アストルティア《裏》プロフェッショナルズ   作:鹿羽 直之

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【第四話】破れた依頼書請け負います(#06)

 依頼書のモンスター討伐を実行した翌日。オウライ屋奥のカーシャが執務を行っている部屋にハンテツとリンナが来ていた。昨日のモンスター討伐の結果報告の為である。

 グリケスと一緒に行ったときの討伐内容は、既にグリケスから報告が上がっているので、カーシャが知りたかったのは、グリケスが抜けた後、キラーパンサーとダークパンサーを各生息地で討伐してみた結果どうだったのかである。

「様々な生息地でキラーパンサーとダークパンサーを狩ってみましたが、やはり依頼書に討伐匹数は出なかったですね」

「そうですか……そうするとグリケスの見立て通り、討伐対象が違うか、依頼書が破れていて表示しないのでしょうかね?」

「その可能性が高いでしょうね。アストルティア以外の土地に生息しているキラーパンサーもしくはダークパンサーが討伐対象という可能性もなくはないでしょうけど……」

「他に《何々パンサー》という名前のモンスターで何か心当たりありますか?」

 ハンテツは少し沈思した後、

「転生モンスターの《ピンキーパンサー》……あと、これは本当かどうか分かりませんが、アストルティア以外の世界に《ホワイトパンサー》とか《シャドウパンサー》というモンスターが存在するという話を聞いたことがあります」

 と答えた。

「キラーパンサーの子供を《ベビーパンサー》って言う事もありますよね?」

 横から、そう補足したのはリンナである。

「……」

 カーシャは答えず、考え込んでいる。暫し沈黙の時間が過ぎた後、ハンテツが口を開いた。

「女将さん、一つ聞いても良いですか?」

「何かしら?」

「元々、依頼書に欠陥があったのだから、討伐本部に返せば済む話ですよね。それを採算度外視してまで依頼書を達成しようとするのは何故ですか?。何か拘りでもあるんですか?」

 ハンテツの言葉を聞いたカーシャの目が少し鋭くなり光を増した。

「確かに、今回のモンスター討伐依頼書の案件に限って見れば赤字です……ですが、商売は何より信用が重要です。『オウライ屋は無理な仕事でも成し遂げてくれる』となれば、信用が上がり、それが世間に広がり、後々大きな仕事へと繋がっていくものなのですよ」

 ハンテツとリンナは、カーシャの口調の強さに圧倒され、

(なるほど……)

 と得心したようだ。が、直後、

 「ふふっ」

 カーシャの顔から笑みがこぼれた。

「どうかしたんですか?」

「……というのは、あくまで建前です」

「はぁ?」

「だって!気持ち悪いじゃないですか?。謎が解けないままなんて……」

「もぅ~、女将さん!」

 と、リンナが膨れっ面を見せ、ハンテツは(フッ)と吹き出した。

「じゃぁ、ハンテツさんは何故、グリケスが討伐中断を申し出た際、『他の生息地も調べたい』と申し出たのですか?。モヤモヤした気持ちで仕事を終わらせたくなかったからじゃないですか?。それと同じですよ」

 そう言ってすぐ、カーシャの顔が真顔に戻り話を継いだ。

「でも、あくまでこれは仕事です。趣味や道楽ではありません。限度はあります。いつまでも原因が分からないようなら、不本意ですが諦めることも選択肢として考えなければなりません」

 カーシャは、また暫く考え込み、

「ハンテツさん、もう少し、アストルティア内に《何々パンサー》という名前のモンスターが存在しないか調べてみてくれますか?」

 とハンテツに言った後、リンナに向かって、

「リンナちゃんは、大変かもしれないけど、お店の仕事の合間に時間を作って、転生モンスターの《ピンキーパンサー》を倒してくれるかしら?」

 と仕事を振った。

「私一人で、ですか?」

「いえ、ゲラと……そうね!今度はレミィーさんと行ってもらおうかしら」

「グリケスさんは一緒じゃないんですね?」

「レミィーさんとグリケスを組ませても、おそらくうまくいかないでしょ!。あの2人、反りが合うとは思えませんもの……」

(さすが女将さんだわ!始めからちゃんと分かってたんだ!)

