Muv-Luv modeler warfare 作:ガンオタ
今回、新たな人物が登場します!
第6話 戦闘準備
<1995年4月23日シルトクレーテ島・地下司令部『アガルタ』へ向かう車中>
夕陽が差し込み始めたシルトクレーテ島。
紅く染められた密林に一本の道が敷かれていた。その道を黒い高級車が3台、猛スピードで走行していた。
「こうなる事は予測してたけど、いざそれが現実になると怖いもんだ」
島の“所有者“であるタクミはそう呟く。その声音からは不安が感じられる。なぜなら、艦隊接近の報告を受け、身の安全の為に現在、島の地下深くに建設された司令部へと向かう最中だからだ。
前世では、戦争とは無縁の平和な日本で暮らしをしていた彼からすれば、前世でも、そしてこのマブラブ世界でも最強の国であるアメリカの軍隊が向かってきているという事実は“恐怖“そのものである。
その事を敏感に感じ取ったのか、隣の座席に座るバトレーが優しく語り掛け、彼の心を宥めようとする。
「ご主人様。そう怖がらずに。ーー全ては我らにお任せください。誰であろうと、この地、いえ……ご主人様には、何人も指一本触れさせません」
自らに忠実な執事の心強い言葉を聞き、タクミは少し緊張の糸が和らぐ。すると、二人の向かい側の座席に座っていた1人の男が声を掛けてきた。
「すまないねえ……私まで一緒に乗せてもらって」
「え、ああ……そんなに気になさらず、『スカル・フェイス』さん。……報告会の途中でしたから」
黒スーツの上から同色のチェスターコート、頭にテンガンロンハットを被った男、スカル・フェイスの言葉に、タクミは恥ずかしさを隠すように首の裏を手で掻きながら、そう答える。
「ーーなに、これは予測の範囲内だ。そう恐れる事はない。すでに我々は、君が提供してくれた公式資料とやらをもとに幾つかのプランを策定している。不測の事態に備えてね……」
そう言って、情報部の局長スカル・フェイスは口元をニヤリとさせる。しかし、頬の肉が完全に焼け落ちているため、その笑みは昔のスリラー映画に登場した殺人鬼を連想させとても不気味だ。
「(うわ、コエェ! 自分で召喚しておいてなんだが、その笑みを浮かべられると、ガチで悪魔だよ! ーーだけどこんな危機的状況のためか、今その笑みはどこか安心感を与える。さすがあのBIGBOSSを苦しめた男だ)」
スカルフェイス。前世の世界的人気潜入アクションゲーム、メタルギアソリッド・ファントムペインで主人公ビッグボスを、その高度な諜報技術と己の全てをかけて追い詰め、東西に分断している世界をメタルギアによってひとつにしようとした男。そんな彼はタクミによって、今度はこのマブラブ世界で、かつて自身が率いた組織に“新たな人員“を編入、再編成した。
スカルフェイスは足を組むと、淡々と言葉を続ける。
「それに島の近くには、合成食料を生産するために国連が建設した海上生成プラントがある。ーーアメリカとて、戦闘を行うつもりはないだろう…」
タクミはその言葉を聞き、首を傾げる。
BETAの侵攻でユーラシアの耕作地帯が失われた為、海中の魚介類やプランクトンをベースとした合成食を生産する施設が国連主導で太平洋と大西洋の広い海域に建設されている。そして、それらプラント群を保護する為、海域の広いエリアが非戦闘地域及び重金属の汚染を防ぐためのAL弾使用禁止区域に設定されている。
ちなみにシルトクレーテ島の近くに、国連管理下の合成食料プラントの一群が存在する事はすでに確認済みだ。
そこまで考えたタクミは溜息を吐きながら、頭を掻く。
「ハァ〜、まぁ、確かに国連の施設を巻き込む危険があるのに、戦闘を行う事はない、と思いたいですけど……」
だがこのマブラブ世界において、アメリカは名実ともに大国だ。99年の明星作戦での単独でのG弾投下、自国工作員を使用した内政干渉とも言える諜報活動、圧倒的軍事力及び政治力を背景とした国連の傀儡化など……。
「自国の国益と、その影響力を守る為ならば何でもやる。それが大国の外交方針だ。政府の右左問わずね……」
スカルフェイスはそう言って肩をすくめた。
メタルギアソリッドシリーズの世界で、CIA、XOFなどの諜報組織に身を置きながら、世界の暗部を長く見てきた彼は、超大国の行動原理をそう簡潔に述べる。
召喚したフィギュアの一部には、スカルフェイスのように自分がいた世界、つまり原作であるが、その世界での経験や知識を保持して現れる者がいる。そして中には“能力“を手に現れる者も……。
