仲間と明日を迎えるために   作:ありすふぃあー

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幕間

 

 

 暖かい麗らかな陽気。聞こえてくるは引いては返す小さな波の音。

 エイジス大陸を四分する大国家、西に位置するシュレイル王国。

 その領土内、港町ウィゾンに一人の少女が船からゆっくりと降り立った。

 

 

「う~ん。久しぶりのエイジス大陸だよ」

 

 

 透き通るように青い髪を腰の辺りまで垂らした、美をつけても良いような少女。

 帯剣はしているものの、姿は鎧姿ではなく、ちょっとした冒険者のような軽い服装。

 そのアンバランスさか、それともその容姿か。とにかくその少女はその港で明らかに視線を独り占めしていた。

 

 少女の名は如月みなも。

 

 パッと見ではわからないが、こう見えて純粋な魔人族である。

 まぁ、その通り見た目では魔人族とわからないため、みなもはよくブラブラと一人旅をする。

 今回はアザーズ大陸から南にハーウェイ大陸へ、さらにそのまま南に下りエイジス大陸まで戻ってきたところだ。

 これでみなもの行っていない大陸はヴァール大陸とライヒェ大陸の二つを残すのみとなった。

 

 

「追えー!」

 

 

「逃がすなー!」

 

 

「うん?」

 

 

 またそのうち旅に出ようと心に決意し大通りに出た瞬間、そんな怒号が耳を掠めた。

 声は近い。しかもどうやら声の主はこっちに向かってきているようだ。

 振り返ってみれば、傍目にも目立つ少女が血相を変えて人を掻き分けながら走ってきているではないか。

 その少女の姿を見て、道行く人々は小さな悲鳴をあげて距離を置く。

 無理もない。その少女の風体は、人間族が忌み嫌う者にあまりに酷似していた。

 背中に生やした一対の漆黒の翼。

 そう。それは本来魔人族にしか存在しないはずのものだ。しかし―――、

 

 

「んー。でも違うよね」

 

 

 注意深く気配を探ってみても、みなもにはその少女がただの人間族にしか感じられなかった。

 とはいえ、そんなことができるのは少しでも魔術をかじった者のみ。外見で判断するしかない一般人には魔人族に見えてしまうことだろう。

 

 

「あっ!」

 

 

 足を取られたのか、小さな悲鳴をあげてその少女が地面へ倒れこむ。

 よけるようにして遠巻きに見る一般人の目は、汚らしいものを見るような、そして恐怖を滲ませたものだった。

 

 

(なんか……やだな)

 

 

 その侮蔑の視線は、みなもにはとてもイライラするものだった。そして、

 

 

「追いついたぞ、穢れし者よ!」

 

 

「―――っ!?」

 

 

 その少女の後ろから現れた男たちに、みなもは驚愕の表情を浮かべる。

 赤十字を刻み込んだ鎧と盾。

 ……忘れるはずもない。その姿は紛れもなく、

 

 

「……聖炎の創始者」

 

 

 大々的な魔人族討伐を掲げ、大陸と大陸を渡り歩く正義の集団……と人間族の中ではなっているが、魔人族からすればそんなもの単なる殺戮集団でしかない。

 そして最も救えないところが、連中は自分たちが最も正しいと思い込んでいるところだ。

 

 

「穢れし魔の住人が!我らが神の名の下に、正義の裁きを受けよ!」

 

 

 集団の先頭にいた者が高らかにそう告げて、大きく剣を振りかぶる。

 

 

「っ!」

 

 

 判断は一瞬。

 

 ガキィン!

