今回絵載せてるので嫌な方は非表示お願いします。
この地球では、三十年前から空間震と呼ばれる災害が起こるようになった。
それは原因不明の自然災害とされているが、実のところは違う。
精霊と呼ばれている存在が、この世界に訪れる際の歪みによって発生する。それが、空間震と呼ばれる災害の起こる理由だった。
精霊は人間と同じような姿をしていて、なおかつめちゃくちゃ強くてすごいのだ。具体的に伝えると人間なんて簡単に蹴散らせるほど強い。
そんな、めちゃつよでやばいぐらい世界にとって迷惑な存在は……ひと目のない路地裏に情けなく寝転がっていた。
▽
〈ウィッチ〉は精霊である。
それも四糸乃とは違い、人間社会について詳しく知っている精霊だ。その知識は、一般人とさほど違いはない。
だからこそ彼女は、空間震という災害が精霊によって引き起こされていることに思い当たってしまったし、自分の同族がいることだって知ることが出来た。
だから、空間震警報が流れている中、彼女は思いついてしまった。
自分以外の精霊を見てみたい、と。
精霊である〈ウィッチ〉は孤独だった。
一人でただ、ASTだとかいう敵対組織に追われ続けるだけの日々。
空間震を起こさずに地球に訪れた際には、一般人として振る舞うことは出来る。
それでも、ただ演技しているだけ。
〈ウィッチ〉はあくまで精霊であり、その力はないことにはならない。
変身した姿で会話を交していても、自分が異物であるという違和感が身を纏い、その不安感は日に日に膨れ上がっていった。
だからこそ、同族に会いたくなった。
そして、実感したかったのかもしれない。
こんな目に遭っているのは自分だけではないのだと。
そして──敵に対して攻撃している同族を見て、安心したかったのかもしれない。
なのに、だというのに。
「がああああ!!」
発狂し、嘔吐し、ぐるぐると目を回す
……少女、という言葉通り、その姿は四糸乃と対面した時とは様変わりしていた。
艶があった髪はカサついてボサボサになっているし、肌の血色も悪い。肉付きも貧相なものになっており、年齢から顔立ちまで全てが違っている。
ただし、髪と目の色は〈ウィッチ〉と同じものであり、彼女の理想の姿であることを如実に示しているかのようであった。
《ウィッチ》──七罪という精霊は、本来あのような自信に満ちた人物ではなく、むしろ正反対とも言える性格の持ち主だったし、あの姿も仮初めのものでしかない。
どうして元の姿ではなく、偽物の姿で四糸乃の前に現れたのか。それは、本来の姿で他の精霊に舐められたくなかったから、という理由が大きいのだが、四糸乃に邂逅した今となっては、別の要因の方が大きくなっていた。
「ただ見に行く予定だったのに……っ! あんなの聞いてないわよ……!」
そう、七罪は知らなかった。
自分の期待するものは、あの場にはなかった。そればかりか、真逆とも言っていい状況が繰り広げられていた。
七罪は、荒い息を整えてうずくまる。
「やっちゃった……」
膝に埋めた顔を下に向けると、水たまりが七罪の本来の姿を映し出していた。どんよりと淀んだ目をした少女は、恨めしそうに息を吐いた。
「……」
元の姿のまま、精霊と会うことが怖かった。
理由なんていくらでもあるが、実際会ったときに何を言われるのか分からないことが特に怖かった。
七罪が産まれてこの方、いない存在のように扱われていた。四糸乃にもそんな態度を取られてしまえば耐えられなそうだった。
(だれ、ですか……?)
怯えた目で己を見る四糸乃を想像し、七罪は唇を噛んだ。
「……あの姿の方が都合良いし」
四糸乃の前では、年中偏屈でマイナス思考な七罪より、自分に自信のある大人な〈ウィッチ〉の方が良いのだと七罪は信じた。
それに、子どもの姿のままではただ焦り、四糸乃に詰め寄ることしか出来なかっただろう。
だから変身したのだが……理想の姿になると、性格も変化してしまう。
普段なら言えないような、少し気恥ずかしい台詞だって言えてしまう。
それは二重人格のような乖離したものではなかったが、だからこそ多くの羞恥がのちに襲いかかる。
「でもあれ……絶対嫌われた……でしゃばり過ぎ……何やってんの私……」
七罪の脳内には、困惑したような四糸乃の顔がありありと浮かんだ。
へい君ちょっとお茶しないと言わんばかりの態度を取ってきたらドン引きするのが普通だろう。七罪ならそうする。
それに加えて仲間に入れてなんて、そんな虫のいい話があるだろうか。
七罪の妄想する四糸乃の表情は、迷惑だったんですけど、と言わんばかりの嘲笑へと変わっていった。
「いやいやそんな顔はしないでしょ……いやでも精霊ってことはあんな攻撃屁でもなかったんじゃ。邪魔した可能性だって……上から目線だし何様なのよ私は……」
辺りを右往左往しながらぶつくさと呟き、そして水たまりを見て項垂れる。雨はいつしか止んでいたが、七罪の気持ちはちっとも晴れなかった。
「……はぁ」
七罪は、こうして一時間は路地裏に居座っていた。
これでも、落ち着いてきたほうだろう。この場所に飛んできてから時間も経ち、もう発狂することもなくなったのだから。どうすれば、なんで、など言った要領得ない言葉も減っていった。
ぶつぶつとひとりごとを呟くのは、一人で生きてきた七罪にとってはいつものことだったので割愛する。
