人里離れた、とあるギルドの野営地……一人、異形の男が焚火にあたっていた。その男は獅子の貌をしており、いかにも屈強そうな出で立ちである。
そこに、この場には相応しくないような貴婦人がやって来た。オウライ屋の主、カーシャだ。カーシャは、その男が獅子の容貌をしていることなど全然意に介さない様子で、ツカツカと歩み寄って行った。
カーシャに気づいた獅子男が、
「このような辺鄙な所へ、どうなされました?」
と、訝しげに聞いてきた。
「ちょっとお尋ねいたしますが、こちらに《ライオッド》様という方はおられますでしょうか?」
「ライオッドは私ですが……」
「あら⁉そうでしたか!、これはたいへん失礼いたしました」
そのカーシャの反応が、いかにも白々しい。
「ところで、貴女は?」
「申し遅れました。私、グランゼドーラの街で、オウライ屋と云う便利屋を営んでおりますカーシャと申します」
「ほぅ……その便利屋さんが、私に何の御用で?」
「実は、ご覧いただきたいモノがございまして……」
と、カーシャがライオッドに、あの破れた討伐依頼書を見せた。依頼書に現われた『依頼を達成した!』の文言は、さりげなく指で隠すように持っている。
■■■■■■■■■■■■の依頼書
■■■■■■■■■■■ とある人里離れた場所に住む者だ。
■■■■■■■■■目の色を変え人々を襲っている。
■■■■■■■■は 群れの中に紛れている
■■■■■■パンサー を倒して欲しい。
■■■■匹倒して 高みへと行くのだ!
「……⁉」
「こちらの討伐依頼書の依頼主は、貴方様では?」
ライオッドは、暫く黙ったままその破れた依頼書を見ていたが、
「いいや、心当たりはありませんなぁ……」
と素っ気なくあしらった。
「あら、左様でございましたか……」
ライオッドの返答を素直に受け入れてみせるカーシャ。ここまでのライオッドの対応は想定内と云ったところか。
「ところで……その依頼書の依頼主が私ではないかと思われたのは何故ですかな?」
そのライオッドの言葉を聞いたカーシャの目が、一瞬、鋭く光った。
「いやね、元の依頼書は、概ねこんな感じではなかったのかと思いまして?
ガンバライオンの依頼書
私はギルドのリーダー とある人里離れた場所に住む者だ。
ダークパンサー が目の色を変え人々を襲っている。
我こそはと思う者は 群れの中に紛れている
赤眼のダークパンサー を倒して欲しい。
何とか1匹倒して 高みへと行くのだ!
それを、左側の具体的な記載がある箇所は敢えて破り、ギルドメンバーだけが解読できる《暗号》あるいは《謎掛け》の討伐依頼書として世に廻したのでは?」
「《暗号》?、《謎掛け》?、ですと⁉」
「はい……『目の色を変え人々を襲っている』の文言や、報酬の《レッドアイ》は、赤眼の魔物を示唆しており、『高みへと行くのだ!』の文言は、デマドート高地へ行ってくれ、と言っているのでは?」
「ほぅ……」
「デマドート高地に生息する、名前に『パンサー』が付くモンスターと言ったら、ダークパンサーしかいません」
「ふむ……」
「つまり……一般の冒険者には分からないようにして、『デマドート高地で、通常のダークパンサーの群れの中に紛れている《赤眼のダークパンサー》を倒してくれ』という依頼を、各地に散らばっているギルドメンバー宛に発したものではないですか?」
話を聞き終えたライオッドは「ハハハーッ」と大笑いし出し、
「これは、ずいぶんと突飛な推察ですなぁ!」
と少し嘲るように言った。
「可笑しいでしょうか?」
「いやいや、これは失敬!……なかなか面白いお話を聞かせてもらいました。ですが、申し訳ないが貴女の見当違いのようですなぁ。私には身に覚えがありませんので……」
話を終わらせようとするライオッドの獅子貌に、カーシャが懐疑的な視線を送る。気まずい空気を感じたライオッドがカーシャに退座を促した。
「もう、よろしいですかな?……申し訳ないが、今日のところは、どうぞお引き取りください」
「どうやら、ご迷惑だったみたいですね……では、これで失礼いたします」
そう言ってカーシャは一礼すると、ライオッドに背を向け出口の方へ歩き出した。だが、数歩進むと、
「あ!そうですわ‼」
と、何か思い出したような素振りでライオッドを振り返った。
「まだ何か?」
ライオッドはいいかげん辟易しているが、構わずカーシャは話を続ける。
「この討伐依頼書がこちらのギルドと関係ないという事でしたら、これは手前どもで処分させてもらって構いませんよね?」
カーシャはそう言いながら、袱紗に包んだ《ある物》をライオッドの眼前に差し出した。そして、勿体ぶるようにゆっくり袱紗を開いていく。
「なっ……⁉」
袱紗の中から出てきたモノを見たライオッドが思わず声を失う。袱紗に包まれていたのは、リンナが拾ってきた、あの《光を放つ骨》だ。
「ま!、まさかもう倒していたのか⁉」
「はい」
カーシャが不敵な笑みを浮かべた。
「ぐぬぅ……案内人も介さず、この場所を探り当てて来た時点で、ただの鼠ではないと思ってはいたが……それにしても、人が悪すぎるぞ!」
「ふふっ、お気を悪くなされたなら、御免あそばせ……」
とカーシャが、悪戯っぽく悪意の視線をライオッドに向けた。