「もし米国との戦闘になったとしても、現状我々の戦力で対処可能だ。特に“あれ“がーー」
スカルフェイスはそう言い、窓に身を寄せて空を見上げた。彼につられ、タクミも窓から空を見上げる。その視線の先には、丸い円盤状の飛行物体が2機が車列の上を飛行していた。
「ああ、『アンクシャ』ですね」
まるでそのUFOのような外観から、タクミはすぐに分かった。
RAS−96アンクシャ。ガンダムZに登場したNRX−044アッシマーの後継機で、大気圏内運用に特化した可変MSだ。
そのアンクシャを、スカルフェイスは興味深そうに眺める。
「それにしてもすごいな。ーー君の能力は……あんな物まで作り出せるとは」
「いやぁ〜、もとはHGのガンプラだったので簡単でした。それにHGは、MG作るよりも時間も手間も掛からないですし……って、すみません。こんな事言っても分からないですよね」
つい模型に関しての自分の悪い癖が出てしまった、と頭を掻くタクミ。しかし、スカルフェイスはそんな彼の言動に眉を顰めるどころか、逆に褒め称える。
「いやいや、そうでもない。私自身、これまでメタルギアの開発に携わってきたのだ。ーーだからロボットやそれを模した模型には大変興味がある」
かつて、アフガンの辺境の地で、サへラントロプスの極秘開発を主導していたスカルフェイス。もとはプラスチックの模型だとはいえ、メタルギアとは異なる世界で開発されたモビルスーツに大変興味を持っている。
「それに機体とともに、パイロットまで一緒についてきてくれたのは非常にありがたい。機体の構造解析や搭乗員の訓練などにとても助かっている、とターニャ局長が話していた」
スカルフェイスがそう言い終えた瞬間、車が減速する。
タクミの隣に座るバトレーが口を開く。
「ご主人様、まもなく地下司令部に到着します」
「そうか。他のみんなもいるの?」
「ええ。すでに幹部と他の人員も待機しております」
車列が地下施設へ下降するリフトに乗る。
バトレーの言葉に頷きながら、タクミは窓から地下秘密基地の様子を眺める。明かりがないはずの山の中は、内部の岩肌にいくつも設置されている大型ライトのおかげで、まるで地上にいるかのような錯覚を覚える。
この地下司令部の名前は、『アガルタ』。19世紀末から20世紀のオカルトブームの全盛期に、アジアのどこかにあると噂された地下都市の名前からそう名付けられた。実際、その名の通り“基地“というよりも、“都市“という表現の方が適切かもしれない。
シルトクレーテ島中央の花崗岩の山中に建設されたアガルタ基地は、核戦争を想定した設計がなされており、長期間の地下生活ができるように食堂、医療施設、運動施設、売店、居住施設、各種生産施設なども存在する。そして地表部には対空砲やSAMが多数設置されており、防衛能力も高い。
最初と同じようにゴトンッと大きな音がし、ついにリフトが完全停止する。そしてリフトに乗っていた車両はゆっくりと発進する。
タクミ達を乗せた車列は、地下秘密基地アガルタの作戦司令部の入り口で停車する。車両から降りたタクミを出迎えたのは、数名の部下を従えたターニャだった。
「アガルタにようこそおいでくださいました、閣下」
その言葉の後、見事な敬礼をするターニャ。彼女の背後に控える兵士達も同じように敬礼する。
まさに完璧な敬礼を行う彼女達に対して、タクミはぎこちない答礼を行う。
「あ、その、うん。わざわざ出迎えありがとう」
「ハッ! では中へご案内致します」
ターニャを先頭にタクミ達は新設されたばかりの基地内を歩く。塵一つ落ちていない通路を歩きながら、タクミは前を歩くターニャに質問する。
「ちなみ、ここはもう完成しているの?」
その問いにターニャは歩きながら答える。
「いえ、現在この基地の稼働状況は約60%です。しかし、シェルターとしての機能並びに運用は問題はありません。ご安心を」
「そうなんだね。でもこんな短い期間で、これほどの施設を作り上げたのはすごいよ。建設に携わった者達にも良くやったと伝えといてよ、ターニャ局長。他に何か贈ろうと思うんだけど何かあるかな?」
労働にはちゃんとした対価を。いかに召喚された者達が寝食いらず、疲れ知らずとはいえ何もしないのはまずいだろう、と思いそう言う。
しかし、ターニャは「いえ」と答え、言葉を続ける。
「そのお言葉を賜っただけでも、部下達のこれまでの苦労も報われます。閣下」
「う〜ん。そう言われても、やっぱり気になるんだよね」
「そうですか。それでは何かお菓子を頂けませんか……」
