Muv-Luv modeler warfare   作:ガンオタ

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遅くなり申し訳ありません。
今回はホワイトハウスが舞台になります!


第4話 魔窟

第4話 魔窟

 

 アメリカ合衆国・ホワイトハウス<1995年4月18日ワシントンDC>

 

 ホワイトハウスーーその威風堂々たる白亜の建物の中では、合衆国大統領を中心とした政府によって、日々多くの国内外の問題に対してのアメリカ政府の立場を決定している。そこで決定されたことは国内でけでなく、世界の政治経済、軍事戦略に多大な影響を及ぼす。ーーまさに超大国アメリカを象徴する存在である。

 

 アフリカ系アメリカ人として、初の下院議長を務めるアーサー・トランブルは、ホワイトハウス西棟にある大統領執務室のソファーに腰を下ろし、ジョン・レーガン大統領とジェイク・カールッチ国家安全保障担当官と会談を行なっていた。

 執務室の中は、暖かな春の陽気が窓から差し込み、本来であれば和やかな気持ちになるはずだが、室内には殺伐とした雰囲気が漂っていた。

 

「カールッチ補佐官、ご説明いただけますかな?」

 

 アーサーは、机を挟んで座るジェイクに、現在アメリカが直面する安全保障上の『脅威』についての説明を求めた。大学で政治学と国際関係学を修め、若くして国防及び外交における安全保障担当官を務めるジェイクは、気持ちを落ち着けるために小さく深呼吸すると、『脅威』についての説明を開始した。

 

「三日前のことです。軍の偵察衛星が太平洋上に約2000平方キロメートルの面積を持つ群島を発見しました。これがその島の写真です」

 

 ジェイクは持参していたブリーフケースから茶色のレターケースに挟まれた写真と資料をトランブルに手渡す。アーサーはスーツの内ポケットから愛用の老眼鏡を取り出し、写真に写っている島嶼及び情報部が作成した資料を確認する。

 そして、情報を全て脳に刷り込むかのように、ブツブツと資料に書かれている情報を読み上げる。

 

「島の内陸部には広大な森林と湖……『地球と同じ文化歴史背景を持つとされる遺跡が確認される』か」

 

「問題なのは、その次の資料に記載された内容です」

 

 そう言われ、資料をめくるとそこに記載された情報と添付された偵察写真を見て、アーサーは強い衝撃を受けた。そしてゆっくりと資料から目を離し、「ーーこれは事実かね?」と一言発した。

 

「ええ……そこに記載されている内容に間違いはありません。トランブル議長」

 

 アーサーのその一言にジェイクがそう答えた後、中央の肘掛け椅子に座っていた大統領のジョンが「アーサー」と声をかけた。ーー大統領を務めるジョンは、ホワイトハウス内で声をかけるとき、親しみやすいようにファーストネームで声をかける。

 自身の名を呼ばれたアーサーは、ジョンに視線を向けた。

 

 大統領を務めるジョン・レーガンは、大統領のなかで歴代3位の69歳という年齢で大統領に就任したが、少しもそれを感じさせない、はっきりとした口調で語り出した。

 

「驚くのも無理はない。私も最初に『それ』を見た時は、我が目を疑ったよ……発見からわずか、24時間で島の各所に空港や港、それに居住区と思われる建造物。そして、『ミサイル』が配備されていたんだからね」

 

 ジョンの言葉を聞いたアーサーは、再び資料に目をやった。添付された偵察写真には、おそらく情報部の分析官が書き込んだのであろうか、赤ペンでいくつも囲まれた箇所があった。不鮮明だが、空港や港、居住施設、そして大型のトレーラーに積載されたミサイルらしき兵器と、それを補助する通信車両や管制制御車両などが確認できた。

 

「偵察衛星を含む警戒監視網と、CIAと軍情報部の情報網に少しも引っかからずに、このような大それたことをできる国が、この世界に存在するかね? ソ連は国土の大半をBETAによって失い、アラスカに避難、今や隣人も同然。欧州も同じく英国以外は、アフリカなどの旧植民地国やグリーンランドに退避している。アジアも似たようなものだ」

 

 ジョンは話のなかで、若き日に俳優として活躍したためか、よくユーモアや韻を混ぜたりする。ジョンの話をそこまで聞いたアーサーは、ジョンに問いかけた。

 

