Muv-Luv modeler warfare   作:ガンオタ

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投稿が遅くなり申し訳ありません。


第5話 報告会

第5話 報告会

 

<北太平洋海中 1995年4月23日>

 

 約1億5555万7千平方キロメートルの面積を持つ海、太平洋。その太平洋は赤道によって北と南に分けられるが、俗に北太平洋と呼ばれる海域の海面下200メートルの海中を一隻の潜水艦が悠然と進んでいた。

 USSフロリダ(SSGNー728)は、オハイオ級原子力潜水艦の4番艦として、本来、大陸間弾道ミサイルであるトライデントSLBMシステムを搭載していた。しかし、冷戦終結後に締結された核軍縮条約によって、それまで24基あったICBM発射筒の代わりに、22基のトマホーク巡航ミサイル発射筒と潜航状態において、ダイバーの出入艦を可能にするエアロック及び小型潜水艇の格納庫通称DDS(ドライデッキシェルター)を搭載した巡航ミサイル潜水艦(SSGN)に改造された。

 4層構造の艦内では、合計159名の乗組員達がそれぞれの持ち場で配置についていた。その潜水艦の頭脳といえる最上部中央の司令室では、米海軍の綿製の紺のつなぎに身を包んだ艦長と副長の2名がフロリダの今後の行動について話し合っていた。二人の周囲では乗員達が最新鋭の精密機器と共に艦内の任務についていた。

 フロリダの艦長でタクミから“ダドリー・モートン"と名付けられたモートン艦長は、机を挟んで自分と向かい合う副長の“リチャード・オカーンに「副長、我が艦の現在位置は?」と問いかけた。

 

「ハッ、本艦は速力20ノットで航行中です。現在位置はこのあたりです」

 

 そう言って、副長のリチャードは海図を指差す。

 

「フム。ミッドウェー諸島の近くか……まさか、我々がいるのが『地球』とはね」

 

「これまでに収集した情報から考えて、地球で間違いないかと。……収集した情報は、すでに司令部へ報告済みです」

 

 リチャードの言葉を聞いたモートンは、仕事が早いな、と心の中で褒める。

 

 二人が指揮するこのUSSフロリダは、もとは1/350スケールの潜水艦プラモデルであったが、ハメルの要望を受けたタクミによって、製作実体化。現在は本拠地であるシルトクレーテ島がある北太平洋での哨戒任務に就いていた。

 リチャードの説明を聞いたモートンは頷くと、手にしていた報告書を確認しながら話を続ける。

 

「しかし、閣下の転生先が地球とは。ーーしかも平和とは程遠いエイリアンとの戦争真っ只中。この報告書を読んだ時にはひどい冗談かと思ったが、これを見たらそうも言えなくなった。」

 

 そう言ってモートンは報告書に添付された衛星写真を見つめる。写真には禍々しい外見をし、見る者に嫌悪感を抱かせる多数の生物が土埃を巻き上げながら、地上を疾走していた。

 

「その衛星写真を確認した閣下曰く、そのエイリアンはこの世界では『BETA(人類に敵対的な地球外起源種)』というらしく、1973年に中国のカシュガルに最初の降下ユニットが着陸して以来、人類はBETAとの絶望的な全面戦争を続けているそうです。ちなみその写真の場所は、中国のかつての首都であった北京です」

 

 リチャードの説明を聞いたモートンは目を細め、もう一枚の写真を見る。その写真にはまるでSF映画に登場しそうな人型ロボットが写っている。

 

「そのBETAに人類が唯一対抗できる兵器というのが、この戦術機と呼ばれる人型ロボットか。まるでSF映画の世界だな……」

 

「偵察写真を最初見た閣下はすっ転んで、大声で「マブラブかぁぁあ!!」と叫んだらしいですよ」

 

「ほう、それは私も見たかったな。ーーん? なんだそのマブラブというのは?」

 

