アストルティア《裏》プロフェッショナルズ   作:鹿羽 直之

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【第五話】こっそり助っ人請け負います(#06)

「大昔からスイの塔には度々、《スライムタワーの亜種》、大きな4色のヤツが出現していたようです。どういった理由でその亜種が誕生するのかは定かではありませんが……そのことは古い文献にもそれと思われる記述が残されてます。数年後にすぐ現れることもあれば、百年以上現れなかったこともあるそうです」

「前回現れたのが約40年前ですね?」

「はい。その前回《4重スライムタワー》に闘いを挑んだのは、当時売り出し中の新進気鋭のバトルマスターでした」

「確か《ポムゾウ》という名前のプクリボだと聞いてますが」

「ご存知でしたか……当時『ダルマ落とし』の異名で世間に知られた男です……しかしポムゾウ氏は《4重スライムタワー》に敗れ、瀕死の重傷を負ってしまいました……」

「でも、それに関して大僧正様が責任を感じる事は無いのでは?。ポムゾウさんには気の毒な言い方になってしまいますが、闘いに挑む上で生命身体の危険に晒されるのは冒険者としては百も承知ですから……」

「それが……ポムゾウ氏が《4重スライムタワー》に闘いを挑むことになった経緯に少々事情がありましてな……」

「どのような?」

「40年程前《4重スライムタワー》がスイの塔に現れた当時の話です……私はまだ駆け出しの僧で、日々修行に励んでいた時期でした。その頃、私と同期でキリカ修道会に入会したプクリポの女性僧侶がいたんです。名を《パニカナ》と言いました。彼女はとても優秀な僧侶で、将来はキリカ修道会を背負って立つ人物と目された程です。彼女と私はよく一緒に修行し、供に切磋琢磨しながら高みを目指すようなよき同胞でした。……そんな彼女に、一目惚れしてしまった男がいたんです」

「ポムゾウさん?」

「そうです。ポムゾウ氏は熱烈にパニカナに言い寄ってきました。パニカナは、まだ修行中の身でもあり、その気もないので、ポムゾウ氏からのアプローチは幾度となく断ったのですが……」

「ポムゾウさんは執拗に求愛してきたと……?」

「はい……それで、とうとうパニカナも我慢の限界がきてしまったようで、ポムゾウ氏に無謀な条件を吹っ掛けてしまったのです。その条件が『スイの塔に現れた4重のスライムタワーを一人で倒してきたら交際に応じてあげる!』というものでした」

「なるほど、パニカナさんとしては、無理難題を提示すればポムゾウさんも諦めてくれるだろうと思ったのですね」

「ええ……ですが、ポムゾウ氏は本当に一人で《4重スライムタワー》に挑んでしまったのです……」

「……」

「ポムゾウ氏が瀕死の重傷を負ったと聞いたパニカナは、強い自責の念に苛まれました……」

「でも、ポムゾウさんは助かったんですよね?」

「はい、パニカナの懸命な看護の甲斐もあってか、何とか一命だけは……しかし『人を死に追いやるような言動をした私には、人を救う職に就く資格はない』と言って、彼女はキリカ修道会を去って行ってしまいました」

 イオリ大僧正は、俯き加減のまま深い溜息をついた。

「私も未熟でした……同胞が、理不尽な手段を使ってしまう程思い悩んでいたというのに、手を差し伸べてあげることができなかったのですから……その意味では、私も彼女と同じ罪を負っているのです……」

「大僧正様、どうかご自分を責めないでください」

「ありがとう……」

 イオリ大僧正は俯いたまま礼を返し、

「そんな彼女も昨年、神のもとに召されました……」

 と顔を上げ虚空を見つめた。

(⁉……『去年亡くなった』ということは《パニカナ》をいう女性が《ポムゾウ》の妻、つまり、依頼人の祖母なのか?)

