アストルティア《裏》プロフェッショナルズ   作:鹿羽 直之

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【第四話】破れた依頼書請け負います(#09)

 ハンテツが相手と組み合い押え込み、レミィーとゲラが討ち掛かる。そして相手からの攻撃を受けダメージを負った者をリンナが回復する。この態勢は、いわゆる、盾役・攻撃役・補助役で構成される、チーム戦術において王道とされる布陣だ。

「こうなったら、もう楽勝だぜ!」

 レミィーがそう言いながら、鞭特技《スパークショット》や《双竜打ち》を連発する。

「レミィー、油断は禁物だ!。また《はげしいおたけび》がくるかもしれないし、他にも何か強力な技を隠しているかもしれない」

 ハンテツが言った注意は尤もである。特に、相手の体力がだいぶ削られ「あともう少しで勝負がつく」といった時、窮地に追い詰められた相手が、捨て身の大技を放ってくることもままある。

「分かってるって!」

 と、レミィーが返した後、《赤眼のダークパンサー》は怒り状態になり、《はげしいおたけび》を放ってきた。

 しかし、同じ相手から同じ技を2度喰らう彼らではない。予兆を瞬時に見抜き、《赤眼のダークパンサー》の側面方向へと立ち位置を変えた。

 そしてまた、以前と同様の態勢に持ち込み、型にはめたように《赤眼のダークパンサー》への攻撃を繰り返していった。

 最終局面に入り、激怒状態になった《赤眼のダークパンサー》が断末魔の抵抗を見せ、ハンテツが《痛恨の一撃》を喰らうなどヒヤッとさせられる場面もあったが、何とか大崩れせずに持ち堪えた。

 そして最後は、レミィーの《極流打ち》とゲラの《超はやぶさ斬り》の連続多段攻撃によって、《赤眼のダークパンサー》は力尽きた。その、敵が斃れゆく様を見て、肩の荷が下りたかのように緊張が解けるハンテツとレミィーとゲラ。

「ハァ、手こずらせやがって!」

 と、レミィーが疲れを吐き出すように言った。そこへ、後方から支援に回っていたリンナが少し足元をふら付かせながら寄ってきた。

「済みません……私のせいで……」

「ホントだよ!。最初から全員揃ってたらこんな苦労しなくて済んだんだぜ!」

「まぁ、そう言うな。今回はリンナの機転のおかげで逆転できたところもあるし……」

 とハンテツがリンナを庇った。

「⁉……こいつの『機転』?」

 レミィーには、リンナのどの行動が『機転』なのか分からない。

「ああ、リンナが意識を取り戻したとき、回復呪文を唱えるために《せいれいの霊薬》を飲むよりも、《まだらくもいと》で敵の早さを下げることを優先した。それが正しい選択で、逆転の契機になったって事だ」

 得てして回復役の者は、どんな時も治癒や蘇生を最優先して行いがちである。勿論、基本的にはそれで良いのだが、場合によっては治癒や蘇生に優先して、敵の能力値を下げたり、あるいは強化効果作用を解除することが必要とされることがある。敵の能力値が高いままだと、いくら治癒や蘇生を繰り返しても相手からもらうダメージの方が大きく、何時まで経っても状況が好転しないからだ。

 もしあの時、リンナが回復呪文を唱えるために自分のMP回復を優先していたら、ハンテツは、素早さの下がっていない《赤眼のダークパンサー》に組み付くことはできなかったかもしれない。

「あっ、あれは……ぼんやりとした意識の中で聞こえたレミィーさんの『敵が早過ぎる!』って声が頭に残ってたから……とりあえず、す早さ下げるのが先かなぁ~って……」

 少し照れているリンナに、レミィーが、

「へぇ~!こいつも少しは『戦慣れ』してきたじゃねぇーか」

 と、少し皮肉交じりに褒めた。だが、リンナとしては、レミィーが言った『戦慣れ』という言葉が引っ掛かり、素直には喜べなかった。レミィーは、そんなリンナの気持ちなど気にも留めず、

「でもさぁ、《まだらくもいと》なんてあまり使わないアイテム、よく準備してたな?」

 と話を振ってきた。

「あ、それは、この中に入ってたんです……」

 リンナが道具袋を出して見せた。その道具袋を見たハンテツが、

「あぁ!それは、もしかして、あの時の⁉」

 と、声を上げた。

「そうです。グリケスさんと一緒にハンテツさんやゲラさんと討伐していて、グリケスさんが途中で抜ける時に、グリケスさんが私に預けた道具袋です。その中に《まだらくもいと》も入ってたんです」

「《せいれいの霊薬》なんて高級薬もか?」

「はい、1本だけですけど、万が一の時のために入れておいてくれたんだと思います」

「なるほど……グリケス殿らしいな。一流の商売人らしい抜かりない配慮だ」

 そのハンテツの言葉に、リンナも同意するように頷いた。

「だったらさぁ!、今回の勝因は、こいつの『機転』のおかげと言うより、グリケスとかいうオウライ屋の番頭の手柄じゃねぇ~の?」

 そう言って、レミィーがリンナの頭を指先で軽く小突いた。

「まぁ、そうなんですけどね……」

 リンナが(へへっ)と照れ笑いしながら、小突かれた頭を掻いた。レミィーとハンテツも、リンナに釣られるように微笑を洩らす。

 そんな、闘いを終えた後のホッとした場面に、ゲラが割り込んできた。

「アノ、イライショ……ハ?」

「あ!、そうだった‼」

 と、リンナが思い出したように言った。窮地を逆転して敵を倒したことに、充足感を感じてしまっていたが、本来の目的は討伐依頼の達成である。倒した《赤眼のダークパンサー》が討伐対象でなかったとしたら、全くの徒労なのだ。

 リンナが破れた討伐依頼書を取り出し確認する。果たして、討伐依頼書の右下には『依頼を達成した!』の文言が出ていた。

「皆さん!ありがとうございました。討伐依頼達成です!」

 リンナが深々と頭を下げた。

「どうやら、女将さんの《読み》が当たったみたいだな……」

 とハンテツの表情が緩んだ。他方、レミィーは砂埃にまみれた髪の毛先を気にしている。

「はぁ~!仕事が終わったなら、さっさと帰ろうぜ!。早くシャワー浴びて一杯やりてぇ~わ!」

「済みません……もう少し待ってもらえませんか?」

 そう言ってリンナは、《赤眼のダークパンサー》が最後に斃れた辺りを、キョロキョロと何か探し始めた。暫くして、

「あっ、これだぁ!」

 リンナが、まだらに群生している草の茂みの中に、光を放つ骨のような物を見つけた。

「何だい⁉それは?」

 歩み寄って来たレミィーが訊いてきた。

「さぁ?、私も知りません……でも、女将さんが『《赤眼のダークパンサー》は光る骨を落とす筈だから、必ず持って帰るように』って……」

「ほぅ、何か金目の物なのかねぇ?」

 と言いながらレミィーはハンテツと目を合わせるが、ハンテツは小さく首を横に振った。ハンテツも初めて見る物らしい。

 不思議な光る骨に目を注ぐ4人の間を、乾いた大地に吹く一陣の風が駆け抜けていった。

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