アストルティア《裏》プロフェッショナルズ   作:鹿羽 直之

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【第三話】母(マザー)の想い請け負います(#01)

 ドワチャッカ大陸、岳都ガタラからガタラ原野を南へ進みモガリム街道に入って少し北へ行くと《モガレ修道院》という小さな教会が見えてくる。

 モガレ修道院は建物こそ小さいがその名を知る者は多い。《盲目の聖女》と言われ世に知られた《マザー・ヘレナ》が居た修道院だからだ。彼女は既に他界してしまっているが、現在は彼女に引き取られた孤児たちが彼女の教えを守り暮らしている。

 昼下り、そのモガレ修院の門をたたく坊主頭の大柄なオーガの男がいた……ハンテツである。

 先のメロンモンスターの一件から今日まで数日の間、ハンテツは《迷いの森》の洞窟から行方を晦ましたエルフの少女《リンナ》を探して心当たりのある場所を廻っていた。しかし一向に見つからない。

(闇雲に探し回ってもしょうがない。何か、手掛かりはないものか……)

 思い返してみると、『リンナは、生活の為、自ら仕事を探して《オウライ屋》へ来た』という。さらに、リンナには身寄りがいる感じがしない。ということは、

(もしかして、リンナは孤児なのかもしれない。とすれば育った孤児院に戻っているのではないか……)

 そう思い、ハンテツは孤児院を当ってみることにしたのだ。

 だが、レーンの村の《フィーヤ孤児院》を始めとしていくつかの孤児院を訪れてみたのだが、リンナにまつわる有力な情報は得られずにいた。

(まぁ、そもそもリンナが孤児だというのも俺の憶測にすぎないしな……それも極めて根拠の弱い……)

 それは十分承知しているのだが、他にあてがあるわけでもない。

「済みません。お尋ねしたいことがあるのですが……」

 ハンテツは修道院の扉を開けた。

 修道院の中には数人のドワーフがいた。彼らは一瞬、自分らの身長より2倍以上はあろうかというオーガの大男を、少し珍し気に見やった。

「ようこそモガレ修道院へ。どんな御用でしょうか?」

 そう言って、シスター・ニニカというドワーフの女の子がハンテツの前に足を進めて来た。

「つかぬ事をお聞きしますが、こちらに、歳の頃は15から18ぐらいで、このぐらいのエルフの女の子が来てませんでしょうか?」

 と、ハンテツがリンナの身長ぐらいの高さに手を持っていった。

「いいえ、来てませんが……」

 シスター・ニニカは首を横に振った。

「そうですか……それでは、かつてここでエルフの女の子が暮らしていた事などはありますか?」

 シスター・ニニカは怪訝そうな表情でその場にいるドワーフたちの顔を窺った。他のドワーフも首を傾げたりポカンとしていたりと、何のことだか分からないといった様子だ。

「ここでエルフの孤児が暮らしていたこともないですけど……」

「そうですか、なければ、別にいいんです。お邪魔いたしました」

「お役に立てず、ごめんなさいね」

 そう言うシスター・ニニカに対し、ハンテツは一礼し、

(やはり、ここも空足だったか……)

 と、モガレ修道院を後にしようとしたのだが、

「あっ‼」

 突然、誰かが大きな声をあげた。ここにいる全員が、声の方へ目をやる。声の主は、ポチトリというドワーフの少年だ。

「そういえば、数年前、マザー・ヘレナがエルフの女の子をここに連れて来たことがあったよ!一日も居ないで、またすぐにマザー・ヘレナが何処かへ連れて行っちゃったけど……」

 ポチトリの言葉に、今度はチャガタイというドワーフの男子が、

「そうそう、あったな……オレ、マザー・ヘレナに『この子もここで一緒に暮らすの?』って聞いたんだけど、そしたらマザー・ヘレナが『残念だけど、この子と一緒には暮らせないんだよ……住むところが違うからね』って言ってた」

 と、その時の状況を思い出したようだ。

「そんなことあった?覚えていないなぁ~」

 シスター・ニニカには思い出せないようだ。

「確か、その日、ニニカは何かの用事で出掛けていた日だよ。そうだ!2つの大きなリボンを左右に結んだ紫の髪のエルフだったよ!」

 チャガダイの記憶が、かなり具体性に蘇ってきたようだ。それを聞いたハンテツの眼が鋭く変わる。

「そ、そのエルフの女の子は、マザー・ヘレナに連れられて何処に行ったか、心当たりありませんか?」

 その問いには、ここにいるドワーフ全員が答えられなかった。皆、思い当たる節を探してくれているようだが……

 暫し沈黙の後、シスター・ニニカが口を開いた。

「もしかしたら、ドゥラだったら何か知っているかも……」

「《ドゥラ》って、ドルワーム王立研究院、院長の?」

「ええ、ドゥラもマザー・ヘレナが引き取った孤児で、ここで育ったんですよ。マザー・ヘレナは目が不自由だったから、何か用があるときは誰かが付き添って行くことが多かったんだけど、マザー・ヘレナがエルフの女の子を連れて行ったその日は、ドゥラが一緒に行っているかもしれない……」

「そうですか。それではドゥラ院長を訪ねてみることにします。どうもありがとう」

 そう言ってハンテツはモガレ修道院を後にした。

(ここに一時居たエルフの女の子は、リンナである可能性が高い!)

 ここで聞いた話は、今のリンナの居場所に繋がる直接的な情報ではないが、僅かだが手掛かりは掴めた。数年前マザー・ヘレナがリンナを連れて行った先、リンナは今そこに身を潜めているのかもしれない。あるいは、当時マザー・ヘレナがリンナを誰かに託したのだとしたら、そのリンナを託された者から有力な情報が得られるかもしれない。

 ハンテツはその足で、数年前のリンナ(まだ、モガレ修道院に来たエルフの女の子がリンナであると断定はできないのだが……)の足取りを追うべく、ドゥラのいるドルワーム王国へと向かった。

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