こいのうた   作:グラスワンダー担当

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こいのうた 1番

 

 

 

 

ねぇ、トレーナー?

 

 

今日だけは

 

 

私だけを見ててね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今年も選びぬかれた優駿達が集いました。URAファイナルズ決勝が、間もなく始まります。」

 

 

 

アナウンサーの声を聞きながらターフに足を踏み出していく。

 

 

冬の空気が肌寒く流れるなか、彼女達はそんなことを歯牙にもかけずにゲートへ向かう。

 

歴代最強と言われるほどに強くなった彼女の背中を見送る。

 

先程の彼女が言った言葉を胸に刻みながら、ゴール板過ぎの関係者達が集まる場所へ足を進めながら思いにフケている。

 

チームを組み、G1の栄光をいくつも掴み、トップトレーナーと言われる程になった彼は、彼女との過去を懐かしみながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

才能が特段あるわけではなかった。

 

家柄が良いわけではなかった。

 

唯一の彼女をスカウトした理由は目が良かったから。

 

 

初めて走った選抜レースでも、リベンジに燃えていた2回目の選抜レースでも、最後になるかもしれないと思い走った3回目の選抜レースでも。

 

彼女は最後まで諦める事なく前を向いていた。

諦めの目をせずに、どんな状況になっても「勝つ」と目が言っていた。

 

何度も彼女の選抜レースを見に行くようになると、チームの娘からは、早くスカウトすればいいのにと言われてしまうようになっていた。

 

彼女にとって最後の選抜レースが終わったあと、ターフで頭を垂れる彼女に近付き。

 

 

「君の目が好きだ。その目に夢を見させたい、チームに入ってくれ」

 

 

その時の彼女は、何を言っているのか分からないと驚愕の表情を浮かべていた。

 

しかし、徐々に言葉の意味を理解し、自分がスカウトされていると判断できた。

それと同時に、なぜ?掲示板にも乗れなかった私がスカウト?目が好き?

よく分かんない!?

 

とフリーズしてしまっていた。

 

 

「どうした?聞き取れなかったかい?なら、もう一度言おう。君の目が好きだ。」

 

どうしてそこを繰り返すんですか!と後ろから付いてきたチームの娘達が叫んでいるが、関係ない。

今は彼女の答えが知りたい。

 

「…あ、あの……えっ…その、よ…宜しくお願いします」

 

顔を真っ赤にし、尻尾をウマ耳が忙しない彼女がそう答えるのを聴き、安堵した。

 

「宜しく頼む。あぁ、すまない。自己紹介がまだだったなチームポルックスのトレーナー忍野だ」

 

え!?あのポルックス!?

 

彼女が何か呟いているが、これで新しいウマ娘をスカウト出来た。明日チーム登録書類を用意してチームの部屋に来るように伝え、少しだけ浮足立ちながらターフを後にする。

 

チームに戻った後で、チームの中心の娘にいい娘を見つけたんだと嬉しそうに話したのを憶えている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メイクデビューまでは少しだけ時間を要したが、彼女は順調に力を付けていった。

あの時も、同じ様な肌寒く感じる風が流れていた。

 

「いや〜、トレーナーさん。緊張してお昼に食べた人参ステーキを吐き出しそうな私に、緊張をほぐせる一言貰えませんかね?」

 

ウマ耳を少しだけ垂れさせながら彼女が弱音を吐く。

 

「勝てる。胸を張りなさい。君の努力は、報われる。何故なら私のトレーニングを君は一切手を抜かずにやり切ってきたじゃないか。」

 

垂れていたウマ耳をこちらに向けながら、上目遣いで見ている。

 

「さあ、ここからだ。ここから始めよう、君の栄光を。君の物語だ、悔いなど残すことは許さないよ、それに君の目に惚れた私を楽しませてくれ!」

 

「も、もう分かったって!やりますよ!やりゃいいんでしょ!なんでトレーナーはいつもいつもそうなんですか!?先輩たちのレース前だっていつも大概ですからね!いつか勘違いしたウマ娘にうまぴょいされますよ!」

 

ぷりぷりとしながら控室を出ていく彼女は、先程までの緊張など無かったかのようにターフへと向かっていった。

 

 

 

 

「あの…本当にいいんですか?こんなこと言うのはあれですけど、遠慮しないですよ?」

 

「あぁ、気にしないで目一杯食べてくれ。今日の主役なんだから」

 

チームポルックス行きつけの寿司で祝勝会をすることにした。

ここは、ウマ娘の弟子が居るので何かと融通が聞くのだ

 

 

そうだよー。

 

トレーナーに遠慮しなくても大丈夫だよ。

 

あ、大将!大トロ10貫下さい!

 

私はノドグロ!10貫!

 

秋刀魚の塩焼きくださーい。

 

あいよー!

 

君達は遠慮と言う言葉を学校で習わなかったのかな?

 

 

「……」

 

先輩たちとトレーナーがわいわいしている中、今日のレースを思い返す。

 

練習通り出来た。

 

序盤も、中盤も、終盤も。

 

正直を言うと、中央のレベルには驚愕していた、地元では負けなし、意気揚々と乗込んで現実を突き付けられ、絶望仕掛けていた。でも、笑顔で送り出してくれた友達、心配そうな顔をしながらも優しく送り出してくれた両親。

 

裏切りたくなかった。

 

その思いだけで選抜レースを走っていた頃が懐かしい。

 

「うん。少しだけ自信付いたかも」

 

「ん?なにか言ったか?」

 

「ん〜ん、何でもない。大将!あなご、いくら、うに、車海老、金華サバの〆鯖、えんがわ、トロサーモンを5貫づつと焼き魚で八角下さい!」

 

いーねぇ!

