アストルティア《裏》プロフェッショナルズ   作:鹿羽 直之

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【第一話】仕事は万事請け負います(#05)

船舶管理局の前の通り、城壁につながる壁の陰……

 リーゴンの《ラリホー》で眠らされていたペノンが目を覚ました。頭を振り立ち上がり、周りを見る。

 タブーゴたちはもういない。

 あらためて路上に目を移すと、ニーゼフの護衛をしていた坊主頭のオーガの男とウルフボブのウェディの女が道端に立っているのが見えた。二人は向かい合うように立っていて、二人の間にある《路上のモノ》を見ながら何か話していた。

 ペノンは、その《路上のモノ》が何であるか、直ぐには理解できなかった。いや、脳が理解することを拒んだのかも知れない。

 ペノンはよろよろと《路上のモノ》に歩み寄って、それを確かめた。

「嘘よ……なんで?」

 その《路上のモノ》はスライムのスラッキとブラウニーのブランの亡骸であった。

 膝から崩れ落ちたペノンは、2匹の魔物を強く抱きしめるように覆いかぶさり、嗚咽し始めた。

 坊主頭のオーガの男とウルフボブのウェディの女は、そんなペノンにかける言葉もなく、ただ不憫そうに見ている。

 そこへ、息を切らせてリンナが駆け寄って来た。腕にはモモーラの亡骸を抱いている。

「⁉」

 魔物の亡骸にすがりつき泣き崩れているペノンの姿を見て、スラッキとブランも殺されたことを察した。

「ペノンちゃん……」

 と、躊躇い気味に声を掛ける。

 ペノンはリンナが来ていたことに気づき、

「リンナちゃん?……無事だったんだね……」

 と少し安堵するも、リンナに抱かれた黒焦げのモモーラを見て、再び嗚咽しだした。

「……モモーラ……」

「モモーラは、瀕死の身体で、必死にあの隠れ家まで来て、監禁されている私を助けてくれたんだ……だから、なんとかしてあげたかったんだけど……ごめんね、ペノンちゃん。私の力不足で……」

 悲嘆にくれるペノンとリンナ。

 そんな2人のやり取りを傍らで見ていた坊主頭のオーガの男が、少し後ろめたそうに口を挟んだ。

「この魔物たちには気の毒なことをしたと思うが、依頼人の身を守るのが俺らの仕事なんだ……悪く思わないでくれ……」

「あなたたちが、こんなことしたんですか?」

 リンナが坊主頭のオーガの男へ訊き返した。

「この魔物たちが依頼主を襲ってきたんで、反撃したのは間違いない。だが、動けなくなった魔物にとどめを刺したのは俺らじゃない。3人組の男たちだ」

「分かってます。こんな酷いことするのは……タブーゴ親方の仕業に決まってます」

 ペノンは泣き声の間に差し込むように言った。

「私、通報してきます!」

 と駆け出そうとするリンナを、ウルフボブのウェディの女が止めた。

「無駄だよ!この魔物が人間を襲ったっていう事実は通行人も目撃してるんだ!

 しかも、ふらりと現れた治安局の役人とやらを、うまいこと言って丸め込んでいる。今頃は、グランゼドーラで悪事を働いていた魔物を退治したっていう、ただの魔物討伐の話で終わっているさ……」

