ここのところ、レミィーは毎日カジノに入り浸っている。自分がギャンブルをしたいからというのもあるが、真の目当ては《ポムゾウ》である。ハンテツから、キリカ修道会のイオリ大僧正の話は大筋で聞いたのだが、『スイの塔の《4重スライムタワー》に関しては、あまり有益な情はが得られなかった』みたいなので、
(こうなったら、直接ポム爺に訊いてみるか⁉)
と探りを入れてみることにしたのだ。勿論、孫から討伐の助っ人を依頼されていることをポムゾウに察せられてはマズいので、そこは慎重を期さなければならない。
ところが、ここ数日、ポムゾウはカジノに姿を見せていなかった。
(負けが込んで金が底突いたか……それとも討伐の準備でもしてんのか?)
そんなことを思いつつ、取り敢えず1階のセンターホールを廻って行った。
「あ!」
思わず声が出た。今日はポムゾウが来てたのだ。相変わらず1コインスロットを打っている。
「よ、ポム爺!」
レミィーはポムゾウの側まで行き声を掛け、盤面を覗き込んだ。どうやら大きな当りは引いていないようだ。
「あ~、今日もダメじゃねぇ~か」
「ヘッ、へへへ……」
苦笑いするポムゾウ。判で押したようないつものやり取りである。
そうこうしているうちにポムゾウのストックコインが0になってしまった。
「あ~、終わっちまったか……これで暫くはカジノに来れなくなっちまったな……」
と落胆するポムゾウ。
「よかったら、あたいのコイン回してあげてもいいぜ!」
レミィーが意外な申し出をしてきた。
「エっ⁉いいのかい?」
申し出に喰い付いてきたポムゾウを、レミィーは輝く瞳で見つめ、
「あたいの『お願い』聞いてくれたらね!」
と言ってきた。まるで、若い娘がパパにおねだりするようである。
「な、何だよ……『お願い』って?」
変にあざとい演出をしてきたレミィーに胡散臭さを感じるポムゾウだった。
レミィーはポムゾウを連れ出しカジノを出て、同じラッカラン内にあるコロシアムへ向かった。カジノからは目と鼻の先である。
レミィーの思惑は、ポムゾウと対戦してポムゾウの現在の実力を見極めたいというものだ。助っ人をするに当たって、討伐相手である《4重スライムタワー》の情報を得ることも大事だが、サポート対象について知っておくことも同じぐらい重要なのは当然であろう。
「ポム爺は《練習バトル》にエントリーして待っていてくれよ。そしたらあたいからバトルに誘うから」
「おいおい、レミィー……今の儂じゃ、あんたの攻撃を喰らったら秒も持たないよ」
「大丈夫だって!あたいからは攻撃しないからサ。だからポム爺は、遠慮なくあたいに技を仕掛けてきてくれよ!」
「儂みたいな手足の不自由な爺さんとやり合って何が面白いんだか……」
「かつてのレジェンドバトルマスターの技がどんなものなのか、その片鱗だけでも見てみたいんだって!」
そう言いながらレミィーはポムゾウの腕を取り、受付係がいるカウンターへ足を進めた。
受付を済ませた後は、控室である《闘士の間》に入り、対戦まで30秒間のカウントダウンを待つ。そして3分間の対戦が始った。
2人はコロシアム中央で対峙した。ポムゾウは往年のハンマー二刀流のスタイルである。
「ポム爺!あたいの身は気にしないでいいからジャンジャン特技を出してくれよ!」
「んじゃ、いくぞ!」
ポムゾウはそう言うと、ハンマースキルの《ドラムクラッシュ》や《ランドインパクト》、とうこんスキルの《無心こうげき》や《天下無双》等を立て続けに繰り出していった。
レミィーは、それらポムゾウが仕掛けてくる特技をただ一方的に受けている。受けてみた技の印象では、
