アストルティア《裏》プロフェッショナルズ   作:鹿羽 直之

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【第二話】今際の願い請け負います(#07)

 夢幻の森の北東部。森の木々に遮られ、ただでさえ陽当りの悪いこの地は、夕方になるともう深夜のような暗さである。

 ハンテツは約束どおり、隠し洞窟の入口前にやって来た。

(レミィーは、まだ来ていないのか……)

 と思っていると、レミィーが姿を現した。洞窟内から《リレミト》で出てきたようだ。少し衣服が汚れている。

「レミィー、先に来ていたのか」

「ああ、ちょっと早く着いたんで、壺の様子を見てきてやったよ……今のところ封印は解かれていないみたいだったけど……」

「そうか、済まない」

「それで、この件に関して何か判ったのかい?」

 レミィーは衣服に着いた土を手で払いながら言った。

 その問いに対して、首を横に振るハンテツ。

「3日の間、色々と探ってみたが、死んだエルフの男が、何故琥珀の勾玉を持って行かせたかったのかは分からなかった……心当たりのありそうな奴に訊いて廻ったんだがな」

「そうかい……それで、どこまで掴めた?」

「俺は、琥珀の勾玉に、壺の封印に何かしら作用する仕掛けが施されていると睨んでいたんだが、思ったとおり、ある呪術師が『この琥珀の勾玉には、何かまじないが掛けられている』と言っていた……だが、どんなまじないが掛けられているかは、掛けた本人にしか分からないそうだ」

 レミィーの脳裏に、コバッチュが言っていた《琥珀にまじないを掛けた客》が過る。

「でもさぁ、始めに勾玉を託されたのは、リンナとかいうエルフのガキなんだろ。あいつに頼んでも、洞窟の奥に辿り着くことは無理だぜ!。今日だって、あたいが洞窟に入ったら幾つかの罠が作動したんだし」

 レミィーはハンテツに衣服の汚れを見せながら言った。その衣服の汚れは洞窟内の罠を躱した際についたものだったのだ。

「おそらく、この勾玉には洞窟内の罠を作動させないまじないも掛けられている。事実、俺が3日前に洞窟に入った時も何も起きなかった」

「なるほどねぇ……」

 レミィーの顔が少し緩んだ。レミィーは、暗闇の中でも罠に掛かららず洞窟奥まで辿り着くことが出来たハンテツに対して、ある種の《妬み》を感じていたらしい。確かにハンテツの腕は超一流である。総合的な力量では一歩譲らざるを得ない。だが、こと盗賊のスキルに関しては自分の方が上だという自負があるのだろう。今、ハンテツから理由を聞いて、その自尊心が保てたという訳である。

「死んだエルフの男については、何か判ったのかい?」

「いいや……だが、死んだエルフの男は、天地雷鳴士じゃないかと看ている。魔物や怨霊・妖怪なんかを一時的に封じ込めるっていうやり方は天地雷鳴士、特に陰衆がよくやるそうだ。勾玉といい御札といい天地雷鳴士らしいアイテムだしな……」

「天地雷鳴士……」

 また、レミィーの脳裏に《琥珀にまじないを掛けた客》が過った。

「俺は、エルフの男は、誰かに殺されたんじゃないかと思っている。そして、自分が狙われていると知っていたから、予め勾玉と地図を用意しておいたんだ……万が一の時は、誰かに託せるように……」

「でも、あんたが診た遺体には、おかしなところは無かったんだろ?」

「あの時点ではな。だが、もし、時間が経過した遺体を診ることができていれば、何か異常が見つかったかもしれない……」

「それはできなかったのか?」

「ああ、遺体は、現場からなくなっていたらしい」

「遺体が消えただって⁉」

「守衛が、リンナに案内されて現場に行った時は『遺体なんてどこにも無かった』と言っていた。おそらく、殺した奴が遺体を持ち去ったのだろう」

「……」

 暫し沈黙の後、

「まぁ、これ以上はどうしようもない。やれるだけの事はやったさ。約束どおり、あの壺はお前に任せるよ。後は、お前の依頼主が壺を悪用しないよう願うだけだ」

 そう言って、去ろうとしたハンテツに、

「あのさぁ……」

 とレミィーが呼び止めた。

「ん?」

「あたいさぁ、さっきチョット気になる話を聞いたんだ……」

「『気になる話』?」

 レミィーが重く頷く。

「あたい、ここに来る前に、野暮用があって、怪しい薬を作ってる知り合いのところに寄ったんだ。

 それで、そいつが言うには、『どうしても《秘伝の薬》を売ってほしいって言う客がいて、仕方なく売ったんだけど、その客が、お礼に琥珀にまじないを掛けてくれた』って言うんだよ」