「はい。閣下が前いた世界の日本で、昔放送されていたロボットアニメのタイトルらしいです。正式タイトルは『マブラブオルタネイティブ』です。先ほど送られた資料も、閣下から提供された『マブラブ公式設定資料』を元に司令部が作成した物です」

 

 このリチャードの言うとおり、執務室でせっせとプラモを製作していたタクミはこの事をバトレーから聞いた瞬間、絶叫しながら椅子から転げ落ちた。そして慌てて幹部たちを招集すると、コミュ障ながらも公式設定資料片手に自分たちがいる世界と取り巻く情勢を事細かく説明した。

 事態の深刻さを理解した幹部たちはすぐさま対BETA戦に向けた戦術及び戦略の策定に取り掛かり、作戦行動中の全部隊にも情報が共有された。

 

「オルタネイティブ『二者択一』か……ふ、皮肉だな。我々には戦うか、滅びるかのどちらかの選択肢しか存在しないという事か……」

 

「……1995年現在、これまでのBETA侵攻によって、ユーラシア大陸はほぼ失陥。戦線はすでに朝鮮半島北部まで後退しています。報告書では2年後の1997年には朝鮮半島が陥落、そして対馬海峡を渡って来たBETAによる日本侵攻が開始されると書かれています。」

 

 いつの間にか二人の会話に聞き耳を立てていた乗員達は必死に冷静さを保ってはいるが、動揺を隠しきれない何人かの兵士達は顔を俯かせている。彼らも数時間前の艦内ミーティングで説明を受けていたが、副長の言葉を聞き改めて自分達が置かれている状況の悲惨さを実感する。

 BETAの中にはレーザー級なる生物がおり、それから発せられたレーザーによって飛行機やミサイルなどの航空兵器が無力化されているのだ。

 重苦しい空気に包まれた司令室だったが、それを破ったのは他でもない艦長であるモートンだった。

 

「我々は軍人だ。戦わず敵に降伏しはしない……それに我々には閣下という強い味方がいるんだ。副長も見ただろう? 閣下が作られた“モビルスーツ“を」

 

「はい。自分も最初にあれを見た時は、とても驚きました。レーザー兵器を装備し、ありとあらゆる環境下でも行動できるという人型機動兵器。ーー閣下いわく、この世界の主力兵器である戦術機と比べて、その汎用性、生産性、運用性において雲泥の差がある、と」

 

 出港の前日に彼らはタクミによって建設された海軍基地で、他の兵士たちと共にモビルスーツを初めて目にした。タクミからは「作業及び防衛のために用意した」と言われたが、軍人である彼らはそれを一目見て理解した。

 

ーーこれは我々の常識を覆す存在であり、そしてそれを簡単に作り出せる『タクミ』もまた規格外の存在だと。

 

「すでに閣下と司令部によって、モビルスーツを軸とした新たな戦術及び部隊の編成が始められている。もちろん海軍に配備される水陸両用モビルスーツ部隊も編成中だ」

 

「「「オォオ!」」」

 

 モートンの言葉を聞き、乗員たちは驚きの声を上げる。先ほどまでの重苦しい空気はすでになく、代わりにモビルスーツという物をいとも簡単に作り出したタクミの力に畏怖し、そのような強大な力を持つ人物が自分たちのそばにいる幸運を喜ぶ。

 だが喜びに包まれた司令室に、ソナー室からの「感あり」の報告が入る。

 

「ッ! 艦長! ソナーに感あり」

 

「何、近くか!?」

 

 慌てて報告をした兵士の近くに歩み寄るモートン。

 

「いえ、本艦よりだいぶ離れています」

 

「艦の種類は?」

 

「おそらく、大型船舶です。……数は複数です」

 

「引き続き警戒し、何かあればすぐに報告しろ」

 

「了解」

 

 ソナー員にそう伝え終えたモートンは元の位置へ戻ると、リチャードが眉をよせ、海図を深刻そうに見つめていた。

 

「副長、どうした?」

 

