数日後……
夕方に差し掛かろうとしているグランゼドーラ城下町。
リンナとペノンが客の呼び込みをしている。3匹の魔物たちも一緒だ。だが、みんな落ち込み気味で足取りは重い。
「今日も、お仕事の依頼ないのかなぁ~。もう3日もお仕事ないよ……今日だって朝から誰も気に留めてくれないし……」
と、少々疲れた様子でリンナがペノンに話しかけた。
「どうだろうねぇ……以前は1日1つぐらいはあったんだけど、やっぱり魔物による被害が増えてるのが原因なのかなぁ」
「もう!大迷惑な話だよね。悪い魔物のせいで、善良な魔物まで白い目で見られちゃってさぁ。
そもそも、なんで人を襲う魔物が増え始めたんだろう。前は、街中ではそんなこと滅多になかったのに……」
「……うん」
ペノンは心もとなく気のない返事を返した。
「どうしたの?何か気に障ること言っちゃったかな?」
「ううん。何でもない。大丈夫だよ!なかなか仕事が来なくて、ちょっと凹んでただけ」
ペノンは、今度は努めて明るく返した。
「そうか、それなら良かった」
「よし!夕方までもう少しあるから、お仕事もらえるように頑張ろう!」
「そうだよね。愚痴ってたり、しょんぼりしてたらお客さんだって逃げちゃうよ」
そう言って、リンナはプラカードを高く掲げ、ペノンは、
「魔物の便利屋でーす。何か、お仕事の依頼はありませんかぁ~」
と、声高々に呼びかけ始めた。
そのポジティブな意識が功を奏したのか、呼び込みの声を聞いた中年の男が現れ、
「済みませんが、そちらは何でも屋さんでしょうか?」
と、声をかけてきた。
「はい、そうですが……」
「あ、ちょうど良かった。急に人手がいるようになっちゃって……手伝っていただけるとありがたいんですが……もちろんお手当はお出しします」
「どんなお仕事でしょうか?」
「いや、誰でも出来る簡単な作業なんですが、ここで説明するのはちょっと難しいんで、なんなら家まで来てもらえますか?」
「はい!毎度ありがとうございます」
ペノンは弾むように応え、リンナと顔を見合わせニッコリと微笑んだ。
「では、ご案内しますんで、どうぞついて来てください。
あ、申し遅れましたが、わたくし《リーゴン》と申します」
そう言って歩き出したリーゴンと名乗る中年男の後ろを、ペノンとリンナ、そして魔物3匹は、少し嬉しそうに追って行くのだった。
リーゴンは、グランゼドーラ城下町外れの民家が並び建つ一角に、ペノンたちを誘導した。
さらに裏通りへと入って行った先に、古い平屋の建物があった。建物の外周は蔦で覆われ、一見、人が住んでいる様には見えない。
「あちらの家でございます」
と、リーゴンはその建物を指さした。
建物の玄関前まで来たリーゴンとペノンたち。
リーゴンはドアノブに手を掛けると、キョロキョロと辺りを見渡し、他に誰もいない事を確認してから玄関の扉を開いた。そして、
「どうぞ、中へ……」
と、ペノンたちを促した。
建物の中はがらんとしていて、少しカビ臭い匂いがした。生活感がない寂れた空き家のようである。奥には地下へ降りる階段があった。
「階段を下りていただいて、地下の部屋に来ていただけますか」
と、リーゴンが階段を下りて行った。
(部屋の掃除か何かの依頼なのかなぁ~?)
少し怪しさを感じながらも、ペノンとリンナ、魔物たちも続いて下りて行く。
薄暗い地下フロア。誰かがいるようだが、顔は見えない。
いきなりパッとフロア全体に明かりが灯った。
地下フロアには二人の男がいた。
一人は偉丈夫な男。もう一人の男はペノンとリンナに背中を向けて立っている。
「親方、連れて来ましたぜ……」
リーゴンは今までとは違ったドスの孕んだ口調で言った。
すると、背中を向けていた男がペノンたちの方へ振り返り、
「ペノン、久しぶりだなぁ、探したよ……」
と不敵な笑みを浮かべた。その姿を見たペノンが絶句する。
「……タブーゴ……親方……」
「ペノン……ずいぶんナメた真似してくれたじゃねぇか。俺のところの魔物をさらって逃げ出すなんてなぁ……」
リンナはそのタブーゴの言葉に驚き、
「え、本当なの?ペノンちゃん。
だって、この前、『働いていた魔物使いのところから引き取った魔物たちだ』って……」
と、訊き質すが、ペノンは俯いてリンナと眼を合わせない。
タブーゴは、一歩リンナに近寄り、
「そうとも。ペノンが仕えていた魔物使いってのは、俺のことだよ。
だが、魔物を俺から引き取ったっていうのは嘘だ。
こいつは俺の飼っていたいた魔物を、勝手に盗んでいったんだ!その魔物どもが、ここにいる三匹なんだよ!」
と、リンナ、ペノン、魔物たちを威嚇する様に睨んだ。
ペノンは、勇気を奮い立たせるように顔を上げ、
「それは、親方が魔物たちに酷い事をしてたからです!
