Muv-Luv modeler warfare 作:ガンオタ
投稿遅くなりましたが、本年もよろしくお願いします。
第3話 森ではなく、『島』!? その名も『シルトクレーテ島』
メイドと兵士たちに名前をつけ終わったタクミはハメル准将から報告を受けていた。
紅茶を一口含んだタクミはティーカップをテーブルに置くと、目の前に座るハメル准将に問いかけた。
「では、ハメル准将。ここは森ではなく、“島“だと?」
「ええ、閣下。先ほど行ったドローンによる上空偵察の結果、現在我々がいるのは“島“であることが判明しました。こちらが上空から撮影した写真です」
そう言ってハメルは持参したブリーフケースから茶封筒を取り出してタクミに手渡す。受け取ったタクミは茶封筒のなかから写真を取り出すと、テーブルの上に置き、写真を一枚ずつ確認する。
写真には、それぞれ白い砂浜の海岸、深い緑に覆われた森林地帯、草原、岩山、雪山、古い寺院や遺跡などが写っていた。
「島か……ん? 寺院や遺跡なども写っていますが? もしかして人がいるんですか?」
写真を確認している中で、寺院や遺跡などの建築物があることに気づいたタクミは、そう問いかける。
「はっ、ドローンによる上空偵察では確認できませんでした。しかし地上部隊による島内の探索でも、現時点で我々以外の人間もしくはそれ以外の生物との接触はありません。まぁ、今のところですが」
「そうですか……」
ハメルの報告を聞いたタクミはそう言って椅子の背もたれに深く座り込み思考する。
ここが島であることが分かり少し安堵する。なぜなら、ここが他国の領土内であった場合、もし発見された時に非常にまずいことになる。小規模とはいえこれほどの軍事力を持つ武装集団だ。最悪の場合、戦闘状態となり甚大な被害が発生する。
「だけど、他国の領海内の島である可能性もなきにしもあらずだね。 ……それに、僕たち以外に人がいる可能性があるからね」
だが安心はできない。たとえ無人島であったとしてもこの海域がどこかの国の離島という可能性もある。それに島内には古い寺院や遺跡群が存在するということは、人間がいる可能性がある。様々なことを考えていると目の前のハメルが声を発した。
「もし戦闘となれば、我々は持てる全ての戦力で応戦するだけであります。閣下」
「現在の戦力で対応可能ですか? 准将?」
タクミの問いかけに対し、ハメルはいかにも軍人という感じで、脚色せず淡々と現在の戦力について語り出した。
「ええ、閣下。現状の戦力では非常に厳しいでしょう。兵員、武器装備、施設などが足りませんので、戦力の増強を要望します」
「具体的にはどの程度ですか? 准将」
「詳しくはこちらに記載しております。閣下」
そう言ってハメルは持参したブリーフケースのなかから、自分の要望を記載した用紙を手渡した。
記載された用紙の内容を、タクミはブツブツ言いながら確認していく。
「パトリオット防空システムに、対艦ミサイル……それに機甲戦力を含めた地上部隊の拡大、AH-64Dアパッチ攻撃ヘリなどの航空戦力……周辺海域警戒用の哨戒艇、司令部を含めた各種地上施設ーーちょっと時間がかかりますよ、これ? あと要望の兵器によっては、米国以外の兵器になりますが? それでもいいですか? 准将」
戦争を起こせるほどの戦力の要望に、タクミは表情を引き攣らせながらそう問いかける。
所持しているプラモデルやフュギュアによっては米国やロシア、中国、日本などの兵器で代用しなければならないことをタクミは伝える。すると、ハメルは微笑むと「ええ、それで構いません」と答えた。
その言葉を聞いたタクミは大きく背伸びをする。
「それじゃ、さっそくはじめるか」
すぐに製作に取り掛かるため、タクミが立ち上がろうとすると、傍に控えていたバトレーが声をかけた。
「ご主人様、製作の前に気分転換に行いませんか?」
「ん? いいけど……どこか行くの?」
バトレーは顎に手を当て考えると、「そうですね。海を見に行きませんか?」と言った。
「海? 別にいいけど」
敬愛する主人からの了解を得たバトレーはすぐに移動するため、護衛の兵士たちに車両を手配するよう伝える。
「そうだ。せっかくだし、ハメル准将も行きませんか?」
「よろしいのですか? 閣下」
「ええ、いいですよ。准将もこの二日、働き詰めでしょう?」
