アストルティア《裏》プロフェッショナルズ   作:鹿羽 直之

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【第五話】こっそり助っ人請け負います(#11)

 スイの塔に居残っていたハンテツとレミィーの身体が浮び出した。《レムオルの粉》の効果が切れたのだ。ポムゾウとピナタがスイの塔を出てから数分経っている。

 2人の表情は何故か浮かない。

「仕事は済ませたし、俺たちも引き上げるとするか?」

 ハンテツの言い方が淡泊である。しかも、途中離脱したリンナを心配する様子は微塵もない。

 ハンテツが正面門に向かって一歩踏み出したとき、

「なぁ?、ハンテツ……」

 とレミィーが呼び止めた。レミィーを横目で一瞥するハンテツ。

「何だ?」

「リンナが途中で離脱したことだけどさぁ……あれ、わざとじゃねぇの?」

 レミィーが意外なことを口にし出してきた。

「何故そう思う?」

 と返したハンテツに、特段驚いている様子はない。

「離脱する必要なんて無かったからだよ!。もしダメージを食らったとしても、リンナがポム爺に気付かれないようにシレ~っと自分に回復魔法かければ済む話だったんじゃねぇの?」

「まぁ、そうかもな……」

 ハンテツの答えは素っ気ない。まるで始めから知っていたかのようである。

「ハンテツ!何か知ってるのか?。リンナが退場しなければならなかった理由?」

 レミィーは少々語気を強めハンテツに詰め寄った。

「いや、俺は何も聞いていない……だが、見当はついている」

「な、何だいその『見当』っていうのは?」

「依頼人のピナタ、あの娘に『助っ人の力を借りずに自分の力でポムゾウ爺さんを支援した』と思わせる為だ!」

「なっ!、何だって‼」

「リンナが抜けた後、爺さんを回復していたのは、孫のピナタじゃない。ピナタがやったように見せかけた第三者だ!」

「エッ!全然気付かなかったぜ……」

「実は、俺も最初は気づかなかった……リンナの時と違って、寸分狂わずにピナタの《ベホイミ》とタイミングを合わせてあったからな」

(チッ)

 レミィーが舌打ちした。ハンテツが気付けたことを自分は気付けなかったことが口惜しいのだ。

「まぁ、無理もないさ。お前は、ミスの出やすい呪われた《まじんのかなづち》を扱っていたから、相手に攻撃を当てることに意識が集中していたんだろう……」

 ハンテツは、気を使ってそう言ってくれたのだろうが、レミィーにとってはマウントを取られたようで余計に気分が悪い。例えハンテツの言う通りだったとしても、裏稼業に従事する者としては失格だ、と思ってしまう。

「……ってことは、女将が、あたいらの知らないところで、もう一人助っ人を遣わしていた。ってことだよな?」

「ああ……俺は、その『もう一人の助っ人』っていうのは、女将さん本人なんじゃないか、と睨んでるがな」

「エッ!、何で女将はそんなまどろっこしい事をしなきゃならないんだ!。訳分かんないゼ‼」

「俺は、この仕事は、始めから不可解な点を感じていた……」

「『不可解な点』って?」

「そもそも、ポムゾウ爺さんが、何故『40年前の敵討ちをしたい』などと言いだしたか?、だ」

「そりゃ、スイの塔に仇が現れて『闘志に火が付いたんじゃないか』って依頼人が言ってたんだろ?。それに『死んだカミさんとの約束を果たす為』なんじゃねぇの?」

「『闘志に火が付いた』という割には、ポムゾウ爺さんはカジノや釣りとか道楽していたらしいじゃないか?。本当にリベンジに燃えていたなら、訓練や準備に励むのが普通だろ?」

「い、言われてみれば、そうだな……」

「それに、『死んだ奥さんとの約束』というのもおかしい。40年前の約束は、『一人で《4重スライムタワー》を倒したら交際する』というものだ。肉親とはいえサポートを付けたら約束を果たしたことにはならない!」

「……もしサポート付けるなら、出来の良くない孫より、もっと腕に良いヤツ雇ったほうがいいもんな」

「この状況で、自分が全盛期の時でさえ敵わなかった相手に、本気で挑もうと考えていたなら、爺さんはよっぽど耄碌してしまっていたか、あるいは自殺志望、いや、孫と一緒に心中する気だったとしか思えんだろ?」

