気になる人を曇らせたいオペレーター日記 作:朝起きるのが嫌い病
感想、評価ありがとうございます。閲覧者がいるようなのでまだ書きます。
予想よりも多くの感想をいただいたため、全部に返信できるかはわかりませんが目は通しています。
■月◇日
レユニオンのリーダー、タルラに焼かれてから数時間後、俺は目を覚ました。というか蘇生した。普通に死んでた。死因は爆死。タルラの業火に焼かれたのが原因だから、タルラ由来の傷はなかったけどそれ以外はそのままで重症だった。その前に戦ったサルカズの傷がやばかった。あの爆弾魔は殺すべきだ。
とりあえず、今何をしているかだがスノーデビル小隊と同じ鍋を突いている。どうしてそうなっているのかと、不思議に思うだろう。俺もそう。何故か、白ウサギに気に入られているようで白ウサギの命令を聞くことを条件に匿ってもらえることになった。スノーデビル小隊の一員であるグレス君曰く、天災からレユニオンをも庇ったことについて一定の評価をしている人間がいるらしい。で、スノーデビル小隊の構成員も会話をしてみたかったらしく、軽い治療を施してくれたらしい。
色々話しこんだが、白ウサギちゃん可愛くない?という話で盛り上がり、最終的にいつもの好きな女のタイプを暴露するやつで俺と彼らはマブダチになった。
フロストノヴァは、呆れながらもレユニオンの構成員が愛用している仮面と服をくれた。俺が勝手なことをしないこと、余力があれば彼らを守ることを条件に傷が治るまでは匿ってくれるようだ。最高か?
■月◇日
パトリオットと名乗る怪しげな人物と酒を飲んだ。どうやらスノーデビル小隊から俺のことを聞いていたらしい。最初は殺されるのかと思ったが、武器もなく抵抗する気もない怪我人を殺す気はないと言われた。加えて、俺を殺すことは殿下への恩を仇で返す行為だと。どういうことだろうか。殿下って誰だよ。パトリオットは、白ウサギの育ての父だったらしい。色々なことを教えてくれた。
フロストノヴァの半生を知ってしまった。………パトリオットは、生きるための信念と戦うための精神力を授けたと言えるのだろう。
パトリオットがどう思っているかは聞けなかったが、俺はその選択は地獄に足を踏み出させてしまったのではないかと思う。
まだ数日時間を過ごしただけだが、少しだけ彼女が理解できた気がする。
白ウサギにとっての最大の苦痛は、彼女が数多の感染者と同じ悲惨な経験を経たことではなく、悲痛の中に希望を見出そうと足掻き続けるも、その全てが挫折に終わっていること。彼女は、鉱山がその身に刻んだ寒さを乗り越え、同胞たちのための新たな理想郷を探し、感染者たちの境遇が少しでも希望に満ちたものとなるよう戦い、正義を勝ち取ることを信じて歩み続けている。
フロストノヴァの怒りは絶え間ない努力が奈落の底へと滑り落ちていく現実に振り向けられたものだ。
どうして、ウサギ耳の女はこうなんだろうな。
■月◇日
とりあえず傷が癒えたらロドスの様子を見に行って、ケルシーが泣いてくれたか確認しよう。アールドは俺の遺言を録音した端末届けてくれたかな?