「艦長、その……針路を考えてみたのですが。もしやそいつら、我々の所へ向かっているのでは?」

 

「ふむ。そうだろうな。おそらく、本島に向かっているのだろう。すぐにこの事を司令部へ報告する」

 

 モートンは向き直ると、司令室内の乗組員達に命令する。

 

「本艦はこれより、司令部への報告を終えた後、不明船団の追跡任務を開始する」

 

 

「「「「了解」」」」

 

 その後、USSフロリダは一気に潜航深度ギリギリまで艦を潜航させると追跡任務を開始した。

 

 

 

<同日 シルトクレーテ島 タクミ邸>

 

 タクミは、シルトクレーテ島北部の森林に建設された豪勢な邸宅から、広大な自然を見下ろしていた。遠くには太平洋が見える。

 手付かずの森に囲まれたこの邸宅は、もともとジオラマの邸宅だったのだが、実体化後に色々と増改築を繰り返した結果、敷地総面積7000ヘクタールという東京山手線の内側より広い大豪邸になってしまった。敷地内にはヘリポートや劇場、使用人達が住む館などがある。

 ふと、部屋の扉をノックする音がし、振り返ると執事であるバトレーの声が聞こえた。

 

「ご主人様、報告会の準備ができました」

 

「了解。すぐ行くよ」

 

 タクミはそう答えると、部屋の扉を開ける。そこにはいつものようにシワひとつない黒の燕尾服に身を包んだバトレーが笑みを浮かべ立っていた。

 

「それじゃ、行こうか。バトレー」

 

「はい。ご主人様」

 

 会議室へ続く廊下を黙って歩く2人。埃一つ落ちていない廊下を歩いていると、前方から1人の女性メイドが歩いてきた。

 癖のない金髪を肩口で切り揃えた顔立ちのはっきりとした女性だ。着ているのはメイド服で、エプロン部分が大きくスカート部分は長らく落ち着いたもの。

 身長は170cmほどで肢体はスラリと伸び、豊かな双丘がメイド服の胸の部分をおしのけんばかりに自己主張していた。

 全体の印象としてはお淑やかなメイドだった。

 やがて互いの距離が近づくと、前方にいたメイドは通路の隅に寄り、タクミに対して深いお辞儀をした。

 タクミはそれに笑顔で応える。

 このメイドもタクミによって生み出された女性フィギュアで、この広い屋敷に数多く勤める使用人の1人だ。自分で生み出しておいてなんだが、しげしげとメイドを眺める。

 タクミに見つめられメイドは、顔を赤くしながら声を発する。

 

「あ、あの、タクミ様。私めが何かご無礼を……」

 

「ん? ああ……ごめんよ。そうじゃないんだ。君にちょっと見惚れてただけだから、お仕事いつもありがとう。」

 

 タクミの言葉に頬を紅く染めるメイド。そしてすぐに感謝の言葉を述べる。

 

「/////……ありがとうございます、タクミ様」

 

「うん。それじゃ」

 

 メイドに労いの言葉を掛け、その場を後にするタクミ。しばらくすると、背後を歩くバトレーが声をかけてきた。

 

「さすがですご主人様です」

 

「ん? 何がだい?」

 

「いえ、あのように労いの言葉を掛ける、そうする事で人心を掌握する。さすがであります。」

 

 どうやら先ほどのメイドとの会話を、人心掌握術か何かと考えていたようだ。

 バトレーの言葉を聞いたタクミは「それは違うよ」と答え足を止める。そして廊下の窓に近づき、綺麗に整えられた庭園を眺める。この屋敷の広い庭園にはぶどう、イチジク、アーモンド、アプリコット、オレンジなどの果物の他、チューリップなどの彩り豊かな植物が植えられていた。もちろんタクミが携帯で、種や苗木を召喚して植えた物だ。

 

「(植えて一晩でこれほどまで成長するとは。ーー本当チートだよ)」

 

 植物を一晩でこれほど実らせる事ができるこの島の土壌が凄いのか、神様に改造され何でも召喚できる携帯電話が凄いのか……。

 

