仲間と明日を迎えるために   作:ありすふぃあー

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十二話

 

 

 群がる魔人族兵の隙間を縫うように走る三つの影。

 

 先頭を走る鎧姿の少女は魔人族兵の中心で足を止めると、腰からそのあまりに大きな剣を抜く。その刀身は留美の身長より若干低い程度。

 

 その剣を、しかし重たそうな素振りを見せず勢いに任せて大きく振り回す。

 

 

「どっせい!」

 

 

 轟音と共に振り抜かれる一撃は斬る、というより叩き折るといった表現の方がしっくりくるくらいだ。

 

 留美を中心に何人もの魔人族兵が叩き伏せられていく。

 

 それに向かっていこうとする魔人族兵が、しかし急に動きを止めた。

 

 

「あなたたちの精神は乗っ取らせていただきました。そして……これで終わりです」

 

 

 声は留美より少し離れて後方。右手を小さく掲げたキティのものだ。

 

 その剣のいたるところから伸びた目に見えないほどに細い糸。

 

 魔力糸(エーテルライト)。それがその糸の名だ。

 

 セントラルの魔導師、―――中でも上位の者のみが使えるというミクロン単位の魔力糸。対象の相手に撃ち込むことによって神経に侵入、そのまま脳まで至り相手の記憶、情報を読み取ることがその魔力糸の本来の使い道である。

 

 だが、二次的な使用法を用いれば相手を意識するしないに関わらず操ったり、また攻撃手段としても使用できる。

 

 たとえば、そう。こうやって神経に侵入した魔力糸へ無造作に魔力伝達をすれば、

 

 

「「「―――っ!!?」」」

 

 

 ―――神経を破壊することだって出来る。

 

 

「ソニア。いまです」

 

 

 そんな二人の能力に恐慌状態に陥った残りの魔人族兵の頭上を覆う一つの小さな影。

 

 

「さ~て、片付けといこっか♪」

 

 

 最後に大きく跳躍したソニアが大量の魔力を両腕に灯し、

 

 

「『炎の柱・九裂(フレイムウォルナイン)』!」

 

 

 炸裂するは地面より生え出ずる炎の柱九本。

 

 その炎に巻き込まれ、残った魔人族兵も灰と消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……ただでさえ数で押されていたユーリ軍は、さらに地下迷宮を奇襲してきたマクギリスサイドの魔人族に戦力を分けたことでさらに劣勢に晒されていた。

 

 そんなユーリ軍の中で孤軍奮闘していたのはユーリと鈴菜の二人。その二人だけで百を越える傭兵を叩き伏せた。

 

 だが、その傭兵集団の中でも跳び抜けて強い三人組に魔人族兵が三十以上もやられてしまっている。

 

 これで水菜の使い魔による戦績も合わせれば二百対二十。

 

 ……数の差としてはまるで縮まっていない。

 

 

「まずあの三人をどうにかしないと話にならないか……!」

 

 

 逆を言えばあの三人さえどうにかすればなんとかなるということ。

 

 ユーリはそう決断すると、すぐさま三人のもとへと疾駆する。

 

 立ちはだかる傭兵もいたが、そんなものは剣の一振りで片が付く。それだけの相手だ。

 

 そしてユーリの接近はその三人もすぐに気付いた。

 

 

(いい反応だ……!)

 

 

 すぐさま迎撃体勢を取る三人組。そのうちの一人、青髪を二つに結った少女が前に出る。

 

 

「あんたがユーリ・アジェスターね!」

 

 

「だとしたら、どうする?」

 

 

「前魔人族の王の息子……その首、この一之瀬留美がもらったぁ!」

 

 

「!……ほう」

 

 

 横から訪れる気合の一撃。

 

 ガキィン!

 

 重い。受け止めはしたものの、このままでは吹き飛ばされてしまうだろう。

 

 

「さすがは……獅子を司る一之瀬の者、か」

 

 

「!?……あんた、一之瀬を知ってるの?」

 

 

「キール大陸に住む魔人族ならおそらく全員な。その青い髪と身長ほどもある巨大な剣。まさしく伝え聞く五大剣士の一つ、一之瀬そのもの」

 

 

「へぇ、あたしのご先祖様は随分と有名なのね」

 

 

「しかし、それほどの強さを持つお前がどうしてこんな集団にいる?五大剣士の一之瀬ともなれば引く手数多だろうに」

 

 

「ふん、いまの国っていうのが求める騎士はね、強さじゃなくて外見の良さなのよ……。礼儀作法が正しくて、国民の憧れの的。そうであってこその騎士なんですって……よっ!」

 

 

 大きく振り抜かれ、ユーリは後退させられる。

 

 

「それは愚かな国だな。これだけの力がありながら、騎士に迎えないとは。

 

 そんな外面だけの偶像のような英雄像になにができる?本当のいざっていうときには真っ先に逃げるタイプだろう、それは」

 

 

 上から殺気。

 

 体の命令するままに横っ飛びすると、そこの地面をなにかが貫いた。

 

 キール大陸ではなかなか見ることの出来ない代物。銃剣だ。

 

 

「……お前は?」

 

 

「私はキティ。あなたに恨みはありませんが、ここで朽ちてもらいましょう」

 

 

「ほう。その戦闘装束、一之瀬の次はアナムネシスの魔導師か」

 

 

「私たちのことも知っているのですか」

 

 

「当たり前だ。アナムネシスといえば魔人族の女王、『魔界の姫』とも呼ばれる真祖の吸血鬼、カーリー・ノスフェラトゥが統治するセントラルの中の場所。魔人族であるものが知らないはずがないだろう。

 

 ……それで、お前はどうしてここにいる?

