アストルティア《裏》プロフェッショナルズ   作:鹿羽 直之

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【第五話】こっそり助っ人請け負います(#03)

 仕事の依頼を持ち込んだプクリポの女の子《ピナタ》が発した『ダルマ落としのポムゾウ』という言葉に、カーシャの表情が一瞬、強張った。その変化を見て取ったピナタが、

「もしかして、御存じなのですか?」

 と、問いかけた。

「い、いえ、知っているという程ではないのですが……確か、昔に名を馳せた腕利きのバトルマスターですよね?」

「はい、実は《ポムゾウ》は、私の祖父なんです」

「まぁ!、お爺様⁉」

「バトルマスターだった祖父は、とあるモンスターとの戦いに敗れて、一生残る大怪我を負って、それが原因でバトルマスターを引退しました。その後、祖母と結婚し子も生まれ、平凡かもしれませんが、それはそれで幸せな生活だったと思います。ですが……昨年、突然、祖母が他界してしまったんです」

「それは、お爺様も沈痛だったことでしょう」

「ええ、祖母が他界してからというもの、気を紛らわすためか、祖父はギャンブルなんかもよくやるようになりましたし……」

「やはり淋しいのでしょうかねぇ?」

「そうだったと思います」

 少し感傷的になったピナタは、目に涙を滲ませグスンと鼻をすすった。

「そんな祖父だったのですが、最近、困ったことを言い出し始めたんです……」

「困ったこと?」

「今になって、昔、大怪我を負わされたモンスターに『復讐してやる!』とか言い出したんです!」

「お爺様が突然リベンジを思い立つに至った原因に、何か心当たりはありますか?」

「はい、これは相手のモンスターに関わるんですけど、祖父に大怪我を負わせたそのモンスターが約40年ぶりに現れたんです。その噂を聞いて祖父は『かつての雪辱を果たしたい!』と、年甲斐もなく気持ちが高揚してしまったのだと思います」

「その、昔ポムゾウさんに大怪我を負わせたモンスターとは、どのようなモンスターなのですか?」

「《スイの塔》は御存じですよね?」

「もちろんですわ」

 スイの塔とは、エルトナ大陸のスイゼン湿原にある現存するアストルティア最古の木造建築物であり、その存在を知らない人はほとんどいない。

「そのスイの塔に《スライムタワー》が生息しているのですが、どういう理由なのかは解明されていませんが、稀に変異した個体が現れるんです」

「《スライムタワー》の変異体⁉」

「はい、40年程前、祖父はその《スライムタワー》の変異体に戦いを挑み、敗れ、そして生死に係わる大怪我を負ったんです」

「なるほど、そして今、積年の怨みの相手が現れた、という訳なんですね……」

「そうなんです!」

「それでしたら、お爺様のお望み通りに、リベンジを果たさせてあげたらいいんじゃありません?」

「それが……祖父は私に『儂に付いて来て一緒に闘ってくれ!』とか言ってくるんです。しかも、私たちだけで……」

「2人だけで⁉。他にサポート仲間も入れずにですか?」

「私も、『せめてサポート仲間を入れて4人パーティーで挑もう』と何度も言ったのですが……」

「聞き入れてくれない、と……」

「ええ、頑として『儂らだけで倒さなければならないんじゃ!』って」

「お爺様は、何故そこまで拘るのでしょうね?」

「分かりません……でも、祖母の死と関係しているような気がします。祖父と祖母が知り合ったのも、40年程前の《スライムタワー》の変異体との闘いがきっかけだったって噂もありますし……祖父としては身内だけで復讐を果たし、死んだ祖母への手向けにしたいのかもしれません」

 暫し沈黙の後、ピナタがさらに話を続けた。

「祖父が復讐を言い出した時、私も私の父も、断念するよう何度も説得しました。もちろん祖父は、私や父の言葉に聞く耳をもってくれません。父なんかはもう諦めて『一人で勝手にやらせておけ!どうなろうと知ったことか』とまで言ってます。ですので、父からは『お前は絶対に親父の復讐に手を貸すんじゃないぞ!』とキツく言いわれているんです」

