アストルティア《裏》プロフェッショナルズ   作:鹿羽 直之

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【第二話】今際の願い請け負います(#13)

 数日後……

 昼下りのオウライ屋では、仕事の依頼を持ってくる客で騒めいていた。慌ただしく客対応をしているのは番頭のグリケス一人である。

 また新たに客が来たのだろうか。入口の扉が開いた。

「お邪魔させてもらうよ……」

 と、入って来たのは、恰幅のよい年配のエルフの女性である。

 グリケスがそのエルフの女性に気づく。

「あ、これはこれは、陰衆のご隠居!ようこそ御越しくださいました」

 来店してきた《恰幅のよい年配のエルフの女性》は、天地雷鳴士陰衆の先々代頭首《サヨ》であった。

「カーシャはん、居てはるかえ?」

「少々お待ちいただけますか」

 とグリケスが、奥の応接室へと向かった。

 ドアをノックし、応接室にいるカーシャに話しかける。

「女将さん、陰衆のご隠居さんがお見えになりましたけど……」

「そう!こちらへお通ししてちょうだい」

 と、ドア越しにカーシャの声。

「かしこまりました」

 グリケスが応接室のドアを開け、

「どうぞ、こちらへ……」

 とサヨを応接室に案内した。

「おおきに」

 そう言いながらサヨは、少し重い足取でカーシャのいる応接室へと入っていった。

 部屋ではカーシャがにこやかにサヨを迎え、

「遠いところ、ようこそ。どうぞお掛けになってください」

 と言って、ソファを勧めた。

 フーッと溜息をつき、サヨが重そうな体をソファに沈める。

「いま、お茶を入れますね……お抹茶でよろしかったかしら?」

「いや、構わんでええよ……」

 そんな社交文句を聞き流し、カーシャはお茶を入れる準備を始めた。

「そうそう、珍しいスイーツが手に入りましたの。《シャイニーメロン大福》ってご存じですか?

 最近アラハギーロ王国で栽培が再開されたシャイニーメロンが入った贅沢な大福でして、甘味料は、幻と言われる希少なアラモン糖を使った今大人気のスイーツなんですよ。本当なら半年の予約待ちなんですけど、伝手を辿って特別に入手しましたの……

 甘いもの、お好きでしたよね?」

 カーシャは少し言葉に毒気を孕ませ、さらにこう続けた。

「それとも……メロン、苦手でした?」

 その言葉にサヨは、一瞬ジロリとカーシャに流し目を送りながらも、

「いや別に、大好物やけど……」

 と、平然を装った。

「あら~!それは良かったですわ。この《シャイニーメロン大福》、抹茶でも紅茶でもコーヒーにも合いますのよ」

 カーシャはそう言って、抹茶と大判の餅を乗せた盆を供応した。この大判の餅が《シャイニーメロン大福》なのだろう。脇にはクロモジを削った楊枝が添えられている。

 サヨは抹茶を一口啜ると、

「この歳になると、長旅もしんどいわ……」

 と漏らした。

「どうしたんですか?珍しいじゃないですか、ご隠居が直接来られるなんて……お仕事の話だったら、いつも若衆の方が来られてるのに……」

「普通の仕事なら、うちの若いモンを使いに出さして済ますけど……今回は、どうやら《裏の仕事》をさせてしもうたみたいやからなぁ……」

 サヨがクロモジで大福を半分に切った。柔らかな餅の断面から、とろけそうなシャイニーメロンの果肉が大きな顔を覗かせ、甘く芳醇な香りを漂わせる。

「カーシャはん、少しばかり、年寄りの昔話に付き合ぅてくれへんか?」

 そういって、サヨが半分に切ったシャイニーメロン大福を口にした。

「えっ、何ですの?昔話って……」

 カーシャが、自分の分のお茶をテーブルに置き、サヨの対面のソファに座った。

 サヨは、ゆっくりと大福を喉の奥へ押込んだ後、しみじみと語り出した。

「あれは、私が頭領になって間もない頃やった……

 一人の若い男が陰衆に入って来よった。その男、名は《ミツトキ》言ぅてな、ああ、それは眉目秀麗な好青年やったよ。しかも頭脳明晰で、何やっても優秀やったし、加えて人一倍精進する人やったわ……

