それから数日後……ドワチャッカ大陸のデマトード高地南部に、リンナ、ハンテツ、レミィー、ゲラの姿があった。
「ここで『ダークパンサーを狩れ』って?」
レミィーが、乾いた大地に吹く砂埃交じりの風にウルフボブの髪を靡かせながら言った。
「はい、この香水をかけてダークパンサーと戦っていれば、お目当てのモンスターが現れるって、女将さんが言ってました」
と、リンナが小瓶を取り出して周りに見せた。今回、カーシャはリンナに指示を与え、他はリンナから仕事の内容を知らされる流れになった。まあ元々は表の仕事でリンナが担当したヤマだったから、リンナが仕切るのは本筋とも言える。
「要は、きせきの香水を使って転生モンスターを倒すのと同じように、そいつを使ってダークパンサーを狩っていれば《赤眼のダークパンサー》とかいうモンスターが出てくるってわけか?」
確認するように言ったハンテツの問いに頷くリンナ。どうやらカーシャの見込みでは、例の破れた討伐依頼書の対象は《赤眼のダークパンサー》というモンスターらしい。
「ところでさぁ、この仕事、何で、あたいらがやらなきゃなんねぇ~んだ?。本来、表の仕事なんだから、オウライ屋の登録メンバーにやらせりゃいいじゃん?」
「女将さんが言うには、『討伐相手の《赤眼のダークパンサー》は、一般にはあまり知れ渡っていないから、なるべくコッソリ対処したい』そうです……それと、《赤眼のダークパンサー》は通常のダークパンサーより全然強いっていうのも、皆さんに頼んだ理由だと思います」
レミィーは「フンッ」と鼻で笑い、
「まぁ、とにかく早く終わらせちまおうぜ!」
と言って、ドルボードを展開した。レミィーのドルボードは、背中にジェットエンジンを背負うタイプである。
「こういう時、誰か4人乗りのドルボードを持ってたら楽だったし、ドルセリンの節約にもなったのにな」
そう言いながらハンテツもドルボードを出し、ゲラがサイドカーの横付け車に乗ったのを見て、
「俺が先頭を走るから、レミィーとリンナは後に付いてきてくれ」
と、ドルボードを発走させた。
実は、デマトード高地に生息するダークパンサーの数はそれほど多くないため、ダークパンサーを発見するのに時間がかかる。戦うダークパンサーの数が少なくなれば《赤眼のダークパンサー》に出会える確率も低くなるのだ。
暫く走ると、1匹のダークパンサーが目に入った。
「リンナ、香水を頼む!」
リンナが頷き、香水を全員に振りかけた。この1本で4人分らしい。ほのかに甘い匂いがする。
ハンテツが、ダークパンサーに当たって行った。が、この戦闘では《赤眼のダークパンサー》は現れなかった。
こうして、ダークパンサーを見つけては当たって行くという行動を繰り返し行っていったのだが、一向に《赤眼のダークパンサー》が出る気配がない。
「リンナ、香水の効果は何分だ?」
「30分って聞いてます」
「女将から預かった香水は1本だけかい?」
そう聞いたのはレミィーである。
「はい……さっき使ったモノだけです……」
香水を使ってから既に20分以上が経過していた。
「無いなら仕方ない!残りの時間でできるだけやってみよう!」
ハンテツは、そう言って周りにプレッシャーを与えないようにしているが、内心は焦りを感じているに違いない。
さらに何回かダークパンサーに当たってみたが、《赤眼のダークパンサー》には出会えない。残り時間はあと1・2分といったところか……
ダークパンサーを探してドルボードを走らせるハンテツに、レミィーが横付けし並走してきた。
「ハンテツ!、もう香水が切れちまうよ!」
「分かってる!」
ハンテツが苛立ちを堪えながら答えたその直後、2人の目が、遠くにダークパンサーのシルエットを捉えた。
「いた!」
思わず声が出る。
「おそらく、あれがラストチャンスだ!。レミィー!突っ込むぞ‼」
「あいよッ!」
ハンテツとレミィーが、視界に捉えたダークパンサーに向かってブーストダッシュをかけた。
そのダークパンサーとの接触まであと僅かの距離まで迫った時、
――「キャァーー!」
突然、背後から悲鳴が響いた。
ハンテツが接触直前で急ブレーキをかけ、レミィーは急旋回してダークパンサーとの接触を躱していた。後を振り向く2人。後方では、2人に遅れをとってしまったリンナが、モンスターの襲撃を受けていた。
「しまった‼」
自分の失態に気づくハンテツ。パーティを組んでモンスターを狩る場合、各メンバーの距離が離れ過ぎないようにしなければならないのが鉄則である。そうでないと、誰かがモンスターと遭遇した時、戦闘開始時に全員が揃わなくなり思わぬ痛手を負う危険が生じるからだ。もちろんそんなことは、ハンテツやレミィー程のベテランになれば百も承知である。だが今回は、何せ香水の効果リミットに気を取られ過ぎて、そこまで気を廻す余裕がなかったのである。
「何やってんだ⁉あいつは!ちゃんと付いて来いよ……鈍臭ぇな~‼」
と、レミィーは自分の責任はさておき、リンナに対して苛立っている。まぁ確かに、はぐれたリンナにも落ち度はあるのだが……
「どうする?ハンテツ。今戻ったら確実に香水の効果が切れるぞ!。最後、ダークパンサーと一戦交えてから引き返すか?」
そのレミィーの発言に対し、猛烈に反対の態度を示したのは、サイドカーの横付け車に乗っていたゲラである。
「ゲコッ⁉……ダメ!、スグ、モドレ‼」
とサーベルを振り、早急にリンナの救出へ向かうよう訴えている。何か魔物特有の嗅覚みたいなものが働いているのだろうか。ゲラの剣幕に、徒ならぬものを感じ取ったハンテツ。
「レミィー!戻るぞ‼」
そう言って、急ぎリンナの元へ引き返して行った。レミィーも特段反対することなくハンテツの後に続いていく。
リンナの状況が分かる距離まできたとき、思わずレミィーが声を上げた。
「リンナを襲ってるモンスターって⁉もしかして?」
モンスターの動きが異常に俊敏で、遠目からハッキリとは確認できないが間違いない。
「ああ!、おそらく、あれが《赤眼のダークパンサー》だ!」
リンナを襲ってるのは、全体が深い黒色をした個体で、一部だけが煌々と赤く光っている。光っているのはたぶんモンスターの目の部分であろう。一見すると、赤い光が線を引くような軌跡を描いて、物凄い早さでリンナに絡み付いるように見える。
「『災い転じてなんとやら』だな……あいつの鈍臭さも役にたつときがあるとはねぇ」
そんな軽口を叩いてきたレミィーに、
「ふざけてる場合か!。先ずはリンナを助けるぞ!」
とハンテツが叱咤し、戦闘エリアへドルボードを滑り込ませて行った。