「『琥珀にまじないを掛けた』だと⁉」

 ハンテツの眼が鋭く光る。

「それで、その売った《秘伝の薬》っていうのが、《おむかえデスよ》っていう薬らしいんだ」

 レミィーは、あの後のコバッチュとの会話の中で、《琥珀にまじないを掛けた客》に関する情報を、他にも色々と聞き出していたらしい。

「何だ?その《おむかえデスよ》っていうのは?」

「本当かどうか知らないけど、人を一時的に仮死状態にできる薬って言ってた」

「『仮死状態』⁉」

 益々鋭くなるハンテツの眼。

「それで、仮死状態にする薬を買った客っていうのは、どんな奴だったって?」

「中年のエルフの男らしい……若作りした感じだったんで、実年齢はもう少し上かもしれないって……そして、おそらく天地雷鳴士だ……って」

(そうか!……そういう事だったのか!)

 ハンテツはハッとした。

「レミィー、その仮死状態にする薬を買ったエルフの男が、勾玉と地図を託した男に、まず間違いない!」

「やっぱり……あんたもそう思うかい」

「天地雷鳴士らしきエルフの男は、壺の封印を解いて、中の化物を利用するつもりだったんだ。

 引っ掛かっていた『もし、壺の中の化物を利用するつもりだったのだとしたら、自分が死んでしまった後では意味がない』という疑問は、これで解けた!

 そもそも、あの男は死んではいなかったんだ!」

「死んだふりをして、あのエルフのガキを利用しようとしたって訳だ」

「おそらく、危険な場所にある墓に花を手向けるリンナを見て、『この娘だったら、死者の最後の願いを無下にすることはない』と考えたんだろう」

 レミィーは内心、(あんたも義理人情に絆されて『死者の最後の願いを無下にできない』って思ったんじゃないかよ!)とツッコミたかったが、口には出さずにおいた。 

「その男、壺の中のモンスターを利用して何を企んでるんだろうね?」

「まぁ、年端もいかない娘を平気で犠牲にしようとする奴だ。ろくなことじゃないだろう……

 レミィー、早く壺を依頼人に届けた方がいい。あの壺の封印は、もういつ解けてもおかしくない。俺が勾玉をあの場所に持って行ったせいで、御札の効力が弱まっている。あの男の目的は半ば達せられているんだ」

「エルフの男は、化物が弱まった封印を破り壺から出てくるのを、今か今かと待っているって訳だ……」

「今となっては、お前の依頼主に賭けるしかない!」

 レミィーは暫し目を閉じた。

「ハンテツ、あたい、壺を持って行く前に、この事を依頼人に話してみようと思うんだけど……いいかい?」

「構わないさ。その事も含めて全部お前に任せるよ」

 レミィーの眼が頷いたように瞬きをした。

「それでさぁ、あんたも一緒に来て、依頼人に会ってもらえないかなぁ~」

 ハンテツの顔が不審気に傾く。

「いや、俺はお前の依頼人に会うつもりはない……」

 レミィーは一瞬俯いて、またハンテツを見上げた。

「ハンテツ、少し話を聞いてくれるかい?

 この仕事をあたいに依頼してきたのは、《オウライ屋》っていう仕事請け負い業者なんだ。まぁ、裏の仕事も請け負ってるみたいなんだけど……その女主人、あたいらの事知っていて、あたいは、その女主人にスカウトされたんだ」

「俺らの事を知っていた?」

「うん、ほら、あの悪徳魔物使いの件でベヒードスをやっただろ、その話を耳にしたらしいんだ。

 この依頼、実は、最初は『あんたと一緒に組んでやってくれ』って言われていたんだ。女主人は、あたいとあんたが相方どうしだと思っていたんだね……でも、裏筋の情報を辿っても、あんたの素性も行方も分からない。だから、まずあたいに声を掛けてきたみたいなんだ。

 あたいは、あの女主人が本当に腕を買っているのは、あんたの方じゃないかと思ってる。だから、一度会ってみてはどうかと思うんだ」

「そういう事なら尚更会う気にはならないね」

 ハンテツは苦笑交じりにそう言うと、レミィーに背を向け立ち去ろうとした。

「ハンテツ!」

 と、レミィーがその背中に向け、呼び止めた。

「確かこの件では、あんたに《貸し》があったよね?」

 一瞬ビクリとハンテツの肩が震え、振り向いたその顔は、半面が強張っていた。

 対照的に、レミィーは、勝ちを確信しているかのような眼でハンテツを見つめている。

 そう、このオーガの男は意外に義理堅いのだ。裏稼業に従事する者にもかかわらず……

「……よね?」

 と、あざとく小首を傾げて念を押したウェディの女もまた、裏稼業の者には似つかわしくない可憐さを感じさせていた。




※仮死状態にする薬《おむかえデスよ》に関して、ここでは、本当に一時的に呼吸・心拍を止めることができる薬として扱っています。DQX本編(デスマスター転職クエスト)とは異った設定になっているかもしれませんのでご了承ください。
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