アストルティア《裏》プロフェッショナルズ   作:鹿羽 直之

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【第三話】母(マザー)の想い請け負います(#03)

 ドルワーム王国、ドルワーム水晶宮……上層部は国王ウラードら王族の居所となっているが、下層と呼ばれる4階までは、国の様々な施設・機関が付設されている。王立研究院もその一つで、正面に向かって右の棟、2階に研究室と書物庫、3階にドゥラの居る院長室がある。

 レミィーはドゥラ院長に顔を繋いでもらうべく、先ずは《ドルワーム研究員をやってる知り合い》に会いに来た。

(あいつ、居るかな~……室内に詰めて研究してるより、現場を駆け回って調査する方が好きなタイプだからなぁ)

 そんなことを思いつつ、2階の研究室を覗いてみた。中に数名の研究員が居たが、それらしき人物は見当たらない。

 次に、隣の書物庫へ行き、扉を少し開いて中を窺った。

(居た!)

 書物庫の中に一人、研究員服を着た女性が調べものをしている。栗毛の髪を左右に団子にまとめている小柄なドワーフの少女だ。

 レミィーは小声で、

「チリ……チリ……」

 と、その少女を呼んだ。

 レミィーの声に気づいた《チリ》という名のドワーフの少女は、一瞬驚いた表情をしながらも、すぐにレミィーの近くへ寄って来た。

「よぅ、久しぶり!元気だったかい?」

 と、レミィーは努めて親し気にチリに声を掛けた。が、

「『よぅ、久しぶり』じゃないわよ!こんなところまで来ないで。ここでは《怪盗ポイックリン》じゃないんだから……」

 チリからは迷惑そうな返事が返ってきた。

 チリの裏の顔は《ポイックリン》という偽名の盗賊である。レミィーとチリが知り合いなのは、もしかすると、盗賊として過去に一緒に仕事をしたことがあったからなのかもしれない。なお余談だが、本人は仮面をつけて正体を隠し《謎の美少女怪盗》などと称しているが、正体に気づいている者も少なくない。

「悪りぃ、悪りぃ……どうしても頼みたい事があってさぁ~」

「えぇ?何~」

「あのさぁ、ドゥラ院長に会わせてもらえないかなぁ……」

「ドゥラ院長に?何でよ?」

「詳しくは言えないんだけどさぁ、モガレ修道院に居た時のマザー・ヘレナについてチョット聞きたい事があるんだ……アポ無しで悪いんだけど、事は命に係わるんだ。頼むよ!」

「ふぅ~ん、そこまで言うなら、一応ドゥラ院長に頼んではみるけど……忙しい人だから時間取ってくれるかは分からないわよ……」

「ありがとう。助かるよ!」

「じゃぁ、ついて来て」

 そう言って、チリは3階への階段を上がって行った。

 3階にあるドルワーム研究院院長室の前に来た二人。

 チリは院長室のドアをノックし、

「チリです。院長、入ってもよろしいでしょうか?」

 と、ドア越しに声を掛けた。

「どうぞ……」

 ドゥラの声が返ってきた。

「チョット待ってて、ドゥラ院長に聞いてくるから」

 と言ってチリがドアを開け院長室に入っていく。

 ドアの前に立っている《チオルタ》という不愛想な警備兵が、レミィーに不審そうな眼差しを向けていた。チオルタの視線を外すレミィー。

(ははぁ~さてはこいつだな!ドゥラ院長に会おうとしたハンテツを門前払いにした奴は……)

 院長室から出てきたチリが、ドアを半開きにしたまま、

「5分だけなら話せるって……」

 と、レミィーに告げた。

「お、そうか。5分あれば十分だよ!」

「くれぐれも失礼の無いようにね……」

 チリは半開きのドアを少し広げ、レミィーを促した。

「分かってるって!」

 そう言ってレミィーが院長室に入っていく。

 チリがドアを閉めると、チオルタが、

「二人だけにしてよろしいのでしょうか?」

 とチリに声を掛けてきた。

「大丈夫よ」

 チリは笑って応えた。

 院長室の中では、レミィーが軽くドゥラに会釈をし、挨拶をしている。

「初めまして、《レミィー》と申します。本日はお忙しいところ……」

 そこまで言ったレミィーを、

「いや、社交辞令的な挨拶は抜きにしてくれないか……時間が無いんで用件だけ伺おう」

 とドゥラが制した。

「そうですか、では、お言葉に甘えてそうさせてもらいます……ドゥラ院長、何年か前、モガレ修道院に来たエルフの少女の事は覚えていらっしゃいますか?……一時、マザー・ヘレナが引き取って、すぐに何処かへ送り出した娘です」

「⁉……」

 ドゥラの顔色が変わった。

(明らかにドゥラは何かを知っている!)