タクミに召喚されてからの二日間、兵士たちの指揮に島内の探索、主人であるタクミの警護計画の作成などでハメルはずっと働き詰めだった。いくら元がプラスチックのフィギュアで食事も睡眠も不要な体だとしても、すでに意志を持って行動している分、精神のリフレッシュは必要だろうと考えたタクミはハメルも誘う。
自らの主人の誘いにハメルは笑みを浮かべると、「では、ご一緒させていただきますか。閣下」
ハメルと話をしていると、執事のバトレーが戻ってきた。
「ご主人様、車両が到着しました」
「うん。ありがとう、バトレー」
タクミがそう答えると、三人は揃って車両に向かって歩き出した。小道の先にはOD色のハンヴィー三台が停車していた。三台とも地域紛争用に装甲強化されたM1114装甲強化型で、前後の二台のルーフトップには12.7mmM2機関銃が搭載されている。
ハンビィーの周囲で警戒していた海兵隊員一名が歩いてきた。
「閣下、お待たせしました」
「突然のことで申し訳ないね」
「お気になさらず閣下。お呼びとあらばいつでも」と海兵は笑みを浮かべる。
「では、行きましょうか。ハメル准将、バトレー」
「「はっ!(畏まりました)」」
三人は中央のハンビーに乗り込む。
タクミが乗り込む前にバトレーが、さっと後部座席の扉を開ける。
「ご主人様どうぞ」
「ありがとう。バトレー」
フレームで頭をぶつけないように乗り込むタクミ。そしてその隣にバトレーが座る。ハメルは助手席に座った。
三人が乗り込んだ直後、周辺で警戒していた海兵隊員も前後のハンビーに乗り込む。タクミはフロントガラスから前方のハンビーの銃塔に設置されているM2重機関銃に海兵隊員が配置につくのが見えた。
「閣下、発進します」
「了解です」
助手席に座るハメルが振り向き、後部座席に座るタクミにそう伝える。そしてタクミの返事を聞くと運転手に「出せ」と命令する。それを合図に車列はゆっくり目的地である砂浜へ向けて進みだした。
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三台のハンビーは、生い茂った樹木の枝葉によって作られた緑のトンネル道を進んでいく。道と言っても、車両が通った轍であるが。道幅は片側一車線ほどの広さがある。
タクミは車窓から外の景色を眺める。
視線の先には手付かずの自然が存在した。人間の手がまったくついていない剥き出しの自然そのままである森は、植物が陽の光を奪い合った結果、このような世界を創り上げていた。
前世で周囲を山に囲まれた地方の高校に通っていたタクミは、今目の前に広がる自然の光景に少しだけ感動を覚える。ふと、森のなかに兵士の一団がいるのを目にした。緑のベレー帽を被り、背中にはベルゲン・リュックを背負った英国海兵隊コマンドの兵士たちだ。彼らは、M1A1トンプソン短機関銃や弾倉給弾式ブレンガンなどの銃器を手に森のなかをパトロールしていた。彼らもまた、タクミによって実体化された模型兵士たちだ。
車列の先に停車中の装甲兵員輸送車二台がいた。車両は第二次大戦のドイツ国防軍で多数運用されたSdkfz251だ。もとは、1/700シリーズ第二次大戦ドイツ軍用車両セットに入っていたもので、召喚した時に何故か、MP40、MG34、STG44で武装したドイツ軍歩兵部隊も一緒に現れた。
先導していたハンビーが減速する。そして完全に停車すると、警戒中のドイツ兵の一団のなかから、将校らしき人物がハンビーの運転席に近づき、運転手から話を聞く。しばらくすると、将校は敬礼し、車列を通すよう、兵士たちに命令する。
タクミの乗ったハンビーが通りすぎる瞬間、兵士たちは捧げ銃の姿勢で見送った。おそらく、真ん中のハンビーにタクミが乗っていることを聞いたのだろう。
「そこまでしなくていいのに……」
窓から兵士たちの姿を見たタクミがそう呟くと、隣に座っていた執事のバトレーがその呟きに答えた。
「それほどまでに主様の存在は、我々にとって大切なのですよ」
「そうかなぁ? 自分では全然そうは思わないけど?」
「主様は我々が唯一忠誠を捧げることができるお方なのです。そして主様は我々に唯一命令を下すことができるお方で、その偉大なお力を持って模型であった我々に命を授けて下さった。まさにイエスであり、アッラーであり、ヤーハウェであります。そのような偉大なる創造主に、尊敬と崇拝の念を捧げない者がおりましょうか? さらに主様はーー」
タクミの素晴らしさを語るバトレーの頬が興奮のあまり紅くなり、口調も早口になっていく。バトレーの変貌ぶりを目にし、タクミは頬を引き攣らせる。
