こいのうた   作:グラスワンダー担当

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こいのうた 3番

 

 

「さあ、ラストだ!」

 

日々の練習が過ぎる。

 

「絞り出せ!」

 

「負けるもんかぁー!」

 

先輩達との併走で追い切った彼女は息を整えながら、こちらへと向かってくる。

 

「はあ、はあ。どうでした?トレーナーさん?」

 

「うん、悪くないね、良いタイム出てるよ」

 

そう言いストップウォッチを見せる。

 

「あ、ホントだ。よし!もう一本行きますか!」

 

ちょっときゅーけー!

 

あたしも!

 

トレーナーハチミー!

 

ウマ娘保護法の申請をします!

 

最近の彼女は今までにないくらい練習に身が入っている。

まるで嫌なことを思い出したくないように。

先輩達相手の練習ではすでに一線級の彼女達でさえ手に余るようになってきた。

 

ジャパンカップは明日だ。

 

 

「よし、今日はもう終わりだ!皆集合!」

 

やったー!

 

ういー

 

ハチミー…

 

ぞろぞろと集まったところで聞く。

 

「俺は明日予定がない、しかし、なぜだか府中まで散歩をしようと思っている。誰か一緒に散歩に行かないか?」

 

皆が顔を合わせている。

普段なら間違いなくわんぱくな先輩達が進んで私が私がと出るが今日は静かだ。

 

あ、私明日映画見に行く予定してたんだよね!

 

そうそう、私も行くの!

 

私は同室の娘とカラオケの予定なんだ!

 

 

「なんだ、じゃあ誰も来てくれないのか?寂しいなー」

 

先輩達が彼女に対して尻尾で叩き早く早くと催促する。

 

「うぇ、わ、私?なんで、私なんですか。明日はチーム室で観戦だって先輩も行ってましたよね??」

 

ちなみにチーム室はエアコンの修理と、模様替えで立ち入り禁止にしました。

 

え!?そうなの?聞いてない!

 

あ、バカ!空気読めって!

 

「はぁ…分かりましたよ。独り身の寂しいトレーナーさんの休日に一緒に散歩してあげますから…」

 

まるでデートだな!

 

ひゅーひゅー!

 

いーなー

 

 

「ちょ!違いますって!デートじゃなくて散歩ですって!!」

 

まあ、何にしろ彼女をジャパンカップに連れ出すことに成功したわけである。恐らくだが、立ち直っている。そのライバルの姿を直接見せたいのだ。

 

「よし、そしたら明日10時に出発しよう」

 

「わ、分かりました」

 

ふさふさのおさげで顔を半分隠しながら彼女と約束をする。

 

明日が楽しみだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「僕ね、悔しいんだ。君にあんな顔をさせちゃったこと。僕がライバルだったのに、君にとってたった一人のライバルだったのに」

 

 

東京競馬場のターフへと続く通路で二人のウマ娘が向き合っている。

 

 

「だから、今日のレースは、このレースは君に贈るよ」

 

 

 

見ててね

 

 

 

そう言いターフへと消えていくかつてのライバルを見送った。

 

 

 

 

 

 

 

海外の強豪が参戦している。

前走の結果を見ればあの娘が勝てるとは思わないだろう。

しかし、何故だか先程のかつてのライバルを見ていると何か起こしてくれるのではないかと思ってしまう。

 

本当は見たくないのだ、あんな姿のあの娘を見ていられない。

かつてのあの娘を汚さないでほしい。

キラキラと輝いていたあの頃のライバルを。

 

 

 

「すまないな、無理やり連れてきたみたいになって」

 

「ん、まあ。もういいよ」

 

素っ気なく返す彼女だが視線はゲートから動かない。

感情伝達機関はゆらゆらと気持ち良さそうに揺れている。

 

 

 

 

 

 

ガシャン

 

 

 

ジャパンカップが始まった。

 

 

あの娘は先頭集団、4番手付近に位置とっている。

 

道中折合いながら、進む。

 

「そのまま、そのまま。うん、そう」

 

レースに集中しており一人事を呟く彼女の目はかつて見たキラキラを映していた。

 

「いけ」

 

柵を握りながら呟く

 

「いけ!」

 

レースは最終直線を進んでいる。

 

「勝って!勝つんだ!!」

 

人目を気にすることなく、叫び、応援をする。

 

その声は確かにライバルへと届いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うん、僕にとってライバルは一人だけだよ。ずっと、ずっと僕を信じてくれてるんだ。だから次こそ全力で一緒に走るんだ!」

 

ウィナーズサークルでそう答えたライバルを眩しい物を見る目で彼女は見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとね、トレーナーさん」

 

「どういたしまして」

 

感謝を述べる彼女の顔は、大切な宝物を見つけた子供のようだった。

 

 

 

 

 

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