アストルティア《裏》プロフェッショナルズ   作:鹿羽 直之

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【第五話】こっそり助っ人請け負います(#04)

「……と、いうことにあいなりましたので、皆様、よろしくお頼みいたします」

 オウライ屋、カーシャの執務室に集められたハンテツ、レミィー、リンナ。3人に対してカーシャが、ピナタから聞いた依頼の経緯を話し終わったところだ。

「ポム爺に孫なんていたんだ……」

 レミィーがボソッと言った。

「レミィーさん!、ポムゾウさんを知っているのですか?」

 意外なことに驚いてカーシャが聞いた。

「ああ、ラッカランのカジノでたまに会うぐらいだけどね……今は博打とか釣りとか、道楽しながら余生を送ってるみたいだから」

 ハンテツは訝し気に首を傾げた後、

「お前が視た感じでは、その爺さんの今の技量はどのぐらいだと思う?」

 と、レミィーに問うてきた。

「うぅ~ん、今でも戦闘感覚は並みの冒険者よりは上だと思う。飛んできた石を咄嗟に弾き返せるぐらいだから……でも、なにせ松葉杖を突いて歩くぐらいに体が悪い。フィールドとかに居る凡庸なモンスターとかを討伐するならまだしも、特殊な強モンスター相手にするのは難しいだろうね」

「……だとすると、やはり陰から手助けしてやらないと無理か……」

 と、言ったハンテツに続けて、カーシャが口を添えた。

「どうのようにして相手を倒すのか?、その方法は、あなた方にお任せいたします。但し、ポムゾウさんに知られることがないようくれぐれも用心してください……それから、リンナちゃん?」

「はい」

「依頼人のピナタさんが『自分の回復技術では心許ない……』と言ういうので、あなたはピナタさんを補佐してあげてください」

「承知しました」

「ピナタさんには、密かに回復役を付けることは伝えてありますが、これもポムゾウさんには気付かれないようにお願いします」

「依頼人のピナタさんが回復をやっているように見せかければいいんですね?」

「そういう事です」

 カーシャは微笑みながらリンナに答えた。

 レミィーがハンテツに目を向け、

「あたいらは先ず、スイの塔に棲む《スライムタワー》の変異体がどんな奴なのかを知る必要があるな……じゃないと、対策の立てようがない!」

 と困惑気味に言った。

 ハンテツは、少し思案し、

「一度、スイの塔に行って見てくるか?」

 と、答えたところへ、カーシャが、

「視察に行くのは構いませんが、決して戦闘しないように!。万が一相手を倒してしまったら、元も子もなくなります!」

 と釘をさした。

「言われるまでもなく、それは十分承知していますので、ご心配なく」

 ハンテツの返答にカーシャは頷いた後、

「それでは、段取りが整ったら連絡してください。それまではポムゾウさんを引き留めておくよう依頼人には言っておきます。ただ、なるべく早くお願いしますね?」

 ハンテツ、レミィー、リンナがそれぞれ、

「分かりました」

「任せときな!」

「はい」

 と答えた。

 一旦この依頼に関する話は終わり、退出しようと、ハンテツとレミィーは本棚裏の隠し通路へ、リンナは執務室の出入り口へ向かおうとしたその時、

「あ、そうだ!、忘れてたわ!」

 と、カーシャが思い出したように声を発した。

「リンナちゃん!」

「⁉……はい?」

「リンナちゃんには別な案件で話があるから、ちょっとだけ残ってもらえるかしら?」

「ええ、構いませんけど……」

 隠し通路へ入る手前でハンテツがカーシャを一瞥し、部屋を出て行った。後に続いて退出するレミィーが苦笑混じりにリンナを揶揄う。

「大変だねぇ、《表》と《裏》両方の仕事をしなきゃならない人は……」

 

 エルトナ大陸の《風の町アズラン》から南に下ったところに位置する湿地帯、スイゼン湿原。数千年前の昔には、ここに王国が存在していたと言う……

 湧き上がってきたような濃霧の中を裂いて走る1台のドルボードがあった。サイドカー型のドルボード、ハンテツである。横付けの車にはレミィーが相乗りしている。向かう先はアストルティア最古の木造建築《スイの塔》だ。

 沼地や葦原の間を縫うようにして、どうにか通れるように整備されたような道を抜け、2人はスイの塔の正面まで来た。ドルボードを降り、入口から7重になった高層塔を見上げる。煌びやかこそないが、雅で品格のある佇まいだ。こんな高湿な場所で千年以上前の木造建築が美しいまま残っているのは驚愕のほかない。