 疑問に思ったハンテツが、

「キリカ修道会を辞めた後、パニカナさんはどうしたのですか?」

 と、かまをかけてみた。

「ポムゾウ氏の看護がきっかけで、ポムゾウ氏と結婚しました。それからはポムゾウ氏の身の世話をして暮らしていました。……まぁ、彼女としては罪滅ぼしの意味もあったのでしょう」

「ポムゾウさんにしてみれば、少なくともその事に関しては願いが叶った形になるのですね……」

「まぁ、そういう意味では……」

 ハンテツの頭の中に、

(《ポムゾウ》が『40年前の仇をを討ちたい』と言ってるのは、亡き妻との交際の条件だった『《4重スライムタワー》を倒す』という約束を果たし、結婚の前提条件を追完したいからではないのか?)

 という見解が頭に湧いてきた。さらに、この機会に依頼人に関しても少し探ってみようと思い、

「ポムゾウさんとパニカナさんにご家族はいらっしゃらなかったのでしょうか?」

 と、孫がいることについては知らない態で聞いてみた。本来は、必要以上に依頼人の素性に首を突っ込むのは禁じられているのだが……

「子供が一人いまして……それから、その子供に娘がいます。ポムゾウ氏とパニカナからすると孫ですな……」

「ほぅ!そうすると、パニカナさんにしても、ポムゾウさんとの出会いのきっかけこそ不遇でしたが、それほど薄幸な人生ではなかったのでは?……お孫さんにも恵まれたんですし?」

「うぅん、そうですなぁ……」

 イオリ大僧正から煮え切らない返事が返ってくる。それに違和感を覚えるハンテツ。

「どうかしましたか?」

「い、いや……実は、その2人の孫にあたる娘は先日までキリカ修道会に在籍していたのですよ」

(ん⁉)

 ハンテツにしてみれは、イオリ大僧正が言った『在籍していた』という過去形の言い方は意外である。カーシャからは、『依頼人のポムゾウの孫はキリカ修道会の僧侶である』と聞いていたからだ。

「……と言うと、今はもうお辞めになられた?」

「はい……」

「それは、どういった理由で?」

「うぅん、なんと言いますか……僧侶として伸び悩んでいたと言うか、壁を乗り越えられなったと言うか……それで『自分は僧侶には向いてない』と思ったのでしょうね」

「そうですか……」

「あの娘は、祖母のパニカナを敬愛し、祖母と同じ道を目指そうとキリカ修道会に志願してきました。そして、そのことはパニカナもとても喜んでいました。自分が諦めた夢を孫娘が代わりに継いでくれたような気持ちだったのでしょう……私としても、パニカナが僧侶の道を断念したことに少なからず責任を感じていましたから、あの娘が一人前の僧侶になるよう何かと目を掛けてはいたのですが……」

「不本意な結果になってしまったと……」

 イオリ大僧正は目を伏したまま2・3度小さく頷いた。

 暫し静寂の時間が過ぎた後、イオリ大僧正が、

「あ!、済みません。スイの塔のモンスターとは全く関係ない話をしてしまいましたね」

 と、我に返ったように言った。

「いえ、貴重なお話、ありがとうございます」

「まぁ、そのようなことがあり、私としては、スイの塔の《4重スライムタワー》に挑むのはあまり気が進まないのですよ」

「大僧正様の境遇からすれば、そうでしょうね……」

「しかし、強モンスターに挑みたいというのは冒険者の性分……止めても無駄なのでしょうなぁ」

「……」

「でも、最後にこれだけ言わせてください。挑戦だけが勇気ではありませんぞ。時には引く勇気というのも必要です。……どうかご無理だけはなさらぬよう」

 ハンテツは席を立つと、イオリ大僧正に向かい深々と頭を下げた。そして、出入口の扉を開ける手前で、ふとイオリ大僧正を振り返り、

「あ!、黒蜜で食べるキリカの草餅、とても美味しかったです。今度自分でも試してみようと思います」

 そう言って再度頭を下げた。

 イオリ大僧正の顔から、僅かに笑みがこぼれた。

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