 数年もすると、ミツトキは、私が知る中でも屈指の実力を持つ天地雷鳴士になりよった。

 だが、その優秀さ故なのか、向上心が裏目に出たのか、ミツトキは、密かに古の天地雷鳴士の秘術を研究し始めたんじゃ。

 特にミツトキが没頭したのは、古の秘術の中でも《禁呪》とされ闇に葬られた術の研究やった。

 そしてミツトキは、ある《禁呪》を現代に甦らせることに成功したんや。それは、封印した魔物を外部から手を下さずに葬り去らすちゅう術でな……ある果実にまじないを施し、それを封印したい魔物と一緒に入れておくというもんじゃ。

 封印された魔物が、その果実を食べてまうと、まじないを施された果実の種子は魔物の体内で芽を出し、成長し、遂には魔物を蝕んで死に追いやってしまうちゅうもんらしい」

 カーシャが顔をしかめて、

「少し、気持ち悪い術ですね……でも《禁呪》にする程ではないように思うのですが……」

 と訊いた。

「いや、この術が《禁呪》とされたのには、やはり訳があるんや。

 この術、特に魔瘴に強く侵されている魔物に使った場合、魔瘴の影響を受けて発芽した種子が、新たに植物系の魔物に変異してまう怖れがあるんや。その魔物に変異した植物は、成長する過程で、封印した魔物の能力も吸収して、えらく強者な魔物になってまう。

 そやさかい、この術は《禁呪》とされたんや……」

 サヨが一旦話を止め、抹茶を一口、喉を潤した後さらに続けた。

「けどな、なんとミツトキはその《禁呪》を自らの手で進化さして、発芽した種子が新しい魔物に変異しても大丈夫な術を編み出したんよ……

 それが、変異した魔物を《幻魔》にして自分に取り込むちゅう術や。

 ある日、ミツトキは『その術を試させてくれ!』言うてきた」

「魔物を《幻魔》になんかできるんんですか?」

「うむ……なんでもな、魔物に喰わす果実に《幻魔の因子》なるモノを仕込んでおくらしい。まぁ、ミツトキは『簡単に言うと、《幻魔の因子》とは幻魔の遺伝子みたいなもので、それを異種間交配して品種改良するような方法で果実に組み込んだ』て言うてたけど、アホな私にはよう解らんかった……」

「要するに、《幻魔の因子》を持った果実を、封印した魔物が食べれば、その魔物の体内で発芽した種子が、変異して新たな魔物となっても、それは《幻魔の因子》を持った魔物なので、《幻魔》にすることが可能である……と?」

「たぶんそういうこっちゃ。そやけどな、その魔物を《幻魔》にするには、もう一工程いるんじゃ」

「魔物を《幻魔》に変える何か《きっかけ》が必要なのでは?」

「おぉ、あんさん、冴えとるのぉ!その通りや。

 魔物を《幻魔》にするには、ある条件を満たした人間と結合させて、《幻魔の因子》に刺激を与えてやる必要があるらしい……」

「『ある条件』とは?」

「済まん。それは私も知らんのや……

 そこまでをミツトキから聞いた時点で、『人を生贄にするような術、認められへん!二度とその話をすなー!』って突き放してしもうたさかいな……」

「そうですか……何かヒントになるような事は言ってませんでしたか?」

 サヨは難しい顔をしながら、古い記憶を呼び起こそうとしている。

「そういえば、ミツトキは『雌しべに花粉を付けるようなもの』とか『同種の変異原が幻魔への変化を促進させる』とか言うてたような気がするな……」

 カーシャは二・三度頷いた後、

「ところで、そのミツトキさんのその後は?」

 と訊いた。

「このことが原因かどうか知らんけど、あいつは間もなくして陰衆を去っていきよった……それから、どこで何してるのかはズーと分からへんかった……

 それがな、少し前に、ウチの若いモンが、妙な噂を聞きつけてきたんよ。

 その噂ゆうんが『ミツトキが不治の病に侵されていて、残り数か月の命らしい』ちゅうもんで、そして、『ミツトキは死を目前にして、自ら編み出した《魔物を幻魔にする秘術》を実行するのでは?』という憶測が広まったんじゃ。

