Muv-Luv modeler warfare 作:ガンオタ
第13話 開戦の狼煙
夜空に浮かぶ月が照らす北太平洋上にあるシルトクレーテ島。その周辺海域では、突如世界に出現したその未知の島に対応するために出動したアメリカ第7艦隊第9空母戦闘群による海上封鎖が行われていた。
未知の島『シルトクレーテ島』。そして、その島を実効支配している謎の武装勢力である『レイブンズロック』。一時は武力衝突の可能性すらあったが、米国政府とレイブンズロックとの交渉の末、『双方48時間武力行使を行わない』という条件を交わし、なんとかその危険は一時的にではあるが取り除くことはできた。
だが、これは、これから起こる戦いの前の一時の静寂でしかなかった……。
***
アメリカ第7艦隊第9空母戦闘群所属のミサイル巡洋艦『カール』は、艦隊司令部から発せられた命令に基づき、他の艦艇とともにシルトクレーテ島周辺海域の哨戒任務を遂行していた。
艦橋の外で暗視眼鏡を手に海上の監視を行っていた1人の海軍兵士が、かすかに“エンジン音“らしきものを耳にした。
「どこだ……どこから……?」
そう呟きながら、暗視眼鏡で必死に周囲を捜索するが、エンジン音を発する物体を見つけることができない。しかし、だんだんとそのエンジンが大きくなっていることから、そのエンジン音を発する物体は着実に艦に近づいてきている。
「どこだっ、どこにいやがる!」
大きくなってきたエンジン音を耳にし、焦りだす海軍兵士。そしてようやくそのエンジン音の正体をその目に捉えることができた。
「ーーなっ!?」
その物体をようやく発見した海軍兵士は驚愕する。
それはーー海面を切り裂きながらこちらへと近づく一隻の小型ボートだった。だが、兵士が驚いたのは小型ボートに積まれていた“物体“だった。ドラム缶に取り付けられていた箱状の物体から、それが爆発物であると認識した兵士は急いで上官に報告しようと艦橋に戻ろうとした瞬間、
「は?」
背後で発生した凄まじい爆発音、その直後に発生した爆発と爆風に全身をズタズタにされ、一瞬のうちに絶命した。
***
シルトクレーテ島の地下司令部内は、突然洋上で発生した艦艇の爆発に、オペレーターたちが大騒ぎしていた。
「なんだ! 何が起きた!」
<ーーHQ、HQ! こちら沿岸監視部隊。何が起きた! 船が爆発したぞ!>
<ーー爆発は、こちら側の攻撃か何かか? 状況の説明を求む!>
「わ、わかりません! こちらでも爆発を確認しましたが……!」
「状況確認を急げ!」
「はっ!」
司令官室に座っていた部隊司令官であるハメルもあまりの出来事に目を大きく見開き、驚愕に身を固める。しかし、それも束の間、歴戦の指揮官である彼は席から立ち上がると、眼下であたふたと浮き足立つオペレーターたちを一喝する。
「落ち着け!」
彼の声を聞いたオペレーターたちはびくりと肩を震わせると、一斉に動きを止め、自分たちの司令官に注目する。皆の視線が自分に集まったことを感じたハメルは、気持ちを落ち着かせるため一度大きく息をする。
「いいか、突然のことに私も衝撃を受けている。諸君の動揺もよく分かる。だが、こういう時こそ落ち着くのだ。まずは現時点での情報を集め分析する。作戦展開中の全部隊には警戒体制をとらせろ。それと同時に洋上に展開する米艦の動きを逐一私に報告しろ、どんな些細なことでもだ。最後に間違ってもこちらから攻撃するな。これを徹底するんだ」
「「「はっ!!」」」
ハメルに一喝によって落ち着きを取り戻したオペレーターたちはすぐさま行動開始する。
冷静沈着さを取り戻したオペレーターたちの姿に頷くと、司令官席に再びを腰を下ろす。そして背後に控えていた兵士の1人を呼び寄せる。
「司令、何か?」
「閣下をお呼びしろ。お休みのところ申し訳ないが、ことがことだ。これから先何が起こるか分からん」
「はっ!」
ハメルの命を受けた兵士は、ビシッと敬礼するとすぐさま自分たちの最高司令官であるタクミの元へ向かっていた。兵士を見送ったハメルは、再び視線を正面モニターへと向ける。画面にはメラメラと紅い炎に包まれた米軍の艦艇が映っていた。
「(取り決めの時間が終了する1時間前の爆発。これは事故なのか、それとも……)」
海上で爆発炎上している艦艇を見ながら、ハメルは言いようのない不安に眉を寄せた。
***
「成功したか!」
海上封鎖線の外側に停泊していた帝国海運の貨物船『秋津丸』の艦橋にいた狭間是清(はざまこれきよ)は、自らが計画立案した作戦が計画通りにうまくいったことに大喜びする。
彼の背後に控えていた副官の男もまた喜ぶ。
