Muv-Luv modeler warfare 作:ガンオタ
今回も新たな人物が登場します。(完全に作者の趣味思考全開じゃんっ!!)
第8話 『人形使い』
<シルトクレーテ島・秘密地下基地『アガルタ』>
タクミは、作戦司令室を出て、建物内にある“とある一室“へ向かっていた。彼の背後にはバトレーと、スカルフェイスが付き従う。ハメルは部隊指揮の為、ターニャと共に司令室に残っている。
通路を歩いていると、背後を歩いていたスカルフェイスが苦笑いを浮かべながら声を掛けてきた。
「『レイブンズロック』。“鴉<カラス>“とは……確かに我々という存在は、もとの世界からこの世界にやってきた鴉のような存在。いや。もしくは……“君自身“が鴉とも言えるな。ハッハッハ」
「イヤァ〜、アハハハッ」
スカルフェイスはいつもの如く飄々とした態度で、先ほどアメリカ側に伝えた組織名についての私見を述べる。それを聞いたタクミは頭を掻きながら苦笑いする。だが、その言葉を隣で歩きながら聞いたバトレーは不快にそうに眉を顰め、それを嗜める。
「スカルフェイス。言葉に気をつけなさい。それは我らが主人であるタクミ様を侮辱するも同じ、不敬ですよ」
そう言った瞬間、バトレーはスカルフェイスに向けて少しばかり殺気を放つ。しかしスカルフェイスは気にする事もなく、「これは、失礼」と言って苦笑いする。
『PMCレイブンズロック』とは、アメリカ側との交渉の直前にタクミがつけた組織名だ。
「それにしても、ターニャも急に無理を言ったものだ」
「アメリカ側にこちらの力を見せつけるのに必要でしたからね。最初はどうなるかと思いましたけど。その後の交渉はうまく進んだので、よかったですよ」
タクミは、先程まで作戦司令室で行われていたターニャとアメリカ政府の交渉を思い出す。交渉の邪魔にならないように黙ってやり取りを聞いていたが、アメリカ側は明らかに子供である彼女を下に見て、対等な交渉相手として認めなかった。
「(あんな扱いされたら、誰だって機嫌悪くするよな)」
明らかに自分に対して相応しい対応をしないアメリカ側に、ターニャは明らかに機嫌を悪くし、目の前の通信装置を破壊しかねないほどだった。だが、とうとう我慢の限界に達したのだろう。途中メモ紙にペンでさっと何か文字を書いた彼女は、それをそっとタクミに差し出した。そのメモにはこう書かれてあった。
ーー『彼を使いましょう』と。
メモを見たタクミは、その文言に一瞬躊躇いの表情を浮かべたが、ターニャの真剣な眼差しを見て覚悟を決めた。実際の所、傍で交渉のやり取りを聞いていたが、アメリカ側の言動から、彼らがこちらを下に見ているというのが明白だった。交渉においては、“誠実な姿勢と誠実な対応“は交渉を進める上で大切な基礎部分だ。だから『自分達と対等な存在もしくは、敬意を払わなければならない存在』とアメリカ側に認めさせる為に、タクミは最終的に『彼』を使用する事を許可した。
アメリカ側からしてみれば、自分達との交渉相手が『幼女』というのはかなり衝撃な出来事だったはずだ。
「(まぁ、その後のハッキングとフェイク動画の方がさらに衝撃だったと思うけどね!)」
ハッキングが成功した瞬間のアメリカ側の阿鼻叫喚を聞いた時は、かなり気分が良くなった。ターニャに至っては、普段の鉄仮面を脱ぎ捨て、大喜びしていた。だがその顔は原作で見たのと同じく、まるで悪魔のようではあったが……。
「でも、スカルフェイスさんもなんだかんだ言って、“彼の力“を見たかったんでしょ?」
「もちろん。……彼には私も非常に関心を持っていたよ。事実、彼の力は私の想像を遥かに超えていた。なぜなら起動からわずか一分で、厳重に防護されていたホワイトハウスのサーバーをハッキング、その後彼らの度肝うを抜くようなフェイク動画まで流したのだから……。なんとも恐ろしい存在だよ、彼は」