「(まぁ、絶対後者だけど……ん?)」

 

 庭園を眺めながら、そんな事を考えていると屋敷の使用人である庭師たちが剪定用具を手に伸びた枝葉を切り、造園に励んでいた。そのすぐ傍の小道には黒いスーツを着用した複数の警備員が巡回していた。手にはP90を握っている。

 

「僕はプラモ作りしかできないからね。……だから、その他の事はみんな、彼ら彼女らに任せっぱなし。感謝するのは当然の事だよ」

 

「……」

 

「さて、皆んなが待っているから急ごう」

 

 タクミはそう言って再び歩き出した。その後ろ姿をバトレーは見つめる。

 

「(……本当にお優しい人だ。この世界に転生され、まだ日が浅いというのに……皆がご主人様のように分け隔てなく優しくできる人間は少ない。それにまだ16歳。人の上に立つにはあまりにもお若く、そして背負っている物はとても大きい。ーーだからこそ私達がお支えしなければ!)」

 

 心の中で固くそう決心するバトレー。すると自分の背後にいない事に気づいたのか、前を歩いていたタクミが振り返り「ちょと、バトレー何やってるの? おいてくよ」と声をかけてきた。

 

「ハッ! 私とした事が……申し訳ありません、ご主人様」

 

 気を取り直したバトレーは急いで、タクミのもとへ向かう。

 

 会議室に入ると、すでに主だった幹部達は集合していた。

 タクミの姿に気づいた幹部達は席から立ち上がり、自分達の主人であるタクミに敬意を示す。その敬意に対して、タクミは恥ずかしさを隠すように頭を掻くと、「どうぞ、座って」と着席を促す。

 タクミは上座に設置された肘掛け椅子に座り、バトレーはその側に立ったまま控える。

 そして、着席して開口1番、報告会に集まってくれた幹部達に感謝の言葉を述べる。

 

「今日は皆、忙しい中集まってくれてありがとう」

 

 タクミのその言葉に対して、彼の右斜め前に座るハメルは「いやいや」と言いながら笑みを浮かべる。

 

「閣下、我らにそのような言葉は不要です。以前申し上げたように、閣下に召喚された我々が、閣下の為に働く事はごく自然な事です」

 

「それでもですよ、ハメル司令。ーー僕ってプラモ作りしかできませんので、それ以外の事は、皆に実質丸投げ状態。こういう時しか感謝を言えませんからね」

 

 この一週間でタクミが行った事といえば、司令官のハメルが要望する陸上兵器、航空兵器、海上兵器などのプラモデルを制作し実体化した

事と、執事兼専属秘書であるバトレーが持ってくる各種書類の確認などの簡単な事ばかりだった。組織の編成運用は、ほぼ幹部達が取り仕切ってくれた。

 

「閣下から感謝の言葉を頂けるだけで、我々の苦労は報われます。本当に……さて、早速説明を始めてもよろしいですか?」

 

「はい。お願いします」

 

 タクミの言葉を聞いたハメルは会議の進行役を務める将校に頷く。直後、会議室天井のシャンデリアの照明が落とされ、室内は薄暗くなった。

 

「では報告を始めます。まずはシルトクレーテ島の開発状況について報告します。正面のスクリーンをご覧くださいーー」

 

 そして、幹部達による報告会は始まった……。

 

「(それにしても、この世界に転生してから、わずか一週間の間にすごく様変わりしたなぁ〜)」

 

 幹部達の報告を聞きながら、タクミは心の中でそう呟く。

 わずかな1週間足らずで、無人島だったシルトクレーテ島は驚愕の変貌を遂げていた。荒地にはアスファルトの道路が敷かれ、海岸には巨大なクレーンをいくつも備えた港、島の内陸部には大小様々な滑走路を備えた空港などの近代的な島になっていた。

 

「(しっかしこれは少しやりすぎじゃないか? 今更だけども……)」

 

