仲間と明日を迎えるために   作:ありすふぃあー

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十三話

 

 

 

「『水の大障壁(ウォーターウォール)』!」

 

 

 魔人族の放つ攻撃を弾き飛ばしながら、障壁の消える前に次の魔術を即座に組み上げる。

 

 

「『突き抜けし水の刃(ウェイブスライサー)』!」

 

 

 エステルの腕から超圧縮された水の刃が放たれ、障壁の向こう側にいた魔人族を八つ裂きにする。

 

 

「これじゃ、きりがありません……!」

 

 

 ぼとぼとと崩れ落ちていく死骸の向こうには、まだまだ多くの魔人族が通路狭しと蔓延っていた。

 

 魔力にはまだ余裕がある。疲れも特にない。けれど生き物を殺したという精神的負担と、慣れない血の臭いに酔いかけていた。

 

 

「でも、ここで倒れるわけには……」

 

 

 くらくらし始めている頭をどうにか抑え付け、視線を上げる。

 

 通路の中央に立つエステルの前後、敷き詰めたように並ぶ魔人族。

 

 いったいどれだけの数の魔人族がこの地下迷宮に潜り込んできたのか、皆目見当もつかない。

 

 ……対峙する魔人族はこちらを牽制してか、ゆっくりとしか近付いてこない。

 

 それは逆に好都合だった。こちらとしても途中休憩がなければもうたちまちのうちにやられていたに違いない。

 

 唐突に、後ろから殺気。

 

 振り向き、向かってくる魔人族兵に水の刃の魔術を叩きつける。

 

 さらに後方から殺気。続けざまに振り向き魔術を放とうとするが、

 

 

「あ!」

 

 

 足元にあった死骸に気付かず体勢を崩してしまう。集束したマナも散ってしまった。

 

 近付いてくる魔人族兵。もうこの距離では攻撃はおろか障壁すら詠唱が間に合わない!

 

 

「エステルさん、伏せて!」

 

 

 瞬間、どこからか聞き慣れたあの声。

 

 エステルは言われるがままに地面に体を伏せた。そして、

 

 

「『乱れる雹(ヘイルストーム)』!」

 

 

 天井に突如出現した霜から雹が吹き荒れる。

 

 襲い掛かりそうにしてた魔人族兵はおろか周りにいた魔人族兵さえをも巻き込み穿っていく。さらに、

 

 

「『光羅(ヴェイト)』!」

 

 

 それらをまとめて貫通するような光の弾丸が通路を縦断していった。

 

 止む音。恐る恐る辺りを見回してみれば、一帯の魔人族兵は根こそぎ葬られていた。

 

 

「大丈夫ですか、エステルさん」

 

 

 声に仰ぎ見れば、立っていたのはやはりアリス。そしてオリヴィエだった。

 

 

「アリスさん、助かりました……」

 

「それはこっちの台詞ですよ。いままで一人で戦っていて、さぞ大変だったでしょう?」

 

「それは、まぁ……」

 

 

 実際血に酔って何度も倒れそうになった。

 

 

「……でも、約束でしたから」

 

「約束?」

 

「ユーリ様との、約束です」

 

「…………」

 

 

 そう、あのとき約束した。村人を解放する代わりに、ユーリ軍の中で魔人族や天人族が相手のときのみ戦うことを。

 

 そしてユーリは約束を守ってきた。ならば、今度は自分が守る番なのだ。

 

 ……しかし、それ以外の理由も芽生え始めている。

 

 それがなんなのかは……いまは考えるのはよそう。いまはそんな場合じゃない。

 

 エステルは辺りを見回し、しかし周囲にアリスとオリヴィエしかいないことに気付いた。

 

 

「……他の方たちはいないのですか?」

 

「ユリウス様やミミ様、他の兵士も来ていますが、他のルートから魔人族兵を駆逐されています。ですから我々も早く行かなくてはいけません。エステルさんはここで休まれていてくださいね。……行きましょう、オリヴィエ様」

 

「うん」

 

 

 走り去る二人の後姿。

 

 アリスがここで休めと言ったのは、彼女なりの気遣いなのだろう。けれど……。

 

 エステルはグッと掌を握る。

 

 自分には、まだできることがあるはずだ。思い立ち、

 

 

「待ってください!」

 

 

 そう、口にしていた。

 

 立ち止まり、こちらを向く二人。それを見つめ、エステルはゆっくりと立ち上がった。

 

 

「私も行きます」

 

「……エステルさん」

 

「それが、ユーリ様との約束ですから」

 

 

 強いエステルの眼差し。それを見て、アリスはどこか羨ましく感じていた。

 

 ユーリの下に逆らえない立場でついたのは同じ。だが、アリスは最初から恐怖でビクビクしていたものだ。

 

 けれどエステルは違う。最初から彼女はこうだった。

 

 芯の通った真っ直ぐな眼差し。

 