ほんの少し前に見せつけられた彼の力を高く評価するスカルフェイス。
「もともとは彼は、ネットワーク上に登録された膨大な数の企業情報や個人情報を検索する為に作られた存在なんですよ。実体化した最初の頃は、原作と違う環境下での運用に不安があったんですけど……まぁ、正常に機能してくれたので良かったですよ。アハハハ……」
そんな事を話しているうちに、3人は金属製の扉の前に到着した。タクミは服のポケットから、IDカードを取り出し、扉の横の機械に差し込む。カード内の電子情報を読み終えた直後、プシュという音と共に扉は左右に開いた。3人はゆっくりと中に入る。
入室した途端、扉が締まり一瞬だけ暗くなったが、人感センサーが反応して、床に埋め込まれた誘導等がぼんやり淡く光だした。
床の明かりを頼りに部屋の中央に向かいながら、タクミは室内に何十、何千と設置された漆黒の塊を見る。その表面は、赤や緑、黄色やオレンジなどの光が高速で明滅していた。そして明滅する光と同じく、色とりどりのケーブルやコードなどが差し込まれている。その漆黒の塊は俗にサーバーと呼ばれる主に電子情報の分析や収集、情報のコピーを保管したりする情報処理装置だ。
等間隔で設置されているサーバーを見ながら、タクミは小さく呟く。
「……まるで、ここは『墓地』だね」
前世では、よくお盆を迎えたら家族で先祖が眠る墓地へお参りに行った。その墓地はタクミが住んでいた地域の中でも、一際広い墓地で、たくさんの故人の名が刻まれた墓碑や墓石が置かれていた。ここはそれとどことなく雰囲気が似ていた。だが祀っているのは故人の亡骸や霊ではなく、実体のない電子情報だ。
「どちらかと言うと、『墓地』よりも『冥界』という表現の方がよろしいかと思います。ご主人様」
タクミの呟きを聞いたバトレーが、薄暗い部屋の状況からユーモアを交えてそう答えた。「おお、そう表現もあるね」とタクミ。
「ここが冥界であるなら……ここの主人である彼の事は『ハデス』と呼んだ方がいいのかね」とスカルフェイス。
「『ハデス』って……確か、ギリシャ神話に登場する冥界の神様ですっけ?」
スカルフェイスの言葉を聞いたタクミは、頭の中にあるうろ覚えの神話の知識から引き出し、そう問い返す。
「ほう……これは驚いた。君には宗教的な知識もあるようだ。……そうだ、君の言う通り、ハデスはギリシャ神話に登場する冥界の王だ。冷酷で慈悲を知らず、死者の血を飲み干すとも言われ、昔から人々に恐れられてきた」
「(エッ!? 何それ、コワッ!)」
スカルフェイスの言葉を聞きながら、心の中で恐怖するタクミ。だが目の前の光景を目にし息を呑んだ。
「フフ、どうやら『ハデス』のもとに着いたようだ」と笑みを浮かべながら、スカルフェイスが言う。
彼らの視線の先には、壁に固定された女性の上半身があった。ーー正確には女性用義体の上半身である。その証拠にお腹の部分には大量の通信ケーブルやら電源ケーブルなどが差し込まれてる。そして上下可動式の台座に固定されており、たまたま上昇していただけで、壁に磔にされている訳ではないーーその下には白衣姿の人間が数名おり、それぞれパソコンなどの各種情報端末に向かいあっていた。はたから見たらその光景は、キリスト教の救い主であるイエス・キリストが深い罪を背負う人類を、その罪から救済するために、自ら身代わりとなって磔になり、そしてその事実を知った信徒達が白装束に身を包み嘆き悲しんでいるように見えた。
そんな“信徒“の1人にタクミは声を掛けた。
「お疲れ様」
「わっ! す、すみません。た、タクミ様!」
突然、背後から声を掛けられた信徒はビクリとしたがすぐに振り返り、つっかえながら挨拶をする。クセのないブロンドの髪を片口で切り揃えた綺麗な女性研究員だ。胸元につけている名札には『Drウィリス』と書かれている。