深夜…誰もない食堂でAceとブレイズは向かい合って酒を飲んでいた。ブレイズの傍らには、酒瓶が何本も転がっている。
「捜索隊は出せないそうだ」
「知ってるよ。さっきも聞いた」
最初こそ荒れていたものの、ブレイズは静かに会話をしていた。ブレイズよりも仲の良かったAceが黙っているからである。
Aceの言葉は未だに震えている。ロドスでも屈指の冷静さと視野の広さを持つ彼は、何もできなかった悔しさに震えていた。
「Scoutもおそらくは帰ってこれないだろう」
「………」
電気もつけず非常灯のみの食堂は、陰鬱な雰囲気を出していた。時折、ブレイズの足に触れた酒瓶が地面を転がり甲高い音を鳴らす。
「ウサギちゃんは大丈夫?」
その問い掛けを受け、Aceは先ほどのアーミヤの言葉を思い出す。ケルシーに通信越しで報告をしているアーミヤは、年相応の少女にしか見えなかった。
『…私は分からないのです…ケルシー先生…私には分かりません』
『いえ、私は…私達が何をしているのかは知っています。犠牲が避けられないことも分かっています。でも私は…分からないのです…。なぜ私は救えるであろう一人の命を見ていることしか出来ないのでしょうか…眼の前から消えていってしまうのに?手は届くのに…あとほんの少しだけだったのに…。私の責任は分かっています…アポピスの言う通り、これからも歩み続けます…』
『ですが…本当に疲れてしまいました』
力なく項垂れるその姿にCEOとしての強さはない。だがそれでも大丈夫だ。
「ああ、アーミヤは強い子だからな………それに最悪はドクターが何とかするだろう」
Aceの態度の節々からドクターへの信頼が感じ取れた。
「問題はロスモンティスとアポピスの部下だろう。危うい人間は多いが彼女たちほどじゃない」
「さっき子猫ちゃんには会ってきたけど、部屋に入れてもらえなかったわ」
ブレイズはAceや他の仲間が小さな小さな子猫を心配していたことは知っていた。しかし、それ以上にアポピスがロスモンティスを案じていたこともわかっていた。彼女がケルシーの元に来た時からのアポピスが気に掛けていたと教えてもらったことがある。
「ロスモンティスのアーツを抑え込める人間が限られていたこともあってな………一時期は四六時中アポピスが傍にいたとそうだ」
長い間共に過ごした人間を失う痛みを知っているAceは、ロスモンティスの痛みを深く理解することができる。しかし、Aceと少女では絶対的に異なる部分がある。
それはあの場にいてアポピスに任せてしまったことだ。自分が代わりに残ることもできた。だが、残った場合の被害と自分の部下の命。生存率を理性で弾きだしアポピスに頼ってしまった。
物分かりのいい大人であるAceと傷だらけの子供であるロスモンティスは決定的に違う生き物だ。
「ロスモンティスのことは任せていいか、ブレイズ」
「Aceは………それでいいの?」
「ああ、俺には俺のやるべきことがある」
アーミヤからアポピスの現状を聞いたロスモンティスはその場に崩れ落ちた。ハイビスカスに付き添われて、医務室で記録端末と向き合いしばらくして少女はハイビスカスに声を掛ける。
「どうして……どうして感情なんてものがあるのでしょう」
「…それは」
ハイビスカスは息を呑んだ。ロスモンティスの瞳から零れ落ちるその情が孕んだ大きすぎる痛みに呑まれたからだ。決して通常は見ることのない鮮烈な光景だった。
「どうして涙が出て、止まらないのでしょう?色々と忘れたんじゃなかったんでしたっけ?」
記憶の中の彼がフラッシュバックする。
『安心しろ。何度忘れても、俺がその度に教えてやる。お前は一人じゃない!』
『俺たちは仲間だ。そして、この船はお前の家でもある。帰る場所はここだ。あの狭い部屋に帰る必要はない』
何度も抱きしめてくれた彼はもういない。
『いいか?やばいと思ったらケルシーか俺、logosを呼べ』
『大丈夫だ。………大丈夫。俺はここにいる。Aceさんもアーミヤもケルシーもみんないるから』
暴走する自分を止めてくれた彼はもういない。
『安心しろ、俺は死なないしお前も死なない。だけど、もし、俺が帰らないことがあれば、俺のことは忘れてくれ。お前のためにも』
『おはよう、ロスモンティス!今日もキュートだな』
「忘れたい………忘れたいけど、忘れたくないよ………アポピスのこと忘れたくない………」
震える声が残響となり部屋に響いた。
『俺はしぶといからな。簡単に枯れたりはしない。だから、だからさ、泣くな』
嘘つき。
「あっ………ッッ………!!!!!!!!!!!!」
少女は嗚咽にも似た叫び声をあげた。叫びの中身は自分自身でもわからなかった。すぐに喉が限界を超えた。声が全く出なくなってそれでもなお少女は叫び続けた。