アストルティア《裏》プロフェッショナルズ   作:鹿羽 直之

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【第四話】破れた依頼書請け負います(#08)

 リンナは、もはや限界寸前であった。《赤眼のダークパンサー》の猛攻を受け続けるも、何とか自分に回復魔法を繰り返しかけて生命を保っていたのだろう。だが、これ以上は耐えられない。おそらくMPも尽きている。

「まずい!」

 戦闘エリアに飛び込んできたハンテツが叫んだ。ドルボードを納めて、咄嗟に特技《かばう》を使ってリンナのダメージを代わって引き受ける。

 リンナはぐったりとして意識を失いかけているが何とか持ち堪えてくれたようだ。

 少し遅れてレミィーも到着。

「リンナは俺が引き受ける!。奴は、お前たち2人で相手してくれ!」

 レミィーが頷き、

「トカゲ!、あいつをリンナから遠ざけるよ!」

 と、ゲラに指示を出した。

 ハンテツの《かばう》により、リンナがこれ以上ダメージを受けることはないのだが、このままだとハンテツは何もできない。《かばう》を解除した直後にリンナが攻撃を喰らったら、リンナの命が危ないからだ。なので、《赤眼のダークパンサー》の攻撃がリンナに及ばない間合いまで引き離して、先ずは、ハンテツを自由にしてやる必要がある。

 レミィーとゲラが《赤眼のダークパンサー》に牽制的な連続攻撃を仕掛け、相手を引かせようと試みるが、なかなかうまくいかない。とにかく、このモンスターの特長として動きが速い。スピードでは数ある冒険者の中でもトップクラスを誇るレミィーと比較しても数段上だ。

 動きの速さに関連して、《赤眼のダークパンサー》は回避行動も巧みで攻撃が当たりにくい。レミィー程の鞭の使い手でさえも体を掠める程度で、ゲラの二刀流サーベルも度々空振りさせられる始末だ。 しかも、《赤眼のダークパンサー》は2人の攻撃を躱しつつ反撃もしてくる。その疾風のごとく襲い掛かってくる恐爪は、一発々々の威力はさほど強くないのだが、動きが早いおかげで手数が多い。回復役がいない今、連続で喰らい続けたら危険である。

「ハンテツ!。リンナはどうなってるの?回復役がいなきゃ持ち堪えられねぇよ!」

「何とか、奴を引き離してくれ!。そしたら俺が《かばう》を解除してリンナを復帰させる!」

「それができねぇから言ってんだよ!。とにかく、こいつ、早過ぎるんだ!」

「《ボミオス》か《クモノ》で対応できないのか?」

 ちなみに、《ボミオス》とは相手の素早さを下げる呪文。《クモノ》とは、地面に魔方陣を仕掛け、その上を通った相手の動きを止める呪文である。

「呪文唱えてる間にやられちまうよ!。こっちは、回復役がいないから、相手の攻撃をまともに喰らわないようにしながら戦わなくっちゃならねぇんだから!」

 そう言い合ってる時でも《赤眼のダークパンサー》の波状攻撃が続く。レミィーは相手の動きを止めるべく、何度も鞭スキル《しばり打ち》を放つが全て不発に終わった。鞭の穂先が相手の身体を掠めるだけで、紐状の本体が相手に絡み付かないのだ。

 そんなさ中、一瞬、《赤眼のダークパンサー》の動きが止まった。

(今なら、《しばり打ち》が入る!)