「各国はなんと? 仮にもこれほどの軍装備品を保有する組織です。ひとつの組織……いや、組織ではなく国家規模の支援がなければ無理なはず」

 

 すっかり緩くなった紅茶で喉を潤していたジョンは、目でジェイクに合図をする。「あっ、はい……」とジェイクは返事をすると、ブリーフケースから報告書をとりだし、読み上げる。

 

「えー、国務省や国防総省、それにCIAやNSAなどの公式非公式問わず、さまざまなラインで各国の政府、軍関係者に確認をしましたが、いずれも関与を否定。逆にこちらに聞いてくる有様です」

 

「そうか……」

 

「ーーまぁ、仮に関与があったとしても、正直に認めること絶対にあり得ないでしょう。一応テロの可能性も考え、CIAとNSAが海外の政治的もしくは宗教的な過激思想を掲げる組織を、FBIが国内の急進的な宗教カルトや環境保護団体などの組織や個人を調査しましたが、どの組織もこのような事を起こせるような組織力も資金力もありませんでした」

 

 説明を終えたジェイクは、まるで、お手上げです、というように軽く肩をすくめた。そして紅茶を飲み終えたジョンが、ティーカップをテーブルに置き、今後の動きについてアーサーに説明を始めた。

 

「すでにパールーハーバーの海軍基地から、第7艦隊所属の第9空母戦闘群を周辺海域の海上封鎖のために出撃させた」

 

「“海上封鎖“……しかし、それは性急すぎるのでは? 私は、あまり良い方法とは思えません。まずは海上からの警戒監視と情報収集を実施すべきです。もし相手が我々の“ハッタリ“『ーー誰が、ハッタリだと?』!?」

 

 大統領ジョンの言葉に、アーサーは一瞬、言葉を詰まらせる。

 

「アーサー、我々合衆国は自由主義世界の指導者として、それを信奉する政府とその国民を守護する義務があるのだ。現在、終わりの見えないBETAとの戦いに有効的な解決策を見出せない各国政府に対して、キリスト教恭順派などによるテロ攻撃が頻発している。卑劣なテロリズムには断固とした態度で、それに“ふさわしい対応“を世界に示すことで、悪意あるものたちへの牽制になるのだ」

 

 ジョンは、まるでヒーロー映画の主人公のような口調で、そう語るが、かつて弁護士として多くの訴訟に関わってきたアーサーは論理的に、そして冷静に反論する

 

「大統領が仰ることの意味は十分わかります。その“ふさわしい対応“を取るためにも、まずは情報収集活動及び各国政府、国連との情報共有を行うことが大切では? ですので、私は現状、相手を過度に刺激する行動は“ふさわしい対応“とは思えない、と愚考します」

 

「アーサー……世界はいま、混沌としているのだ。すでに我が国を含め多くの国で、現状に不満を持つ“難民や市民“による犯罪や暴動が起こっている。ここで秩序を失えば、世界は崩壊する」

 

 大統領のその言葉を聞いたアーサーは、難民や市民を、暴徒や犯罪者と同一視しているジョンの姿勢に怒りを感じ、拳を強く握り締める。そして、キッパリと言い切る。

 

「大統領、市民や難民を、犯罪者や暴徒などと同一視するそのお考えはお辞めください。それは危険な考えです」

 

 アーサーのその言葉に、ジョンはまるで、しまった、とでもいうように手を顔に当てる。

 

「すまない、少し熱くなっていたようだ。申し訳ない、アーサー」

 

「いえ……大統領」

 

 しばしの沈黙に支配される室内だったが、意外にもその沈黙を破ったのは補佐官のジェイクでだった。

 

「お二人とも少々、話が脱線しているよで……大統領、私の方からトランブル議長に説明を行っても?」

 

「ああ……頼むよ。ジェイク、では私は先にシチュエーションルームに向かうことにするよ」

 

 ジョンはそう言って、席を立ち上がると、警護官に連れられ、地下のシチュエーションルームへ向かった。

 アーサーは、政府の今後の方針と議会対応についての説明を受けた。

 

 

<ホワイトハウス西棟・閣議室>

 