「どうやらそのようです。しかし、“体当たり攻撃“がこうもうまくいくとは思いませんでした」
「ふ、我ら皇国の兵に不可能なことなどないのだ。それに戦艦というのは、大きく遠距離の物を破壊することはできるが、あのような小型ボートのように小さく高速で動く物へ攻撃することはとても難しい。」
「はっ。是清様のご慧眼見事でございます」
「いや、この作戦に志願してくれた同志の挺身があってこそ作戦は成功したのだ。……それで、“かの者たち“は動いているのか?」
「はっ。先ほど暗号通信で。すでに鳥は放った、と……」
副官の報告を聞いた是清は顔に笑みを浮かべ、「そうか」と一言呟く。そして、はるか先の海上で紅く燃え上がっている米艦から目を逸らすと、足早に艦橋を後にする。
先陣を切って歩く是清の後を副官が追う。
「我らもかの島へ参るぞ」
「はっ」
「良いか、この作戦は我ら……いや、帝国にとって大きな利益となるのだ。かの島にある未知の技術を確保し、それを米国との交渉材料にする。そして我らが待ち望んだ日本帝国の真の独立を勝ち取る。」
「万事心得ております、是清様」
「もはや、属国の誹りは受けん。長く帝国を縛り続けてきた鎖を今宵断ち切り、日本帝国は本来あるべき姿を取り戻す。そして、BETA大戦の一翼をなす」
長い艦内通路を抜けた是清は、貨物ドックのキャットウォークへ出ると、手すりに身を預け、眼下で行われている作業を見つめる。広い貨物ドックでは、皇国の旅団所属の武装兵たちが、ドック中央に固定されている3隻の上陸用舟艇に武器や弾薬を積載していた。
部下たちの姿を目にした是清は、手すりを強く握る。
「(そうだ。これから我らは、人類の歴史に新たな1ページを刻むのだ)」
***
「おい、いったいどういうことだ!! これは敵の攻撃なのか! 副長! 爆発したあの艦の艦名は!!」
「ミ、ミサイル巡洋艦『カール』と思われます!」
第9空母戦闘群所属の戦術機母艦セオドア・ルーズベルトの艦橋では、突然の爆発に関する情報収集を行なっていた。だが、乗組員は皆突然の出来事に浮き足立ち、パニックを起こしていた。
<ーーこちらUSS・ミリアス。一体何が起きた! 詳しい状況の報告を求む!>
<ーーカールとの連絡が全くつきません>
<ーーこれは敵の攻撃なのか!>
海上封鎖を行なっていた他の艦艇からも状況報告並びに指示を求める無線が多数上がってくる。その無線を聞いたセオドア・ルーズベルトの艦長は、艦長席を飛び降りると、通信手から無線機をひったくる。
「USSセオドア・ルーズベルトから作戦展開中の各艦へ! これより、爆発炎上している艦隊所属のミサイル巡洋艦『カール』乗組員の救出を行う! なお、救出を行いながらも、各艦警戒態勢を厳とせよ! 繰り返すーー」
再度命令を繰り返そうとした瞬間、艦橋の窓ガラスが大きく揺れた。それを目にした艦長は通信機の受話器を放り出すと、艦橋を飛び出した。そして物凄い勢いで飛び去った物体を見て、目を大きく見開くと、急いで艦橋へと戻る。
「おい! 誰が戦術機の発進許可を出した!」
「戦術機? いえ、誰も発進許可は出していません」
「なんだと……」
副長の言葉を聞いた艦長は驚愕する。
(見間違い、いや、あのシルエットは間違いなく戦術機だ。しかし、なぜ……)
「今、戦術機と思われる機影を確認した」
「ま、まさか! 誰も発進許可は出していません、艦長」
副長はそう言って艦橋を見回す。
「いや、間違いない。あれは戦術機だ。いいか、全周波数帯で呼びかけろ、そしてあの戦術機を今すぐ呼び戻せ。下手すれば、あの島にいる連中と撃ち合いになるぞ!」
艦長は視線の先にあるシルトクレーテ島を指差しながら、驚愕している通信手に命令する。
「な!」
「急げ!」
「は、はい。こちらアメリカ海軍所属セオドア・ルーズベルト。現在、当該海域上空を飛行中の全航空機並びに戦術機は直ちに、所属と性名を明かし、当該空域から離脱せよ。繰り返すーー」
通信手の呼びかけに対して何も応答がないことに艦長は顔を顰めると、すぐに副長を呼び寄せる。
「いいか、副長。だだちにこの事態を艦隊司令部に報告しろ。そして、応援の艦艇をこちらに向かわせるように言うんだ」
「は!」
艦長の命令を聞いた副長は、すぐさま艦隊司令部へ事態を説明するため通信室へと向かう。副長を見送った艦長は、再び艦長席に腰掛けると、大きく息を吸い込み、激しく燃え上がっている『カール』と、その先にある漆黒の闇に包まれたシルトクレーテ島を厳しい眼差しで見つめるのであった。
ありがとうございました。