 プロシェクターには、多数の重機と作業員が活動する建設現場、完成しすでに稼働中の工場などの写真が次々と映される。

 

「建設要員として実体化させた作業員達は、重機をうまく使って工事してるようだね」

 

 油圧ショベルやブルドーザーを操縦する作業員達の写真を見ながら、タクミはそう呟く。

 召喚した時はどうなる事やらと心配していたが、作業員達は大きな事故や怪我もなく、重機を使いこなし、効率的に作業を行なっている。

 タクミの安堵の声を聞き、同じく会議に参加していた“一人の幼女“が言葉を返した。

 

「は。閣下から提供して頂きました労働者は文句も言わず、命令を忠実に遂行してくれるため、工事は順調に大きな遅滞なく進行中であります。これもひとえに閣下の多大なるご支援とご配慮のおかげかとーー」

 

 その口調には一切の感情の起伏がなく、ただこれまでの成果を淡々と報告していく。そして最後は上司を立てる事も忘れない。そのようなエリート社員を連想させる金髪碧眼の幼女。ーー名は『ターニャ・フォン・デグレチャフ』。

 

「それで、ターニャ局長、戦略後方支援局に属する作業員達に異常はない?」

 

 ターニャの言葉を聞いたタクミは、作業員達に異常がないか気になりそう聞き返す。

 

「はい。創設時に閣下から下された命令通り、作業員達の身体並びに健康状態の管理は欠かさず行なっております。作業時間は8時から18時までの間。その後は23時の消灯まで自由時間としています。食事は3食栄養バランスを考えたメニューを提供しています」

 

「そうですか。何かあればすぐに報告を」

 

「は。委細承知しました、閣下」

 

 タクミの指示を聞いたターニャはそう言って一礼する。

 

 ターニャ・フォン・デグレチャフはライトノベル小説『幼女戦記』に登場する主人公で、小説の中で、エリート社員として働いていたが、彼によって無慈悲にリストラされた元同僚によって駅のホームから突き落とされるが、死の間際存在Xによって魔法技術が発達した帝国という国ーードイツ帝国に酷似した国ーーの赤子に転生させられる。そして帝国軍士官学校に入学。高い状況判断能力と冷酷とも言えるほどの徹底した合理主義思考でわずか9歳で将校となった。士官学校卒業後は、安全な後方勤務を望んでいたが、存在Xの介入によって地獄の西部戦線の最前線へ送られる。

 しかし西部戦線において、その合理的的かつ柔軟な思考、時にリスクを顧みない決断力を遺憾無く発揮して数多の戦場を駆け回りその武勲は帝国の生ける伝説となった。まさにハメルに継ぐ傑物。

 

「(それにしてもかっこいいな。もとが原作小説のフィギュア付き特装版のターニャで、ドイツ国防軍を模した軍服の上に黒い外套をマントみたいに羽織っているから、余計かっこいいんだよね〜)」

 

 タクミは会議室に来る前に通路ですれ違ったメイドのように、ターニャの事をジロジロと見ながらそんな事を考えていると、視線に気づいたのか、ターニャが眉をよせ「小官の顔に何か?」と聞いてきた。

 

「ああ、すみません。その……戦略後方支援局はどうです?」

 

「は、万事滞りなく。閣下に提供していただいた最新PCや各種OA機器のおかげで、部下達も効率的に日々の業務に取り組めています。これも小官の要望を聞き入れてくださった閣下のおかげであります」

 

 先ほどと同じような口調でそう答えるターニャ。もちろん最後に上司を喜ばせるヨイショも忘れない……。

 ちなみにターニャが局長を務める戦略後方支援局とは、島の開発のために創設した組織である。任務内容はハメルが司令官を務める戦闘部隊の兵站補給衛生などの後方業務、そして各種生産施設やインフラ施設並びに軍事基地の建設も行う。組織のモデルは第二次大戦時に編成されていたドイツのトート機関だ。

