仲間と明日を迎えるために   作:ありすふぃあー

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九話

 

 時は深夜。

 

 エフィランズの中でも殊更に大きい施設、キール駐留軍が使用している砦がある。

 

 その大広間には、見渡す限りの人、人、人。腰に剣を挿し、ごつい鎧に身を包んだいかにもな者たちでごった返していた。

 

 

「うにゃ~、いっぱい人がいるねぇ」

 

 

 そんな面々の中、際立って浮いている金髪蒼眼の少女。

 

 もちろんソニアである。

 

 さっきから右に左にと場違いな陽気さを辺りに振り撒いていた。

 

 

「一億ゼニー。しかも上手く立ち回ればそれが全額自分のものになるとなれば、まぁこうなるでしょうね」

 

「ええ。これはわかりきった答えでした」

 

 

 さらにそれに続くように二人、一之瀬留美とキティ。

 

 その頭に美がついても良いくらいの少女たちは、戦闘の準備を着々と進めていく傭兵の中でかなり浮いていた。

 

 見渡してみればわかるように、女などほとんどいない。せいぜい回復役の魔術師くらいだろうか。

 

 周囲からこちらを見る視線は侮蔑と卑しいものが大半。

 

 ……いまどき女傭兵なんて珍しくないだろうに。

 

 そう思う留美であったが、まぁ、三人の容姿を考えれば仕方ないだろう。

 

 そうして受付をしている兵士のところまで歩いていく三人。

 

 

「受付をしたいんだけど」

 

「それでは、ここに名前を書け」

 

「必要あることなの?」

 

「いや。あくまで兵の数を把握するためのものだ。偽名でも構わん」

 

 

 そういうことなら仕方ないかと、留美は兵士から紙と筆を借りてそこに名前を書き込んでいく。面倒なので、キティとソニアの名前も代わりに書いておいた。

 

 

「いま何人くらいいるか聞いて良い?」

 

「ざっと四百人ほどか」

 

 

 紙を渡すと同時に訊ねる留美に、兵士はそう答えた。

 

 四百人。予想していた数より遥かに多い数字に留美は少なからずの驚きを覚えた。

 

 これも賞金の金額とそのシステム、さらに相手が魔人族ということに起因しているのだろうか。

 

 受付の兵士から離れながら、留美はキティに顔を向ける。

 

 

「あと刻限まで何時間?」

 

 

 キティは胸元から懐中時計を取り出すと、

 

 

「……あと一時間はありますね。この計算でいけば、あと百人は増えるでしょう」

 

 

 どうやらキティにはこちらが聞きたいことがわかっていたようだ。

 

 

「魔人族百人と人間族五百人。キティ、あなたはどっちが勝つと思う」

 

 

 キティは笑う。

 

 なにをつまらないことを聞くのか、といったように。

 

 

「そんなもの、わからないに決まっているではないですか」

 

「あら、キティ程の魔導師でもわからないことなの?」

 

「語弊があるようですので言っておきますが、アナムネシスは魔導師の家系であり、魔導師を統べるのはジェネシスです。それにアナムネシスの魔導師といえど万能な超越者ではありません。私たちの計算のもとになるのは膨大に蓄積された情報。それを高速思考により暗算、計算、確率分布を修正し、弾き出すのが私たちの未来予測です。これほどになにもない情報の中で出す結論は予測ではなく予想でしかない。魔導師として、予想で事柄を語ることはしませんし、したくありません」

 

「相変わらず堅いわねキティは。個人的にどう思うかだけでも言ってくれたって良いのに……。ソニアはどう?」

 

「う~ん。六対四で人間族かなぁ。さすがにこれだけ数が揃えば百くらい倒せると思う。けど……」

 

「けど?」

 

「魔人族って一つで言ってもやっぱりキャパシティに違いはあるし。つよーい魔人族がたくさんいればまた変わってくると思う。ほら、すごく強い魔人族は一人で百の人間を葬れるって聞くし」

 

「ソニアはそれだけの力を持った魔人族がいると思うの?」

 

「確率は高いんじゃないかな。あの小林源三郎が二倍近い軍勢を率いて負けたっていうのなら」

 

 

 確かにそれはあるかもしれない、と留美は考える。

 

 

「なにはともあれ、人数が多いにこしたことはないでしょ」

 

「それはどうでしょう」

 

 

 異を唱えるのはキティ。

 

 