「いいだろう!。その《灼光骨》はこちらで買い取ろうじゃないか……だが、その前に一つ聞かせてくれ。どうやって《赤眼のダークパンサー》を見つけることができたできた?」
「こちらのギルドの方は、フィールド上の通常の魔物に紛れ込んでる《赤眼の魔物》を誘き寄せる時に、特別な《きせきの香水》を使うそうですね?。それを使わせてもらいました」
「どうやって手に入れた?」
「ライオッド様のお名前やギルド・ガンバライオンのことは噂では耳にしていたので、手前どもの情報筋を使ってちょっと探ってみたんです。そうしたら、元ギルドのメンバーという方にお会いすることができまして、その方から譲り受けました」
「なるほど、やはりただの鼠ではないようだな……」
「私からも、お聞きしてよろしいですか?」
「何かな?」
「何故こんな遠回しな方法でメンバーに依頼通知を出したのですか?。直接、言い渡せばよいものを?」
ライオッドは「ハハハーッ」と大笑いした後、
「ちょっとメンバーを試してみたくなったのよ!。まぁ、ほんの遊び心だと思ってくれ……依頼書の謎を解き《赤眼のダークパンサー》を倒してくる者はいるのか?ってね」
と気恥ずかしそうに言った。
「まぁ!貴方こそ、お人が悪い」
「ハッハッハ、まさかギルドメンバー以外の者が倒してくるとは思わなかったけどな!」
カーシャは、少しはにかむように「ふふっ」と笑った。
「どうだ?、これを機にギルドのメンバーに入らないか?。実を言うと《赤眼のダークパンサー》は赤眼の魔物の中では格下の方だが、それでも倒してしまった実力は、並みの冒険者より数段上だ。それに何よりも、依頼書の謎を解き、自力で討伐方法を探り出した貴女の識見と情報力が気に入った!」
「ありがとうございます。当店の人材を高く買っていただいたことは本当に嬉しく思います。ですが、手前どもは、特定の組織には属さないのが信条なんです。あくまで《オウライ屋》は庶民の中のしがない『便利屋』ですから……」
「そうか……それは残念だが仕方あるまい」
「ですが、もし何かお困りのことがあれば、是非、当店にご用命くださいませ。ご来店心よりお待ちしておりますわ」
「ハハッ、そのときはよろしく頼むよ!……女狐店主さん!」
「まぁ、酷いですわ!。人を『鼠』や『狐』呼ばわりして……ライオンの旦那ったら、もう!」
視線を交わすライオッドとカーシャ。どちらからともなく表情が緩み、クスクスと笑いが漏れ出した。
翌日、港町レンドア南にある酒場。
「ごめん下さい」
リンナが、扉を開け右奥の方へ入って行った。ここにモンスター討伐隊本部がある。
「あ!オウライ屋さんでありますか⁉」
「いつもお世話になっております」
営業上の常套挨拶を述べ、軽く会釈をするリンナ。多少は商売人のイロハが身に付いてきたようだ。そして、
「これ、この前ウチが請けたモンスター討伐依頼です。ウチが直接討伐した分、ご報告にあがりました」
と言ってオットーに達成済の依頼書を渡した。
「おおっ!、依頼クエストを達成してくださったのですな!。では、確認いたします!、どれどれ……」
と、オットーがいつもと変わらぬ調子で対応し始めた。
「あっ!、この破れた依頼書もやっていただけたのですか!さすがオウライ屋さんですな!」
「えぇっ!、オットーさん、始めから知っててウチに渡したんですか⁉」
少し怒り気味のリンナに、オットーはバツが悪そうだ。
「いやぁ~、『ご迷惑だろう』とは思ったのですが、『オウライ屋さんだったらやってくれるかなぁ~』と思って、ダメ元でこっそり入れてしまいました」
「この討伐依頼書、大変だったんですから!。今後、こういうイレギュラーな依頼書があるときは、予め伝えておいてくださいね!」
「いやぁ~、面目ございません。以後注意いたします!」
そう言ってオットーは頭を下げたのだが、直後、
「では!、今回の報酬をお渡しいたします」
とあっさり話を切り替え、報酬を手渡してきた。
(この人、本当に反省してるのだろうか?)
と首を傾げるリンナ。
さらにオットーは、何やら書類の束を奥から引き出してきた。
「大変恐縮ですが、また、お願いできませんでしょうか?」
(まっ、まさか!)
オットーがリンナに差し出したのは、またしてもモンスター討伐依頼書の束だ。今回も100枚ぐらいあるだろうか。
「アストルティアの平和のため、どうかご協力、よろしくお願いします!」
(こんなの持って帰ったら、グリケスさんに何言われるか分からないよ……)
リンナの顔が引き攣っていく様子を見て、オットーは、
「あ!、ご安心ください!。今回は変な討伐依頼書は入ってませんから」
と言葉を掛け、リンナの不安を鎮めるようにニッコリ笑った。
(いや!、問題はそこじゃないんだけどなぁ……)
リンナは苦笑いを返すしかできない。面倒臭そうな顰め面をするグリケスが頭に浮かび、気が滅入ってくるリンナだった。
〔第四話・完〕
別ゲームの2次創作小説を執筆していたため、約1年半ぶりのご無沙汰となってしまいました。次回はそんなに期間が空かないうちに投稿したいと思っているのですが、ネタが思い付き次第となりますので、どうなるか分かりません。