「(ん? なんか顔赤くない? ああ、もしかしてスイーツが好きなのかなぁ〜)」
ターニャの横顔が少し赤くなっているのに気づいたタクミは、彼女のその様子からそう思考する。
「うん、了解。後で送るよ」
「ありがとうございます。閣下」
<秘密秘密基地『アガルタ』・作戦司令室>
作戦司令室の扉の両側には、G36で武装した兵士2名が立哨していた。兵士達は敬礼し、扉を制御する電気錠を解錠する。プシュっと空気が抜けるような音をさせ、扉は左右に開いた。
タクミが入ったのは、中央に円卓が設置された2階の部屋だった。巨大なはめ殺しの窓からは、指揮通信用のコンソールに座り、忙しなく命令を出すオペレーター達の姿が見える。
<ーー第6防空陣地への弾薬移送準備完了>
<ーー装甲擲弾兵部隊の出撃完了>
<ーー出撃可能な部隊はすぐ配置につかせろッ! 間違ってもこちらから攻撃するな、それを徹底させろ!>
鬼気迫るオペレーター達の声がガラス越しに聞こえる。正面の壁に設置された巨大モニターには、沖合に展開するアメリカ艦隊の艦影がはっきりと映し出されている。
「(もし戦争にでもなったら……)」
目の前の脅威、迫り来る危機をヒリヒリと感じる。ここに来るまでに消えたと思っていた“恐怖“が胸に湧き上がり、胸の動悸が速くなり始める。動揺を周囲に悟られないように、手を口に当てようとした瞬間、背後から声を掛けられた。
「ご主人様」
「え?」
突然、背後から声を掛けられたタクミはすっとん狂な子を上げる。振り返ると、そこにはバトレーが立っていた。
「バトレー……」
「ご主人様、作戦会議の準備が出来ましたので、ご着席下さい」
「分かったよ」
バトレーに促され、タクミは円卓の上座に着席する。
会議室にいるのは、各セクションの重鎮や幹部などがいた。円卓に着席しているのは部隊の最高指揮官であるハメル、後方戦略支援局局長のターニャ、統合情報局局長のスカル・フェイスが着席していた。その他には、世界各国の軍人達が資料を手にして控えている。
一番最初に声を発したのは、ハメルだった。
「閣下、先ほど米艦隊からこちらに対して通信がありました」
「それで、向こうはなんと?」
「“島内に配置したミサイルと所有する戦術機の引き渡し“……そして、“速やかに武装解除を実施し、投降せよ“と……」
「……一応こちらの事は、先に伝えたんですよね?」
米国側のあまりにも一方的な要求に頭を抱えながらも、タクミは事前に皆と話し合った事を思い出しそう尋ねる。
「ええ、我々は“異世界“から島ごと、この世界に転移してきた、とあちらには伝えましたが……」
「まぁ……そうですよね。考えておいてなんですけど、それで「はい。そうですか」とはならないですよね。普通……」
「ええ、通信を行ったオペレターのそばで聞いていた私自身、そう思いましたよ」
その時の光景を思い出したのか、ハメルが苦笑いしながらそう答えた。
タクミ自身、人から突然「自分は異世界から来ました」などと言われても、冗談の類いだと思って素直には信じられないだろう。だが実際のところそう言うしかない。
「ん? そういえば“ミサイルの撤去“って?」
“ミサイル撤去“の文言が、気になりそう問いかけた。その質問を聞いた、情報担当のスカルフェイスが机に肘をつきながら答える。
「おそらく、君が以前実体化した“トーポリM“の事だろう……」
「ああ……あれですか」
スカルフェイスのその言葉に、タクミはそう言って数日前に自分が行った実験を思い出した。
“トーポリM“。正式名称RT-2PM2トーポリMは、ロシア連邦が開発した大陸間弾道ミサイルで、NATOコードネームでは、シックルBとも呼ばれる。前世のロシア連邦軍の戦略ロケット軍が2000年に実戦配備したTEL<輸送起立発車機>型ミサイルだ。
「まさか実体化させたら、ミサイル本体だけじゃなくて“核弾頭“も実体化してまうとはね……」
数日前、タクミは自分の召喚能力を試すために、携帯から1/35ロシア軍RS−12を実体化させた。するとミサイル本体だけでなく、運用に必要な操作要員のロシア兵、指揮通信車、そして核弾頭まで一緒に現れた。
数日前の出来事を思い出し、顔を顰める。
「あの時、偵察衛星に撮られたんでしょうね。迂闊だったな……」
ミサイルを召喚した事で、アメリカを不用意に刺激してしまった事を今更ながらに悔やむタクミ。落ち込む彼を見ながら、情報部のスカルフェイスは言葉を続ける。