(かつては相当な腕の持主だったんだろうな)
と思わせるようなキレや鋭さみたいなものは感じられたが、なにせ身体に障害のある高齢者の技である。威力とスピードがまるっきり足りない。なので、回復魔力の高くないレミィーが、都度自分に《ホイミ》をかける程度でも十分ダメージ回復ができた。
「ポム爺、もっと凄い大技かましてくれよ!」
とのレミィーの要求に、
「ああ、分かった」
とポムゾウが応え、ハンマースキルの《プレートインパクト》や《デビルクラッシュ》、とうこんスキルの《灼熱とうこん討ち》を繰り出した。
レミィーはそれら全ての大技を耐え切った。他方、ポムゾウの老体に大技の連発は堪えたようで、息も絶え絶えである。
「ハァハァ……もう、この辺でいいかね?」
とポムゾウ。
「……」
レミィーは、何かしっくりこない。バトルマスターであれば当然仕掛けてくるであろう最強の特技をポムゾウが出してこないからだ。
「ポム爺!、最後に《古今無双》を撃ってくれよ!」
「いや、アレはやめた方がいい」
「何でだよ!出し惜しみすんなよ?」
「出し惜しみしてる訳じゃないが……」
試合時間は残り30秒を切っている。
「もう時間が無くなっちまうよ!これで終わりにするからさぁ、なぁ頼むよ!」
「そこまで言うならやるけど……どうなっても儂ぁ知らんぞ」
ポムゾウの身体からうっすらとオーラが沸き上がり、《古今無双》の構えをとった。
「⁉」
違和感を感じるレミィー。ポムゾウの《古今無双》構えが、一般のバトルマスターのそれと少し違うのだ。両腕を水平に伸ばし、さらに両手のハンマーも腕の直線状に位置するよう握られている。
「イャー‼」
と発せられた気合と共にポムゾウが突っ込んできた。そして、両手に持ったハンマーを右・左・右・左と順番にそのまま横滑りさせるようにレミィーに打ち込む。それは正に《ダルマ落し》で積木を弾き飛ばす動作に似た様相であった。
(なるほど!《ダルマ落し》の二つ名の由来はコレか⁉)
とレミィーが感心している間に、
――ガンッ!ガンッ!ガンッ!かん!
ポムゾウのハンマーがレミィーを痛打していた。しかも、4発中3発が《会心》の当たりである。
「グワッ!」
さすがのレミィーもこれには堪らず、もんどり打って背中から転がってしまった。もちろんレミィーの技量からすれば避けようと思えば避けられたのだが、ポムゾウの技を全て受け切ると決めていたのが仇となった形だ。
「だ、大丈夫かい!」
ポムゾウが顔を顰め、足を引きずりながらレミィーに近寄ってきた。《古今無双》はポムゾウにとっても負担が大きかったに違いない。
「痛テテ……」
「だから、止めておいた方がええと言ったんじゃ」
「チョッと『ダルマ落しのポムゾウ』を甘く見過ぎてたかな?……でも、いいもの見せてもらったよ!。ありがとうな」
レミィーは立ち上がりポムゾウに腕を出した。レミィーの腕を手摺のように掴み体を支えるポムゾウ。
「じゃぁ、約束は果たしたんだからコインの件は頼むぞい」
「分かってるって!」
レミィーは姿勢を低くすると、
「ポム爺、まだ時間大丈夫かい?」
と言いながらポムゾウに自分の肩を掴まらせた。
「2回戦は無理じゃ!勘弁してくれ‼」
「いや!そうじゃなくて、今から一杯付き合わないか?。いい店知ってるんだ」
「ホホっ、そりゃつまりレミィーの奢りってことでいいのかい?」
「ああ、カジノコインとは別に追加のお礼サ!」
レミィーはポムゾウを支えながら歩調を合わせゆっくりと退出用の《旅の扉》へ向かって行った。
※実際のDQXゲーム内では、カジノコインの貸し借りはできません。