金城柑菜は勇者である   作:ソフ

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『あなたに会える幸せ』は姫立金花の花言葉です。

『必ず来る幸福』(立金花の花言葉)に囚われすぎた結果、もっと大切なものが見えなくなってしまう。そういうお話です。


第八話 あなたに会える幸せ(前編)

 10月某日。私はカンナ先輩に勇者御記を探すよう頼まれ、大赦の倉庫に侵入している。

 

(あった! これが勇者御記…)

 

 無事に御記を入手することができ、あとはここから脱出するだけ。……ではあるのだが、侵入して早々に撤収とはなんとも味気ない。

 

(せっかくだし、もう少しだけ…)

 

 沸き上がる好奇心を抑えきれず、私は薄暗い倉庫をさらに奥へと進んでゆく。

 すると、倉庫の最奥から微かに青い光が漏れ出ているのが見えた。

 

(あれは…なんだろう?)

 

 謎の光に吸い寄せられるかのように近づくと、そこには先代勇者の勇者端末が置かれていた。

 端末は全部で4台あり、その中の1台だけが青く光っている。

 私は咄嗟に手元の勇者御記を開き、端末の所有者を確認する。乃木若葉に土居球子、伊予島杏に高嶋友奈。御記に登場する人物と端末の数とが一致している。

 

(光ってるのは誰の端末なんだろ?)

 

 そう思った次の瞬間だった。

 

 ビビビビビビッ!

 

 倉庫内に突然警報が鳴り響く。

 

(……もう終わったの!?)

 

 想定よりも遥かに早いタイムリミットに私は慌てて踵を返す。

 大急ぎで倉庫から脱出しようとしたが、警報を聞いて駆けつけた神官と入り口でばったり鉢合わせてしまった。

 

「花折友奈!? お前はここに立ち入れないはずだ! また例の能力で勝手なことをしたのか?」

「すみません…」

「流石に今回ばかりは度が過ぎている。この件は直ちに乃木様に報告させてもらう。お前もついて来い」

「……は、はい」

 

 こうなってしまっては仕方がない。

 私は御記をその場に置き、大人しく神官の命令に従った。

 

 

◇◇◇

 

 

 12月15日、私は勇者端末継承儀の説明を受けるため、朝から大赦に赴いた。

 

「立森様、お待ちしておりました」

 

 送迎用の車から降りると、男性の神官が私を出迎える。

 その背後には荘厳な雰囲気の建物がどっしりと構えており、私は男性神官に導かれながらその建物の中へと入っていく。

 

 入り口で手荷物検査をし、ひたすら長い廊下を歩き続け、ようやく客間に到着した。

 

「立森様がおいでになりました」

 

 男性神官が襖を開けると、その先には仮面を被った一人の女性神官が座っていた。

 大赦の神官はみなほぼ同じ見た目をしているとはいえ、その堂々とした居住まいからかなりの立場の人間であることは容易に察せられる。

 

「し、失礼します…」

 

 私が入室すると、男性神官は一礼してから丁寧に襖を閉める。どうやらここからは一対一で話をするらしい。

 

「あまり緊張なさらなくても大丈夫ですよ。話も楽な姿勢で聞いてもらって構わないので、とりあえずお座りください」

 

 過剰に緊張する私に女性神官は優しく声をかける。

 その声は威圧感のある見た目からは想像できないほど優しく穏やかだった。

 楽な姿勢でいいとは言われたが、私は失礼のないよう丁寧に座る。

 

「大赦神官の金城絢女(きんじょうあやめ)です。これから端末継承の儀について私の方から説明いたしますね」

 

(きんじょう…?)