 

 アナムネシスといえば魔導師の名家中の名家、そして名に冠するとなれば現時点での最高位の魔導師の証のはず」

 

 

「探究心というやつです。私には探さねばならぬ物がある。それを探している旅路の最中の、ただの生活のための資金稼ぎです」

 

 

「最高位の魔導師が探しているものか。興味あるな。それはなんだ?」

 

 

「あなたには関係ないことです」

 

 

 銃撃。通常の人間では視認すら出来ないだろうスピードの弾丸を、しかしユーリはきっかりとかわしてみせる。

 

 

「さて、どうかな。俺の住む地下迷宮には先代の王が残した歴代の書物が大量に保管されている。お前の求めるものももしかしたらあるかもしれないし、俺が知っているかもしれない」

 

 

「……ならばあなたにわかりますか?吸血鬼になった人間族をもとに戻す方法が」

 

 

「……なるほど。お前の探したいものはそれか」

 

 

 突き進む留美の剣撃を回避し、奔る銃弾を剣で弾く。さらに後方から跳んでくる火炎球は魔力付与した拳で粉砕した。

 

 

「うわぁ、無茶苦茶する人だねぇ」

 

 

「さて。一之瀬にアナムネシスときて、お前は何者だ」

 

 

「ボクは皇ソニア。ただの魔術師だよ」

 

 

 その名に、ユーリは苦笑を禁じえなかった。

 

 

「一之瀬、アナムネシス。そして……皇か。まさかそんな名前まで聞くとはな。

 

 なにが普通の魔術師だ。さっきアリスの超魔術を相殺したのもお前だろう?皇の末裔となれば、なるほど。納得も出来る」

 

 

「……まさか、ボクのおばあちゃんのことまで知ってるの?」

 

 

「俺はこう見えて博識なんだ。お前、この世界に五人しかいない魔法使いのうちの一人、『時と夢の流浪者』の二つ名を持つウィルデム=アーブナー=皇の血族なんだろう?」

 

 

 ユーリの口から出たその名に、留美とキティも驚きを隠せなかった。

 

 ウィルデム=アーブナー=皇。

 

 この世で唯一魔法使いと呼ばれる者の一人。

 

 魔術と魔導、そして魔法は異なるものである。これは誰もが知っている当たり前の知識。

 

 魔術は誰でも手順さえ踏めば起こし得る神秘のことを、魔導とは人知の最高峰と言われる限られたものにしか使えない神秘、そして魔法とは誰もが成し得ないと言われる限界を超えた神秘のことを指す。

 

 例えば、時空移動、無限機関、蘇生、などといったこと。

 

 そしてそんな到達できない神秘と言われたことをやってしまった者が尊敬と畏怖の念を込めて“魔法使い”と呼ばれるようになるのだ。

 

 そしてウィルデム=アーブナー=皇は『時と夢の流浪者』の二つ名の通り、『時』と『夢』を操ることが出来た……と言われている。

 

 というのも、本人は既にこの世界にいない。多種の『空間』をぶらぶらと旅するとある魔法使いのように、ウィルデムも誰かの夢かどこかの時を流浪しているのだろう。

 

 そして魔法使いの血族というのは総じて高い魔力と魔術センスを誇るもの。

 

 

「本当におもしろいな、お前たちは。……それで、お前はなぜこんなところにいる?そもそも魔法使いの血族など国が領土から出すとは思えないが?」

 

 

「だからだよ。王都キャルはボクを大事にするとか言ってほとんど監禁状態だったし。そんなの、ボク嫌だ。魔法使いはおばあちゃんであってボクじゃない。ボクはただの魔術師で、ボクの好きなように研究して新しい魔術を創って発見して……。そうして生きてなにがいけないのさ」

 

 

「なるほどな。確かに、そういう生き方のほうが楽しいな」

 

 

「え?」

 

 

「魔術師とは探求する者。それを差し押さえられては食事を与えられないのとほぼ同義。それでは息苦しくて仕方なかっただろう」

 

 

「……?」

 

 

 訝しげに首を傾けるソニア。

 

 その視線の先でユーリは構えを解き、剣を下ろした。

 

 なにを隙だらけな、とも思うのだが、なぜか攻撃をしようという気にはならなかった。

 

 ユーリは視線を三人に等分に向けて、口を開いた。

 

 

「お前たち、俺の下につかないか?」

 

