坊主頭のオーガの男とウルフボブのウェディの女がルーラで飛んだ先はグランゼドーラ城下町だった。2人は元の現場、船舶管理局の前の通りを歩いていた。
「仕事って、そもそも、あの3人組の居場所は分かっているのかい?」
「ここに戻って来たのは、その手掛かりを探すためだ……」
オーガの男は歩きながら、道に残った何かの痕跡を辿っていた。ウェディの女は不機嫌そうに付き従うだけである。
「何か手掛かりは見つかったかい?」
「あぁ、煤だ……」
「煤?」
「あのエルフの娘は『隠れ家に監禁されていたところをモーモンが助けに来た』と言っていた。そのモーモンはメラミを受けていた。だとすれば、そのモーモンが落としていった煤の先には奴等のアジトがあるはずだ」
「僅かな煤なんか探したって、もう無くなってるんじゃないの?」
「そうでもないさ、ほら……」
オーガの男はそう言って指差した先には、暗くてよく見ないと判らないが、確かに、路上に煤か灰のような黒い炭化物が付着していた。
「おそらく、あのモーモンは、一息にアジトまで飛び続けられなかったんだろう。地面に落ちたり壁にぶつかったりしながら、ようやく目的地まで辿り着いたんだ。そのときに着けた煤はまだ残っている筈だ」
「そうか……あのモーモン、自分が死にそうなのに、そこまでして助けに行ったって事か……」
ウェディの女が、せつな気な表情を浮かべた。
道に残された煤を頼りに歩き進めて来た二人は、やがて町外れの裏通りの古い寂れた平屋にたどり着いた。ペノンたちが誘い込まれ、リンナが監禁された、あのタブーゴ一味のアジトである。
入口の鍵は壊されていた。モーモンがリンナを助けに入った際に壊したものだ。そこにも例の煤がこびりついているのを見て、二人はここが3人組のアジトであると確信した。オーガの男が壊れた入口から中の様子を窺う。
「どうだい?居るかい?」
ウェディの女が小声で尋ねた。
「1階は誰も居ないようだ。だが、下へ降りる階段がある。奴等が居るとすれば、おそらく地下だ」
「どうする?一気に踏み込むかい?」
その時、地下から階段を上る足音が聞こえてきた。
「隠れろ!奴等かもしれん!」
二人は入口付近の茂みに身を潜めて、出てくる者が誰なのか見定めようと息をひそめた。
入口から出てきたのは、予想通り、タブーゴ、リーゴン、ガミンの3人組だった。
「家の中に、足が付くようなモノは残してねぇだろうな?」
「大丈夫です。このままトンズラすれば、グランゼドーラでの魔物騒ぎはペノンの魔物の仕業ってことで片が付きます」
「ここでは、稼がせてもらいましたし、ほとぼりが冷めるまでは本業の魔物使いやって大人しくしてましょうや」
「まぁ、念のため、今日中にグランゼドーラ国内からは離れるぞ」
そんな会話を交わしながら、3人はグランゼドーラ城下町の出入門へ向かって歩いて行った。
坊主頭のオーガの男とウルフボブのウェディの女は、仕事の対象者があの3人で間違いないことを確かめるように、顔を見合わせて頷いた。
「いくら夜でも、街中だと人目に付く可能性がある。奴等がグランゼドーラ領に出てから仕掛けよう」
そのオーガの男の言葉に、ウェディの女はニヤリと笑い、親指を立てて応えた。
グランゼドーラ領。タブーゴ一味はロヴォス高地への道を南に歩を進めていた。レビュール街道との分岐点を過ぎ、ちょうど谷間が一番狭くなっている場所に差し掛かろうとしたとき、タブーゴが前方に人影を見つけて歩みを止めた。
人影はウルフボブのウェディの女と坊主頭のオーガの男である。
「あいつらは、確か……ニーゼフの護衛をしてたヤツじゃないか?」
ウェディの女とオーガの男がゆっくりとタブーゴに近寄って来た。
「何の用だ!」
と横からリーゴンが叫んだ。
「ここから先は通さないよ。己の悪事を悔いな!」
ウェディの女がビシィッと鞭を唸らせながら叫んだ。
「ふん、仕事をクビになった腹いせか?笑わせるな!リーゴン、ガミン、あいつらにこそ思い知らせてやれ!」
「へい」
手下2人は、タブーゴの前に歩み出て、ウェディの女とオーガの男に対峙した。
杖を構えるリーゴンと剣を抜くガミン。ベギラマを唱えたリーゴンの杖から炎が吹き出す。ガミンは大上段に剣を振りかぶり、オーガの男に突進する。
ウェディの女はベギラマの炎をフワリと跳んでかわすと、そのまま宙空で身体を捻り、華麗に舞うように旋回した。そして高高度から一気にリーゴンに向け特技《しばり打ち》を放った。
ガミンがオーガの男に剣を振り下ろす。が、剣はオーガの男を僅かにかすめ、虚しく空を切った。オーガの男にはこの程度の太刀筋を見切るのは容易らしく、体を少し斜に傾けただけで剣を紙一重で避けたのだ。その直後、ガミンの懐に潜り込み、腹部へ強烈な《せいけん突き》を叩き込んだ。
麻痺しているリーゴンと白目をむいて気絶しているガミン。そんな2人を横目にタブーゴは、
「ほぅ、思ったより腕が立つじゃねぇか……だが、俺をそこら辺の魔物使いと一緒にするなよ!」
と言い放ち、左手の指で輪を作り口に咥えた。
――ピュィーッ
タブーゴの指笛が夜のしじまに鳴り響く。
すると、ドスッドスッと地面を揺らしながらこちらへ向かって来る大型モンスターの足音がしだした。指笛に呼ばれ現れたのはグランゼドーラ領に棲息するモンスター、ベヒードスであった。タブーゴの指笛は特技《くちぶえ》を発展させたスキルらしい。
「人目を憚って、ここを戦闘の場に選んだのが裏目に出たな!お前らが相手するのはこの凶悪なベヒードスだ!」
高笑いをするタブーゴ。そしてベヒードスの肩によじ登ったかと思うと、
「もっと面白くしてやろう!」
と言ってベヒードスの顔を撫で回し、さらには熱い接吻をした。するとベヒードスは麻薬を投与したような興奮状態となり、より凶暴なモンスターに昇華した。しかしタブーゴを振り降ろそうとはしない。おそらく、さっきの撫で回しと接吻は、モンスターを一時的に強化し且つ支配するスキルなのだろう。特技《かわいがる》を進化させたものであろうか。
「さぁ、可愛い僕よ。あいつらを叩きのめせ!」
タブーゴの命令を受けたベヒードスが、グオォォォーと咆哮し、オーガの男とウェディの女に巨大な爪を振り下ろした。《ギガントネイル》だ。かろうじてそれを避ける2人。
「クソッ、厄介なことになりやがった……」
ウェディの女が苦虫を嚙み潰したような顔をする。ベヒードスはなおも2人に息をつかせない連続攻撃をしてくる。やはり通常のベヒードスとは素早さが格段に違っていた。2人は為す術なく防戦に徹するしかかった。