 

 

「なっ!?」

 

 

 勢いよく振り下ろされたその剣を、みなもは一瞬で間合いを詰めて剣で受け止めいていた。

 聖炎の創始者の集団は突如乱入してきたみなもを警戒してかいくらかあとずさる。

 いままさに切り殺されそうになっていた少女も目を点にしてみなもを見上げていた。

 

 

「貴様、我らが神の粛清を妨害する気か!」

 

 

「なにが神の粛清だよ。この娘、どう見たって人間族じゃないか。力のある人なら見るだけでわかるはずだけど?」

 

 

 それはそんなこともわからないのか、というニュアンスを込めたどこか挑発めいた口調。

 だが、その男たちは小さな笑みを浮かべ、

 

 

「それがどうした?」

 

 

「!」

 

 

 そんなことを言ってきた。

 

 

 「例えその小娘が本当に人間族だろうと関係ない。漆黒の翼を背中に生やしている、という時点で既にその少女は穢れているのだ。ならばそれを祓うことこそ正義であり、我らがジャンヌ様の望むこと」

 

 

 そうだそうだ、と周囲の人間からも賛同の声が上がる。

 そして少女はまるで自分が罪人であるかのように頭垂れてしまった。

 みなもはその全ての状況に対して憤り、ギリッと歯噛みする。

 

 

「そんなのおかしいよ。たかだか黒い翼が生えただけで穢れる?祓わなければいけない?だって同じ人間族なんだよ?どうしてそんなことが平気で言えるの!」

 

 

「うるさいぞ小娘。その女を庇い立てすると言うのなら、貴様も穢れし者として粛清してくれる!我らが神の名の下に!」

 

 

「我らが神の名の下に!」

 

 

「我らが神の名の下に!」

 

 

 言い放ち、剣を掲げ向かってくる聖炎の創始者の騎士たち。その数、七。

 

 

「我らが神の名の下に……か」

 

 

 数年前に聞いた憎い言葉だ。忘れたくても忘れられるはずもない。

 

 

「ジャンヌ……。いつ聞いても嫌な名前だね……」

 

 

 聖炎の創始者の創始者にして神の代行者と自称する総指揮、ジャンヌ。

 魔人族をこの世界から抹殺することこそ正義だと豪語し、いまも各地で一方的な魔人族狩りを行っているのだろう。

 

 ……あのときのように。

 

 そう思うと、自然みなもの剣を握る手も強くなる。

 だが、ふと気付いてみれば後ろから外套が引っ張られる感覚。

 視線だけを後ろに向けてみれば、おどおどした、しかし芯の通った瞳で翼を生やした少女がこちらの裾を引っ張りながら見上げていた。

 

 

「に、逃げてください。早く……!」

 

 

「どうして?」

 

 

「だ、だって、狙われているのは、わ、私だから、あなたがこんなことする必要はどこにも……!」

 

 

 瞳に涙しながら、恐怖にガクガク身を震わせながら、必死に言葉を紡ぐその様を見て、みなもは思う。

 謂れのないことで殺されようとしているにもかかわらず、他人の心配をするこの少女。

 

 ……こんな少女のなにが穢れているのか。

 

 

「大丈夫だよ」

 

 

 だからみなもは笑顔で答えた。

 

 

「え……?」

 

 

「大丈夫。あなたはなにも悪くないし、わたしはこんな人たちに負けないから」

 

 

「で、でも……」

 

 

「わたしがあなたを守ってあげる。だから絶望しないで。必ず、どこかにあなたの味方はいるはずだから」

 

 

「あ……」

 

 

 呆然と見上げるその少女に、みなもはさらに笑みを強くする。

 そして前を向き、迫る騎士団に構えを取った。

 

 

「おいでよ。勘違いのお馬鹿さんたち」

 

 

「っ!?貴様……我らが主を愚弄するかぁ!」

 

 

 いきり立ち、七人が同時に剣を振るう。

 小さな悲鳴を上げながら手で視界を覆う少女をちらりと眺め、

 

 

「大丈夫だよ。もう決着は着いてるから」

 

 

「……え?」

 

 

 みなもが言った瞬間だ。

 突如ピタリと、まるで一時停止をかけたかのように聖炎の創始者面々の動きが止まる。そしてなぜかその表面は凍りついたかのように白く輝いていた。

 なにが、と思った次の瞬間にはその兵士たちは鎧すら残さず塵となって風に攫われていった。

 