「そんなぁ~」

 リンナは項垂れてペノンに目をやった。ペノンは泣きながら魔物たちの遺体に何度も謝り続けていた。

「私が、この子たちを死なせちゃったんだ……この子たちに悪い事させちゃったから……この子たちに嫌な仕事やらせちゃったから……

 ごめんね……みんな、本当にごめんね……」

 体を震わせて泣くペノン。その懐から、掌大の摩れた巾着袋が落ちた。結構な重さがあるらしく、ドスッと地面に鈍い音をたてたが、ペノンはそれに気づかない。

 その巾着袋には、大きく竜神の刺繍が施されていた。ペノンが崇めているどこかの竜の神を祀った神社のものだろうか……

 ウルフボブのウェディの女がその巾着袋を拾い上げる。

 ウェディの女の目の色が変わった。金目のものが入っていることは直ぐに分かった。ニヤリと口元に卑しい笑みを浮かべ、坊主頭のオーガの男へ目配せした。

 坊主頭のオーガの男は小さく頷き、それに応えると、泣いているペノンの後ろ姿に話しかけた。

「お嬢さん、あの3人組が憎いだろ?」

 ペノンは首を振った。

「親方を恨んでも、もうこの子たちはもう……

 それより、親方の所には、まだ多くの魔物がいるんです。辛い目にあわされたり、嫌な仕事させられたりしてるんです。そして、用が済んだら、この子たちみたいに……だから、またこんな事が起こる前に、他の魔物たちをなんとかしてあげたい……」

「そうか、それがお嬢さんの望みか……ならば、それを神様にお願いしてみるっていうのはどうかな……」

「神様……って……」

 振り返り、涙で腫れあがった目で、怪訝そうにオーガの男を見るペノン。

 オーガの男はペノンに視線を落とし、

「お嬢さんが持っていた袋に描かれている《竜の神様》……」

 と言いながら、ウェディの女が手にしている巾着袋を指した。さらに、オーガの男が話を続ける。

「《竜の神様》は本当に居るんだよ……

 グランゼドーラの南にあるドラクロン山地には、神様の使いの竜が棲んでいるんだ。

 そのドラクロン山地の麓、ロヴォス高地の南に寂れた小さい祠がある。その祠に願いをかければ、使いの竜がその願いを神様に届けてくれるそうだ……」

 オーガの男の話を引き継ぐように、今度はウェディの女が話出した。

「でも……こういうのって、誠意というか、願いの強さみたいなものを示さないとねぇ、神様だって願いを叶える気にならないと思うよ……もちろん、お金の問題じゃないんだろうけどさぁ、まぁ、この袋をそのまま納めてあげたら、きっと願いを叶えてくれるんじゃないかなぁ」

 と、拾い上げた巾着袋を数回叩いて土埃を払い、ペノンに返した。

 傍らで話を聞いていたリンナは、二人に侮蔑の眼差しを向ける。

 ウェディの女はリンナの視線を感じて、気まずそうにコホンと軽く咳払いをしたが、なおも、ペノンに話続けた。

「もし、ドラクロン山麓の祠へ行くんだったら、あたいが付いて行ってあげようか?ロヴォス高地には凶暴な魔物がいるし……

 なんだったら、その袋、あたいに預けてくれたら、代わりに願掛けしてきてやるよ」

 その言葉にリンナは、唖然とした。

(なんて卑怯な人たちなんだろう!人の悲しみや弱みに付け込んで金を騙し取ろうとするなんて!

 いつでもそうだ。弱い者や優しい人が、強者・悪人の食いものにされるんだ。それも、二重・三重に……)

 リンナは怒りを抑えられず、

「もう、そんな話は止めてください!ひどいじゃないですか。大事な友達だった魔物が殺されたんですよ。悲しみのドン底にあって、今はショックで何も考えられない状況なんですよ!そんな時に話すことじゃないですよ!」

 と啖呵をきって、二人に強い非難の眼差しを向けた。

 坊主頭のオーガの男とウルフボブのウェディの女は、ばつが悪そうに黙り込む。

「ペノンちゃん、もう行こうよ……」

 と、リンナはペノンを背中から抱き起した。

 ペノンは小さく頷くと、ブランの亡骸を抱いて重い足取りで歩き出した。リンナはモモーラとスラッキを抱えペノンの後を歩く。

 一同が去っていくのを無言で見届ける坊主頭のオーガの男とウルフボブのウェディの女。

 ペノンとリンナの姿が、視認できなくなるくらい小さくなった時、

「ドラクロン山麓にある小さな祠だよ!きっと願いが叶うからさぁー!」

 と、ウェディの女がペノンの背中に叫びかけた。だが、その声がペノンに届いたかどうかは分からない。

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