黒崎一護は救世主を待ち望んでいた 作:朱音
「うーん視界は良好先行き不透明」
山の頂上から見える景色は極上のものである、流魂街の中でも一際標高が高い山なら尚更だ。
しかし彼は下界を見下ろす訳ではなかった、頂上にたどり着いて尚その視線は天へ。
彼は薄ら寒い笑みを浮かべて、好奇の目でそれを凝視する。
「さぁ、霊王宮を堕とそうか」
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「ああ、この日記もう処分しないと。もし誰かに見られたらちょっとヤバいし」
教科書を取り出そうと段ボールから取り出した日記には、『自我の所在』といったいかにも思春期らしいタイトルがついていた。
背表紙はボロボロで表紙にはコーヒーをこぼした痕がある、長く使い込んできた証拠だ。
単に扱いが雑だっただけだと言われれば否定は出来ない。
「懐かしいなぁ」
幼い時から不思議な力が使えていた俺はある日白い異形の化け物と出会った、それは日本語を操り自らを虚と思った。
自分が生まれ変わって性別が変わり知らない人の娘になっている、それだけで崩壊寸前だった俺の精神は化け物と出会いこの世界が創作のものであると知りおかしくなってしまったんだ。
「あの時は散々家族に迷惑かけたなぁ・・・・・・まずいぞ思い返しただけでホンキで申し訳なくなってきた」
一年近く引きこもり続けた俺が今学校に通えているのは、間違いなく家族のおかげだ。
そんな家族から空座町に引っ越すことになったと言われた時には流石に驚いたけど。
かつて俺は彼らを紙面の上から憧れの目で眺めることしかできなかった、そんな俺が今日初めて現実で彼らと出会う。
でもまさか俺如きがが会うことになるなんて思いもよらなかったさ、正直一生関わらず生きていくと思っていた。
しかも転校先の教室の出席簿を見たところ井上織姫も茶渡泰虎もみんなみんないるクラスらしい。
そう思った瞬間緊張が溢れ出てきた。
小学中学と荒れてて友達いなかったから緊張がすごい。
「朱音ー、そろそろ学校だぞ。初日くらいは遅刻するなよー」
「わかってるって、つーか初日じゃなくてもしないよ」
この日記が石田雨竜や黒崎一護に見つかることはないだろうが、この街には浦原喜助がいる。
万が一を考えると燃やしてしまった方がいい、しかし街中で火を使うわけにもいかない。
ならばやることは一つ、
「────完現術
片手直剣型の小さなキーホルダーを握りしめながら呟く。
現れし銀色の剣を片手で持ち縦に振り下ろす。
ピキりと空間が割れて裂け目のようなものが出来た、これが僕のフルブリングの固有能力。
空間を切り裂き別の場所と繋げることができるというもの、開いた先は母校の焼却炉、ごうごうと燃え盛る炎の中に日記を投げ入れた。
パチパチと音を鳴らしながら燃えるそれを見ていると、薪のストーブってロマンあるよなぁなんて何も関係がないことを考え始めてしまう。
「よし、学校行くか」
俺は気づかなかった、通学途中の僕を見つめる黒猫に。
俺は知らなかった、浦原喜助という存在がどれだけ規格外なのかを。
俺は何も、何一つ知らなかったんだ。
無知が幸福であるのは安全圏にいる者だけの話であって、それは渦中の愚者には適応されないんだということを俺は知ることになる。
200○年×月□日
とある葬式場の愚者のお話。
坊主が唱えるお経が静かなこの空間の静寂を切り裂く。
涙を堪えて前を見据えているのは黒崎真咲、数少ない純血の滅却師だ。
とはいえ数が少ないというのは現世に限った話、見えざる帝国を含めるというならその数は大幅に膨れ上がる。
しかしその事実を知るもものはこの中にはいない。
霊自らの死体を模した人形が入っている棺を霊体の状態で眺める黒崎一護以外は。
果たして彼は何を考えて自らの家族を見ているのだろうか。
息子が死んだと思い悲しみに暮れる黒崎一心を、母である黒崎真咲を、偽りの死体を用意してまでいったい彼は何がしたかったのだろうか。
それを説明できる人間はこの世に一人たりとも存在しないだろう、当人である黒崎一護本人も何故かは説明しきれないに違いない。
ごちゃ混ぜになった絶望と希望と諦観と憎悪が、彼の心を支配する。
霊圧を完全に遮断する布を纏った彼を感知することはたとえ凄腕の滅却師であろうと不可能だ。
弱っていた黒崎真咲なら尚のこと、最後まで彼女は自らの息子の生存に気づかないまま生涯を終えることとなる。
葬式場から一歩外に出る。これまで沈黙を貫いていた黒崎一護が口を開いた。
「ねぇ母さん、僕は和尚に勝てるのかな」
それはどこかもの悲しく諦めが混ざった声だった。
「ずっとずっと考えてたんだ、霊王の楔とはなんなのかって」
雨に濡れたアスファルトを一歩一歩踏み締めて彼は足を進める。
「和尚は霊王の誕生前に生まれたはずだ、そしてその権能は恐らく霊王超え。単純戦闘能力ではユーハバッハに一歩劣るも超常性ならば誰にも負けない。しかし霊王以後は彼ほどの存在は現れていない」
子供の目から探求者の目へ。
「霊王以前の世界は混沌に包まれていたらしい、それこそきっと和尚クラスも多かったのではないか?ならば霊王の楔とは
彼の言葉は嘘か真か。
「だからもしも和尚を倒せる者がいるとするならそれはきっとこの世界の外からきた魂を持つ者に違いない。無限の可能性を持ち霊王を越えうる才能を持つ者に違いない」
彼は語る、自らのルーツを。
「僕みたいに黒崎一護の魂に記憶のみを宿した半端者じゃなくて、完全に魂ごと世界の外からやってきた、そんな存在じゃなければあれは倒せない」
はぁとため息をついて黒崎はかぶりを振った。
「当面は和尚がソウル・ソサエティに関して干渉しないと考えてことを進めていくしかないか・・・・・・あーあ、どこかに全部を解決して僕の味方になってくれる
この言葉が空気中に吐かれて数年後にこの物語の主人公である来栖朱音はこの街を訪れる。
その瞬間が和尚の知覚の範疇を超えた、縛られぬ物語の始まりになることは彼は知らない。
今は、まだ。
最初の数行は遥か未来の話です(展開上変わりことがあるかも)