 私は(まさか、そんな事は⁉)と思ったんじゃけどな、気になったんで、念のためにウチの若いモンに調べさせたんや。

 そしたら、夢幻の森の隠し洞窟みたいなところで、なんか怪しい行動をしているちゅうのが分かった。

 私は(これは、あかん⁉)と思った。あの洞窟には、以前ミツトキが陰衆として働いていた時に、あいつが封印した魔物の壺があったからじゃ。そう、かつてミツトキが『魔物を幻魔にして取り込む術を試させて欲しい』と言ってきた相手は、その壺に封印した魔物なんじゃ。

 それを知って、その壺を別の場所に移そうとしたんやけど、さすがはミツトキじゃ!こちらの動きなど想定済みだったんじゃろうな。洞窟内には幾重にもごっつい罠が仕掛けられておって、ウチのモンでは突破できへんかった……」

「それで当方に、壺の回収を依頼してきたという訳なんですね……」

「そや、カーシャはんのとこには、わてら天地雷鳴士では手が出ぇへん罠も突破しよる、腕のいい盗賊がおるやろうと思ぅてな。

 そんで、壺を取って来てくれたら、後のことはこちらで片付けるつもりやったけど……」

 そこまで言うと、サヨはフーッと息を吐き、

「こないなことになってしもうて、ほんま堪忍や……」

 と、深々と頭を下げた。

「どうか頭を上げてください。こっちは何とも思っていませんよ。できれば最初に全部話していただきたかったところですけど……」

「いやぁ~、身内の恥を晒すようで言いにくかったんよ。それと、できるだけ陰衆の中で内々に事を運びたかったかったんや。ま、結局は、あんさんに全部やらせてしもうたけどな……」

 サヨは、そこまで言って一呼吸置いた後、

「それもこれも、今の頭領がシャンとせぇへんからや!」

 と、苛立つように語気を強めた。

「そんなことありませんよ。《ヨイちゃん》って言いましたっけ、お孫さん……若いのに頑張ってるじゃないですか」

「頑張ってなんかいますかいな……陽衆の娘と馴れ合い事しとるだけどすわ!」

「もう『陽衆だ!』『陰衆だ!』っていがみ合う時代じゃないですよ。ご隠居もしょっちゅうボヤいてたじゃないですか、『汚れ仕事は陰衆にやらせておいて、美味しいとこは陽衆が持って行く』って……でも、これからは若い頭領たちが、垣根を越えて新しい形を創っていくと思いますよ。そしたら、陰衆の方たちも報われるようになるんじゃないですかねぇ……」

「まぁ、そのこと自体はええことかもしれんけどな……あまり陰衆が表立つと、《裏の仕事》がやりにくくなってしもうて、これまで陰衆が担ってきた本来の役目が果たせんようになるんじゃないかと、それが心配なんよ……」

 沈鬱な表情のサヨ。そんなサヨに、

「ふふっ、そんな時は、是非また当店をご利用くださいませ!」

 と、カーシャは少し冗談混じりに言葉を返した。

「おや!あんさん、随分と商売上手になりはったな⁉」

 そう言って、サヨは残り半分のシャイニーメロン大福を口に入れると、

「おぉ~!これは美味やわ!」

 と眼を細め、ニタリと含み笑いをカーシャに向けたのだった。

 

               〔第二話・完〕




 とりあえず2話分書き終えたので投稿してみました。
 読んでくださった方ありがとうございます。
 次回は、行方をくらませたエルフの娘を巡る話にしようと思っているのですが、済みません、投稿がいつになるかは不明です。
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