「(おいおい、なんかさっきと違うぞっ!!)うん、じゅ……十分わかったよバトレー、ありがとう」
「え? そうですか?……畏まりました主様」
タクミの言葉を聞いたバトレーは、まだ喋りたりないとでも言うような表情をする。
そんなこんなで車列は緑の天蓋を抜け、白い砂浜とエメラルド色の海の美しい海岸に到着した。まるでリゾート地のような海岸を目にし、タクミは「オォ〜」と感嘆の声をあげた。そして、外に出ようとドアを開けようとしたが、バトレーに止められる。
「お待ちください。主様」
「なんだい? バトレー」
「まずは警護の兵士たちが周囲の安全を確保しますので、少々お待ちください」
「え〜〜! いいよ別に、この島には僕たちしかいないよ」」
早く外に出たいタクミは文句を言うが、バトレー「駄目です」と言って首を横に振る。
前後のハンビーから護衛の兵士たちが降り、素早く周囲に展開する。
「まだこの島は無人島と決まったわけではございません。兵士たちによる島内の探索は継続中です。どこかに誰かが潜んでいるかもしれません」
「ハァ〜、わかったよバトレー」
タクミは溜息を吐くと、ハンビーの窓から砂浜を眺める。
バトレーは忠実な執事である、常に主人であるタクミの側に控え共に行動する。この二日間で分かったことだが、バトレーは何をさせても完璧にこなす超人のような男だ。炊事洗濯は完璧、料理に至っては和洋中問わず最高の腕前だ。そして驚異的な戦闘能力を持つ(世界中の銃器やナイフを自分の手足のように使う)。そのように完璧なバトレーだが、決してそれを鼻にかけたりはせず、主人であるタクミはもちろん、他のメイドや兵士たちに対しても礼儀正しく応対する。そして問題があれば共に考え、最善の解決策をタクミに提示する。
「(いろいろと僕のことを考えて行動してくれているのは分かっているんだけどなぁ〜)」
そんな超絶最強執事バトレーにも、一つだけ欠点がある。それはタクミに対して異常なほど過保護な、いや『狂愛』とでもいうぐらいの忠誠心の高さである。例えば模型を製作している時にうっかり工具で指を切ってしまった時は、血が滴るタクミの指を舐めようとしたり、タクミが風呂に入ろうとすると「私もご一緒に」などと言いながら服を脱ぎ出したりするのだ。流石に面食らったタクミは
慌ててやめさせ、「これからはキャンピングカーの中には入るな!」と厳命した。それを聞いたバトレーは、『主人を不快にさせるとは、執事失格です!」と言った瞬間、懐から取り出したナイフで自決しようとしたので、慌てて辞めせた。
「(バトレーってもしかして、ゲイなのか? 自分で作っておいてなんだが、なんでこうなるかねぇ〜)」
なんでこんな性格なのかと、彼の創造主であるタクミは心のなかで自問していると、車内無線機に兵士たちからの「クリア」と報告が入った。どうやら安全が確保できたようだ。
助手席に座るハメルが後部座席に振り返り、人のいい笑みを浮かべ「準備ができました。閣下」と言った。
「了解。では行きますかね」
タクミは外に出ると、大きく深呼吸をして、漂う潮の香りを肺一杯に吸い込む。そして吐き出しながら周囲をぐるっと見回す。
視線の先には、果てしなく広がる大海原と白い砂浜、そして雲一つない青空というまるで観光雑誌の一面を飾るような美しい光景が広がっていた。耳には砂浜に打ち寄せる小波が響く。
「いいねぇ〜、気持ちが落ち着く」
「それは良かったです。主様」
主人の感想を聞き、バトレーは笑みを浮かべながらそう答える。
ふと、タクミは砂浜に一匹の海亀がいるのを見つけた。
「お、海亀じゃん」
「産卵でしょうか?」
タクミの言葉を聞いたバトレーが、砂浜をせっせとほっている海亀を見ながらそう口にする。
「あ! そういえばこの島の名前決めてなかったね」
ふと、タクミは、島に名前をつけていなかったことに気づきそう問いかける。うしろに控える二人も思い出したように「嗚呼、そうでしたね」と言う。
「この広い海の先には、もしかしたら僕たちの知らない国や文化、それに人々がいるかもしれない。いずれはその人たちと交流しないといけないから、僕たちもちゃんとした名前をつけないといけないよね」
「そうですな。この世界における閣下と我らの拠点となる島です。しっかりとした名前が必要かと、私も思います」
軍事の最高責任者であるハメルの言葉を聞いたタクミは頷くと、腕組みしながら島の名前を考える。