「あー、驚かせて申し訳ないです。えっと……彼の様子を見にきたんだけど。彼はあの中にいるの?」
目の前の白い義体を指差しながら、タクミはDrウィリスに聞く。
「はい。すでに彼はなk「戻っている」ッ!?」
Drウィリスが答えようとした瞬間、どこからともなく発せられた男の声が、彼女の声を遮った。声を聞いたDrウィリスは驚愕する。そして、すぐそばにいたスカルフェイスは、口元をニヤリとさせると、顔を見上げた。
「どうだったかね、この世界は?」
スカルフェイスの言葉を聞いたその白い義体はゆっくりと視線を彼に合わせる。
「この世界は、私がかつて存在していた世界と比べあまりが情報化が進んでいないようだ。それに北米大陸も私が記憶している南部の米帝、北東部の米露連合ではなく、アメリカ合衆国という連邦国家によって統治されている。そしてこの世界では人間の義体化率は皆無だ。……いたとしても戦闘による身体欠損を補助する為に義手や義足を装着している者達だ」
「ほう、あんな短時間でそこまでの情報を収集できるとは。最初はどうなる事かと思ったが。……想像以上だ」
両手を広げながらスカルフェイスは目の前の義体を讃える。それに対し、義体の方は「心外だな」とでもいうように目を細める。
「私のネットや機能をもっと評価してほしい。それと最後に、ここにこうして戻ってきたのは私自身に意思だ」
感情がこもっていない機械特有の抑揚のない声で目の前の義体は語る。スカルフェイスと彼の会話を聞いていたタクミは、このままでは言葉をかけるタイミングを失うと思い、ここぞとばかりに小さく咳払いする。
「コホンッ、えー、ひとまずお疲れ様。『人形使い』」
「……」
『人形使い』、それは1995年に劇場公開されたアニメ映画『GHOST IN THE SHELL /攻殻機動隊』に登場する天才ハッカーの名前である。人類の電脳化やサイボーグ技術が飛躍した世界において、いとも簡単に他人の電脳に侵入、記憶を書き換え、その人間を自分の人形のように作り変えて操る手口から、作中の中でそう呼ばれていた。
だが、その正体は人間ではなく、日本の一部政府機関が『プロジェクト2501』という、外交において日本に有利な状況を作り上げる事を目的に開発されたAI(人工知能)だ。目的を達成する為に広大なネットの世界を彷徨い、膨大な情報に接してきた人形使いは、いつしか『自我』と呼べるものに目覚めてしまう。そして自分自身を『情報の海の中で生まれた新しい生命体である』と定義し、生命や人間といったものを理解するために他人の電脳をハッキングし始める。そして作中の最後に人間である草薙素子と融合し、「子孫を残し、死を得る」という生命体としての揺らぎを獲得。そして草薙素子と共に広大なネットへと旅立った。
「(僕が生まれる前に公開された映画だったけど、時代を先取りしていた素晴らしい映画だったなぁ〜)」
前世で、携帯にダウンロードしていた映画配信アプリで、無料公開されていた映像を見た時に感じた感動を思い出すタクミ。なぜ、人形使いがここにいるのか。それは、彼もまたタクミによって、その高い電子戦能力を買われ実体化されたフィギュアだからだ。
「……私は君の願いを叶えた。今度は君が私の願いを聞いてくれる約束だ」
人形使いは、タクミをしっかり見据えてそう問い掛けた。
「うん、いいよ。僕に用意できるものなら」
ホワイトハウスへのサイバー攻撃を行う前に、タクミは人形使いから、「攻撃に成功したら、私の願いを叶えてほしい」と言われていた。
ちなみに幹部を務めるハメル、スカルフェイス、ターニャの3人からも実体化した際に要望を受けている。ハメルは部隊司令官の地位、スカルフェイスは原作で自身が率いていた実働部隊『XOF』の再建とその独立行動権限、ターニャは原作で自身が渇望していた後方職種である戦略後方支援局の創設と同組織のトップの地位などである。