 チャンスとばかりにレミィーが大きく鞭を振り被る。しかし、その直後《赤眼のダークパンサー》から、

――ガァオォォーーッ

 と、耳をつんざくような大きな唸り声が発せられた。特技《はげしいおたけび》だ。一瞬動きを止めたのは、《はげしいおたけび》を放つ予兆・溜めだっだのだ。

 吹っ飛ばされ、もんどり打って地面に倒れるレミィーとゲラ。ダメージも喰らっていて、すぐには起き上がれない。

 悪いことに、《赤眼のダークパンサー》の攻撃対象はリンナに向けられた。もの凄い速さでリンナに迫り、大口を開きその鋭い牙を向けてきた。

(あの牙を喰らったらリンナは確実に命を落とす)

 ハンテツが必死に耐え、リンナの受けるダメージを肩代わりする。《赤眼のダークパンサー》は、その流れのままハンテツの右腕に齧り付いてきた。牙が腕に食い込む。さらに、強靭な咬合力でハンテツの腕を噛み締め、ハンテツの腕を引き千切らんとばかりブルンブルンと首を振ってきた。

「ぬわぁーっ!」

 さすがのハンテツも悲鳴を漏らした。その声は、喪心状態のリンナにも聞こえたのか、

(う……うぅん)

 少し意識が戻って来たリンナが、うっすらと半目を開いた。

 筋肉を貫き骨まで達するような《赤眼のダークパンサー》の牙が、ハンテツの体力を容赦なく奪っていく。これではハンテツが耐えきれず、いずれ《かばう》が強制解除されてしまう。そうなれば2人とも終わりである。その時、

「うぅ……えぃ!」

 と、振り絞ったように発せられたな気合と共に、どこからか何か玉のような物が《赤眼のダークパンサー》に投げつけられた。当たった玉は繊維状にほどけて《赤眼のダークパンサー》の身体に絡み付いていった。

 投げられた玉は《まだらくもいと》……《ボミオス》と同様、敵の素早さを下げる効果をもつ消費アイテムである。

 ハンテツが横を向くと、苦しそうに肩で息をし、ふらつきながらも懸命に立ち上がっているリンナがいた。《まだらくもいと》を投げたのは、朦朧とした状態から何とか気を取り戻したリンナだったのだ。

 リンナが《まだらくもいと》を相手に当てることができたのは、《赤眼のダークパンサー》がハンテツに噛み付いて離さず、ほぼその場に留まる体勢になったことが功を奏したためと云えよう。目の前という至近距離に相手がいて、しかも今なら、厄介だった《赤眼のダークパンサー》の超素早い動きがほぼない。その情景が目に入ったリンナは、虚ろな意識の中にあっても、

(今、私が何とかして、ハンテツさんを助けなきゃ!)

 と気持ちを奮い立たせたに違いない。

「リンナ、大丈夫なのか?」

「ご、ごめんなさい……な、何とか、大丈夫だと……思います」

 漏らすような息でリンナが答えた。

 ハンテツの腕に噛み付いていた《赤眼のダークパンサー》が、吐き出すようにハンテツの腕を離し、今度はリンナに齧り付こうとする。

 ハンテツは《かばう》を解除し《赤眼のダークパンサー》に飛び付いていった。《まだらくもいと》の効果で、以前のような桁違いの敏捷性は失われている今、《赤眼のダークパンサー》を取り押さえるチャンスである。

 ハンテツが懸命に《赤眼のダークパンサー》に組み掛かった。そして何とか相手を取り押さえ、同時にリンナへの攻撃も食い止めることができた。

 その間、リンナは、高級MP回復薬《せいれいの霊薬》を取り出し一気に飲み干すと、ハンテツと自分に《ベホイミ》をかけた。

 体力が回復したハンテツは、

「ヌオォーーッ」

 と、テンションを上げ、そしてそのまま、相手の動きを正面から押さえる様に組み合った。俗に、『がっぷり四つ』という態勢である。

 この時、やっと、《はげしいおたけび》によって吹っ飛ばされていたレミィーとゲラが駆けつけて来た。リンナは、全員が魔法の有効エリア内に入ってきたのを見て、すぐさま《ベホマラー》を唱える。

 これで、ようやく反撃準備が整った。たとえ万全な状態ではなくとも、この4人の実力からすれば《赤眼のダークパンサー》は決して倒せない相手ではない。

 オウライ屋『裏の仕事師』たちの巻き返しが始まる。

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