 

「「「!」」」

 

 

「一之瀬留美にはお前の腕を存分に発揮できる場所を与えられる。キティと皇ソニアには俺の下にある資料、書物、魔術具を好きなように見せてやろう。どうだ?」

 

 

「「「…………」」」

 

 

 押し黙る三人。

 

 しばらくして最初に口を開いたのは……キティだった。

 

 

「私は別にそれでも構いません」

 

 

「ちょっとキティ!?」

 

 

「留美。私の目的はあくまで吸血鬼化をどうにかすること。その糸口があるのなら私はどこにでも行きましょう」

 

 

「で、でも相手は魔人族なのよ?」

 

 

「……留美。私の住んでいたセントラルはもともと魔人族が統治していた国。それを私に言うのは今更、というものですよ」

 

 

 でも、と口篭る留美を尻目に、ソニアが一歩前に出る。

 

 

「ボクもそれでも良いけど」

 

 

「ちょ、ソニアまで!」

 

 

「まぁ、確かに魔人族の住んでいた場所に眠る魔術書なんかも興味あるけど、ボクとしてはそこの魔人族さんに興味あって。

 

 

 うん、そうだね。一つお願い聞いてくれるんなら仲間になっても良いよ」

 

 

 指を口元に当て甘えのような、しかしどこか挑発とも取れる仕草をユーリによこすソニア。

 

 

「なんだ?」

 

 

「キミを研究サンプルにしても良いのなら。」

 

 

「どういうことだ?」

 

 

「だってキミからは魔人族と……そして天人族の魔力を感じる」

 

 

「!……ほう」

 

 

 鋭い少女だ。アリスやエステルといった才能溢れる魔術師ですら初見では見抜けなかったものを、こうも簡単に見抜くとは。

 

 ユーリはおもしろくて、口元が自然と崩れた。

 

 

「そうだ。俺は天人族と魔人族の血を受け継ぐ半魔半神。そんな俺に興味が湧いた、と?」

 

 

「そりゃ湧くよ。だって天人族と魔人族は光と闇。対極が故にいがみ合い、戦いの歴史を生んできた種族。なぜならそれは光と闇が絶対に相容れないからなんだよ。でも、その相容れないはずの血を受け継いだキミがこうしてここにいる。これってとっても不思議。ぜひとも調べたいんだけど」

 

 

 少し感心した様子のユーリ。

 

 そこまで深くは考えたこともなかった。

 

 天人族と魔人族は光と闇、故に互いに相容れない存在。確かに、言われてみればそれは本来くっつくはずのない代物。

 

 しかし実際こうしてユーリは地面に立っている。その対極の血をその身に宿して。

 

 ……もしかしたらソニアの研究は自分にも利があるかもしれない。

 

 そこまで考え、ユーリは小さく頷いた。

 

 

「勝手にしろ」

 

 

「うわ~い!」

 

 

 ユーリのもとへ向かうソニアとキティ。それを見て、しかし留美はまだ迷っていた。

 

 自分の腕を認めてくれる者がいる。戦う場所がある。それは嬉しい。

 

 だが、相手は魔人族(さっきの話だと純粋な魔人族ではないようだけど)。それがどうにも足を鈍らせる。

 

 とはいえ、キティとソニアとて相手が誰であろうと傘下に入ろうとはしないだろう。それはわかる。自分だってこの相手から邪悪な気配があまりしないことくらいは気付いていた。

 

 けれど、魔人族に付くということは人間族を敵に回すということだ。

 

 それは、人間族を守るために魔人族と戦った先祖に申し訳ないのではないか。

 

 

「お前はどうするんだ?」

 

 

 考えあぐねていると、ユーリのほうから声を掛けてきた。

 

 

(あぁもう、やめよ、やめ!)

 

 

 留美は思いっきり首を振り回す。

 

 自分に考え事なんて似合わない。それなら体の赴くままに、ただ動くのみ。

 

 ―――大剣の切っ先をユーリに向ける。

 

 

「しっかりとあたしと勝負しなさい。一対一で。あたしは自分より弱い相手に下る気はないわ」

 

 

 そう。考える必要などない。

 

 ただ戦え。

 

 それが、戦士の血族に生まれた者の運命。

 

 そんな留美を見て、ユーリは笑みを浮かべた。

 

 

「それぐらいの気性でなくてはおもしろくない。良いだろう、相手になってやる」

 

 

 ユーリも剣を構え、その切っ先を留美に向ける。

 

 お互いの視線の先には剣の切っ先が向く。

 

 決闘の証。

 

 二人を中心に闘気が、殺気が高まっていく。

 

 周囲にいた傭兵も魔人族兵も、誰も近づけない。

 

 わかっているのだ。これは自分たちが入れるような世界ではない、と。

 

 ……唸る風。靡く外套。

 

 どこからか風に乗ってきた葉が二人の間を通過したとき―――、

 

 

「はぁ!」

 

 

「おぉ!」

 

 

 高らかに、強く、剣撃の音が戦場にこだました。

 

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