 イメージとしては戦闘全般がハメル、後方支援がターニャという区分けだ。

 

「小官に局長という地位を授けてくださりと、望外の喜びであります」

 

「うん。ターニャ局長には期待していますよ。だけど、あまり無理しないように……」

 

 だんだんとターニャのヨイショが熱を帯びてきたため、タクミはそこで会話を切り、司会進行役の将校に会議を再開するよう頷く。

 

「あ、はい。では次に戦闘部隊を指揮するハメル司令お願いします」

 

 司会進行役の将校はそう言って、プロジェクターの画面は切り替える。次に写し出されたのは、島の防衛を担う戦闘部隊の配置図だ。

 報告者であるハメルは、自身が指揮する戦闘部隊の配置場所をレーザーポインターで指し示しながら説明を始めた。

 

「現在島の防衛を担当する戦闘部隊は、戦略後方支援局が島内各所に建設した基地並びに監視所にて、すでに警戒任務についており、異常があれば直ちに行動できるよう出撃体制を整えております。警戒態勢につきましては順に説明していきます。まず海軍につきましては現在、オハイオ級原潜USSフロリダとアクラ級原潜K335ゲパードの2隻が海中で警戒任務についております。空軍は各所に設置したレーダーサイトにて未確認機による上空侵入を警戒中です」

 

 そこまで黙って説明を聞いていたタクミは、質問をするために右手を挙げた。

 

「あのハメル司令。質問があるのですが、よろしいでしょうか?」

 

「ええ。構いませんが?」

 

「えっとですね。もし未確認機の侵入があった場合は、どうするのですか?」

 

「はい。それにつきましては……少々グレーな対応になりますが。通常の対領空侵犯措置では、1.航空無線による警告、2.軍用機による警告、3.軍用機による威嚇射撃、4.強制着陸、5.撃墜という手順です。しかしこの措置は本来、独立主権国家の正規軍が国際法に則り対応する事を想定しています。なので国家として認められていない我々の状況下で選択できる手段は、航空無線による警告と軍用機による警告の2択のみです」

 

「うーん、それは少し……いや、少しどころか限りなく黒ですね」

 

「閣下。そう仰いましても、この二つしかありません。もしそれ以外の選択肢を取れば、すぐさま武力衝突に発展します。これは空だけではなく、海もまた然りです」

 

「ハァ〜、ここがマブラブ世界じゃなくて、剣と魔法のファンタジー世界であれば話は早かっただろうに。ああ、今のは別にただの言葉の綾だから、間に受けないでくだいよ」

 

「ええ、もちろんです。閣下」

 

 19世紀の欧州列強国のように武力を用いる外交。俗に言う砲艦外交を揶揄した発言を慌てて、修正するタクミ。その言葉を聞いた一部の軍人達から小さな笑い声が漏れる。

 

 ハメルの説明を聞いたタクミは、椅子の背もたれに深くもたれると、16歳のである自分なりに考える。

 現在マブラブ世界において、タクミ達が置かれている状況を簡単に表現するなら、この世界のどの国連加盟国からも国家として承認されていないにもかかわらず、不法に島を占拠してる武装集団である。しかもその武装は、前世のテレビニュースでよく登場した旧ソ連製のAKやRPGなどで武装したアフリカや中東の反政府ゲリラなどのレベルではない。

 各国の最新鋭兵器で武装し、高度に組織化されたいわば軍隊だ。

 

「(どこの世界に、武装ヘリや戦車、ましてや核ミサイルを搭載した原子力潜水艦を所有する武装集団がいるんだ)」

 

 世界に自分達の存在が知られた事を想像し、タクミは身震いする。

 

ーー強力な軍事力を保有する自分という存在を知ったら、世界はどうするのか。

 