「それは、お父様としては当然でしょうね。いくら実父の願いとはいえ、娘を危険なことに巻き込むなんて……」

「ええ、でも、父の私への心配はどうでもいいんです。それよりも祖父のことです。祖父は体が悪い上に高齢です。全盛期の腕前でも倒せなかった相手に敵うとは思えません……」

「でも、お爺様は、あなたが付いてくれたくれたら、2人だけでも勝てると踏んだのでしょ?」 

 ピナタが(ありえない!)とでも言うように、大きく首を横に振った。

「私がサポートしたところで、いくらの役にも立ちません……むしろ足手まといです」

「そんな事は……」

 と返したカーシャの言葉を遮り、

「あるんです!」

 ピナタが語気を強めて否定した。が、すぐに冷静さを取り戻し、

「済みません。感情的になってしまって……でも、ホント私、僧侶に向いていなくて、討伐のサポートなんかできる様な身じゃないんです」

 そう言って俯くピナタ。カーシャには励ます言葉もなく、次に話を進ませるしかなかった。

「とにかく、あなたとしては、お爺様に協力する気はないと?」

「いえ、形だけということにはなってしまいますが、私も祖父の復讐には付いて行くつもりです。でも私だけじゃ絶対無理なんです。だから、祖父に気付かれないように、密かにサポートして欲しいんです」

 カーシャは、何か思案を巡らせているのか、暫しの間虚空を見つめた後、

「ちょっとお聞きしたいのですが?」

 と話に戻った。

「あなたはお爺様が《スライムタワー》の変異体にリベンジを挑むことには反対なのですよね?。しかもお父様からも『協力するな』と釘を刺されている。にもかかわらず、お爺様がリベンジに挑む際に一緒に付いて行こうとしているのは何故ですか?」

 ピナタは俯き、沈思した。

「話したくないなら、無理に話さなくても構いませんよ」

「いえ、少し長くなりますが聞いていただけますか?」

「ええ」

「私が僧侶を志したのは、昨年他界した祖母の影響なんです。祖母は、若い頃キリカ修道会の僧侶だったんです。祖母は慈愛に満ち、誰にでも分け隔てなく接する優しい人でした。そんな祖母のような人になりたいと思い、私も僧侶の道に進みました……」

「そうだったのですか……」

「祖母は、体を悪くした祖父に対しても献身的に尽くしました。私は、そんな祖母に敬意を抱くと同時に、どこか憐みも感じていました。祖父の世話をするために、キリカ修道会を辞めた祖母でしたが、『本当はもっとやりたいことがあったけど、祖父のために諦めたんじゃないか』って……でも昨年、その祖母が倒れた時、病床で『ピナタ、お爺さんを頼むわね』とばかり言うんです。私が『分かった、大丈夫だよ。お爺ちゃんのことは心配しないで』って答えても、自分の命が永くないことを悟っているのか、何度も、何度も『お爺さんを頼むわね』って繰り返すんです」

 ピナタの顔は涙で崩れている。

「本音を言えば、祖父には復讐なんか止めてもらいたいです。でも、どうしても祖父が『やりたい』というなら、私は、その祖父の望みを叶えてあげなければならないんです!」

「お亡くなりになったお婆様との約束だから、ですか?」

「そうです!」

 ピナタは涙を拭い、さらに話を続けた。

「でも、ホントに情けないのですが、私の技量では祖父の望みを叶えてあげることはできません。それどころか、下手すれば2人ともやられて祖母のところへ行くことになってしまいます……だから……」

「ウチに頼みに来た、と……」

 ピナタがコクリと頷いた。そして、

「こんなお仕事、引き受けて頂くのは難しいでしょうか?」

 と、震えるような小声で言った。

 カーシャは神妙な面持ちで、また暫しの間虚空へと目をやった後、ピナタを見据え答えた。

「承知しました。この仕事、お請けいたしましょう!」

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