 扉を開け中に入って行く2人。中は閑散としておりモンスター《ともしびこぞう》が数匹、こちらに危害を加える気配もなくトコトコと歩いている。

「《スライムタワー》が棲息しているのは3階だから、先ず3階に行って見てみようぜ!」

 とレミィー。

「そうだな」

 2人は階段を上がり、3階へ向かった。

 3階では、緑・橙・青3匹で1組の通常の《スライムタワー》がピョンピョンと跳ねている姿があった。だがそれ以外1階と同様である。

「う~ん?、変異体なんて居ねぇーぞ……」

 予想が外れて、戸惑うレミィー。

「そうだな……取り敢えず全ての階、見て廻るか?」

 ハンテツとレミィーは、スイの塔を上がって行き7階《天つ風の間》の前まで来たが、それらしいモンスターは見当たらなかった。

「おかしいな⁉……もう一回下まで下りて探してみるか?」

 と、今度は何回も階段を上り下りしながら、仕切りで区切られて同じ階からは直接行けなかった区画まで歩を進め、各階くまなく探しながら1階へ下りて行った。

 2階から1階への階段を下りたところでレミィーが、

「もう誰かが狩っちまったんじゃねぇの?」

 と苛立ち気に言った。

「その可能性もあるな……」

「女将に、『スイの塔にスラタワの変異体なんて居なかった』って言っとこうぜ!」

 そう言いながらレミィーは出入口に向かい、フロア中央の橋まで差し掛かったところで

(ん……⁉)

 と、何かに気づいた。

「どうした?」

「あそこ、何か光ってないか?」

 レミィーが、地下へと下りる階段を指さした。スイの塔には地下部が存在するのだが、その地下部は水が浸水していて階段を下りて中へ入って行くことはできない。

 レミィーは橋を渡り、水没している地下階段に近づいて行った。どうやら水面下にある何かがボゥと光を発しているみたいだ。

 水面を覗き込むレミィー。

「何だ!」

 水の中に8つの光が見える。と、次の瞬間、

――ザッバーン

 と、水飛沫を上げ、その8つの光が床面に飛び出して来た。

 現れたのは4匹のスライム、光っていたのはスライムの目だったのだ。サイズは通常のスライムより大きめで、色はそれぞれ金・銀・銅・鉄といった金属色をしている。

 4匹のスライムは下から順に鉄・銅・銀・金と積み重なっていき、4重の《スライムタワー》と化した。大きさは《メガトンブラザーズ》の上に、さらに1匹同サイズのスライムを乗せたぐらいである。

 その《4重スライムタワー》が、最上部の金スライムを振り降ろすようにしてレミィーを襲ってきた。

 咄嗟に短剣を抜き、応戦の態勢をとったレミィーだったが、

「よせ‼」

 と、急ぎ駆けつけてきたハンテツに、短剣を握った右手を掴まれ引き下がらされてしまった。

「戦闘は厳禁だと言われてるだろ!。ここは一旦引くぞ!」

(チッ!)

 レミィーは舌打ちしたが、ここはハンテツに従うしかない。戦闘を強行しようとしたところで、ハンテツが力づくで止めに掛かってくるのは目に見えている。

 この間にも《4重スライムタワー》は呪文を唱えていた。

「レミィー!走るぞ!」

 とハンテツが叫んだのと、《4重スライムタワー》が《メラストーム》を放つのが同時だった。

 2人は、降り注ぐ火玉を巧みに避けながら、ダッシュでスイの塔出入口へ向かった。

 外に出たハンテツとレミィー。《4重スライムタワー》が追ってくる気配はない。

「相手のモンスターは、あいつで間違いないな!」

 すこし息を弾ませながらレミィーが言った。

「ああ」

 ハンテツの返事も喘ぎ気味だ。

「メタル系かなぁ?」

「その可能性が高い気がするが、どうだろうな……」

「だから、軽く2・3回刃を当てて、どんなモンか試して見りゃよかったんだよ!」

「それで、相手を倒してしまったら取り返しがつかないだろ!」

「そんなヤワなモンスターには見えなかったぜ?」

「もし、逆にあいつが強敵だったら、それはそれでマズい事態になってただろう……こちらには回復役がいないんだ!。逃げそびれたらそこで終わりだ!」

「でもさぁ~、見ただけじゃ、どうやってポム爺に気付かれないようにあいつを倒すのか、段取りの立てようがないぜ?」

 ハンテツは眉間に皺を寄せ、

「それは……そうなんだが……」

 と、濃い霧の中に聳え立つ7重の塔を煩わしそうな眼で見上げた。

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