アストルティア《裏》プロフェッショナルズ   作:鹿羽 直之

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【第一話】仕事は万事請け負います(#04)

 グランゼドーラ城下町北、船舶管理局の前の通り。公園前の城壁につながる北側の壁の陰に、タブーゴと手下のガミン、ペノンと魔物3匹が身を潜めていた。

 陽は落ちかけて、辺りはすでに薄暗くなっており、人影もまばらである。

「いいか、もうすぐこの道をニーゼフが通る。俺が合図したら魔物たちをけしかけるんだ。わかったな」

 タブーゴの囁きに、ペノンは小さく頷いた。

 様子を見に出ていたリーゴンが走って戻って来た。

「親分、来ましたぜ!」

 と、リーゴンも壁の陰に隠れる。

 ペノンは、これから魔物に襲わせなければならない相手を確認するため、壁から少し顔を出し道路の西方を窺った。

 暗くてはっきりと人相風体まではわからない。が、遠くの方に初老の男がこちらに歩いて来るのは確認できた。

 ペノンは再び壁の陰に身を隠した。

 狙われていることなど知らないニーゼフは、今からやるカジノでのゲームの事でも考えているのか、足取り軽く歩いてくる。

 そして、広場の前に差し掛かった時、

「今だ!ヤレっ!」

 タブーゴが小声でペノンに命じた。

「みんな、ごめんネ。でも、もう、こんな仕事はこれっきりだから、今回だけ勘弁して」

 ペノンが懇願するように、あるいは謝罪するように3匹の魔物へ指示を出すと、魔物たちは、もう覚悟を決めている様子で、納得するかのようにペノンに頷き、壁陰を飛び出していった。

 スライムのスラッキ、ブラウニーのブラン、モーモンのモモーラがニーゼフに襲い掛かり、気づいたニーゼフはハッとなって怯む。

 しかし、次の瞬間、ニーゼフの後ろから、何者かが、素早くニーゼフの盾になるように割入って来て、ニーゼフを庇った。

 さらに、もう一人の誰かが鞭を振るい、一撃で3匹の魔物をはじき飛ばしてしまった。

 ニーゼフを庇ったのは、大柄な坊主頭のオーガの男。鞭を振るったのは、オレンジ色のウルフボブの髪をしたウェディの女だ。

 鞭の攻撃を喰らった3匹の魔物たちは、もんどり打って路上に転がってしまう。

 思わず声をあげそうになるペノンの口を、タブーゴが手で塞いだ。

「くそっ、ヤツめ、護衛をつけてやがったな……」

「親方、どうします?」

 リーゴンが小声で言った。

「なぁに……あの魔物たちに罪を被せる計画に影響はねぇさ……

 あいつらが人間を襲った事実に変わりはないからな……人間を襲った魔物が、俺たちによって退治されるというシナリオが、ニーゼフの護衛に退治されることになっただけよ」

 その言葉を耳にしたペノンは、タブーゴ一味の真の企みに驚愕する。タブーゴは、始めからペノンの魔物を自由にする気などなかったのだ。

 必死にもがき、声を出そうとしたペノンだが、ガミンに、口だけでなく身体も押さえつけられてしまう。

「うるさい野郎だ……静かにしやがれ」

 と、リーゴンが《ラリホー》を唱えペノンを眠らせてしまった。

 突然の出来事に動揺していたニーゼフだったが、事態が収まると、次第に怒りが込み上げ、

「くそっ!、忌々しい魔物野郎め!

 おい!護衛ども、あの魔物たちを叩きのめせ!」

 と、坊主頭のオーガの男とウルフボブのウェディの女に高圧的な態度で命じた。

 ところが、命じられた護衛二人は、あまり乗り気ではない。

「俺らが請けた仕事内容は、あんたの護衛で、魔物退治は契約に入っていなかった筈だが……」

「魔物を殺るんだったら、追加料金、貰わないとねぇ~」

 と、魔物たちにとどめを刺すことに二の足を踏んでいる。

 その態度に、ニーゼフの怒りはますます高まり、

「何だと!雇われ者の分際で、主の命令が聞けんというのか!

 だったらもういい!お前たちはクビだ!」

 と怒りを露わにし、一人船舶管理局の方へ歩きだした。

「ちょっと、今回の報酬、まだ貰ってないんだけど!」

 ウルフボブのウェディの女が、肩を怒らせて歩いて行くニーゼフの背中に叫んた。

 ニーゼフは振り向きもせず、

「誰が、飼い主に従わない番犬なんかにエサなど与えるか!