 

「あ……え……?」

 

 

 少女を筆頭に、周囲にいた誰もが唖然とした表情を浮かべている。

 剣を鞘に収め、少女に向き直るみなもを見て、誰かが声を上げた。

 

 

「ば、化け物だ!」

 

 

 その悲鳴を皮切りに、我先にと逃げ出す町民。

 

 そんな風景の中心で見詰め合う二人の少女。

 

 

「わたし、こう見えても魔人族なんだ。……怖い?」

 

 

 みなもの問いに、しかし少女は首を振る。

 

 

「……私も、同じようなものですし。……そ、それに、あなたは私を助けてくれました」

 

 

 本当に怖くないのか。少女は小さく笑みを浮かべて答えた。

 

 

「これからどうする?すぐに聖炎の創始者かシュレイル軍が来ると思うけど。……お家はここにあるの?」

 

 

 不意に少女の顔が翳る。

 

 

「……もう、私のお家はありません。さっきの聖炎の創始者たちに燃やされて!パパも……、ママも……!」

 

 

 うぅ、とそのまま手で顔を覆いながら泣き崩れる少女。

 そんな少女を見て、みなもは一瞬怒気を見せ、しかしすぐに慈しむように笑みを作るとゆっくりとしゃがみ込んだ。

 同じ視線に立ち、みなもは染み込ませるように言葉をかける。

 

 

「ねぇ。よかったら一緒に行かない?」

 

 

「……え?」

 

 

「わたしね、これからキール王国の幼馴染のとこに行くの。どう?」

 

 

 そのまま手を差し伸べる。

 

 少女はみなもの顔を見て、その手を見て、

 

 

「……ご迷惑に、なりませんか?」

 

 

 そんな少女に、みなもはとびきりの笑顔でただ一言。

 

 

「そんなことないよ」

 

 

 もう一度みなもの顔を見て、おずおずと伸ばされる手を、みなもは待たずに取る。

 

 

「わっ!?」

 

 

「ほら、行くよ。しっかり掴まっててね!」

 

 

 宣言と同時、みなもの背に漆黒の翼が生まれる。

 そして、飛翔。

 

 

「うわぁ!」

 

 

 一瞬で空へと飛び上がった視界の中、少女は必死にみなもにしがみつく。

 

 

「と、飛んでる……?」

 

 

「そうそう。いつもは隠してるけどわたし本当はあなたと同じで翼生えてるの。驚いた?」

 

 

 ふるふる。

 細かく首を振る少女の様はどこか子犬のようで可愛かった。

 

 

「まだその翼で飛べないの?」

 

 

「わ、私の羽は、いきなり今日生えたものですから、飛べるかどうかは……」

 

 

「そっか」

 

 

 ゆっくりと翼をはためかせて、みなもは少女を抱き締める。

 安心させるように。慈しむように。

 

 

「そういえば、まだ名前を聞いてなかったね。わたしはみなも、如月みなも。あなたは?」

 

 

「あ、えと、わ、私はマリーシア。……マリーシア=ノアって言います」

 

 

「それじゃ、マリーシアって呼んで良い?わたしはみなもでいいよ」

 

 

「あ、え、と……はい」

 

 

「もう、そんな他人行儀な。もっとくだけて良いんだよ?ほら、マリーシア。わたしの名前を呼んでみて」

 

 

「う、んと……えと、みなも……………………さん」

 

 

「さん、はいらないんだけどなぁ」

 

 

「あの、その、……すみません」

 

 

「うんまぁ、無理強いはしないから呼びやすい呼び方で良いよ」

 

 

「そ、それじゃ、みなもさんで……」

 

 

「うん。よろしくね、マリーシア」

 

 

「あ、」

 

 

 逡巡は一瞬。そして笑顔で、

 

 

「はい!」

 

 

 しっかりと頷いた。

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