アストルティア《裏》プロフェッショナルズ   作:鹿羽 直之

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【第五話】こっそり助っ人請け負います(#12)

 数日後、ピナタが《オウライ屋》を訪れて来た。応接室でテーブルを挟みカーシャと話をしている。

「この度は、ありがとうございました。おかげで無事、祖父は仇を討つことができました」

「お役に立てて、何よりですわ」

「これ、お約束の半金です。お確かめください」

 そう言ってピナタが、お金(ゴールド)の入った包みをテーブルに置いた。だが、カーシャは、

「今回は、手前どもに不手際があり、あなたには余計な手間を掛けさせてしまいました。ですから、このお金はいただけませんわ」

 と、ピナタが出した包みをやんわりと押し戻した。

「でも、それは、元々は私のミスのせいですから……」

「いえ、不測の事態に対応しきれなかったのは、プロとして当方の落ち度です。受け取る訳にはいきません」

「そ、そうですか……ご店主様がそこまで言われるのでしたら……」

 カーシャの押しの強さに負け、ピナタは包みを懐に戻した。そして唐突に、

「ご、ご店主様……実は、ご店主様に謝らなければならないことがあるんです」

 と言い出した。

「なんでしょうか?」

「私、前に自分を『キリカ修道会の僧侶』と自己紹介しましたけど嘘なんです。実は脱会していていたんです」

「あら、そうでしたか……まぁ、嘘は良くないですけど、今回の依頼に関しては関係ない事なので何も問題ないですよ」

「どうも済みませんでした」

 と、頭を下げるピナタ。

「頭を上げてください。そんな、大して気にすることじゃないですから……」

 カーシャがそう言っても、ピナタは頭を上げない。不審に思ったカーシャが、

「どうかなされました?」

 と声を掛けると、ようやく頭を上げたピナタの顔には悲愴感が滲んでいた。

「何か、お悩み事でも?」

「はい……」

「よかったら、話してみてくれませんか?……お力になれるかも知れませんよ」

 話すか否か迷っている様子のピナタだったが、頭の中で考えているうちに何か吹っ切れたのか、悩みの訳を語り出した。

「私、祖父の敵討ちに同行して、相手を倒した後の祖父の喜ぶ顔をみて、『やっぱり、僧侶の仕事っていいな……』って思ったんです。みんなを癒してあげられたり、陰ながら夢や願いをサポートしてあげられたり……でも……」

「僧侶としてやっていける自信がない、と?」

「はい……なので、キリカ修道会を脱会したのですが、『もう一度やり直してみようかな』と気持ちも湧いてきて……」

「そうでしたか……では、ちょっと占ってみましょうか?」

 そう言ってカーシャがタロットカードを取り出した。

「え⁉、オウライ屋さんは占いの仕事もするんですか?」

「いえいえ、占いは単なる私個人の趣味みたいなものです。ですから御代は要りませんよ」

 カーシャは、テーブル上に、裏になったタロットカードを滑らせた。綺麗な弧を描きカードが並ぶ。

「けっこう良く当たるんですよ!私の占い……師事したのは『グランゼドーラの母』と言われた高名な占い師さんですから。さぁ、どれでも好きなカードを1枚引いてください」

 弧状に並んだカードの中から1枚、ピナタが自分の方へ引き寄せた。

「それでいいですか?」

 ピナタが頷く。

「どうぞ、めくってみてください」

 ピナタがカードをめくった。

「あら、まぁ!」

 と、思わず声を出したカーシャ。ピナタが引いたカ―ドは《法皇》。ピナタから見て正位置だった。

 都合よく僧侶と関連深いカードが現れたことに怪しさを感じたのか、ピナタが訝し気にカーシャを見た。

「インチキなんかしてませんよ!、ほら!」

 と、カーシャが端のカードをフリップさせると、他のカードも波のようにめくれていき、一斉に表面を現した。並んでいるカードは、《法皇》以外の21枚。順番も位置も全てランダムだった。

 ピナタは《法皇》のカードをジッと見つめている。

「ね?、『良く当たる』って言ったじゃないですか」

 カーシャはそう言った後、

(なるほど……《法皇》の意味は、教え、導き、慈悲……)

 と小さく呟き、微笑を浮かべ、こう言い加えた。

「あなたの往くべき道を指し示しているのかも知れませんね?」

 ピナタは顔を上げカーシャを見つめた。その目にはうっすらと涙が滲んでいる。

 頷き返すカーシャ。

「ふふっ……自分で言うのも何ですけど、この占い、たぶん当たってますよ!」

 