「人数が多いことがそのまま優勢になるとは限らない。なぜなら我々は訓練された兵士ではなくただ集められた者たちに過ぎないからです。統率が取れないし、なにより指揮など受け付けないでしょう。そうなれば戦闘は乱戦になるのは必須。そのような状況ではソニアの上級魔術や私のヴァーティカル、留美の獅子王覇斬剣などは使用できない。他にもそのような大技を持っている者も使用を制限されるでしょう。……とはいえ、味方すら巻き込むのを異ともしない者は別でしょうが」

 

 

 キティは辺りを見回してみる。

 

 どうにも自己中心的な感じの者ばかりだ。

 

 しかしそれは仕方ない。今回の賞金のかけ方はどう考えてもそういう連中すら取り込もうという魂胆が見え見えだったからだ。

 

 

「……私たちも、敵だけでなく味方の攻撃にも注意しておいたほうが良いでしょうね」

 

 

 それ以前に味方と呼ぶことすらおかしいような気もしたが、それはとりあえず口にはしなかった。

 

 

「前にも後ろにも神経を張り巡らせろって言うの?……これは疲れる戦いになりそうね」

 

「何を言うのです留美。これに乗ったのはあなたでしょう」

 

「あはは、そうだったわね」

 

 

 じきに時刻は刻限になろうとしている。

 

 集まった傭兵の数、実に五百人強。

 

 ここに魔人族を狩り名誉と賞金を得んがため、全ての準備は整った。

 

 出発は、―――日の出と同時。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな砦の様子を遠巻きに眺めていた少女が一人。

 

 右手には大きな槍を持ち、その槍の穂先には鳥のようなものが突き刺さっている。

 

 

「これは好機ですかね」

 

 

 呟いた次の瞬間、その姿は音もなく消え去っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 連なる山々から生えるようにして聳え立つフォベイン城。

 

 その王座。

 

 ただ座っているだけにもかかわらず威厳に満ちた風貌を見せるのは、現段階でおそらくキール大陸最強の魔人族、現魔王マクギリス。

 

 そしてそのわずかに離れて隣、柱に背を預けて瞳を閉じている男は天音時谷である。

 

 松明が揺れる。

 

 それと同時、視界の向こうが歪んだと思った瞬間、そこから闇と共に天野マリンの姿が現れた。

 

 

「ご報告にあがりました」

 

 

 それは予定事項であったのか、まるで驚く素振りを見せずマクギリスは頷き、時谷は傍観を決め込んでいた。

 

 

「キールがユーリ・アジェスターに賞金をかけ、また、それに伴い人間族が集まり始めています。行動は夜明けすぐ。軍勢は五百ほど。それを報告しようとしていたユーリ軍の使い魔は始末しましたので、まだむこうにも報告は届いていないでしょう」

 

「そうですか」

 

 

 マクギリスか隣に立つ時谷の方へ顔を向ける。

 

 

「これを機にユーリ軍を攻めてください。いけますね?」

 

「別に構わねえがよ、兵を増やしてほしいんだがな」

 

「あれで足りないと?」

 

 

 マリンの皮肉めいた口調に、しかし時谷は表情を崩さず、

 

 

「あぁ、足りないね。あいつらははっきり言って強えぇ。そんじょそこらの者が襲い掛かったってそうそう簡単にゃやられねぇだろうぜ」

 

「自分の無力さを棚に上げておいてよくもそのようなことが言えますね」

 

「見てみりゃお前にもわかるよ。さすがはあのお方の息子ってやつだな。あの強さといい、周囲に強い連中が集まることといいほんと、そっくりだぜ」

 

 

 マリンの口が閉じていく。

 

 あれだけ自尊心の強い時谷にこうまで言わせるということは、やはりそれだけの力を持っているということだろうか。

 

 

「とりあえず二百は欲しいな。しかもできるだけ強いやつを」

 

「わかりました。ただし、あなたの言い分を飲むのですから失敗は許されませんよ」

 

 

 マクギリスの微笑み。しかしその瞳の奥には物を言わせぬ迫力と威圧感があった。

 

 喉を鳴らし、時谷は首を縦に振った。

 

 時谷は考える。

 

 ユーリ・アジェスターは確かに強い。それは見ただけでわかった。

 

 だが、そこに恐怖は感じない。

 

 そしていま、ただ微笑んでいるこの魔人族を見ただけで自分は恐怖を感じている。

 

 そう、なによりも敵に回したくないのは、このマクギリスという魔人族なのだと、頭ではなく体で理解した。

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