Muv-Luv modeler warfare   作:ガンオタ

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遅くなり申し訳ありません。
今回はちょっと過激な内容になります。
(世界観の改変が発生しております。ご注意ください)


第9話 策謀

第9話 策謀

 

<1995年4月24日 ワシントンDC・ペンシルベニア通り>

 

 CIA(中央情報局)の準軍事工作担当官であるマット・ブローリンは、ペンシルベニア通りに面した一角にあるブラジル料理専門店の広々とした店内の角の席に座り、自身の好物であるシャラスコを食していた。シャラスコとは、ブラジルの郷土料理で鉄串に肉を刺し、じっくり炭火で焼いた肉料理である。肉好きであるマットの大好物だ。だが焼き上がる度にウエイターが回ってくるので、こちらが「ストップ」と言わない限り、いつまでも皿の上に肉を載せられる。

 肉料理を食べる時間帯としては、だいぶ遅い時間帯だが、CIA局員として長年僻地で勤めている間に彼の胃袋はすでに鋼の如き強靭さを兼ね備えている。なので胃もたれなど気にする事なく、肉を次々に頬張る。

 

「よくもこんな時間帯に、ステーキを食べれますね」

 

 肉をステーキナイフで切っていると、誰かに声を掛けられた。顔を上げ、その人物を確認したマットはフォークとナイフを皿の上に置くと、不愉快そうに両手のひらを擦り合わせながら睨みつける。

 

「誰のせいで、こんな遅い夕食になったと思う? ん?」

 

 食事を邪魔した人物、安全保障担当補佐官であるジェイク・カールッチは、マットの恨み言を気にする事なく、無遠慮に目の前の椅子に座る。

 

「状況は常に流動的です。刻々と変化する環境に、対応できる訓練は受けているのでしょう? ーーあなたもラングレーの人間なら……」

 

「ふん」

 

 そんな会話をしていると、ウエイターが注文を取りに来た。

 

「お客様、ご注文をお伺い致します」

 

 ウェイターの言葉を聞いたジェイクは、目の前のマットから視線を外す事なく、「いや。すぐに出て行くから、気にしないでくれ」と答えた。その言葉を聞いたウェイターは一瞬訝しむも、表情には出さず丁寧な一礼をする。そしてカウンターの方へ戻って行った。

 

「申し訳ありません。なにぶん色々と立て込んでいるもので」

 

 ジェイクは肩をすくめながら、そうマットに伝える。

 

「国連安保理を無視した海上封鎖、封鎖後の武装勢力側との単独交渉……。ふ、いつもながらの単独行動主義だ。そのうち、とんでもないしっぺ返しをくらうぞ」

 

 CIAの担当官として数多くの国で諜報活動を行ってきたマットは、自身の経験から今回のアメリカが取った行動を皮肉る。

 

 未知の島である『シルトクレーテ島』がこの世界に突如出現し発見された直後、アメリカはすぐさま国連安保理の決議を待たずに単独での当該海域の海上封鎖を実施した。この強行措置に対し、各国からはもちろん非難の声が上がったが、アメリカ政府はこれを一蹴。そしてホワイトハウスの報道官は会見でこう言い放った「これは戦争を目的とした『海上封鎖』ではなく、未知の島による周辺環境への影響を最小限にするための『海上検疫』であり、もし我が国の迅速な行動がなければ、当該海域は深刻な環境汚染に晒されていただろう」と。

 

 マットの皮肉を気にする事もなく、ジェイクは淡々と答える。

 

「時には大胆な行動も必要です。だいいち、そのおかげで、あの島の武装組織『レイブンズロック』との接触に成功しました。そして、海上封鎖を解く代わりに、彼らは“今後48時間は軍事行動を起こさない、という条件を伝える事ができました」

 

「ハッハッハッ。さすがワシントンの人間は、言葉遊びが上手いなぁ。なぁ……それを世の中でなんと言うか知ってるか? “詭弁““二枚舌“って言うんだぜ」

 

 マットはこれまで数多くの『非正規作戦』ーーアメリカ政府にとって敵対的な人物を秘密裏に誘拐、暗殺もしくは、非友好的な政府をクーデターなどによって“排除“するなどの、俗に言う『ブラックオプス』に関わってきた。マットにとって、この経験は、単一の目的ーーBETA大戦及び、大戦終結後の世界秩序構築ーーを達成するためならなんでもやるというワシントンの姿勢を、いやというほど認識させられた。