普段の七罪も情緒不安定なところはあるが、先ほどのような惨状を繰り広げることはあまりない。
それほどまでに、七罪にとってあの光景は信じられないものだった。
それほどまでに、あそこにいた四糸乃の姿は、七罪にとって信じたくもないものだった。
「……守りたい」
自然とこぼれた言葉に、七罪は苦く笑った。
七罪にとって、精霊としての生活は悪いものではなかったが、四糸乃にとっては違うようだ。
本意ではないのに、一生このまま攻撃され続けるのは、可哀想だった。
「四糸乃が傷つくところなんて、見たくないし」
傷つくところが見たくないし、目の届く範囲だけでも四糸乃を助けたい。
四糸乃のように優しさだけで行動しているわけではなく、七罪にとって自己満足でしかなかった。
結局のところ、七罪はずっと孤独で、その寂しさを埋めたくて四糸乃を助けたいと思っただけなのかもしれない。
何でも良かった。
もとより、七罪には生きるモチベーションというものが何もない。燃え尽き症候群のような状態である七罪にとって、四糸乃をASTたちに追われないようにすることを、新しい目標とするのもいいのかもしれなかった。
四糸乃には、よしのんがいる。
それでも、この状況のままで居続けるなんて状況がまかり通ってはいけないとも思った。
「……そもそも、よしのんってなんなんだろ」
ふと、七罪は顔を上げる。
七罪から見た“よしのん”は、ただのパペットにしか見えなかったし、四糸乃が腹話術で話しているようにしか見えない。
しかし、きっとそうではないのだろうと考え直す。
精霊が卓越した能力を持っていることは、七罪自身よく知っている。
四糸乃が新しい生命体を作れるだとか、そんな能力を持っていたとしても可笑しくはない。それが、七罪の考えだった。
「……腹話術とか言わなくてよかった」
下手したら、逆鱗に触れることになっていただろう。
四糸乃と友好的な関係を築きたい七罪にとって、四糸乃を怒らせたくも悲しませたくもなかった。
そういった話も、次会えたときにさり気なく聞いてみたらいいだろう。
七罪はそう考えたあとに、一段と表情を暗くさせた。
「……次会えたら、だけど」
精霊は、隣界と呼ばれる世界とこの世界を行き来出来る存在だ。
隣界へ引っ張られたとしても、自分の意思で次現界する場所をある程度決められる、ということを七罪は知っている。
そのため、四糸乃が七罪と会いたいと思ってくれるのであれば、またあの地に訪れてくれる……のかもしれない。
突然割り入ってきた七罪に対し、四糸乃が不快感を覚えたのなら、もう会うことはないのかもしれないが。
なんせ、この地球は広い。たまの偶然でまた会う確率は限りなく低い。
もうあの人とは会いたくない……なんて四糸乃が思って避けてきた瞬間、七罪の考えは全て水泡に帰す。
七罪としては、自分が嫌われていないという可能性を祈るばかりだった。
「ああでも仲間にしてだなんて言わなきゃ良かった……」
七罪は、先ほどの状況を思い浮かべる。
四糸乃によしのんを渡すまでは上出来だったが、そのあとがいただけなかった。
「何でペラペラ喋っちゃったんだろ……」
七罪は頭を抱えて、ゴロゴロと道を転がる。
無論、綺麗に整備されているはずもない場所だ。転がるのはあまり褒められた行動ではないが、七罪は気にしていない様子で思案する。
よしのんを渡して、そのあとに精霊と会いたかったなどとほざき、その上四糸乃たちの仲間にしてくれなどと抜かしてしまった。
よしのんを渡して去るだけなら、まだミステリアスで格好良い女を演出出来たのに。七罪は後悔に苛まれ、そのストレスを誤魔化すように頭をガシガシとかいた。
四糸乃は、戦いに怯えている。
覚えのない悪意を向けられるのは、七罪だって良い気持ちはしない。四糸乃だってそうだ。むしろ、七罪以上に嫌なのだろう。
ASTに攻撃される四糸乃の表情は、恐怖で満ちていていた。そんないたいけな少女に攻撃するASTに対し、不快感を覚えたし、もうあんな目に遭っている四糸乃を見たくはなかった。
だからこそ立てた目標だったが、今後どうするのが正解なのか。
今日のように手を貸すべきか。
しかし、七罪が手を貸したところで好転するとは考えづらい。
むしろ、逆なのではないだろうか。
精霊一人だからあの戦力なのであって、七罪も同じ現場に現れ続けるのであれば、敵対組織は最高戦力を投入するのかもしれない。
「……まあ、あんなやつら、いくらいたって平気だけど」
……でも、もしも。
もしも、万が一にも精霊に太刀打ち出来る手段を持っているのだとしたら、
「……」
七罪ひとりならば、このまま行動し続けていても問題はない。
それでも、四糸乃のことを考えるのであれば慎重に行動しなければならない。
そこまで考えた七罪は、深く息を吐いた。
「はぁ……四糸乃が人間に戻れるような手段でもあればいいのに」
そんな都合のいい話、あるわけないか。
七罪は自嘲し、目を伏せた。
──
「……ぶえっくしょい!!」
……同時刻、他人より死にづらく、精霊の力を封じることが出来るだけの少年が盛大なくしゃみをした。
挿絵
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あった方がいい
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ない方がいい