アストルティア《裏》プロフェッショナルズ   作:鹿羽 直之

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【第四話】破れた依頼書請け負います(#03)

 モンスター討伐隊本部の記録係《オットー》によって持ち込まれた大量のモンスター討伐依頼書の処理を任されることになったリンナ。先ずは1枚々々依頼書に目を通して、討伐対象モンスターや報酬などの内容面を確認する作業からである。

 何枚か依頼書を確認しているうち、だんだん重い気分になってくる。

(こんな不良債権みたいな討伐依頼、誰もやりたがらないよ……)

 グリケスから聞いてはいたが、思っていたよりも割に合わない依頼書ばかりだ。

 一通り確認作業が終わると、次は討伐依頼書を引き受けてくれる者を探す作業であった。オウライ屋の登録スタッフリストを見ながら「依頼を受けてくれないか」と片っ端からあたっていくのである。

 だが、グリケスの言う通り、こんな旨味のない討伐依頼書を喜んで受けてくれる者などほとんど居ない。そうなると、依頼書に記載されている報酬の相場の額に、2割から5割ぐらいのG(ゴールド)を上乗せして、あらためて交渉し直さなければならかった。今まで経済活動にはあまり関心がなかったリンナである。報酬額を上乗せしようにも、先ずはバザーで依頼書に記載されている報酬品の相場を調べなければならない。他の店員は品名を見ただけで大体相場の当たりが付くのだろうが、リンナにとってはそれだけでもかなりの時間を要する仕事だ。

 それから、再度、登録スタッフリストから依頼を受けてくれそうなスタッフを洗い出し、根気よく説得し、やっと依頼を引き受けてもらえるような具合であった。

 この分だと仕事がいつになっても終わりそうにない。困って、グリケスに協力を求めても、邪険にあしらわれたり、良くても一言二言の簡単な助言をしてくれるだけだあった。

(あぁ~、グリケスさんにはすっかり嫌われちゃったな……)

 それでもやらなきゃ仕方がない。リンナは半ば開き直って、自分のできることを粛々とこなしていこうと決した。

 そうやって、悪戦苦闘しながらも、何とか大量の討伐依頼書を捌いていった。

 

 数日後、100枚近くあった討伐依頼書がようやく一桁台まで減った。ここにきてグリケスが、

「残り、あとどのぐらい?」

 と、訊いてきた。

「10枚ぐらい……ですかね」

「じゃぁ、もうその辺で一旦締めようか」

「あ、はい」

「本来なら、この程度の業務は2・3日でこなして欲しいんだけどね」

「済みません……」

 と落ち込むリンナ。

「でもまぁ、何度も何度もウチの登録スタッフリストを閲覧して、ウチの仕事の依頼を受けるスタッフに、どんな感じの人が居るのか分かってきたでしょ?」

 と、リンナに掛けたグリケスの声は、以前と異なり穏やかである。

(そうか、グリケスさんは、先ずはオウライ屋の登録スタッフを覚えさせるために、この仕事を私一人にやらせたんだ……)

 グリケスが意地悪で冷たい対応をしていたのではないのを知って、心が晴れた気持ちになるリンナ。

「そうですね!とても勉強になりました」

 リンナは笑顔で答えた。

「だったらこの仕事を任せた甲斐があったよ。取り敢えずご苦労様でした。女将さんには『初めてにしてはよくやった』と報告しておくよ」

「あ、ありがとうございます」

 ちょっと嬉しくなり、照れながら返事をするリンナだったが、

「あっ⁉そう云えば!」

 リンナが何か思い出したようだ。

「ん?」

「1枚、破れて内容が不明確な依頼書があったんですよ」

 そう言ってリンナが、真ん中上から左下にかけて破れ落ちている討伐依頼書を差し出した。それを受け取ったグリケスが顔を顰めた。

 依頼書の文面は次のようなものである。

 

■■■■■■■■■■■■の依頼書

■■■■■■■■■■■ とある人里離れた場所に住む者だ。

■■■■■■■■■目の色を変え人々を襲っている。

■■■■■■■■は 群れの中に紛れている

■■■■■■パンサー を倒して欲しい。

■■■■匹倒して 高みへと行くのだ!

   (※■部分は破れて欠損している箇所)

 

 残っている部分からは、対象の討伐モンスターを判別できない。おそらく《〇〇パンサー》なのだろうとは思われるが……。また、討伐する数も分からない。かろうじて報酬の欄は破れ落ちていなかったが、《レッドアイ》1個という乏しさであった。

「こういうイレギュラーなことがあった場合、早めに報告上げて欲しいな……」

 少し不満そうなグリケスの言い方である。

「済みません。取り敢えず後回しにして、他の依頼書の引き受け手を探しているうちに等閑になっちゃいました」

 その言い訳に対するグリケスからの返事はなく、破れた依頼書をジッと見ながら思案している。

「今までも、こんな破れた依頼書が持ち込まれたことってあったんですか?」

 と、少しビクビクしながら聞いてみるリンナ。

「いいや……虫食いで穴が開いていたり、汚れが酷くて所々見えなくなってる依頼書はたまに見かけるけど、こんなのは初めてだね」

 グリケスはそう言いながら依頼書を翻し裏面を見る。

「……あれ?」

 グリケスが首を傾げた。普通、討伐依頼書の裏面には、討伐対象モンスターの生息地が記載されているのだが、それが1ヶ所も書かれていないのだ。訝しがるグリケスに、

「どうします?討伐本部に返しちゃいましょうか?」

 とリンナが訊いた。リンナは(討伐本部に戻して構わないよ)との返事がくるものとばかり思っていた。だが、グリケスからの返答は、

「いいや、返却はせずにウチで直々に討伐しよう」

 と、リンナの意に反したものだった。

「でも、討伐するモンスターも数も分からないんですよ?」

「対象モンスターは、《キラーパンサー》か《ダークパンサー》でしょ。数だって20匹も倒せば達成になる筈だし」

 リンナはがっくりと肩を落とした。モンスター討伐なんて、それでなくても気乗りしないのに、こんな内容不明の討伐依頼書までやることになるなんて……

 グリケスはリンナの心中を察したのか、

「そう落ち込まないで、なにもあなた1人でやれって言ってる訳じゃないんだし……」

「4人でパーティ組んで討伐するんですよね?」

「おそらくそうなるね。あなたと私、それと、女将さんの用心棒的な仲間モンスターでリザードマンの《ゲラ》、この3人は確実かな……もう一人は、女将さんに頼むしかないかな……」

「女将さんを現場の仕事に駆り出させちゃうなんて、何か気が引けますね」

「いや、よくあることだから気にしないでいいよ。それに今回は、破れて内容があやふやな依頼書も交ざっているから、女将さんも承知してしてくれるよ」

「……だと、いいんですけど」

「それじゃ、残った依頼書は一度にまとめて討伐するから、その日程が決まったら連絡するよ」

「はぁい」

 そんな重く覇気のない返事をしたリンナに、グリケスが、

「リンナちゃん!商売は明るい雰囲気が大事‼そんな暗い顔してちゃお客さん来なくなるよ!」

 と発破をかけ、リンナの背中をポンと叩いた。




破れた討伐依頼書のイメージ画像を添付しておきます。

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