 だがジェイクは、会うたびにいつもそんな皮肉を言うマットにうんざりしている、とでも言うように右手を顔の前で払う。

 

「はぁ……馬鹿正直に世界に対し、「あの島にはアメリカ全土を射程圏内に収めるICBMが存在します」とでも言えと? そんな事はナンセンスですよ。それよりも、さぁ、今すぐ『荷物』の状況を教えて下さい」

 

 ジェイクの、その急かすような口調に若干の苛立ちを覚えるマット。だが店内で大声を上げる訳にもいかず、代わりにナプキンで口元を乱暴に拭う。そして「チィ」と小さく舌打ちをすると、『荷物』の説明を始めた。

 

「頼まれた日本人形についてだが、数は全部で“200体“。もちろん純正品だ。ーーだが、なにぶん『注文主』が急遽、予定を変えたもんだから、人形の一部に問題が出てる」

 

 問題、という単語を聞いたジェイクは、すっと目を細める。

 

「“問題“? それは対処可能なのですか?」

 

「おお、怖ェ。心配せずともすでに問題への対処は完了してる。完了してるから俺はこんな時間に、ここで夕飯を食ってんだよ」

 

 マットの説明を聴き満足したのか、ジェイクは大きく頷く。そしてテーブルに身を乗り出す。

 

「さすがですよ、マット。これで『注文主』も安心できます」

 

「……」

 

「では、配送料はいつもの如く、パナマの口座に振り込んでいますので。確認をよろしく」

 

 そう言って、ジェイクは立ち上がり、その場から立ち去ろうとした瞬間、マットが声を掛けてきた。

 

「なぁ、最後に忠告するが。今回は、この間のグアテマラとは何もかも違うぜ?」

 

 その忠告を聞いたジェイクはゆっくりと振り返ると、ニヤッと笑った。まるで、そんな質問をするマッドに呆れているかのように。

 

「宅配トラックの運転手が荷物を気にするのは、その荷物が注文主の元に届くまでで、その後注文主が荷物をどうするかは、預かりしらんと思うのですが?」

 

「まぁ、そうだな」

 

「確かに仰るとおり、今回は以前のグアテマラとは全く違ういます。ただし、“いい意味で“ですよ。なんせ目と鼻の先に空母が展開してるんですから。あと、あの時と違うのは、諸外国への面倒な根回しが必要ないところですかね。フフフ……」

 

「……」

 

 ジェイクの言葉を聞いたマットは何も言わず、かわりに服の着心地が不快であるかのように激しく肩を回す。それを見たジェイクは今度こそ足早にレストランを出て行った。

 ジェイクが出て行った扉をしばし見つめていたマッドは小さな笑い声を上げながら、首を横に振る。そして、小さく毒ずいた。

 

「若造が……」

 

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<日本帝国・京都上京区・煌武院家大広間>

 

 日本帝国において、皇帝陛下より国事全権を任さられる『征夷大将軍』。その役職は、昔から『五摂家』と呼ばれる五つの有力武家の当主達が拝命してきた。その五摂家の一角、『煌武院家』の当主である煌武院悠陽(こうぶいん ゆうひ)は、大広間の上座に座り、自身の目の前に座る男からの報告に耳を傾けていた。

 

「では、アメリカはあの島の海上封鎖を解除すると?」

 

 男の報告を聞いた悠陽は、そう問いかける。

 

「ええ、本土にいる私の友人からはそう聞いております。ただホワイトハウスとレイブンズロックとの間で、どのような取り決めが結ばれたかは不明です。何せ、交渉は全てホワイトハウス地下のシチュエーションルームで行われており、同じ政府内ですら極秘事項として扱われています。」

 

 帝国随一の諜報員である、帝国情報省外務2課所属の鎧左近(よろい さこん)は肩をすくめる。諸外国から『帝国の怪人』と恐れられる彼の力を持ってしても、ホワイトハウス内の動向までは知る事はできなかった。

 

「かの者達との間で、どのような取り決めがあったとしても、戦の危機が去ったのは確か。今は人類同士で相争っている場合ではないのです……」

 

