壺の中に封印されていた、見たこともない巨大なメロンのモンスターが、天辺にある花から何かガスのような気体を吐いた。
「……⁉」
辺りに甘くとろけるような匂いが漂い始める。
本来なら強烈な睡魔に襲われ皆眠ってしまうところだが、そこはプロである。3人とも眠り耐性の装備を着用している。
息を呑み、巨大メロンモンスターの攻撃に備えるハンテツたちだったが、何かがおかしい。本体が壺に封印されていた時には、あれほど熾烈だった触手の攻撃が、今はピタリと止んでいる。
理由はすぐに分かった。巨大メロンモンスターの注意は《リンナ》に注がれていたのだ。遊び道具を目の前にした子供の様に、リンナだけに興味を示している。他は眼中にないようだ。
メロンモンスターの触手がリンナを包み込み、そのまま天辺の花へと持って行った。
触手が緩み、リンナの身体は、巨大メロンモンスターの花の中央、十字に裂けた開口部へと滑り落ちていく。
そうはさせじと、ゲラが跳躍し、リンナの身体に掴み掛かろうとした。しかし、他の触手に阻まれ、逆に触手の攻撃をまともに喰らってしまった。
地面に叩き付けられ、うずくまるゲラ。
為す術なく、リンナの身体は、巨大メロンモンスターの花の十字口に飲み込まれ、体内に取り込まれてしまった。
リンナを吸収した巨大メロンモンスターが光りを放ち始めた。
その光量が増してゆき、遂には、周りが真白く何も見えなくなるほどの強い光を放つ。
たまらず顔を背け目を閉じる3人。
巨大メロンモンスターの発光が、何とか目を開けられる程度にまで治まり始めた。
「⁉……」
そこには、リンナと一体化したメロンモンスターの姿があった。
巨大メロンモンスターの天辺、花の中央に雌しべの如くリンナの上半身がくっ付いており、マスクメロンのような網目がリンナの上半身にも掛かっている。腕はギザギザの歯を生やした二枚貝のような葉に変わっており、そして、ツインテールに纏めた髪が、毛先へ向かって植物の触手を形成していた。
いつの間に意識を取り戻したのだろうか、それを見たエルフの男が、
「ハハッ、やったぞ、私の思った通りだ!」
と、よろよろと立ち上がりながら言った。さらに続けて、
「新たに誕生せし幻魔よ……我が僕となりたもう」
と印を結び始める。
すると、リンナと一体化したメロンモンスターの足元に魔法陣が浮かび上がった。
その魔法陣の中に沈み込むように、リンナと一体化したメロンモンスターが、ゆっくりと姿を消してゆく。
ハンテツたちが、何とかリンナを救い出そうと魔法陣に向かって駆け出した。
ちょうど、リンナと一体化したメロンモンスターの下半分、マスクメロンのような球体が魔法陣に吸い込まれたとき、不意に沈み込みが停止した。
「……?」
訝し気な表情のエルフの男。
直後、
――ビュンッ!