 ラッカランのカジノ……不機嫌そうな様子のレミィーが居た。スロットで有り金を擦られたようだ。

(はぁ~)

 溜息をつきながら、トボトボと1階のセンターホールのエントランスへ向かって行ったとき、1コインスロットの島で、久々にポムゾウを見かけた。

 レミィーはポムゾウの側に行き、

 「よぅ、ポム爺!」

 と盤面を覗き込んだ。 ポムゾウの台は、大当たりが連続で続いていた。いわゆる《爆発》状態だ。

「あれ!、今日は珍しく当たってんじゃん!」

「ハハーッ‼、儂にも運が向いてきたようじゃの!」

 羨まし気にリールの回転を見ているレミィー。

「ところでレミィー、お前さんの方はどうなんじゃい?」

 訊かれたレミィーは、肩をすくめて、両手のひらを上に向けて翳した。

「今日は、ポム爺に全部運を持って行かれちまったみたいだな……」

「ハッハッ、まぁ、そういう日もあるさ」

 そう言いながらも、ポムゾウはレミィーに目をくれず、夢中でスロットを打ち続けている。

「そう言えばさぁ、ポム爺、昔の仇討ちを果たしたんだってなぁ?」

 ポムゾウのスロットを打つ手が止まった。

「どうしてそれを知ってる?」

「いや、巷ではチョットした評判になってるぜ。『さすが往年の名バトマス《ダルマ落としのポムゾウ》だ!』ってな」

 レミィーとしては煽てたつもりなのだが、ポムゾウは、

「そ、そうかい……」

 と一言だけで、さほど嬉しそうな様子を見せない。逆に、何か躊躇うような表情をし、

「ほ、他に何か噂になってないかの?」

 と、遠慮がちに聞いてきた。

「え、『他に』って?」

「えぇ~と、例えば……儂以外の誰か……とか?」

 ポムゾウの言葉が言い淀んでいる。

 レミィーは少し考えた後で、

「あ!、そうそう、ポム爺の孫娘のことも話題になってるぜ‼」

 と、少々大袈裟に言ってやった。

「そっ!、そうかい‼」

 ポムゾウの表情が一転、パッとなった。

「あぁ、皆んな、『爺さん孝行の大した孫だ!』とか『仇を倒せたのは孫娘が優秀だったからだ!』みたいなこと言ってるぜ」

「ホホッ、そうかそうか!。あいつは死んだ婆さんによく似ておるからのぅ、ゆくゆくは徳の高い高僧になるかもしれんのう?」

 ポムゾウは上機嫌で、またスロットを打ち始めた。

 そんなポムゾウの《親バカ》ならぬ《祖父バカ》な様子を見て、レミィーは少し微笑ましい気分になった。

 ポムゾウがまた大当りを引いた。

「うほぅ、また揃ったわい!」

 それからもポムゾウの引きの良さは続いていた。

 暫くその様子を見ていたレミィーだったが、

「ポム爺、調子いいところに水を差すようで悪いんだけど……こんなところでスロットなんか打ってないで、もっと健康的なことした方がいいじゃねぇの?」

 などと、興覚めするようなことを言ってきた。ポムゾウは内心、

(自分が『ハマリの日』だったからって、人に対して、そんな嫌味ったらしい言い方することないだろ!)

 と思い一瞬表情を曇らせたが、そこは、グッと心に押し込め、

「いや、儂はもう思い残すことはないからのぅ!……残りの人生、博打とか釣りとか好きなことやって、気儘に過ごすわい!」

 と、愛想笑いを返した。

「そうか……まぁ、それも悪くねぇかもな!」

 そんなレミィーの声など聞こえなかった振りで、ポムゾウはスロットを打ち続けている。

「でもよ、ポム爺……」

「……」

 もうポムゾウは無反応である。少々レミィーがウザったく思えてきたのだろう。スロットに没頭している態を装い、リールの回転を凝視している。

 だが、レミィーが次に発した言葉が、ポムゾウをハッとさせた。

「元気で長生きすれば、孫娘が一人前になったとき、また一緒に冒険できるかもしれないぜ……」

 思わずレミィーの方を振り向くポムゾウ。しかし、もうそこにレミィーの姿はなかった。

「ヘッ、ヘへヘ……」

 ポムゾウの顔が崩れ、ふと笑みがこぼれた。

「そうじゃな……確かにそういうのも、悪かぁねぇのぅ……」

 

               〔第五話・完〕




例によって次回の投稿は未定です。ネタが浮かんだら書きます。
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