アストルティア《裏》プロフェッショナルズ   作:鹿羽 直之

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【第五話】こっそり助っ人請け負います(#05)

 スイの塔を後にし、ハンテツはその足で北に向かった。レミィーには「チョット、寄るところがあるから」と言ってドルボードから降りてもらった。

 行先は《風の町アズラン》である。

 アズランでは、邪気を孕む風を送り出し新しい風を取り込む《風送りの儀》という儀式が行われるという。そして、その儀式の舞台がスイの塔だったのを思い出したのだ。

(もしかしたら、アズランに行けばスイの塔に現れる《4重スライムタワー》に関して誰か知っている者がいるかも知れない)

 ハンテツはそう思い、再びドルボードを走らせ、沼地と葦原の中を抜けて行った。

 アズランの町に着いたハンテツ。大人しそうに草を食むカムシカの横を通り、階段を上がって行くと、右手の方に《キリカ聖堂》が目に入ってきた。

 キリカ聖堂はエルドナ神を信仰する宗教の本拠地的な場所なのだが、『聖堂』と言う割には建物の規模が小さく、そこに常勤している僧も僅かである。

(そう言えば、依頼人はキリカ修道会の僧侶だとか言ってたな……)

 ハンテツは、先ず《キリカ聖堂》を訪ねてみることにした。

 キリカ聖堂の入口前には、いつも門番の役割をする僧兵が槍を構えて立っている。よく居るのは《ブロンガ》という屈強そうなオーガの男だ。ハンテツも、大柄なオーガという種族の中でも特にガタイのいい方だが、このブロンガもハンテツと比べて遜色ない体躯をしている。

「済みません。ちょっとお聞きしたいことがあるのですが……」

 ハンテツがブロンガに声を掛けた。

「何でしょう?」

「スイの塔のモンスターに関して知りたいのですが……キリカ修道会の方で、どなたか詳しい方はいらっしゃいますでしょうか?」

 ハンテツのその言葉を聞いたブロンガは、怪しげな者を見るような顔をし、

「少々、お待ちいただけますか?」

 とキリカ聖堂内に入って行った。そしてすぐに、キリカ聖堂から出てくると、

「イオリ大僧正がお話を伺うそうです」

 そう言って聖堂内にハンテツを促した。

 聖堂内には年配の男のエルフが待っており、

「キリカ大聖堂へようこそ」

 と声を掛けてきた。《イオリ大僧正》だ。

「お忙しいところ、お邪魔して済みません」

 ハンテツが頭を下げる。

「スイの塔のモンスターについて聞きたい……と?」

「はい」

「差し詰め……最近、現れた《スライムタワーの亜種》のことでしょうか?」

「えっ!ご存じなのですか?」

 相手の方から話を振ってきたので、ハンテツは少々面食らってしまった。

「いいや、私は直接見たことはありませんが……」

「大僧正様が知っている事、何でもいいんで御教授いただけませんか?」

「……」

 イオリ大僧正は、少しの間、俯いて沈思したあと話を続けた。

「貴方様、腕の立つ冒険者様とお見受けいたしますが……あの《スライムタワー》を討伐しようと考えておられるなら、お止めなされ」

「それは何故でしょう?」

「スイの塔に現れる4色のスライムタワーに関しては、少々苦い過去がありましてな……関わると、また災難が起こるのではないかと憂慮している次第です」

「前に出現したのは……確か40年程前とか?」

「左様、あの時も不幸なことが起きました……」

「もし差し支えなければ、当時の事をお聞かせ願えませんか?」

 しかし、イオリ大僧正は首を横に振り、何も語ろうとはしない。

 重い沈黙の時間が流れる。

(この人から、これ以上聞き出すのは無理か……)

 そう思い、ハンテツがその場を去ろうとした時、

「よろしかったら、召し上がってください」

 と、ブロンガが、皿に乗った食べ物と飲み物を差し入れてきた。飲み物は《ほうじ茶》であろうか、食べ物は、何か緑色の餅を短冊切りにしたものである。傍らにドロッとした黒色の液体が入った小鉢が添えられている。

「あ、どうかお構いなく……」

 ハンテツが礼をすると、ブロンガも軽く会釈を返し、元の大聖堂入口へと戻った。

 ハンテツがイオリ大僧正へ目を向けると、イオリ大僧正は、

「お口に合えばよいのですが……」

 と、閉ざしていた口を開き勧めてきたので、せっかくだしこれを食べてから帰ることにした。

「では、遠慮なくいただきます」

 ハンテツは、エルフ用の低い腰掛に脚を折りたたむようにして座り、隣の腰掛に飲み物を、膝の上に食べ物が乗った皿を置いた。そして、緑色のものを口に運ぶ。

「あ!、これは《キリカの草餅》ですね?。久し振りに食べます」

「ほぅ、キリカの草餅を食されたことがある?」

「ええ、栄養価が高く保存も利きますので、若い頃、人里から離れて修行に籠るときなどよく携帯食にしていました」

「ほほ、そうでしたか」

「ところで、この黒いのは何ですか?」

 ハンテツが、餅に添えられた液体を指さした。

「それは、黒糖を煮詰めた黒蜜です。キリカの草餅に掛けて召し上がってみてください」

「へぇ~」

 ハンテツは、黒蜜をたっぷり掛け、キリカの草餅を食べてみた。

「あ~、これはまた、いつものキリカの草餅とは違った味わいがありますね。キリカ修道会の方は、このようにして食べるのですか?」

「いえいえ、我々はそのまま食べることの方が多いです。ただ、キリカの草餅は、原材料であるニガユリ草独特の癖が残っています。それが、黒蜜を掛けると、黒蜜の甘さとコクがニガユリ草の癖を和らげてくれるのです。ですから、キリカの草餅をそのまま食べるのが苦手な人や客人には黒蜜と一緒に出すようにしているのですよ」

「なるほど、ん~、これはこれで美味しいです!」

 ハンテツは、ねっとりと黒蜜の絡んだキリカの草餅を立て続けに頬張り、瞬く間に平らげてしまった。

 その様子を見ていたイオリ大僧正の目元が緩む。

「御馳走様でした……それでは、これで失礼します」

 ハンテツはそう言って席を立とうとした。

「少々、お待ちくだされ……」

「……⁉」

「40年前の事……お話いたしましょう……」

「ありがとうございます!……でも、よいのですか?」

「どのようなご事情かは存じませぬが、多少なりとも貴方のお役に立てるのでしたら……」

 イオリ大僧正は、心を落ち着かせるためか、ふぅーと一度深呼吸をし、過去の記憶を手繰る様に訥々と語り出した。

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