 

あ!私もおんなじの!

 

ねぇ、肉寿司もあるよ!

 

ホントだ!!、トレーナーこれは食べるべきだよ!いや食べる!

 

君たち。

明日からのメニューは変更が発生することが今決定したよ。

覚悟するといい。

 

おーぼーだ!!

 

職権乱用だ!

 

ウマ娘条例違反だ!

 

 

いつからか、節目となるレースを勝ったら来るようになったお寿司屋さん。

 

何度も来るようになったのは嬉しい悲鳴である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メイクデビューしてから初めての敗北は意外とすぐに来た。

 

年明けに挑んだレースで3着になった。

 

一着になったウマ娘と彼女の実力はその時点では大きく離れていた。しかも、最後の直線で無理をして追った結果、骨膜炎も発症してしまったのだ。

 

「ごめんね、トレーナーさん」

 

その謝罪は、初めての敗北に対してか、怪我をしてしまいクラシック2つを見送ることになったからか。

 

そう溢した彼女の手を握りながら励ましたのを憶えている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リハビリをしながら、彼女のメンタルケアも並行して行っていった。先輩達のレースに連れて行ったり、洋服を一緒に買いに行ったり、美味しいケーキがあると聞けば食べに行ったり。

 

夏の始まりにはレースに復帰出来るようになり、夏の終わりには重賞も勝つことが出来た。

次のレースを目指し強度の高い練習を続けていた。

 

「ねぇ、トレーナーさん。先輩達って凄いですね。私とは全然世界が違うっていうか、キラキラしてるっていうか。正直シニアになったら同じ舞台で闘う姿が想像できないっていうか…」

 

尻尾を少しだけ忙しなく動かしながら続ける。

 

「先輩達が一等星だとしたら、私は三等星かなぁ〜って…あはは…」

 

「それは、君のライバルが菊花賞に出ないことが関係するのかい?」

 

図星を突かれたと顔に出してしまい、それに気付いて顔を赤くする。

 

「う〜…だ、だって、本命バが私ってちょっと荷が重いっていうか、そういうのはあの子や先輩達みたいな一等星達の仕事っていうか」

 

「君が本命バに選ばれたことに不思議はないよ、もちろん君のライバルがケガをしないで参戦していたとしてもだよ」

 

「そ、それにライバルっていうのも。私は一度負けている訳だし、戦績だってG12勝と重賞2勝じゃ比べられないよ…」

 

「じゃあ、いつか決着をつけようじゃないか。それもG1で」

 

「そ、そりゃぁそうしたいけど…」

 

「出来る。君なら出来る。君の目は諦めていないじゃないか」

 

「う…また、そういうこと言う」

 

 

 

 

 

 

一ヶ月半後、見事G1ウマ娘となった彼女は肉寿司を頬張っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暮れの中山、一年の総決算。

有馬の季節になり世界は色めき立つ。

 

それは私達にとっても同じだった。

 

「はぁー緊張する…、なんで私なんかがここに居るんだろう…」

 

「何も変なことはないだろう、君の実力だからに決まっているよ」

 

「で、でもでもクラシック級の私がシニアの先輩達押しのけて選ばれるってなんか、身の丈に合わないというか…あはは…」

 

順当だって!

 

そうだよー

 

いつも一生懸命練習してたしね!

 

それに私は一回勝ってるから今回走れなくても満足してるよ

 

先輩達の励ましの声を受けて、少しだけ彼女のウマ耳が上を向く。

 

「で、でも流石に私が2番人気って、そりゃ出来過ぎっていうかぁ!」

 

なんで?

 

あんな勝ち方した菊花賞見たらねぇ?

 

うん、正直私も危ないかもって思ったし

 

キラキラした先輩達からの意見に恥ずかしいやらなんやら、尻尾が忙しない。

 

「グランプリだ。有馬記念は。」

 

「え?あ、はい。そりゃ知ってますけど」

 

「走りたくても走れない娘が多くいる。ウマ娘ではなく走れない私達がいる。よくウマ娘は人々の思いを背負って走るというが、グランプリレースに限ってはもう一つ追加されるんだ」

 

いつになく真剣な表情のトレーナーを見て、周りからは息を呑む音が聞こえる。

 

「もう一つってなんなんですか?」

 

「夢だ。私達の夢を背負って走るんだよ。君の仲間、私達トレーナー、家族、友人、そしてファンの夢だ。あの娘なら絶対に勝てる、いやこの娘だ、この娘が有馬を走る姿が見たい。そんな私達の夢を投票という形にして君は選ばれた」

 

顔を上げ、トレーナーの目を見つめる。

 

「君の人気順は、これだけの人が有馬を走る君を、勝利する君を望んでいるんだ。応えてくれると嬉しいな」

 

そう言い微笑むトレーナーの顔から目が離せない。

 

あぁ、今分かった。

 

うん、明確に、逃げ道なく、どうしょうもなく。

 

私はこの人が「好き」なんだ。

 

「好き」なこの人が喜んでくれることが嬉しい。

 

ならやることは一つだけ。

 

夢を背負って走ろう。

 

期待に応えたい。

 

私が一番だと示したい。

 

「うん、いっちょやったりますか!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日、新たな一等星が生まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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