 カーシャの慧眼に感服するリンナ。こうした、人の性格や特性を見抜く《確かな目》がなければこの稼業は務まらないのだろう……

「どうせレミィーさんは『飲んでる』か『打ってる』かでしょうから、リンナちゃんの都合に合わせてもらうよう私の方から言っておきます。あとの日程は2人ですり合わせてください」

 そう言ってカーシャは、ハンテツとリンナに目配せした。異存がないか2人への確認である。

「では、後日、報告を聞かせて下さい。それで、何も手掛かりが掴めないようでしたら、この依頼書に関しては討伐本部に差戻しましょう」

 

 それから1週間程経ったある日、カーシャが、リンナとレミィーそれとハンテツをオウライ屋の応接室に呼び出した。勿論、頼んだ仕事の状況を聞くためである。

 ハンテツはすぐに来たが、リンナとレミィーは指定した時間になっても来ない。

 取り敢えずハンテツからの報告を聞いたカーシャだったが、収穫はゼロであった。ハンテツが調べた限りにおいて、アストルティア内に《キラーパンサー》《ダークパンサー》以外、《〇〇パンサー》という名前のモンスターは確認できないとのことだ。

 2人を待つこと約2時間……ようやくリンナとレミィーが姿を見せた。

「遅くなって済みません」

 そう言って最初に入ってきたのはリンナである。続いてレミィーも入ってきたのだが、赤ら顔で目も充血している。その上、近くに寄られると酒臭い。そんなレミィーの状態を見たハンテツが、

「レミィー!、まさか飲んでて遅れたのか?」

 と強めの口調で言った。

「い、いやぁ、そういう訳じゃないんだけど……」

 愛想笑いで誤魔化そうとするレミィーを牽制し、

「実は、たった今、ピンキーパンサーを倒してきたんですよ!」

 と、リンナが割って入ってきた。

「『今、ピンキーパンサーを倒してきた』って、今日まで何やってたんだ?」

 そう問い質したハンテツに対して、リンナが周りに不満をぶちまけるように返してきた。

「聞いて下さい!レミィーさんって酷いんですよ!。私が何回も『ピンキーパンサー討伐は、何時、都合付きますか?』って訊いても、『明日やろう』『明日やろう』って先送りしてばっかり!。結局、今日まで何もやらずに、女将さんからの呼び出しに慌てて、さっき、やっと1匹倒してきたんですから!」

「いやぁ~、《きせきの香水》使えば、転生モンスター狩りなんて、いつでもできるかな~、と思ってさ……」

「それで、昨日までずっと飲んだくれてたわけか?」

 冷ややかなハンテツの言葉に、再度リンナが、

「『昨日まで』じゃないです!。レミィーさん、さっきの討伐の時もお酒飲みながらやってたんですよ!」

 と答えた。ハンテツは呆れて返す言葉もない。

「まぁ、いいじゃねぇーか……注文通りピンキーパンサーは倒してきてやったんだからサ」

 開き直るレミィーに、今度はカーシャが、

「それで?結果はどうなりました?」

 と、問うた。意外にも怒る様子も呆れる様子もない、いつも通り穏やかな口調である。

「あぁ、結局、違かったみたいだな」

 レミィーがリンナに同意を求める。

「はい、ピンキーパンサーを倒しても、依頼書には何も現れませんでした」

「そうですか……」

 落胆し目を伏せるカーシャ。この件は手仕舞いにするしかないようだ。そんなカーシャの気も知らず、レミィーがリンナに

「リンナ、悪いけど水1杯もらえない?……なんか気持ち悪ぃ~わ」

 と頼む。

「もう!飲み過ぎなんですよ‼。そんな目が真っ赤になるまで飲んじゃって!」

 リンナがそう言いながら、流し台に向かおうとした時、

「あっ⁉『真っ赤な目』って!」

 何かに気づいたようにカーシャが顔を上げてレミィーを見た。少したじろいだレミィーが、

「いや、今回はちょっと度が過ぎちまったみたいだな……次からはちゃんとやるヨ」

 とバツが悪そうに頭を掻く。しかし、カーシャは、レミィーの詫び言などどうでもいい様子で、

「『目の色変えて』……『レッドアイ』……」

 と、破れた依頼書の文言の一部や討伐報酬のアイテム名を、独り言のように反芻しだした。周りの者は、突然のカーシャの様子にポカンとしている。

「お、女将さん⁉……どうかしましたか?」

 リンナが声を掛けた。

「あ!、何でもありません……取り敢えず、この討伐依頼書の話は一旦終わりにしましょう。皆さん、ご苦労様でした」

 そう言ってカーシャがこの場を締めた。

 3人が応接室を退室しようとしたとき、カーシャが「そぅ!」と呼び止め、

「でも、私にちょっとだけ思い当たるふしがありますので、最後にそれを確かめてきます。成り行き如何によっては、また皆さんにお頼みすることがあるかもしれませんが……その時はまた連絡します」

 と、言い添えた。そして、それとはなしに、懐からタロットカードを出して無造作に1枚抜いた。

 引いたのは《力》の正位置。強さを象徴するカード。

(……?)

 この一件、パワーアップや能力向上といった強化要素と、何か関連があるのだろうか……

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