 タクミはこの瞬間改めて痛感した。自分の能力の恐ろしさを。

 この島に存在するありとあらゆる物は、もとはタクミ自身が持っていたプラモデルや玩具だ。おもちゃとはいえ、実体化させれば本物と同じように機能し行動する。

 それも自分自身が命令を下せば、なんでも……そう、なんでもだ。

 一週間という非常に短い間ながら、バトレーやハメル、それにターニャなどの幹部とその他の者達の言動を注意深く観察して分かった事がある。 それは彼ら彼女らは異常とも言えるほど、タクミへの忠誠心が高く、タクミの命令に対してはなんの疑問も持たず忠実に遂行する。

 今の自分には、ただの模型好きの16歳の少年にとって、その忠誠心は重すぎる。

 

ーー彼らの上に立てるのか? ただ模型しか作るしか能がない自分が?

 

 不安や恐怖といった感情から、自己嫌悪に飲み込まれそうになるタクミ。しかし、そんなタクミを救ってくれたのは他でもない執事のバトレーだった。

 

「どうされました、ご主人様?」

 

「……え?」

 

 突然、隣に控えていたバトレーから声を掛けられ、素っ頓狂な声をあげるタクミ。

 

「いえ、とても深刻そうな顔をされていたので……もしや、どこかお加減でも?」

 

「え、ああ……いや、これからどうしようかと考えてただけだよ。心配かけたね、バトレー」

 

 その言葉を聞いたバトレーは、しばらく彼の姿をじっと見つめると、フッと微笑む。

 

「ご主人様。もし悩みや不安などがあれば、いつでも仰ってください」

 

「え?」

 

「いかにご主人様が優れた能力をお持ちといえども、まだまだ知識も経験も不十分な状態です。なので1人で抱え込んだり、悩んだりしないで下さい。ーーそれとも我々は頼りないですか?」

 

 その言葉を聞いたタクミは顔をあげる。視線の先には自信に満ち溢れた表情で、自分を見つめる多くの部下、いや『同志』がいた。

 

ーーそうだ。僕は一人じゃない……彼らがいる。

 

 タクミはフッと笑うと、「それじゃ、これから僕達が進むべき、道を一緒に考えようか」と言う。その言葉を聞いた者達は、踵をカッと合わせると、「ハッ!」と大きな声で答えた。

 皆が再び、心を一つにしたその瞬間、会議室の扉が大きな音を立てて開かれた。やってきたのはドイツ国防軍の緑黄色の軍服を着た将校だ。

 

「し、失礼します!」

 

 会議室にやって来た兵士をターニャが咎める。

 

「何事だ、今は報告会の最中なのだが?」

 

「はっ! 申し訳ありません」

 

 ターニャの言葉に兵士は萎縮してしまったが、その兵士に対してタクミは「いいよ。報告を」と述べる。

 

「閣下、先ほど哨戒任務中のUSSフロリダから、複数の艦船が本島に向かっているとの報告がありました。報告をもとにすぐさま偵察衛星で確認したところ、空母を中心とした艦隊だと判明しました」

 

「どこの国だ」とハメルが問う。

 

 その言葉を聞いた兵士は、気持ちを抑えるために唾をゴクリと飲むと答えた。

 

「ーー米国であります」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございました。

登場人物紹介

氏名 ターニャ・フォン・デグレチャフ(?歳 女性)
容姿 金髪碧眼の幼女
趣味 効率的な組織運営の考案及び自己保身
特徴 ライトノベル小説『幼女戦記』の主人公で、原作小説特装版フィ ギュアをタクミが実体化した。現在は島の開発のために創設された戦略後方支援局の局長を務める。


オハイオ級原潜4番艦 USSフロリダ

氏名 ダドリー・モートン(?歳 男性)
職業 潜水艦艦長
特徴 元ネタは第二次世界大戦中、アメリカ海軍ガトー級潜水艦ワフーの艦長を務めたダドリー・W・モートン中佐
 

氏名 リチャード・オカーン(?歳 男性)
職業 潜水艦副長
特徴 元ネタは第二次大戦中、ガトー級潜水艦ワフー艦長のモートンの副長を務めたリチャード・オカーン中尉。

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