 一瞬女性神官の苗字に引っかかったが、集中して話を聞かなければという意識が働き、その疑問は無意識のうちに押さえつけられる。

「…よろしくお願いします」

 

 その後私は様々なことを聞かされた。

 儀式は基本的に巫女が祝詞を奏上し、私は勇者端末を受け取るだけでいいということ。再利用するのは勇者端末だけであり、戦装束や武器は端末の元の所有者である乃木若葉のものを参考にアレンジが加えられたレプリカ的なものだということ。そして私と乃木若葉とで精神面がある程度似通っており、勇者の力を受け継ぐことが可能だということも。

 

「私とその若葉様って本当に似ているのですか…?」

「若葉様は今でこそ英雄と呼ばれていますが、当時は立森様と同じ中学生でした。勇者としてだけでなく、人としての彼女にも目も向けると似ている部分がきっとあるのだと思います」

 

 女性神官はそう説明するが、それでも世界を守った英雄と私との間に共通点があるとは到底思えない。

 乃木様の名前が出る度、本当に継承先が私でいいのだろうかという疑問が頭の中を駆け巡った。

 

 

 一通りの説明が終わり、今度は実際に端末を使ったデモンストレーションが行われることになった。

 

 女性神官に連れられて別室に案内されると、そこでは既に数人の神官が待機していた。

 その雰囲気の物々しさからも、端末はよほど厳重に管理されているように見受けられる。

 私はここまでわざわざ大赦で説明を行う必要はあったのだろうかと思っていたが、その光景を見てようやく腑に落ちた。きっと先代勇者の遺物を迂闊に外部に持ち出せなかったのだろう。

 

 勇者端末を受け取り、私は扱い方の指導を受ける。

 神官の指示で変身機能を使ってみると、私の体は忽ち戦装束に包まれた。

 戦装束は紫色に染められており、採寸してないにも関わらずサイズピッタリだ。

 今は服を身につけても力が漲る感覚はないが、もうすぐこの服を着て柑菜と戦える日が来ると思うと少し気持ちが昂った。

 

 

 全ての予定が終わり、最初に私を案内してくれた男性神官が再び私を迎えにくる。

 

「本日はお疲れ様でした。車の手配が済みましたので、私が入り口まで案内しましょう」

 

 時計を確認すると、いつの間にかとっくに昼を過ぎていた。

 

「本日はどうもありがとうございました。勇者に選んでいただいたからには必ずお役に立ってみせます。柑菜のことも私が必ず…」

 私は女性神官に向き合い、お礼と決意を伝える。

 

「……ええ。頼んだわね、立森さん」

 勢い余って柑菜の名前を出してしまったせいか、女性神官はどこか微妙な反応を見せる。

「・・・」

 それどころか、その様子を見た男性神官までもが意味深に黙り込んでしまった。

 

「……では行きましょうか」

 少しの沈黙の後、男性神官は再び私に声をかける。

「あっ、ちょっと待ってください」 

 私は先に行こうとする男性神官を呼び止めた。

 

「帰る前に花折さんと会わせていただけませんか?」

 私友奈に会いたい旨を伝える。せっかくここまで来たんだ。帰る前に一度会っておきたい。

 しかし、男性神官から返ってきたのはあまりにも無慈悲な一言だった。

 

「それはできません」

「す、すみません…」

 

 その言葉は短いながらもこの上なく威圧的であり、あまりの圧に私は食い下がることができなかった。

 これは友奈と会うのは諦めるしかない。

 そう思ったその時だった。

 

塩谷(しおや)さん。会わせてあげなさい」

 今のやり取りを聞いていた女性神官が口を開く。

「何故そこまでする必要があるんです?」

「立森さんは強い覚悟を持って勇者に志願した人間よ。それくらいの口を利く権利はあるわ。それにこれは私からのお願いよ」

「……そうですか。金城様のご命令とあらば仕方がありませんね」

 

 男性神官は不服そうにしているが、女性神官のおかげでなんとか友奈と会うことが許された。

 

 

 男性神官に案内された部屋に入ると、そこでは友奈が一人の神官から授業を受けていた。

 

「スズカ先輩!」

 私に気づいた友奈が嬉しそうに近寄ってくる。

「説明はもう済んだんですか?」

「ああ。ついさっき終わったところだ」

「それでわざわざ会いに来てくれたんですね! 神官さんもご苦労様です!」

 友奈はそう言いながら少し離れた場所で待機している男性神官に軽くお辞儀をする。

 

 するとその様子を見たもう一人の神官が男性神官へと近づき、小声で話しかける。

「いいんですか?」

「他でもない金城様からの命令だ」

「それなら仕方ないですね…」

「結局はただの馴れ合いだったんだ。くだらない」

 二人の神官が何やら話をしているが、距離と声量の関係であまりよく聞き取れない。

 