「(う〜ん。どんな名前が良いかな? 亀は英語でタートル……タートルアイランド? なんか違うなぁ〜、かっこいい名前は……お! そうだ!)」
島の名前としてふさわしい名前が考えついたタクミは、うしろの二人に振り返る。
「決まったよ。この島の名前は『シルトクレーテ島<独語・亀>』にする」
「ドイツ語ですか。主様は外国語に関する知識をお持ちのようですね。このバトレー感服致しました」
島の名前を聞いたバトレーはそう言って、感嘆の声を上げる。
照れ隠しのため、タクミは首筋をかきながら言葉を続ける。
「いやぁ〜、昔見たアニメにドイツ語を喋るキャラクターがいてね。その所為で一時期、ドイツ語や他の外国語に興味を持ってね。それでふと思いついたのさ!」
アニメに登場した戦争狂の大隊指揮官の姿を脳裏に浮かべながら、「むふふ」と胸をはるタクミ。全く役に立たないと思っていたオタク知識が意外なところで生かされたことに喜ぶ。
「それでどうかな? 二人とも」
タクミの問いかけを聞いたバトレーとハメルは、「異論ありません」と口を揃えて答える。
「そんじゃ、シルトクレーテ島の開発をしていきますかね。頑張るぞぉ〜!」
前世でジオラマ製作や箱庭ゲームを数多くやってきたタクミは、興奮を隠しきれず拳を天高く突き上げる。
自分たちの創造主であるタクミの、そんなあどけない姿をうしろから見ているハメルとバトレーは微笑む。
その後、3人は早速、島の開発に取り組んでいくのであった。
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日本帝国・神戸港<1995年4月15日>
日本帝国の第一帝都に本社がある海運会社。帝国海運の社員である小川和正<おがわかずまさ>は、貨物船秋津丸<あきつ丸>の上部甲板から神戸港を眺めながらタバコを燻らせていた。深夜とはいえ、神戸港の向こうにある街からは、夜の灯が思い思いに煌めき輝いていた。
「ん?」
自分の方に近づいてくる足音に気づき、そちらに視線を向ける。そこにいたのは自分と同じ作業着を着用した後輩の田島がいた。
後輩の姿を見た小川は腕時計をちらっと見ると、苛立ってタバコを口から話す。そして「出港時間をすでに30分は過ぎてる」と不安げにつぶやいた。
「まさか、“まだかかる“なんて言わないよな? 田島よ」
田島は眠たげなどんよりとした眼差しで、先輩のぼやきに軽く首を横にふると、「出港の許可がようやく降りたようですよ。さっき船長たちが言ってました」と答えた。
「そうか……んじゃ、機関室に行くか」
田島の言葉を聞いた小川はそう言って、作業着のポケットから取り出した携帯灰皿にタバコを捨てる。そして田島を連れ、船での二人の職場である機関室へ向かう。
「そういや、先輩聞きましたか?」
機関室へ向かう途中、背後を歩いていた田島が声をかけてきた。小川は立ち止まらず、ぶっきらぼうに聞き返す。
「何をだよ?」
「ええ、なんでも、太平洋に“新しい島“ができたみたいですよ」
「はぁ? 新しい島って、なんだそりゃ?」
馬鹿馬鹿しい、島が突然できる訳ねぇだろうが、と心のなかでツッコミを入れる小川。
田島という男は、この貨物船秋津丸のなかで一番若いため、古参の船員たちからよく揶揄われる。本人自身もそれを気に入っており、食事中や休憩中に冗談や馬鹿話などを話す。いつもの小川ならば冗談の一つくらい返すが、なにぶん今はこれから機関室で行う作業手順を寝不足で鉛のように重くなった脳みそで必死に思い返していたので、右から左へ聞き流していた。
「大きな島と小さな島で構成されていて、だいたい……面積が併せて約2000平方キロメートルの大きさらしいです」
「何寝ぼけたこと言ってやがる。島が突然できる訳ねぇだろうがよ」
自分の言ったことが寝言だと思われていることに田島は、「ムッ」とする。
「本当なんですって、船長たちがそう言ってたのを聞いたんです」
「はいはい、わかったわかった。ほら、俺たちの職場についたぞ」
機関室に到着した小川は、そう言って田島の方に振り返る。
「休憩中聞いてやっから、さっさと中入れ、すぐに始動始めるぞ」
小川の言葉を聞いた田島は「絶対ですよ!」と言いながら、機関室に入っていく。そんな後輩の姿を見た小川は、やれやれと肩をすくめ自分も中に入って行く。
それからまもなく、貨物船秋津丸は、太平洋に建設された食糧生成プラントに向けて出港した。