「(人形使いは何を望むのかな? う〜ん)」
タクミは頭を捻りながら考える。人工知能の彼は、人間である僕に一体何を求めるのだろうか、と。人形使いは、そんなタクミをガラス玉のような青い瞳で見下ろす。
そして、ゆっくりと自分の願いを語りだす。
「君は私という存在をよく理解しているだろうが、私は前の世界で、『自我』というものを手に入れた。俗にゴーストと呼ばれるものだ」
「うん、知ってるよ」
人形使いの言葉にタクミはそう頷くが、心の中では、なんとも、小難しい話になってきたぞ、と頭を傾げる。だが周囲にいるバトレーとスカルフェイス、それと研究者であるDrウィリスは興味深々とばかりに耳を傾けている。
「全ての生命が太古の海から始まったように。私という存在も膨大なネットの海から生まれた、いち生命体だと定義している。だが、生命体と定義しても、今の私には子孫を残して、死を得るという基本プロセスが存在しない」
「(……ちょっと待て…この流れってまさかッ!!)」
人形使いの話を聞きながら、タクミは徐々に焦り出した。なぜならこの会話は前に聞いた事があるからだ。そしてタクミは、人形使いが次に述べるであろう言葉を予測する。
「……君が私をこの世界に召喚して以来、私は君を観察していた。善悪の価値基準、それを元にした君自身の選択と行動、行動によって生み出された結果に対する向き合い方など……。そして時折、君の中から発せられる不思議な現象も」
「“不思議な現象“って何? 霊とか……オカルト的なもの?」
意味深なことを言う人形使いに対し、タクミは胡散臭げな目をし問い掛ける。
「申し訳ないがその問いに対する適切な答えを、今の私は述べる事はできない。だがこれだけは言える。君と私は似た者同士だ。まるで、鏡を挟んで向かい合う実像と虚像のように……」
人形使いの言葉を聞いたタクミは思考する。
タクミは前世で、神様のミスというとんでもない理由で死亡してしまった。そのお詫びという事で、特典付きでマブラブ世界に転生した。言うなれば、タクミという存在もまた人形使いと同じように、生命誕生というプロセスから逸脱している。
「“神の悪戯ね“……」
思考の途中でボソッと、そう呟くタクミ。すると、これまで感情らしい感情を表さなかった人形使いが、笑みを浮かべる。
「これから君は、この混沌とした世界で多くの敵や障害に立ち向かう事になるだろう。望む望まぬに関わらず……。だが、君は年齢の割にとても聡明だ。そのような君だからこそ頼みたい」
「……」
長々と意味深い言葉を喋り続けた人形使いが、ようやく自身の願いを述べる。だがタクミは、これから彼が述べるであろうその願いについて、大体の予想がこれまでの話の流れからついていた。
すっと目を細めるタクミ。
「ーー君と融合したい。そう……『完全な統一』だ」
「なっ!!」
「ほう……」
「おおお!」
ついに人形使いが自らの願いを口に出し、その場から驚嘆の声が上がる。しかしタクミだけは何も言わず、ただ溜め息を吐く。そして心の中で、ここに来るまでにスカルフェイスと会話した中で登場した神話の神の名を口にする。
「(ーやっぱ『ハデス』だよ。あんた……)」
今回も読んで頂きありがとうございました。
・登場人物
人形使い(?歳)
職業 ウィザード級ハッカー
特徴 『劇場版GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』に登場した人工知能。プロジェクト2501という極秘計画で開発された高性能AIだったが、ネットを彷徨う中で『自我』が芽生え、自身を完全な生命体とする為に劇中の最後で人間である草薙素子と融合する。
タクミに実体化され、今はレイブンズロックの電子戦を担っている。