 どんなことがあっても自分の信念は曲げないと、その瞳が言っていた。

 

 

「……わかりました。一緒に行きましょう」

 

「はい!」

 

 

 アリスが手を伸ばし、エステルがその手を掴む。

 

 そして、三人は戦場へとその身を走らせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃、別ルートを進んでいたユリウスとミミは……、

 

 

「遅いのよぉ!」

 

「ふん」

 

 

 鬼神のような強さを見せ付けて魔人族兵を狩っていた。

 

 いまだ無傷な二人に対し、屍と化した魔人族兵はもう五十を越えているだろう。

 

 突き進む勢いはそのまま、衰えをみせず。

 

 通路中にいた魔人族兵を蹴散らし、そのまま大きな広間に出てきた。

 

 ここはユーリ軍の使う戦闘訓練場。大昔は闘技場として使っていたらしいのだが……。

 

 その中央。

 

 にやけた表情で飄々と立つ一人の男。

 

 その姿を見て、ユリウスとミミは表情を険しくする。

 

 二人はその男のことを知っていた。

 

 昔、ユーリの父親がここら一帯の魔人族を統治していたとき、共にその傘下にいた者。

 

 最も軽薄で、最も残虐な魔人族。そして実力も上から数えたほうが早いほどの使い手。

 

 

「おやおや、お久しぶりじゃねえかよお二人さん」

 

「はっ。どこに行ったかと思えば、マクギリスの軍門に下ってたとはな。まぁ、強い者の下につくお前らしいがな。……天音時谷」

 

「覚えててくれたか。嬉しいねぇ」

 

 

 くく、と喉を鳴らしながら無造作に一歩を進む。

 

 

「まったくよぉ、この状況なら楽に勝てると思ってたんだが……。おもしれぇくらいに期待を裏切ってくれるぜ」

 

「俺たちをあまりなめるなよ」

 

「みたいだな。だがまぁ、これがキツイことに変わりはないだろ?」

 

 

 言葉を切るユリウス。

 

 確かに現状は地上地下ともに大きく不利な状況だ。だが……、

 

 

「ふん、劣勢がなによ。ミミたちはこの程度じゃやられないわよ!」

 

 

 ミミの言う通りだ。

 

 なぜか、これだけの劣勢であるにもかかわらずユリウスにもミミにも、そして他の面々にも「負ける」という意識が全然芽生えなかった。

 

 

「その自信はどこからくるんだか」

 

「信頼だよ。俺たちはお互いを強く信じている。あいつらや俺たちが、お前たちなんかにやられるわけないとな」

 

「は、そうかよ」

 

 

 話はここで終わり、というように時谷が腕を振るう。

 

 満ちていく闘気。それは腕の先に収束していき、拳を包み込んでいく。

 

 時谷は武器を使わない。かといって魔術も使わない。彼の戦闘スタイルはあくまで素手による格闘戦だ。

 

 それに対しユリウスが一歩を踏み出そうとし―――、

 

 

「ん?」

 

 

 しかしそれは横からのびた腕によって遮られた。

 

 

「ミミ……?」

 

「こいつはミミがやるわ」

 

 

 そう言って歩を進めるミミ。

 

 そんなミミを見て、時谷が侮蔑の笑みを浮かべる。

 

 

「おいおい。まさか獣人族如きてめぇ一人で俺の相手をしようってわけじゃないだろうな。それじゃつまんねぇだろ。二人で来いよ」

 

「あんたなんかミミ一人で十分よ。ううん、お釣りだって帰ってくるわ」

 

 

 爪を装備した腕を上に、そこに妖狐の力が付与されえ発火を起こす。

 

 

「二人で掛かったほうが早く決められる。一人で無理はするな、ミミ」

 

「駄目よ。いまもこの地下迷宮をたくさんのマクギリスシンパが蔓延ってるんだから、こんなやつに二人も使ってられないわ。いいから行って」

 

「…………大丈夫なんだな?」

 

「ミミの力、信用できないの?」

 

 

 少しだけ後ろを振り返り、浮かべるは笑み。

 

 それで終わり。

 

 ユリウスは一度だけ頷き、訓練場から伸びる他の通路に走り、消えていった。

 

 

「……おい、マジかよ」

 

「大マジよ。どうしても嫌だってんならミミを倒してさっさと追いかければいいでしょ?」

 

「はん。獣人風情がよく言った。その言葉―――」

 

 

 瞬間、空間が凍りつくような殺気が闘技場一帯を包み込む。

 

 射抜くような鋭い眼光。

 

 一瞬その迫力にたじろぐも、ミミはすぐに姿勢を低く構えた。

 

 パワーは負けるが、スピードではこっちの方が断然有利。最後まで気を抜かなければ、負ける相手ではない。

 

 

「―――冥界で後悔しな」

 

 

 地を蹴るはほぼ同時。

 

 揺らめく松明の照らす闘技場の中、二つの影が死の輪舞を踊りだす。

 

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