「トーポリMの最大射程は約1万キロから1万1000キロメートルだ。この島からだとハワイやグアムはもちろん、アメリカ東海岸まで範囲に含まれる。ホワイトハウスまでだ。だからアメリカ側はこのような強行姿勢なんだろう。彼らからすれば、突然自分達の目と鼻の先に突きつけられた銃口を、いますぐにでも取り払いたいんだろう。彼らの仰天ぶりが目に浮かぶ」
いつもの飄々とした態度で、アメリカの姿勢を簡潔に述べるスカルフェイス。そんな彼の言葉を聞いたタクミは顎に手を当てほんの少し考える。
「だけどミサイルより、モビルスーツを入手したいという気持ちの方が強そうな感じがしますけど?」
「まぁ、それもあるだろう。実際ミサイルよりモビルスーツを手に入れて、技術を解析したいというのもある。それにBETA大戦で成果を何も上げれてない分、所属不明の武装集団である我々への対応で何かしらの政治的成果を世界に示したいんだろう」
偵察衛星による情報収集を行った結果、BETA群はすでに中国と北朝鮮の国境付近にまで進撃している。極東アジア地域が陥落するのは時間の問題だ。アラビア半島、欧州大陸もすでに蹂躙され、至る所に“ハイブ“と呼ばれる地上モニュメントが建造されている。
止まる事のないBETAの進撃に対して、人類はまず欧州大陸で、1978年にNATO軍とワルシャワ条約機構軍による旧ベラルーシ領内に建造されたミンスクハイブ排除を目標とした『パレオロゴス』作戦を発動するも、作戦は失敗。その後中国大陸でも同様の作戦を実施するも同じように失敗した。
「米国はすでにBETAへの反抗よりも、奴らをユーラシアに“封じ込める“事に戦略を転換している。その戦略転換は、BETAによって国土を失いアフリカやオセアニアへ疎開した各国亡命政府、そして流浪の難民となった市民達への裏切りとなり、米国の国際社会における求心力は低下している……。そんな最中、自分達の庭先に未知の技術を持つ武装集団が現れた。彼らかすれば、喉から出るほど欲しいはずだ。我々が持つ物を……」
「向こうの事情は分かりましたよ。で、アメリカとの通信ラインは繋がっていますか? ハメル司令」
タクミはそう言って、ハメルへ問いかけた。
「ええ、沖合に展開している米海軍空母セオドア・ルーズベルトを経由し、ワシントンDCのホワイトハウスへ繋がっている、と彼らは言っています」
「そうですか」
「そんな事しなくても、こちらから米国政府の暗号回線をハッキングして、直接大統領とやり取りする事も可能だが?」
スカルフェイスはニヤリとさせながら、タクミにそう伝える。
「いやいや、それはやりすぎですよ。(え、政府の極秘回線にハッキングできるの? 君達、もとプラモデルよね?)」
タクミは、政府の極秘回線にハッキングできると言ってのけたスカルフェイスの言葉を聞き、心の中で冷や汗を流す。
「閣下、アメリカ側との交渉は誰が担当しますか?」
ハメルがそう問いかける。それを聞いたタクミはしばらく考える。
交渉のラインはある。あとは“交渉人“だけだ。
「よし、交渉人はターニャ局長にしましょう」
「訳を聞いても?」
「ハメル司令は部隊の指揮を取らなければいけないし、スカルフェイスは情報部門だから、あまり表に出るのはまずいです。なので、冷静な判断力と分析力を持つターニャ局長なら適任だと、僕は考えました」
交渉人にターニャを選んだ理由をそう述べるタクミ。
ターニャは前世でサラリーマンとして働いていたので、他の二人より柔軟な対応ができるだろうと考えた。
彼は最後に席に座っているターニャに目を向けた。
「ターニャ局長、よろしくお願いします」
「はっ! お任せください。閣下」
タクミの言葉に、ターニャは力強く答える。
「それじゃ、みなさん。今後の方針を伝えます。まず第一に武力衝突の回避、第二にこの島での我々の生存権の確保です。この二つを達成するため、どうか僕に力を貸して下さい」
タクミの言葉を聞いた幹部と兵士達は、踵をカツっと合わせ、『ハッ!!』と答えた。
こうして彼らは、世界最強の国家であるアメリカとの戦いが始まった。
今回も読んでいただきありがとうございました。
・登場人物紹介
スカル・フェイス(?歳 男性)
職業 統合情報局『サイファー』局長
特徴 『メタルギアソリッド・ファントムペイン』の登場人物。CIAで培った高い諜報能力と尋問技術で、スパイから情報を引き出してきた『顔のない亡者』。常に不敵な笑みを浮かべ、その真意を他者に悟らせない。
もとはネット通販で購入した1/6フィギュア