 鎧の報告を聞いた悠陽は、この一週間世界の人々が恐怖していた戦争の危機が消えた事を心の底から喜ぶ。

 彼女の言う通り、世界の目は、太平洋に突如として出現した未知の島である『シルトクレーテ島』に注がれていた。それはBETAが初めて人類に発見された時以来の衝撃と興奮だった。だが、その数日後アメリカの偵察衛星が、島の内陸部にて重火器で武装した兵士並びに複数の軍事施設が存在している事を確認。当初の衝撃と興奮は、一気に驚愕へと変わった。直後アメリカ政府は第7艦隊による海上封鎖を実施し、事態は一気に軍事的緊張をおび始めた。国連並びに、環太平洋地域の国々は「国連安保理決議による事態解決」をアメリカ政府に伝えたが、ホワイトハウスはこれを拒否。アメリカは単独での事態解決に乗り出す、との声明を発表。

 

 アメリカ軍と武装勢力間の衝突がいつ発生しても、おかしくない状況に人々は恐怖した。しかし、事態は急変する。昨日アメリカ合衆国大統領が緊急の会見を開き、大統領自ら「シルトクレーテ島の武装勢力である『レイブンズロック』との、今後48時間の双方武力不行使及び、近いうちに会談の場を設ける事に同意した」との声明を発表し、事態は緊張緩和へと向かっている。

 

「しかし、私はあの国が何もなく、ただ引き下がるとは思えませんなぁ〜」

 

「どいう意味です? 鎧」

 

 この数時間の間で突如、対立姿勢から融和姿勢へと変化したアメリカ政府の行動を訝しむ鎧。その鎧の言葉を聞いた悠陽は首を傾げながら、その言葉の真意を問う。

 

「米国とかの者達との間で、いかなる仕儀があったにしろ、交渉によって互いの妥協点を決めた。だからこそ、米国は封鎖を解くのではないのですか?」

 

 年若い当主である悠陽の言葉を聞いた鎧は「ハッハッハ」と愉快そうな笑い声をあげると、長きにわたり世界各地で諜報活動を行ってきた者としての見地から、自身が米国の行動を訝しむ訳を語り出した。

 

「御館様。アメリカという国は自国の権益を守る為ならば、どのような手段も躊躇なく実行する国なのです。例えその手段が人道に劣る物だとしても……」

 

「……」

 

 鎧の言葉を聞き、思うところがあるのか悠陽は悲しそうに顔を俯かせる。

 幼少期から、煌武院家の人間として相応しい教養と知識を習得する為、各界の専門家から多くの事を学んだ。もちろんその中には現職の外交官や軍人などもおり、彼らからBETA大戦下における各国の詳しい政治情勢をつぶさに教えられた。

 幼きながらも、その時感じたのは、BETA大戦が勃発してから、すでに30年以上の月日が経過しているにも関わらず、互いに協力しようとしない政府の傲慢さと、他者を信じる事ができない人類の業の深さだった。そしてそれを知り、どうする事もできない己が無力さも同時に痛感した。

 

 「ーー1983年の話です。私はその頃、中米のグアテマラでコーヒーの買い付けを行っておりました。グアテマラという国は、良質なコーヒー豆を産出する自然豊かな小国でして……コーヒー好きには非常に有名な国なのですよ。そして中米という、北米大陸と南米大陸とを繋ぐ地理的条件から、アメリカはもちろんの事、BETA禍から逃れてきた欧州諸国からの投資もあり、そのおかげ当時は急速な発展を遂げていました。」

 

 突然鎧は、まるで子供時代の話をするかのようなゆったりとした口調で語り出した。

 

「しかし、その急速な経済発展は、アメリカと強力な繋がりを持つ政府と、多国籍企業がグアテマラ国内の至る所に建設したプランテーションで奴隷の如く扱われる国民によって支えらえていました」

 

「そこで生み出された莫大な富は、国民に還元される事はなく、全て搾取された、と……」

 

 悠陽の呟きを聞いた鎧は、弱々しい笑みを浮かべながら、その呟きを肯定する。

 

「ええ、仰る通りです。しかし、自分達が生み出した富が、力ずくで略奪されているのを黙って見ていられるほど、グアテマラの国民は愚かではありませんでした。そして、1983年に行われた総選挙で民衆の強い支持を得た左派勢力が地滑り的勝利を獲得。政権交代に成功しました」

 

「なんと、それは」

 