 ドゥラは直ぐに顔色を戻し、平然を装ってこう言った。

「何故君はそんなことを訊く?……そのエルフがどうかしたのかい?」

「今、その娘の行方が分からないんです。探しているのですが……もしかして、数年前マザー・ヘレナが送った先に居るのではと思いまして……」

「そのエルフの少女とやらを探してどうするんだい?」

「……早く見つけ出して保護してやらないとその娘の命が危ない……としか言えません……」

 ドゥラは、探るような眼でレミィーの顔を見据えた後、静かに語り出した。

「この件に関しては、マザー・ヘレナから口止めされていたのだが……君を信用してお話しよう」

「ありがとうございます」

「あのエルフの少女を送った時、マザー・ヘレナには私が付き添って行ったんだ。だが、行先までは分からない。たぶんレンダーシアの何処かだとは思うんだが……」

「どうしてそう思うのですか?」

「うん、エルフの娘は、サーマリ高原の南西の崖から降ろして船に乗せたんだ。もし五大陸の何処かに送るんだったら、そんな危険なマネをして船に乗せなくてもよかった筈だろ?」

「なるほど《大地の箱舟》を使ってもいいですし、一度行った所なら《バシっ娘》に頼んでも行けますもんね……」

「船を用意した人間も堅気の船乗りじゃないと思う。密航だからネ……まぁ、マザー・ヘレナのことだから、そんな悪質な密航業者じゃないとは思うけど……」

「そうですか……」

「あの時も『どうしてマザー・ヘレナともあろう人が、暗裏に脱法まがいの事をするのだろう』とは思ったんだが、理由を訊けるような雰囲気じゃなかったんだ……」

「それだけマザー・ヘレナの面持ちが深刻だったと?」

「ああ……だから、マザー・ヘレナが何故エルフの娘を送り出したのか、その訳も知らないんだ……お役に立てずに、済まないね」

「いいえ……他に、マザー・ヘレナの言動で何か気づいたことありませんかねぇ?」

「うぅ~ん、マザー・ヘレナは『この娘とは住むところが違うから、モガレ修道院で一緒には暮らせない』って言ってたけど……」

「『エルフとドワーフは一緒に暮らせない』という意味ですかね……?」

「⁉……今思い返してみると、確かに変だよな……マザー・ヘレナは生まれた国や種族で分け隔てするような人じゃないし……」

 ドゥラは呟くように、

(『住むところが違う……』、『住むところが違う……』)

 と、反芻しながら頭を巡らせている。

 そして、ハッとしたように目を見開いた。

「そうか⁉、そういう事だったのか!」

 突然、声を上げたドゥラに驚くレミィー。

「何か分かったんですか?」

「今から言う事は、あくまで私の推理なんだが……マザー・ヘレナが『住むところが違う』と言ったのは、エルトナ大陸やドワチャッカ大陸、エルフやドワーフのことを意味したんじゃない」

「……どういうことですか?」

「あの娘は、《アストルティアの住民ではない》という意味だったのかも知れない!」

「アストルティアの住民じゃない⁉」

「あの娘の正体はエルフじゃなかった……もし、それをマザー・ヘレナの心眼が見抜いていたとしたら⁉」

「正体って?」

「アストルティア以外の種族っていったら《竜族》か《魔族》ってことになるよね……そして、マザー・ヘレナが、密かに人目に触れない場所へ送り届けなければならなかったとすると……」

「魔族⁉」

「うん、その可能性が高い。この世界は、残念だけど、魔族というだけで敵視・迫害され命の危険に晒されるからね……あの娘を守る為にはそうするしかなかったんだろう」

(これは、意外な展開になってきたぞ……)

 と困惑の表情を見せるレミィーに、

「レミィーさんとおっしゃいましたね……少し私の話を聞いてもらえますか?」

 と、今度はドゥラから語りかけてきた。

「マザー・ヘレナは私の身代わりとなって命を落としました。己の無力さによって母たる人を失ったのです。私は絶望に打ちひしがれて一時は命を絶とうとさえ思いました。

 しかし、マザー・ヘレナが私に残した手紙にはこうありました……『多くの人を救える人になって欲しい』と……だから私は、マザー・ヘレナに救われた命を、人を救うために捧げようと決心したのです。けれど、今の私にあの娘を救う術はない……

 レミィーさん、あのエルフの少女の正体が魔族であるというのは、あくまで私の推測に過ぎません。でも、彼女がエルフであれ魔族であれ、母さんが……あ⁉、マザー・ヘレナが救おうとした命なら、どうか助けてやって欲しい」

 ドゥラはそこまで言うと、深くレミィーに頭を下げた。

 レミィーは、少し眼に涙を滲ませ、

「院長さん……心配ないって、あたいに任せときな!」

 と、努めて陽気に言葉を投げかけ、院長室を出た。

 院長室の外ではチリが待っていた。

「あ、チリ……」

「どう?何か分かったの?」

「まぁ、それなりの収穫はあったかな……」

「そう、それはよかったわ」

「あんたにも世話になったね。ありがとヨ!」

 そう言ってレミィーは下へ降りる階段へ足を踏み出した。

「待って!」

 チリがレミィーに駆け寄って来る。そしてレミィーの耳元で、

「あなた、今でも、危ない橋を渡るような事してるの?」

 と、他人に聞こえないよう小声で問いかけた。その問いに、

「チリ、そう言うあんたこそ、何で研究員やら人目を忍んで怪盗なんかやってる?」

 とレミィーは、逆にチリに問い返してきた。

「エッ⁉」

「お姫様だったんだろ!ここの……何不自由なく自適な暮らしをすればいいじゃねぇか?」

「私が、そんな玉だと思う?」

「フッ、あたいも同じさ……そういう生き方しかできないんだろうな」

「そうか、じゃぁしょうがないわね……お互い、自分らしく生きてるってことか。周りからどう思われても……」

 チリのその発言に、レミィーは少しビックリしたようだ。

「チリ、少し会わない間に、随分と物分かりが良くなったな⁉」

「私だって色々あったのよ」

 そう言って微笑を浮かべるチリ。思い浮かんだのは、変わり者の養父だろうか。

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