数日後、ピナタが《オウライ屋》を訪れて来た。応接室でテーブルを挟みカーシャと話をしている。
「この度は、ありがとうございました。おかげで無事、祖父は仇を討つことができました」
「お役に立てて、何よりですわ」
「これ、お約束の半金です。お確かめください」
そう言ってピナタが、お金(ゴールド)の入った包みをテーブルに置いた。だが、カーシャは、
「今回は、手前どもに不手際があり、あなたには余計な手間を掛けさせてしまいました。ですから、このお金はいただけませんわ」
と、ピナタが出した包みをやんわりと押し戻した。
「でも、それは、元々は私のミスのせいですから……」
「いえ、不測の事態に対応しきれなかったのは、プロとして当方の落ち度です。受け取る訳にはいきません」
「そ、そうですか……ご店主様がそこまで言われるのでしたら……」
カーシャの押しの強さに負け、ピナタは包みを懐に戻した。そして唐突に、
「ご、ご店主様……実は、ご店主様に謝らなければならないことがあるんです」
と言い出した。
「なんでしょうか?」
「私、前に自分を『キリカ修道会の僧侶』と自己紹介しましたけど嘘なんです。実は脱会していていたんです」
「あら、そうでしたか……まぁ、嘘は良くないですけど、今回の依頼に関しては関係ない事なので何も問題ないですよ」
「どうも済みませんでした」
と、頭を下げるピナタ。
「頭を上げてください。そんな、大して気にすることじゃないですから……」
カーシャがそう言っても、ピナタは頭を上げない。不審に思ったカーシャが、
「どうかなされました?」
と声を掛けると、ようやく頭を上げたピナタの顔には悲愴感が滲んでいた。
「何か、お悩み事でも?」
「はい……」
「よかったら、話してみてくれませんか?……お力になれるかも知れませんよ」
話すか否か迷っている様子のピナタだったが、頭の中で考えているうちに何か吹っ切れたのか、悩みの訳を語り出した。
「私、祖父の敵討ちに同行して、相手を倒した後の祖父の喜ぶ顔をみて、『やっぱり、僧侶の仕事っていいな……』って思ったんです。みんなを癒してあげられたり、陰ながら夢や願いをサポートしてあげられたり……でも……」
「僧侶としてやっていける自信がない、と?」
「はい……なので、キリカ修道会を脱会したのですが、『もう一度やり直してみようかな』と気持ちも湧いてきて……」
「そうでしたか……では、ちょっと占ってみましょうか?」
そう言ってカーシャがタロットカードを取り出した。
「え⁉、オウライ屋さんは占いの仕事もするんですか?」
「いえいえ、占いは単なる私個人の趣味みたいなものです。ですから御代は要りませんよ」
カーシャは、テーブル上に、裏になったタロットカードを滑らせた。綺麗な弧を描きカードが並ぶ。
「けっこう良く当たるんですよ!私の占い……師事したのは『グランゼドーラの母』と言われた高名な占い師さんですから。さぁ、どれでも好きなカードを1枚引いてください」
弧状に並んだカードの中から1枚、ピナタが自分の方へ引き寄せた。
「それでいいですか?」
ピナタが頷く。
「どうぞ、めくってみてください」
ピナタがカードをめくった。
「あら、まぁ!」
と、思わず声を出したカーシャ。ピナタが引いたカ―ドは《法皇》。ピナタから見て正位置だった。
都合よく僧侶と関連深いカードが現れたことに怪しさを感じたのか、ピナタが訝し気にカーシャを見た。
「インチキなんかしてませんよ!、ほら!」
と、カーシャが端のカードをフリップさせると、他のカードも波のようにめくれていき、一斉に表面を現した。並んでいるカードは、《法皇》以外の21枚。順番も位置も全てランダムだった。
ピナタは《法皇》のカードをジッと見つめている。
「ね?、『良く当たる』って言ったじゃないですか」
カーシャはそう言った後、
(なるほど……《法皇》の意味は、教え、導き、慈悲……)
と小さく呟き、微笑を浮かべ、こう言い加えた。
「あなたの往くべき道を指し示しているのかも知れませんね?」
ピナタは顔を上げカーシャを見つめた。その目にはうっすらと涙が滲んでいる。