「じゃぁ、ポム爺は《4重スライムタワー》に仇討ちする気なんかなく、理由は他にあったって事かい?」

「俺は、そう思っている」

「それじゃ、ポム爺が《4重スライムタワー》と戦おうとした本当の理由は?」

 ハンテツは暫し沈思した後、

「これから話すことは、あくまで俺の推測だ……」

 と、自分の思ったところを語り始めた。

「発端は、依頼人のピナタがキリカ修道会を脱会したことだったんじゃないか、と俺は思っている。

 優秀な僧侶だったポムゾウ爺さんの奥さん、パニカナさんを敬愛して、孫のピナタが僧侶を志しキリカ修道会に入った。その事はポムゾウ爺さんもパニカナさんも、さぞ嬉しかったに違いない。

 パニカナさんは、自分が断念した道を孫娘が継いでくれたような気持ちだっただろう。ポムゾウ爺さんも、そんなパニカナさんの幸せそうな様子を見て、少し救われたような気になったと思うんだ。パニカナさんが僧侶を辞めた責任は自分にあると思っていたからな……

 ところが、その孫が、自分の僧侶としての適性に自信を無くし、キリカ修道会を脱会してしまった。ポムゾウ爺さんとしては落胆甚だしかったに違いない。『死んだパニカナがこのことを知ったら、もの凄くガッカリするだろうな!』そう思った筈だ。

(何とか、ピナタが僧侶の道に戻る手はないものだろうか?)

 そう思いあぐねていたとき、偶然にも40年前自分を瀕死に追いやった《4重スライムタワー》が現れた。

(これは使えるぞ!)

 普通にモンスター討伐に誘ったのでは、ピナタは二の足を踏むだろうが、『お爺さんの敵討ちに協力してくれ!』と頼めば、優しい孫のことだ、きっと承服してくれるに違いない。そして、難敵相手に僧侶として支援できたという実績と自信が付けば、ピナタは再び僧侶を志す気になってくれるのではないか?。ポムゾウ爺さんはそう考えたのだと思う。

 だが、相手は40年前、全盛期の時でさえ敵わなかった相手だ。今の自分に勝てる見込みは少ない。ましてや未熟な孫を連れてとなれば、下手すれば2人ともあの世逝きになってしまう。

 そこで、ポムゾウ爺さんは助っ人を頼んだ……『孫に分からないよう密かに助太刀して貰えないか?』ってな……」

「も、もしかして⁉」

「ああ、ポムゾウ爺さんが助っ人を頼んだのは、おそらく《オウライ屋》。女将さんだ!

 女将さんも、ポムゾウ爺さんの依頼を請けた。が、その後、思いもしない事態が発生した!。まさか、孫のピナタも、『お爺さんに分からないよう密かに助太刀して貰えないか?』と合わせ鏡の如く同じような依頼をしてきたからな。

 女将さんは、頭を悩ませた筈だ。ポムゾウ爺さんとピナタ、お互いに助っ人を頼んでいたことを知られないようにしなければならない。さらに、ピナタに対しては、自分の力で祖父を支援したように思わせなければならない。

 さてどうしたものか?、と思案した結果……」

「リンナに一芝居打ってもらった、って訳か!」

「まぁ、この話は、俺の推測に過ぎないがな……」

「それならそうと、あたいらには、事前に事情を話してくれても良さそうだけどな?。そうすれば余計な手間掛けずに済んだのに……」

「さぁ、女将さんがどういう考えで俺らに話さなかったのかは知らん……信用していないのか、知れば仕事に差し支えると思ったのか……」

「今からリンナ呼び出して、真相を問い質してみるか?」

「止めとけ……依頼人の事に関しては余計な詮索しないのが、この稼業の定めだ……」

「ま、そうだな!。依頼の仕事はキッチリこなしたんだから、貰うもん貰えば、それ以上文句は無ぇさ!」

 ハンテツとレミィーがスイの塔を出た。

 地上の濃霧に対し、空には雲一つ無く幾つもの星が輝いている。

「なぁ……さっきのハンテツの話で『《4重スライムタワー》は偶然現れた』って言っただろ?」

「ああ、俺の推測では、だがな」

「あたい、《4重スライムタワー》がこの時に現れたのは単なる偶然じゃない、って思うんだ……」

「ん?」

「ほら、スイの塔の地下階段の下には水没した古い社があるって言うだろ。その社の神様が、《4重スライムタワー》を出現させて、ポム爺や死んだカミさんの願いを叶えてあげようとしたんじゃないか、って……」

(フッ!)

 と、思わず吹き出してしまったハンテツ。

「何がおかしいんだよ!」

「いや、済まん。お前!意外にロマンチストなんだなぁ、と思って……」

「『意外』で悪かったな!」

 レミィーは少し膨れ気味に空を見上げた。

 霧の中に浮かぶスイの塔が満天の星空へと延びる姿は、優雅な美しさを称え、太古へのノスタルジーと幻想的な情緒を感じさせていた。

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