アストルティア《裏》プロフェッショナルズ   作:鹿羽 直之

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【第一話】仕事は万事請け負います(#07)

 夜のロヴォス高地をドルボードで走行するリンナ。

(ペノンちゃんをオウライ屋に連れて行き、直接タブーゴ一味の悪事を証言させて、巾着袋のお金を渡せば、女将さんはきっと頼みを聞いてくれる筈だ……)

 そう思って、ペノンを追うべくドルボードを駆っているのだ。

 だが、《樹天の連橋》や《塩水晶の洞窟》を超えてもペノンには逢えず、とうとうドラクロン山地の入り口付近まで来てしまった。ここまで無事に来ることができたのは、幸運としか言いようがない。

 そんな自分の危険は顧みることなく、リンナはペノンの安否を気に掛けていいた。

(もしかしたら、道中、魔物に襲われてしまったのではないか……)

 そんな不安がよぎるも、リンナはドルボードを降りて、とりあえず小さな祠を探すことにした。最悪、お金だけでも女将に渡せば何とかしてくれるかもしれないと思ったからだ。

 その祠は、通行禁止になっているドラクロン山地の入り口を少し南へ行った茂みの奥にあった。祠は苔むして朽ちており、本来、夜だとよく見なければ祠だと気づかないのだが、リンナはすぐにそれだと判った。と言うより、直接巾着袋を見つけることができたといった方が正確である。巾着袋に施されていた竜神の刺繡が、月明かりを反射してキラキラと光っていたのである。

 リンナは、その巾着袋を手に取り、安堵の表情を浮かべた。袋の中身が無事だったことも勿論だが、なにより、少なくともペノンがここまで無事に辿り着けていたことに一先ず安心したのだ。

 だが、突然、

「ほぅ、これは恐れ入ったわ……まさか、あんたがその金を狙っていたとはねぇ~」

 と、リンナの背後から声が響いた。ハッとなって振り向くと、そこにはあのウルフボブのウェディの女が鞭を手にして立っていた。さらに背後には坊主頭のオーガの男もいる。

「もしかしたら、本当に祠に金を供えるんじゃないかと思って来てみたんだけど……よりによって信用してたお友達がネコババするつもりでいたとは……あのプクリポも救われないねぇ」

「私はそんな事しません!」

「どうだか……現に今、お前は金を手にしてるんじゃないか。まぁ、とにかくその金、こっちによこしな!」

「嫌です!」

「聞き分けのない娘だねぇ、言う通りにしないと痛い目見るよ!」

 ウェディの女はリンナに向かって鞭を振るい、鞭の穂先はリンナの目の前の地面を叩いた。飛び散った土片がリンナの顔に当たり、たまらず顔をそむける。

「次は、その可愛いい顔に傷がつくことになるよ!さぁ、早く渡すんだ!」

 それでもリンナは巾着袋をギュと抱きしめ、大きくかぶりを振った。

「そうかい、だったらお望み通り、実力で引き取らせてもらうよ!」

 そう言って放たれた鞭は、今度はリンナの顔に向け一直線に飛んできた。アッと目を閉じるリンナ。

――カキーン!

 甲高い金属音が響き、鞭の穂先はリンナに当たる直前で空中へ跳ね上げられた。リンナが目そっとを開ける。

「エッ!……トカゲさん!?」

 目の前にはオウライ屋の魔物の用心棒《ゲラ》がサーベルを両手に持って立ちはだかっていた。心配したオウライ屋の女将が、様子を窺わせるため密かに遣わしたのだろう。鞭の穂先が跳ね上げられたのは、ゲラがサーベルで弾いたものだった。

 ゲラは、左手のサーベルでリンナを庇うよう横に構え、右手のサーベルを前面に突き出し相手を牽制するよう見据えている。

 ウェディの女は鞭を器用に操り、跳ね上げられた穂先を手元に回収しすると、

「なんだぁ~?トカゲ野郎!お前が相手になるっていうのかい!?上等だよ!」

 と、ゲラに啖呵を切り鞭を振り回し始めた。

 対峙する両者。満ちてゆく殺気が周囲を覆う。

「……」

 ゲラもウルフボブのウェディの女も、相手の隙を窺うが、互いに手が出せないでいる。

 静かな、されど重く張りつめた時間が流れる。

 その静寂を破ったのは、これまで静観を守っていた坊主頭のオーガの男だった。

「もういい、行くぞ……」

 オーガの男はウェディの女に歩み寄り、背中越しにボソッと言い捨てた。ウェディの女は耳を疑うかのように問い返す。

「え?行くって、何処へ?」

「仕事だ」

「はぁ~?金は?」

「あのプクリポは俺達の言ったとおり金を納めた。だったら、俺達は仕事を履行すべきだろ……」

「まさかタダ働きする気かい!?冗談じゃないョ!あたいは御免だネ!」

「金を他のヤツに横取りされたのは、俺達がマヌケだったからだ。あのプクリポに責任はない」

「だから、今その金を、取り戻そうとしてんじゃねぇか!」

「そもそも、祠に供えられた金は、俺達のものでも、そこのエルフの娘のものでもない。そこのエルフの娘は、云わば只の賽銭泥棒だ。賽銭泥棒の盗んだ金を、力ずくで脅し獲ろうっていうのは筋違いじゃないのか?……」

 オーガの男が淡々と返すその回答は、ウェディの女には不服なようで、憮然とただオーガの男を睨みつけている。

「嫌ならお前は来なくていい。俺一人でやる……」

 坊主頭のオーガの男はそう言うと、懐からルーラストーンを取り出し上空へと飛び去っていった。

「チッ、分かったョ!あたいも行くよ!……まったくもう、やってらんねぇョ!」

 ウェディの女はそう言いながら、リンナとゲラに鋭い視線を浴びせ、

「おい!お前等、その金はあたいたちの《仕事料》だ!後で必ず取り立てに行ってやるから、逃げたり使い込んだりしたら承知しねぇぞ!」

 と、吠えるように吐き捨てながらルーラストーンを手にし、そして、空へと消えていった。

 リンナは、とりあえず身の危険が去った事にはホッとしたのだが、この状況がよく呑み込めず、混乱気味である。

(このまま、この巾着袋をオウライ屋へ届けてよいのだろうか?……

 あの人たち、『仕事に行く』とか『仕事料』とか言ってたけど……)

 リンナは、お金をオウライ屋に届けるよりも先に、まずは、オーガの男とウェディの女が言った《仕事》とは何なのかを確かめなくてはと思い、二人を追うべくドルボードを起動させた。

 燃料計に目をやるとドルセリンは残り僅かだった。当然ドルセリンの予備など買っておける余裕はない。何とかドルセリンが持ってくれることを願いながら、オーガの男とウェディの女が飛んだルーラの軌跡を追い始めた。

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