「スズカ先輩、勇者になってもくれぐれも無理はしないでくださいね」

 二人の会話を気にしていると、友奈の方から話しかけてきた。

「肝に銘じておくよ」

 その言葉を聞き、友奈は安心したかのように優しく微笑む。

 

「……それにしても、私一人じゃきっとここまで漕ぎ着けられなかったと思う。友奈がいてくれたからこそ、私は勇者になることができたんだ。本当にありがとう」

 私は友奈に感謝の気持ちを伝える。それは今日会えたら伝えようと思っていたことだった。

「私にお礼を言われる資格なんてありませんよ。私はただ…」

 友奈は謙遜している。が、その目はどこか悲しそうにも見えた。

 

「……あっ、そうだ! 勉強のお供に隠し持ってた飴があるんですけど、スズカ先輩も食べますか?」

 友奈はそう言うといきなり自分の机を漁り始める。

「…じゃあもらおうかな」

 

「いちご味です。どうぞっ」

 友奈は机から一個の飴玉を取り出すと、腕を伸ばしながら私に近づいてくる……が、次の瞬間、突然友奈の動きが止まり、指先の飴玉が地面に転がり落ちた。

 

「えっ……そ、そんな……」

「どうかしたか…?」

 明らかに様子のおかしい友奈に私は心配の言葉をかける。

「敵襲の神託です! それもかつてない規模の… このままではカンナ先輩が…!!」

 友奈はかつてないほど取り乱している。そして…

「私カンナ先輩に伝えてきま…」

 突然友奈の声が途切れ、私の目の前から友奈が消えた。

「友…奈……?」

 

 

◇◇◇

 

 

 気がつくと柑菜は樹海の上に立っていた。

 

(樹海…? なんで…?)

 

 突然の樹海化に柑菜は戸惑いを隠せない。いつもなら友奈から事前に敵襲の情報を教えてもらうのだが、今回はそれがなかった。

 

(じゃあ今日のは大したことがないのかな…?)

 

 直前まで自宅でくつろいでいたので頭を切り替えられていないが、もたもたしている暇はない。柑菜は勇者端末を取り出し、早速勇者に変身する。

 

 空を振り仰ぐと、そこには数十体の進化体と数百体の星屑が浮かんでいる。敵の数だけならいつも通りだ。

(さっさと終わらせよう!)

 柑菜は気合いを入れ、地面を蹴って敵へと向かっていく。

 

 柑菜に気づいた星屑が雪崩のように向かってきた。

「はあっ…!!」

 柑菜は空中で左手のトンファーを投げ、先制攻撃を仕掛ける。トンファーは一直線に飛んでいき、バーテックスの集団に穴を空ける。

 柑菜はその隙間を潜り、星屑を足場にしつつ、右手のトンファーで敵を倒しながら進んでいく。

 目標はこの先にいる進化体だ。

 

 柑菜はブーメランのように回転しながら戻ってくるトンファーをキャッチすると、星屑を強く蹴ってさらに高く飛び上がる。この高さからなら進化体に攻撃が届きそうだ。

柑菜はトンファーを構えてバリアを展開しながら進化体に向かって落下していく。

 

「くらえぇーーっ!」

 

 進化体の目の前でバリアを解き、全力の一撃を打ち込む。

 ダメージを受けた進化体は消滅し、厄介な敵を一体倒すことができた。

 

 とても調子がいい。このペースで殲滅できれば、いつもより早く戦闘を終えられるかもしれない。

(この調子でっ…!)

 柑菜は地面に足が触れると間髪を入れずに再び跳躍し、そのままの勢いで次々に敵をなぎ倒していく。

 

 ここまではとても順調だった。

 

 敵の数が減るにつれ、バーテックスもそれに対抗するかのように攻撃の激しさを増してきた。

 星屑もただ真っ直ぐ突撃するだけでなく、蛇行や旋回などで巧みに惑わそうとしてきたり、複数体同時に襲いかかってきたりと厄介な行動パターンが増えてきている。

 

 初めのうちは順調だった柑菜も結局いつも通りの苦戦を強いられるようになってきた。

(あと少し… あと少しでゆっくり休めるんだ…)

 柑菜は戦意を喪失しないよう、自分を鼓舞しなから攻撃を続けた。

 

 