 まるでおとぎ話の英雄譚の如き話の展開に、悠陽は目を大きく見開きながら驚きの声をあげる。実際、彼女が驚くのは無理もない事であった。

 グアテマラが存在する中南米というのは、人々から「アメリカの裏庭」と揶揄されるように、アメリカからの政治的、軍事的干渉が非常に強い地域だからだ。

 

「ハッハッハ。まさに今の御館様と同じく、当時の世界も驚きに包まれました。何せ世界初の民主的な選挙による社会主義政権が中米に誕生したのですから……」

 

 普段あまり感情を表に出さない飄々とした雰囲気の鎧が珍しく興奮気味に話す姿を見て、悠陽は、(鎧が当時、グアテマラにいたのは、それを調査していたからでは?)と考えた。

 

「しかし、鎧。私は、かつてグアテマラでそのような出来事があった、という事を教えてもらった記憶がないのですが?」

 

「御館様がご存知ないのは仕方がありません。何せその出来事は『意図的に闇に葬り去られた』のですから……」

 

「ッ! それは一体どういう……」

 

「先ほども申した通り、グアテマラが存在する中米は、北米と南米とを繋ぐ結節点、いわば“へその緒“です。そのような非常に重要な場所に、社会主義国家が建設されようとしている。それはすなわち、南北アメリカの分断を意味しました。生産、流通、軍事戦略価値すべてを失うという危機に直面したアメリカは、CIAを使い、グアテマラ国内で“ある作戦“に着手しました。そしてその作戦は見事成功しました」

 

「鎧……アメリカはあの地で、一体何をしたのですか」

 

 先ほどとは打って変わった冷たい言葉で語る鎧。その言葉には、うまく言い表せないほどの恐ろしい何か感じさせられる。しかし、悠陽は話をやめさせようとはしなかった。彼女自身、この話の結末を知りたがっていた。

 そして、鎧は気持ちを落ち着かせようと目を閉じた。あの時、自分がグアテマラが見聞きした事は今でも、脳裏に深く焼きつき、まるで地獄のような出来事をまるで昨日の出来事のように鮮明に思い出す。

 

「ーーグアテマラの新政府及び、それを支持する市民を標的としたCIA主導の『大量虐殺』及び情報工作です」

 

「そ、それは明らかな国際法違反ではないのですかッ!」

 

 『大量虐殺』という国際法違反であり、多くの無辜の民の命を奪う非人道的な犯罪行為である言葉を聞いた悠陽は、怒りの声をあげ、手を震わせる。

 

「はい。……CIAが主導したその一連の作戦のコードネームは『Harvest Program<収穫作戦>』と呼ばれ、グアテマラ国内の右派勢力を扇動し、国内を意図的に無政府状態化に陥らせ、軍部による戒厳令を布告させる。言い換えるならば、軍事クーデターを目的とした作戦でした」

 

「……」

 

「そしてアメリカの思惑通り、作戦は成功。誕生間もない左派政権は、国内の騒乱に対処できずに崩壊。軍部は事態を沈静化させる為の戒厳令を布告。そして暫定政権として当時の陸軍参謀総長を頂点とする国家評議会が成立しました。その後、暫定政権は米州機構にも治安維持部隊の派遣を要請。この要請はアメリカの力ですぐに受理され、アメリカ陸軍戦術機部隊を中核とした多国籍治安維持部隊が派遣されました」

 

「そして大量虐殺は実行され、その事実はアメリカによって封殺された……」

 

「ええ。この結果グアテマラは軍事独裁政権となり、再びアメリカの勢力圏へ戻ってきました。詳細は不明ですが、この騒乱の中で発生した死者・行方不明者はグアテマラ全土で、推定約7万人ではないかと思われております」

 

「なんと愚かな事を……すでにBETAによる侵攻で人類の半数が死に絶えていると言うのに、それを手にかけるとは……」

 

 やはり、人と人は分かり合えないのか?

 同じ星に住む友人として、共に歩めないのか?

 考え方が違うというだけで、人を攻撃するのか?

 現状を維持する為なら、可能性すら潰すのか?

 

 悠陽の心の中に多くの想いが去来しては、強く胸を締め付ける。

 

 しかし、彼女は知らない。これから起こる出来事をーー。そしてその出来事に、『日本帝国が巻き込まれる』ことを……。

 

 

 

 

 

 

 




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