モンスター闘技場でボロボロになるまで扱き使って……戦えなくった魔物は、まるでゴミでも捨てるかのように放り出したり……
闘技場で勝てない魔物には嫌な仕事をさせたり……
だから……だから、私は……」
と、涙を堪えながら精一杯の声をあげた。
「それの何が悪いってんだ!こっちはペットで魔物を飼ってる訳じゃねぇんだ!
使えないやつらには、出て行ってもらうか、他の仕事で稼いでもらうしかねぇじゃねぇか」
リンナが「ひどい……」と呟く。
ペノンはタブーゴの目を見据えた。
「どうせ、今、グランゼドーラの町で起きている魔物の騒ぎも、親方がやらせているんでしょ!?
通報してもいいんですか?」
「おいおい、人聞きの悪い事言うんじゃねぇよ。どこにそんな証拠があるってんだい?」
「調べてもらえばすぐに分かる事です」
ペノンがこの場を去ろうと後退りをし始めたが、リーゴンが背後に廻ってそれを行く手を塞いだ。
同時に、タブーゴの側に控えていた偉丈夫な男がリンナの腕を掴み、引き寄せ、その腕を背後にねじ上げた。
「痛いッ」
呻き声を上げながらもバタバタと抵抗するリンナだったが、偉丈夫な男には無駄な足搔きである。
「乱暴はやめて!」
ペノンが、タブーゴに懇願するように叫んだ。すると、タブーゴは、リンナの手をねじ上げた偉丈夫に、
「おい、ガミン、あまり手荒に扱うなよ」
と、上辺だけは諫めるような態度をとった。
偉丈夫な男《ガミン》が「へい」と軽く返事をして、ねじ上げていた力を少し緩める。
タブーゴは軽く頷き、ペノンに対し、気持ち悪い愛想笑いを浮かべた。
「なぁ、ペノン、俺だってホントはこんな真似はしたくねぇんだよ……
そこでだ、ここは『取引』といこうじゃねぇか」
「取引って……?」
ペノンは訝し気に返した。
「なぁに……簡単な仕事を一つ引き受けてくれればいいのさ。
もうすぐグランゼドーラ港に《ニーゼフ》っていう成金の商人が来る。こいつが大の博打好きで、グランゼドーラ港から船でラッカランのカジノへ行くんだが……そのニーゼフって野郎を、魔物たちを使って恐喝してもらいてぇんだ……」
「やっぱり、親方が魔物騒動の……」
ペノンが顔をしかめて呟いた。
「ペノンちゃん。そんなことやったらダメだよ!」
と、声をあげたリンナの腕に、ガミン再び力を込めた。
呻き声を出すリンナ。顔が苦痛に歪む。
「親方。お願いだから乱暴はしないで!」
「ペノン……お前が言うこと聞いてくれれば、このエルフのお嬢さんも放してやるさ……
それに、ここにいる魔物どもの事もキレイサッパリ忘れてやろうじゃねぇか……
なにも殺したり怪我させたりする訳じゃねぇ。相手はただの商人だ。ちょっと脅せば、金を置いて逃げるに決まってる。
悪い話じゃねぇと思うがなぁ……」
「……本当に、脅すだけでいいんですね……」
「あぁ」
「それで、親方は、もう、私たちに二度と手を出さないって約束してくれるんですね……」
「もちろんだとも」
「……分かりました……一度きりですよ……」
ペノンは硬い表情で、自分自身を納得させる様に言った。
「……ペノンちゃん……そんなこと……ヤメて……」
腕の痛みを堪えながら、ペノンを制止しようと、必死に声を出すリンナ。
そんなリンナを、ガミンはロープで縛り上げ、猿ぐつわをかませた。もはや言葉も出せない。
その様子を見定めたタブーゴは、
「エルフのお嬢さんには、もう暫く我慢してもらわなきゃならねぇ。お前がちゃんと仕事を済ませたら自由にしてやるよ。
さぁ、ついてきな!」
と言いながら、先陣を切るように地下フロアの階段を上がっていった。
ペノンと魔物たちは、リーゴンとガミンに後ろから煽られて、足取り重くタブーゴの後に追随していった。
一人残されたリンナ。涙を滲ませ必死に何かを言おうとしているが、言葉になっていない喚きが地下フロアに鳴り渡るだけだった。