と、触手と化している2本のリンナの髪が、瞬速でエルフの男の体を貫いた。
「グフッ……」
エルフの男の口から血が噴き出る。
突然の出来事に吃驚して、ハンテツたち3人の足が止まった。
エルフの男が、青くなった唇を震わせながら、声を絞り出した。
「あんたたちに……頼みがある……」
今更、命乞いでもするのだろうか。
「頼む……化物を……魔法陣の中へ……押し込んでくれ……」
触手がエルフの男を貫いた状態のまま、リンナと一体化したメロンモンスターの攻撃もそれで止まっている。
エルフの男は、己を貫いている2本の触手を両手で握りしめた。
ハンテツが、エルフの男の側に駆け寄って行くと、エルフの男は、思いも寄らないことを語り出した。
「今の状態で私が死ねば……魔法陣は消滅して……この化物は……主を持たない《はぐれ幻魔》として世に出てしまう……
私の命が尽きて……魔法陣が消える前に……こいつを……魔法陣の中へ……
で、なければ……壺に封印されていた時よりも……さらに質の悪いモンスターとして……野に放たれることになる……」
レミィーとゲラもエルフの男の近くに寄って来た。二人に対して首を横に振るハンテツ。もうこの男は助からないという意味だろう。
「そうなったら、モンスターと一体化したあの娘はどうなるんだい?」
これはレミィーが訊いた。
「一緒に……消える……だろう……」
「ならば、それはできない相談だ!」
とハンテツが即答する。
「いずれにせよ……あの娘が……元に戻る見込みはない……
そうであるなら……化物と一緒に……この世から……消えた方が……あの娘のためだ……」
「ずいぶんと身勝手な言い分じゃないか!そもそもあの娘を化物に変えたのはあんただろうが!」
そう怒鳴りながら、レミィーがエルフの男に掴み掛かろうとした。それをハンテツが制止し、
「あの娘を元に戻す方法は、俺たちが何とか探り出してみせる。メロンの化物も倒してやる。だから、あんたが思い残すことは何も無い!もし苦しいのなら、今、俺が楽にしてやるが……」
と、三本貫手の構えをとった。心臓の動きを一瞬で停止させる秘技の構えである。
エルフの男は微妙に首を横に振った。
暫しの沈黙の後、
「僅かだが……あの娘を助ける望みが残されている……かもしれん……」
「……⁉」
「この魔法陣の中に……あの化物が、収喚されて……はじめて、化物は私固有の幻魔となる……が、
魔法陣への収喚がうまくいかないのは……化物本体がそれを拒んでいるからだ……
化物に自我が残っているのに……私を襲ってこないのは……あの娘の潜在意識が……化物を抑えているのだろう……
今、あの娘の心は……戦っている……捕囚から逃れるため……化物と競り合っている……
もし……一瞬でも、あの娘の心が……化物の支配を振り払うことができれば……あるいは……」
「リンナは元に戻るかもしれないんだな!」
「あの娘が……化物の支配から解かれ、分離した瞬間……その僅かな瞬間に……あの娘を助けるんだ……
そして……残された化物本体だけを……魔法陣の中に押し込めてくれ……」
「その直後に、あんたが魔法陣を消滅させれば……」
「あぁ……私が死んだとき……化物だけが、私と共に……この世からいなくなる……筈だ……」
そのエルフの男の言葉に対して、レミィーが、
「でも、あの娘が分離したら、あのモンスターは《幻魔》じゃなくなるんだろ。そうしたら、魔法陣を通してあんたに収喚できなくなるじゃないのか?」
と疑問を投げた。
「いや……あの娘はあくまで……化物を《幻魔》にするための触媒だ……触媒が外されても……化物が《幻魔》でい続ける……可能性は……ある」
「『可能性』って……」
成功期待値の低さを感じ、当惑するレミィー。
「だから……僅かな望み……と言ってる……」
「レミィー!それに賭けてみようじゃないか!」
ハンテツが、檄を飛ばすように言った。
レミィーは僅かに微笑を洩らし、
「フッ、割に合わない仕事になっちまったけど……しょうがないか」
と言ったのに続けて、ゲラに向かって、こう念を押した。
「トカゲ!あんたも文句はないんだね?たとえ女将の飼犬でも、ここは一蓮托生だよ!」
ゲラはレミィーとハンテツを鋭い眼で見据え、しっかりと頷いた。
「よし!決まりだ!」
ハンテツのその言葉を耳にしたエルフの男の目に、うっすらと涙が滲んだように見えた。
※本文中に、「収喚」という言葉が使われていますが、この単語は「召喚」の対義語として適当な単語が見つからなかったため、私が作った造語で、一般的に使用されている言葉ではありません。
メロンモンスターに取り込まれたリンナのイメージ画像を添付します。
生成AIを使って作成したので、サイズ感や細部の表現等、本文の描写と多少異なりますが、あくまで大まかなイメージだと思ってご参照ください。
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