アストルティア《裏》プロフェッショナルズ   作:鹿羽 直之

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【第三話】母(マザー)の想い請け負います(#02)

 賑わいをみせるとある酒場にハンテツは居た。モガレ修道院を訪れたその日の夜である。

 この酒場は城や街にある酒場ではなく、住宅村で個人が営んでいる酒場で、店内は様々な種族で溢れ返っている。

 アストルティアの住宅村にはこのような飲屋、バー、喫茶店等が多数存在し、定期的にイベントなんかを行っている店もある。

 ハンテツは、二人掛けのテーブル席に一人座って、何を揚げたのかよく分からない肴を口にしていた。注文した酒は、これも何を発酵させて造ったのか分からない緑色に濁った酒だ。この店の《お勧め》だというのでとりあえず頼んでみた。

 ハンテツはあまり酒を飲まない。飲めないわけではないのだが、酔って身体の動きや判断が鈍くなるのを避けているのだ。裏稼業に身を置く者は、いつ何時命を狙われるか分からないからである。ただ、飲屋に入ってアルコール類を注文しないというのは様にならないので、最初に何かは注文するようにしているのだ。

 せっかくなので、《緑の濁り酒》を少し口に含んでみた。思わず顔をしかめるハンテツ……

 そんなところへ、

「よぅ、待たせたかい?」

 と、オレンジ色のショートウルフボブの髪をしたウェディの女が現れた。レミィーである。

 ハンテツは二人きりで密談をするため、ここにレミィーを呼び出したのだ。誰も居ない所よりも、むしろこの様な雑踏な場所の方が人目に触れにくい。

 レミィーは店員にジョッキでビールを注文し、ハンテツの対面席に座った。

「呼び出して、済まなかったな」

「別に構わないさ。話っていうのは、あのエルフのガキのことだろ?」

「ああ、そっちは何か分かったか?」

「いいや、何も。あたいはあんたみたいに一日中探し廻ってるわけじゃないけどね……」

「そうか……それでオウライ屋の女将さんは何て言ってる?」

「『早く探して連れて来い』ってさ」

 店員が来て、レミィーの頼んだビールをテーブルに置いた。店員が離れるのを待って、レミィーが小声で話を続ける。

「なにせあたいらは、あのエルフのガキに《殺し》の現場を見られちまってるんだ。そりゃ、元締めとしては放っては置けないだろ……」

「そう……だろうな……」

「その様子だと、ハンテツの方も収穫ないみたいだね……」

 そう言って、レミィーはジョッキを口に運んだ。

「それが、実は今日、気になる話を聞いたんだ……」

「⁉」

 ビールを飲むレミィーの手が止まる。

「《マザー・ヘレナ》という名を聞いたことがあるか?」

「もちろん!《盲目の聖女》と云われてた尼さんだろ」

「そうだ、そのマザー・ヘレナが、かつてリンナらしきエルフを何処かの場所へ送り届けていた可能性がある……数年前だがな」

「は⁉どういう経緯でそうなったんだい?」

「それは分からないが、今日、モガレ修道院でそんな話を聞いたんだ。それで、もしかしたら、マザー・ヘレナがリンナを送り届けた先に何か手掛かりがあるんじゃないかと思ってな……」

「ほぅ~、で、その場所は見当ついてるのかい?」

「それなんだが、モガレ修道院のシスターに『詳しくはドルワーム研究院のドゥラ院長が知ってるかも』って言われたんで、ドルワーム水晶宮を訪ねてみたんだが……」

「はぁ~、ドゥラ院長には会わせてもらえなかったって訳だ」

「そうなんだ、『院長室は一般の人は立ち入り禁止。用があるなら、まず取次役に話せ』だとさ……それで、どうしたものか思案しているところだ……」

「ふぅ~ん」

 レミィーは素っ気ない返事をし、ビールを半分程喉に流し込んだかと思うと、

「なんだったら、ドゥラ院長のところへは、あたいが行ってやろうか?」

 と、意外なことを口にした。

「おまえ、ドゥラ院長と顔見知りなのか?」

「いや、直接面識はないんだけどさぁ、ドルワーム研究員にチョットした知り合いがいるんだ。そいつに掛け合ってみるよ」

「いいのか?」

「まぁ、今回のあの娘の件は、あたい自身に係る問題でもあるからねぇ」

「そうか!そうしてくれると助かる」

 レミィーは残りのビールを一気に飲み干し、一呼吸おいた後、

「ところでさぁ……」

 と、話を継いだ。

「もし、あのリンナとかいうガキが見つかったとして、その後はどうするつもりだい?……女将さんに引渡すのかい?」

 ハンテツは少し沈思し、

「リンナを引渡したら、女将さんは、どうすると思う?……」

 と心痛な面持ちで訊いた。

「命を獲るだろうね……ハッキリそうとは言ってないけどさぁ……殺しを見られたら、見た者の口を封じるのが裏稼業の掟だからね……じゃなければ、あたいらが自ら命を絶って落とし前をつけなきゃならない……」

「じゃぁ、リンナをこのまま逃がす……あるいはどこかに匿ったとしたら?」

「オウライ屋と一戦交えることになるだろうね……いや、オウライ屋だけじゃない。裏社会全体を敵に廻すことになる」

「やはりそうなるか……」

「ハンテツ……あたいは、あのリンナとかいうエルフのガキに何も特別な感情は持っていない。だけどさぁ、いくら《掟》とはいえ、何の罪のない命を奪うのは、後味が悪すぎるよ!」

「分かってるさ……」

 ハンテツはレミィーと眼を合わせずボソッと呟くように言った。

「せっかくあたいらが、メロンモンスターから救ってやった命じゃないか!それを、今度はあたいらの手で命を獲るだなんて、あの天地雷鳴士のおっさんだって成仏できねぇよ!」

「……」

 暫く二人に沈黙の時間が過ぎた。

「レミィー、とにかく明日、ドルワーム研究院に行って話を聞いて来てくれ。リンナの事は俺が何とかする……」

「『何とか』って?」

「先ずは、ドゥラ院長の話を聞いてからだ……その中から何か打開策が見つかるかもしれない」

 レミィーは、フッと笑った。

「そうだな、確かに、今ここでどうこう言っても始まらないか……んじゃ、あたいは帰って寝るとするよ」

 そう言ってレミィーは酒場を後にしようと立ち上がった。その去り際、

「それ、飲まないならあたいが貰っていいかい?」

 と、ハンテツの前にある《緑の濁り酒》を答えも聞かず取ると、グビグビと全部呷ってしまった。

(ウワバミか!、こいつ……)

 呆れた目でレミィーを見るハンテツだったが、当の本人は意にも介さない。

「じゃぁな……ここはあんたのおごりでいいだろ?」

「あ、あぁ……」

 レミィーが店を出ると、ハンテツは手を挙げ店員を呼び、

「チャキーラ酎をロックでたのむ」

 と、告げた。《チャキーラ酎》とは、サボテンフルーツの果実を発酵・蒸留させた酒である。

 この男にしては珍しく、今日は一杯飲んでいくようだ。

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