頷き返すカーシャ。
「ふふっ……自分で言うのも何ですけど、この占い、たぶん当たってますよ!」
ラッカランのカジノ……不機嫌そうな様子のレミィーが居た。スロットで有り金を擦られたようだ。
(はぁ~)
溜息をつきながら、トボトボと1階のセンターホールのエントランスへ向かって行ったとき、1コインスロットの島で、久々にポムゾウを見かけた。
レミィーはポムゾウの側に行き、
「よぅ、ポム爺!」
と盤面を覗き込んだ。 ポムゾウの台は、大当たりが連続で続いていた。いわゆる《爆発》状態だ。
「あれ!、今日は珍しく当たってんじゃん!」
「ハハーッ‼、儂にも運が向いてきたようじゃの!」
羨まし気にリールの回転を見ているレミィー。
「ところでレミィー、お前さんの方はどうなんじゃい?」
訊かれたレミィーは、肩をすくめて、両手のひらを上に向けて翳した。
「今日は、ポム爺に全部運を持って行かれちまったみたいだな……」
「ハッハッ、まぁ、そういう日もあるさ」
そう言いながらも、ポムゾウはレミィーに目をくれず、夢中でスロットを打ち続けている。
「そう言えばさぁ、ポム爺、昔の仇討ちを果たしたんだってなぁ?」
ポムゾウのスロットを打つ手が止まった。
「どうしてそれを知ってる?」
「いや、巷ではチョットした評判になってるぜ。『さすが往年の名バトマス《ダルマ落としのポムゾウ》だ!』ってな」
レミィーとしては煽てたつもりなのだが、ポムゾウは、
「そ、そうかい……」
と一言だけで、さほど嬉しそうな様子を見せない。逆に、何か躊躇うような表情をし、
「ほ、他に何か噂になってないかの?」
と、遠慮がちに聞いてきた。
「え、『他に』って?」
「えぇ~と、例えば……儂以外の誰か……とか?」
ポムゾウの言葉が言い淀んでいる。
レミィーは少し考えた後で、
「あ!、そうそう、ポム爺の孫娘のことも話題になってるぜ‼」
と、少々大袈裟に言ってやった。
「そっ!、そうかい‼」
ポムゾウの表情が一転、パッとなった。
「あぁ、皆んな、『爺さん孝行の大した孫だ!』とか『仇を倒せたのは孫娘が優秀だったからだ!』みたいなこと言ってるぜ」
「ホホッ、そうかそうか!。あいつは死んだ婆さんによく似ておるからのぅ、ゆくゆくは徳の高い高僧になるかもしれんのう?」
ポムゾウは上機嫌で、またスロットを打ち始めた。
そんなポムゾウの《親バカ》ならぬ《祖父バカ》な様子を見て、レミィーは少し微笑ましい気分になった。
ポムゾウがまた大当りを引いた。
「うほぅ、また揃ったわい!」
それからもポムゾウの引きの良さは続いていた。
暫くその様子を見ていたレミィーだったが、
「ポム爺、調子いいところに水を差すようで悪いんだけど……こんなところでスロットなんか打ってないで、もっと健康的なことした方がいいじゃねぇの?」
などと、興覚めするようなことを言ってきた。ポムゾウは内心、
(自分が『ハマリの日』だったからって、人に対して、そんな嫌味ったらしい言い方することないだろ!)
と思い一瞬表情を曇らせたが、そこは、グッと心に押し込め、
「いや、儂はもう思い残すことはないからのぅ!……残りの人生、博打とか釣りとか好きなことやって、気儘に過ごすわい!」
と、愛想笑いを返した。
「そうか……まぁ、それも悪くねぇかもな!」
そんなレミィーの声など聞こえなかった振りで、ポムゾウはスロットを打ち続けている。
「でもよ、ポム爺……」
「……」
もうポムゾウは無反応である。少々レミィーがウザったく思えてきたのだろう。スロットに没頭している態を装い、リールの回転を凝視している。
だが、レミィーが次に発した言葉が、ポムゾウをハッとさせた。
「元気で長生きすれば、孫娘が一人前になったとき、また一緒に冒険できるかもしれないぜ……」
思わずレミィーの方を振り向くポムゾウ。しかし、もうそこにレミィーの姿はなかった。
「ヘッ、ヘへヘ……」
ポムゾウの顔が崩れ、ふと笑みがこぼれた。
「そうじゃな……確かにそういうのも、悪かぁねぇのぅ……」
〔第五話・完〕
例によって次回の投稿は未定です。ネタが浮かんだら書きます。