 これだから、ならず者は……こんな事なら、多少高くついても、ちゃんとした警備を頼んでおくんだったわ……」

 とブツブツ言いながら足早に港へ向かって行った。

 ウエディーの女が「チッ」と舌打ちをする。

 タブーゴは、ニーゼフの護衛二人が魔物たちを倒す気がないと知り、

「今だ!リーゴン、ガミン、魔物どもを殺っちまえ!」

 と手下たちに命じた。

 それを聞いたリーゴンとガミンが通りに飛び出し、体力も戦意も失っている魔物たちに襲い掛かる。ガミンは剣を抜き、スライムとブラウニーを切り捨て、リーゴンは呪文《メラミ》を唱え、炎球をモーモンにぶつけた。

 スライムとブラウニーはその場で動かなくなってしまい、モーモンは黒焦げになり遠くへ弾き飛ばされた。

 さらにタブーゴは、周囲に向かって、大声で仰々しく叫びだした。

「魔物だー!魔物が人間を襲っているぞー!」

 一連の様子に、通りの人々が騒めき始める。悲鳴をあげて逃げる者……あるいは逆に、好奇心から現場を見に来る者。

 そんな中、制服姿の大柄な男が、足早に現場へ駆け寄って来て、タブーゴへ話しかけた。

「私は、たまたま近くを通りがかった治安局の者だが、魔物が人を襲ったというのは本当か?」

「あっ、お役人様ですか。丁度いいところに来てくれましたよ!

 この魔物どもが、一般の商人に襲い掛かって、金品を奪おうとしたんです。そんなところを我々が退治したって訳で……」

「そうか、それはご苦労であった。市民の協力に感謝する」

「いえいえ、とんでもないことで……ところで、ここんところのグランゼドーラでの魔物の悪事もこいつらの仕業じゃないでしょうかねぇ?」

 と、タブーゴは、グランゼドーラ城下町での魔物による悪事も、ペノンの魔物に擦り付けようとした。これも始めから計画していたことだったに違いない。

「ふむ、おそらくそうだろう。これでグランゼドーラでの魔物騒動が治まってくれるといいんだが……」

 その、治安局の者だとういう男の言葉は、周囲に、『タブーゴの見解を政府が公に認めた』という印象を抱かせるには十分だった。これで、この件は『一般市民を襲った悪い魔物をタブーゴたちが討伐した』ということで話が進んでいくのだろう……

 そんなやり取りに、少し離れたところの道端から、冷ややかな視線をおくる坊主頭のオーガの男とウルフボブのウェディの女。

「とにかく詳しく事情を知りたい。少し時間をもらえるか……場所を替えて話を聴こう」

 そう言って、治安局の男はタブーゴたち3人を連れ出した。

 治安局の男が坊主頭のオーガの男の側を通ったとき、一瞬、二人の視線がぶつかった。が、治安局の男はすぐ視線を外し、そのまま歩き続ける。その口元には僅かに嘲笑が浮かんでいた。

 

 その頃……

 リンナは、一人閉じ込められた地下フロアで、何とかここを脱出できないかと悪戦苦闘していた。

 猿ぐつわを外そうと口を動かしたり歯で噛んでみたり……又、縛っているロープを外そうと体を無理に引き抜こうともしてみたが、痛みが体に伝わるだけで、一向に縄が緩む様子はない。

――ガチャン

 上の階で、何かが壊れるような物音がした。

 リンナは、タブーゴ一味が戻って来たのではないか?そして、用済みになった自分は殺されてしまうのではないか?そう思い、恐怖に震え始めた。

 何者かが階段を下りてくる音がする。だが、足音にしては何かおかしい。重い物を階段に落としたような音だ。

 その音の主が地下フロアに姿を見せたとき、それを見たリンナは目を見開き絶句する。

 現れたのは黒焦げになったモーモン《モモーラ》だ。モモーラはリーゴンのメラミを受けたあと、残った力で、リンナを助けようとここまで来て、そして、扉を噛み破り、階段を転げ下りたのだ。

 モモーラはヨロヨロとリンナの側へ飛んできて、最後の力を振り絞り、リンナの体を縛っているロープをホラーフェイスのような形相で一気に噛み切った。

 自由になったリンナは猿ぐつわを外し、モモーラを抱きかかえた。

「モモーラ!?、どうしたの?何があったの?ねぇ!」

 モモーラの返事はない。モモーラはすでに息絶えていた。その表情は柔和なラブリーフェイスのようである。

 リンナがモモーラにべホイミをかける。が、もはや回復呪文ではどうにもならない。

 己の無力さに悲嘆するリンナだったが、すぐさま涙を振り切り、モモーラを抱きかかえたまま、地下フロアを駆け出した。恐怖や悲しみを超えた何かがリンナの身体を突き動かす。

(モモーラは何故、瀕死の状態でここまで来ただろう?私を助けるため?

 いや、ペノンや他の魔物たちに何かあったに違いない!それを私に知らせるために、命がけでモモーラは来たんだ)

 そう思えてならないのだ。

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