだって分かってるのに、さらに足突っ込む気かい?金にもならないし、義理もないのに……」

 レミィーの言うことには一理ある。そもそも、ハンテツがこの件に巻き込まれたのは、本来、裏稼業の人間としては慎まなければならない《おせっかい》をしてしまったからである。これ以上深入りするのは身を亡ぼしかねないのだ。

「……」

 だがやはり、謎を残したままでは後味が悪いのだろう。ハンテツは重苦しく口を開いた。

「レミィー……」

「ん?」

「頼みがある……」

「ダメだね!あの壺は渡せないよ!」

「3日でいい、3日だけ待ってくれないか?」

「3日?」

「ああ、3日間でできるだけ調べてみる。それで何も分からなかったら諦めよう。壺はお前の自由にしていい……」

「3日の間に、またあのモンスターが出てきたらどうするんだよ!」

「確かに、壺の封印はかなり弱まっている。だが3日は何とか持つと看ている」

 レミィーは少し考え、

「ハンテツ、『調べる』って言ってるけど……本当に大丈夫かよ。この話、けっこうヤバイと思うぞ。壺の中の化物、何だか分からないだろ!しかも、手掛かりと言ったら、その《勾玉》ぐらい!それでどうやって調べるんだよ?」

 と、彼女にしては珍しく理性的な口調で言った。

「ああ、そうだな……」

「あたいは、直接、大元の依頼人とは会っていないけど、大元の依頼人は、詳しく壺の中の事は話さなかったみたいだし……やっぱり《訳アリ》なんだよ、これ」

「さっき、『壺を狙っている者が他にもいる』って言ってたな?」

「ああ、そう聞いてるけど」

「ということは、壺の中のモンスターを利用しようと企んでいる奴がいる、ってことか……」

「ハンテツ、こういうの疑い出したらキリねぇぞ……あたいらの仕事は、依頼人の希望に応えてやる。ただ、それだけなんじぇねぇの?」

 暫く沈黙する二人。その後、ハンテツが口を開いた。

「レミィー、お前にこの仕事を頼んだ依頼主は、信頼できるヤツなのか?」

「うーん、あたいの印象では、人を騙すようなヤツには見えなかったけど……」

「俺が一番気になっているのは、壺の中のモンスターを誰かが悪用しようとしているんじゃないかってことだ。

 勿論、俺たちの仕事は正義でも善行でもない。だが、悪事に手を貸すようなことになるのは本意じゃないだろ!」

「まぁ……な」

「あの壺の中のモンスター。あれが悪用されたらどうなると思う?……何人もの関係ない人が命の危険に晒されるかもしれない」

「それは、解るけどさぁ……」

「もし、仮に、あのエルフの男が『壺のモンスターを悪用させないため、死ぬ前に最後の望みを託した』のだとしたら、俺は、死に際に居合わせた者としての責任を果たしたいんだ……」

 レミィーは何も答えなかった。勿論その気持ちは理解できるが、本当は(甘いよ!そんな人情に流されて裏稼業が務まるか!)と言い返したかったに違いない。

「レミィー、お前に仕事を頼んだ依頼主が、『100%信頼できる!』と言い切れるなら、『悪事に利用するためにこの壺を盗ませようとしたのではない』と言い切れるなら、俺はこの場で手を引こう」

 レミィーは溜息をつき、少し悩んだ様子をみせた後、

「分かったよ。あんたがそこまで言うなら、3日だけ待ってやるよ」

 と、渋々承諾した。

「レミィー、済まない……」

「これ、1つ《貸し》だからな」

「ああ、覚えておくよ……じゃぁ、3日後の夕刻、またここで落ち合おう」

「その時まで何も出なかったら、壺はあたいが持って行っていいんだね」

「あぁ、それで構わない。約束する」

 そう言うハンテツの真顔を、レミィーは訝しげに覗き、

「ところでハンテツ、何でこの件に、そんなに拘る?」

「ン?さっきも言っただろ、『壺の中のモンスターが、悪事に利用されるのは避けたい』って……」

「ホントにそれだけか~?」

「どういう意味だ?」

 レミィーはニヤリと笑い、

「実は、あの《リンナ》とかいうエルフのガキに良い格好したいんじゃね~の?」

 と、好色な目を向けた。

「そんな訳ないだろ!」

「あのガキ、オヤジ好きのする可愛い顔してたもんな!」

「レミィー、冷やかすのもいい加減にしろ!そもそも、もう会うこともない相手に『良い格好』しても無意味だろう!」

 もし、ハンテツが赤い皮膚のオーガという種族でなかったなら、この時、顔が少し赤らんでいたのが容易に確認できたであろう……

「ハハッ、冗談だよ」

 レミィーはそう言って、夕陽が染み渡ろうとしている夢幻の森に高笑いを響かせた。

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