 アーサーへの説明を終えたジェイクが、閣議室に入るとなかにはジョンが、備え付けの窓から外を眺めていた。ちなみに室内は二人だけである。

 気配を感じたのか、ジョンは振り向かずに声をかける。

 

「それで、アーサーはなんと言ってきたのかね?」

 

「ええ、“できる限り協力はする“と」

 

 その言葉を聞いたジョンは、「フン」と鼻を鳴らす。

 

「“できる限り“ねぇ。それで、何を要望してきた?」

 

「“対策会議に参加させろ“と、ホワイトハウスと議会の緊密な連携のためにと」

 

「おいおい、それは困るねぇ。だいたい下院議長にそんな権利はないだろう?」

 

 現在対策会議はホワイトハウス西棟の地下にある広さ513.2平方メートルの会議室と情報管理センター機能を備える地下施設で行われている。メンバーは大統領を含むホワイトハウス高官、軍トップの統合参謀本部議長、CIA長官などで、本来下院議長は含まれていない。

 

「もちろん、安全保障上の理由から拒否の意思を伝えましたが……」

 

「のらりくらりとかわされた、と?」

 

「ええ、申し訳ありません。大統領」

 

 ジェイクは申し訳なく顔を俯かせる。しかし、ジョンは振り向くと、若いジェイクの肩に手を添えて励ます。

 

「そう気を落とすことはないさ、あの男をコントロールできる者などいないよ。まぁ、いざとなったら、“この情報“で取引するしかないね」

 

 そう言って、ジョンがスーツの内ポケットから取り出したのは、一枚の写真だった。写真には島の内陸部で建設作業に従事している“戦術機らしき“機体が写っていた。

 

「それにしても、どこの機体だろうか?……実に興味深いね」

 

「我が国や諸外国が運用する戦術機とは、似ても似つかない姿ですね。まぁ、研究途中もしくは退役したものが横流しされたとも考えられますが」

 

 ジェイクの言葉を、ジョンは笑いながら否定する。そしてざっと自分なりの分析を語り始めた。その姿はまるで新しいおもちゃを見つけた子供のようである。

 

「ハッハッハッ……まさか、素人の私でもわかる。これは明らかに別物だよ。装備する火器も、現行の36mmや120mmと比べて明らかに高火力だ。そんな代物を開発できる技術や人的資源は残念ながら、我が国を含め諸外国にもないだろう」

 

「まさか、そんなことは……!」

 

 国家安全保障担当補佐官として、日々、国防や外交に関する情報に接しているジェイクは分析に驚きの声を上げる。

 BETAによって領土と国民、そして経済活動に必要な産業基盤の大半を喪失した欧州やソ連は確かにそうだろう。唯一考えられる国として、日本が考えられるが、政財界のほとんどにCIAの協力者がいるため、何かしらの動きがあればすぐに分かる。

 

 

「ーーさて、話は変わるが。以前君に頼んだ“日本人形“は見つかったかね?」

 

「時間が少しかかりましたが、お探しの日本人形はすでに“出荷“され、お孫さんの“誕生日“には届くかと」

 

 その言葉を聞いたジョンは笑みを浮かべ頷く。

 

「それでーー店主はなんか言ってかね?」

 

 ジョンの問いに対して、ジェイクは笑みを浮かべながら答えた。しかし、その笑みからは“人間の暖かさ“が感じられなかった。

 

「ーーええ、店主曰く“この度で閉店することになったので、代金は結構“とのことでした」

 

「そうか……それはとても残念だ」

 

「ええ、本当に」

 

 その後、二人は揃ってホワイトハウス地下のシチュエーションルームへ向かっていくのであった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございました。

登場人物紹介

ジョン・レーガン大統領〈性別•男 69歳〉
職業 アメリカ合衆国大統領〈共和党〉
参考容姿 ロナルド•レーガン元大統領
備考 オルタネイティブ5推進派

ジェイク•カールッチ〈性別•男 48歳〉
職業 国家安全保障担当補佐官
参考容姿 ジェイク•サリバン現国家安全保障担当補佐官
備考 オルタネイティブ5推進派

アーサー•トランブル〈性別•男 67歳〉
職業 アメリカ下院議長〈民主党〉
参考容姿 モーガン•フリーマン〈アメリカハリウッド俳優〉

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