レミィーは、とある飲屋にポムゾウを招待した。アストルティアの住宅村で個人が営んでいる居酒屋だ。
「この店は冷酒が美味いんだ!。水と肥料の量を管理した自分とこの畑で育てた専用の《ライスフラワー》を原材料に使っているからね」
「ほぅ~!それは楽しみじゃな」
レミィーとポムゾウは、小さな個室の座席に座り、冷酒とお任せで適当な肴を注文した。
店員が、硝子製の徳利に入った店評判の冷酒と、美しい切子細工の施されたぐい呑み2口を運んできた。
「ま、おひとつどーぞ!」
と、レミィーがポムゾウにお酌する。
「へへっ、こりゃどうも……」
受けるポムゾウはちょっと照れ気味である。
暫く他愛もない会話をしながら一献傾けていた2人だったが、段々とポムゾウに酔いが回り始めた。
(そろそろ、いい頃合いかな?)
そう思いレミィーは、ポムゾウの過去について話を踏み込んでみることにした。最終的には、スイの塔の《4重スライムタワー》に関する情報を聞き出したいのだが、先ずは、
「……でも、ポム爺さすが若い頃一世を風靡したバトマスだよな!。最後の《古今無双》はホント効いたぜ!。もし4発全部《会心》になってたらマジやばかったかもな!」
と、さっきの対戦を振り返る態で話を振り、徐々に本来の目的に触れていこうという目論見だ。
「ホホッ!、すこしは『ダルマ落としのポムゾウ様』を見直したかえ?」
「あぁ!《ダルマ落とし》の由来になった技、しっかり拝ませてもらったよ!……でもさ、元々《古今無双》は会心率の高い技だけど、ポム爺のはさらに高確率だよな!得物はハンマーなのに」
「『高確率』じゃと⁉……いやいや、最盛時の儂の《古今無双》は100%《会心》じゃわい!……必ず《会心》にできる独自の《古今無双》を編み出し会得したおかげで儂はバトマスとして名を上げたようなもんじゃ!」
「エッ!《古今無双》の会心率100%って‼本当かよ⁉」
レミィーは、思わず身を乗り出しポムゾウに迫った。ポムゾウは、一度は、
「オゥよ!」
とドヤ顔をキメたのだが、一転、憂いた表情に変わり悄然としてしまった。
「どうかしたかい?」
「いや……100%じゃねぇ……」
ポムゾウがボソッと呟いた。
「……え?」
「一度だけミスっちまったことがある……しかも一番肝心な時に……だ」
俯いたままポムゾウが言う。
「もしかして?……それが原因で大怪我を……」
「ああ……」
「ポム爺さえよかったら、その時の話、あたいに聞かせてくんないか?」
「……」
ポムゾウは俯き答えなかったが、暫くして、伏せていた目をレミィーに戻し、
「然らば話してやろうかの……レミィー!お主も少し自信過剰のようじゃから、儂のようににならないための教訓としてな……」
と過去の体験を語り出した。
「あれは儂が20代後半の頃じゃ、スイの塔に《スライムタワー》のメタル系変種が現れてな、そいつは4匹のメタル系スライムが連なったモンスターなんじゃが、訳あって一人で討伐に向かうことになったのじゃ……」
ハンテツから聞いた話を思い出すレミィー。
(『訳』っていうのは『ポム爺の奥さんが、《4重スライムタワー》を一人で倒すことを条件に交際を約束した』ことだな!)
「ヘヘッ、天狗になってたんだろうな……あの頃の儂は……『メタル系スライム4匹なんて、儂の《古今無双》で《会心》を4発をブチかませば楽勝よ!』って意気揚々と乗り込んで行ったわけよ!……じゃがのぅ」
「全打《会心》にはならなかった?」
「うむ、さっきの試合と同じく、4発目を打ち損ねて《会心》にならなかったんじゃ……」
「でもさぁ、4匹中3匹までは倒したんだろ?」
「それがな……あいつら、1匹でも倒し損ねると、残ったヤツが倒されたヤツを復活させてしまうんじゃ」
(蘇生能力⁉……それは厄介だな……)
「元に戻った4匹は、再び《スライムタワー》に合体し、儂に強烈な《スライムシャワー》を浴びせてきたんじゃ……と、儂の記憶はここまでじゃ。意識を失った儂が目覚めたのはベッドの上だった……側で、儂を看病してくれた一人の女がワアワア泣いておったのが、今でも頭に焼き付いて離れん……」
「その女(ひと)って、昨年亡くなった奥さんなんだろ?」
「ああ、その当時は付き合ってもいない仲だったけどな……まぁ、これが縁で一緒になったんじゃが……あいつには苦労ばかり掛けちまった……」
ポムゾウは、虚ろな眼に涙を滲ませた。レミィーも掛ける言葉がなく、暫し静寂の時が流れたが、ポムゾウが現実に引き戻されたように、
「おっと、いけねぇ!しんみりし過ぎちまったな!」
と沈黙を破った。
「はっ、ちょいとばかり世間から持て囃されて、金と名声そして女も、欲しいものは全て手に入れられる!なんて思い込んでた勘違い大馬鹿野郎の話さ!」
そう言った後で、ポムゾウはぐい呑みに残った冷酒を一気に呷った。レミィーは、空いたポムゾウのぐい呑みに徳利を傾け、
「いや、いい話聞かせてもらったよ……」
と冷酒を注いだ。
「レミィー、『己の慢心は命取りになる』って肝に銘じておけ!」
「ああ……」
レミィーは微笑を返しながら、自分のぐい呑みに手灼しようとした。が、徳利はもう空だ。レミィーは店員を呼び、
「これ、もう1本持ってきて!大徳利で!」
と、冷酒を追加注文した。2人で空けた徳利の数はもう5本になっている。