オウライ屋を出たリンナが、グランゼドーラ城下町を俯きながら歩いている。
通りを行き交う人々は西陽を受け、その影を石畳に長く伸ばしていた。
リンナは重い足取りで、城下町中央の噴水まで来ると、重力に身体を任せるように噴水前のベンチに座った。
はーぁ、と深い溜息をついた後、うなだれたまま動かない。
どこか遠くから、
「……の……は、……せんかぁ~」
と、女の子の声が聞こえてきた。顔を少し上げて、声に耳を傾ける。
「魔物の何でも屋でーす。何か、お仕事の依頼はありませんかぁ~」
リンナは立ち上がり、周りを見渡して声の主を探した。
声は、行き交う人波の中から聞こえてくるようだった。よく見ると《魔物の何でも屋》と書かれたプラカードが見える。
そのプラカードが人波を抜け出すと、プラカードを持った声の主がリンナの目に入ってきた。
おかっぱ頭をしたプクリポの女の子だ。自分より大きなプラカードを掲げて、大きな声を出して触れ回っている。そして、その後にはスライム、ブラウニー、モーモンが連なって歩いていた。
プクリポの女の子が、通りを歩く人達に、仕事の依頼はないかと声をかけている。が、誰も相手にする人はいない。
それでもめげずに、プクリポの女の子は、努めて明るく元気に声をかけ続けている。
そんな様子を、リンナは切なそうに見ていた。
ふと、リンナとプクリポの女の子と眼が合う。
すると、プクリポの女の子が、3匹の魔物たちを連れてリンナに近づいて来て、
「魔物の便利屋です。何か、ご用命はございませんか?」
と声をかけてきた。
「い……いや、別にないですけど……」
少し慌てた様子のリンナ。
「そうですか。何かございましたら、いつでも言ってください。お待ちしています!」
プクリポの女の子はそう言ってペコリと頭を下げた。3匹の魔物たちもそれに倣ってチョコッと頭を下げる。
その場から立ち去ろうとするプクリポの女の子を、
「あ、ちょっと……いいですか?」
と、リンナが引き留めた。
「何でしょうか?」
「あのう、あなたは魔物使いさんですか?」
「えぇ、まぁ一応……そうですが……」
「なんで便利屋さんなんかやっているんですか?」
プクリポの女の子が恥ずかしそうに照れ笑いをする。
「私、前は、モンスターバトルロードに出場するような魔物使いの親方のところで働いていたんです」
プクリポの女の子は3匹の魔物へ目を落とした。
「でも……この子たち、性格が優しすぎるのか、あまり戦闘は得意じゃないんです……
それで、戦闘以外で能力が発揮できる仕事をさせてあげたいなぁと思って、この子たちを引き取って、こんな仕事を始めたんです」
話を聞いたリンナは、魔物たちの視線まで腰をかがめ、
「そうだったんだ……この魔物さんたちも、私と同じなんだね……」
と、魔物たちの頭を撫でた。目にうっすらと涙が滲んでいる。
「あなたと同じ……?」
「うん、私もね、困っている人の助けになる仕事がしたいと思っていろいろ探してるんだけど、戦闘が得意じゃないから何処も雇ってもらえないんだ。ついさっきも断られたばっかりで、それで凹んでたところなの……」
「そうか、お互い大変ですね」
見合わせた二人の顔から笑みがこぼれた。
陽はさらに傾き、クッキリと形作っていた長い影もぼやけ始めていた。
「それじゃ、時間なんで、そろそろ失礼します。
あっ!だいたいここの大通りでお客さんの呼び込みしてるんで、何かございましたら、気軽に声をかけてください。ではまた……」
と、プクリポの女の子はお辞儀をして、魔物たちを促した。
「あ、あの……」
リンナが、また、プクリポの女の子を引き留めた。
「……?」
「もし、迷惑じゃなかったら、私にも手伝わせてもらえないかなぁ?」
「えっ?、便利屋を……ですか?」
「うん……」
「それは構いませんけど……お給料は出せないかもしれませんよ。全く仕事が入らない日もあるし、それに……最近は、魔物による強盗とか窃盗とかが増えてきているせいか、魔物っていうだけで、悪く思う人も多いんです」
プクリポの女の子が、街灯の柱の張られた張り紙に目をやる。張り紙には、
《注意!魔物による被害増加中!》
と書かれてある。
「お金は要りません。ただ、この魔物さんたちを見ていると他人事とは思えないから……だから、私も力になりたいんです!
まぁ、仕事がなくて他にやることもないっていうのもあるけど……」
プクリポの女の子がクスッと笑う。
「そういう事なら、大歓迎ですよ!是非お願いします!」
「ありがとう!私 リンナっていいます」
「私の名前はペノン。このスライムはスラッキ。こっちのブラウニーはブラン。あっちのモーモンはモモーラ」
「みんな、これからよろしくネ!」
リンナが魔物たちに笑顔で挨拶すると、魔物たちはピョンピョンと飛び跳ね、嬉しそうにそれに応えた。