(あそこら辺、バーテックスが固まってるなあ)

 

 かなりの高所でバーテックスの集団が元気に飛び回っている。あの集団を片付けさえすれば、今日のお役目はほとんど終わったも同然だ。

 

 柑菜は低空を飛んでいる星屑を踏み台にしながらバーテックスの集団に接近する。

「君たちの相手はこっちだよ!」

 柑菜が大声を出すと、それに反応したバーテックスが迫ってくる。柑菜はそこに容赦なくトンファーを打ち込んだ。

 

「ふぅ…」

 無事星屑の集団を一掃でき、柑菜は胸を撫で下ろす。

 しかしそれも束の間、今度は遠くから細く鋭い角を持った進化体が星屑を巻き込みながら、とてつもないスピードで突進してきた。

 

(…!?)

 柑菜は慌ててシールドを展開したが、衝撃を殺しきれずに吹き飛ばされる。

「がっ!?」

 追突の衝撃で手が痺れて左手のトンファーを落としてしまった。

(ま、まずい…!!)

 今すぐにでもトンファーを回収したかったが、空中では自由に方向転換ができない。

 

 そこを狙ったかのように星屑が背後から突進してくる。

 柑菜は体を捻り、右手のトンファーで星屑に攻撃を打ち込むことで対処する…が、進化体の追撃には対応できず、進化体の鋭い角が柑菜の背中を貫いた。

 

「えっ……」

 刺された場所から流れた血が進化体の角を伝っている。

「離してっ!」

 角の先端をトンファーで粉砕すると、進化体は身体を崩壊させながら柑菜を強引に振り落とした。

 

 着地はなんとか受け身が取れたが、体の痛みから意識が一瞬飛びそうになる。

 脇腹を見ると、刺された場所からは大量の血が流れている。

(もうほとんどの敵は倒したんだ。早く終わらせて病院に行けばきっと大丈夫…)

 大きな怪我ではあるが、残りの敵が少ないのは不幸中の幸いだ。あとほんの少し我慢するだけでいい。

 

 しかしそう言い聞かせながらもう一度空を見上げると、そこには絶望の姿があった。

 

 これまでの敵とは比べ物にならないほど巨大な2つの影が浮かんでいる。

 その正体はヴァルゴ・バーテックスにカプリコーン・バーテックス。柑菜が勇者になる前に聞かされた、バーテックスの完成体だ。

 

「そんな…なんで!?」

 事前の説明では攻めてくることはないと言っていたはずだ。

 理解が追いつかないでいると、ヴァルゴはそこに容赦なく卵形の爆弾を飛ばしてくる。

(危ない…!!)

 柑菜は戸惑いながらも飛んできた爆弾を間一髪で回避する。

 

(とりあえず先に落としたトンファーを回収しないと…)

 今は考えてる暇などない。まずは何より体制を立て直すのが先だ。

 柑菜は急いでトンファーを回収し、バーテックスの情報を勇者端末で確認する。

 完成体とは西暦時代の勇者も戦っているので、その際に収集されたデータが端末上に記録されてある。

 

(ヴァルゴは爆弾や帯による遠距離攻撃を得意とし、カプリコーンはドリル状の4本の角を使って攻撃する……と)

 柑菜は端末の画面に書かれてあることを心の中で読み上げる。読んでいるだけでも恐怖で足が動かなくなりそうだ。

 

「……よし!」

 柑菜は怯える自分に両手で頬を叩いて活を入れ、大型バーテックスに向かって跳躍する。

 

 柑菜が近づくと、早速ヴァルゴが帯を使った攻撃を仕掛けてきた。

「はああっ!」

 トンファーで帯に一撃を加えるが、帯はしなるだけでダメージを与えた感覚はない。

(これって効いてるのかな…?)

 もう一度攻撃を打ち込むが、やはり効いている様子はない。どうやら帯に打撃技は通用しないようだ。

(もっと近づかないとだめか…)

 

 柑菜は帯と爆弾を回避しながらヴァルゴに近づこうとする。

 しかし、今度はそこにカプリコーンが深い紫色の霧を噴射し、柑菜の視界を阻んだ。

 

(煙幕!? そんなことまで!?)

 カプリコーンが煙幕を使うという情報はどこにも載っていなかった。

 西暦勇者との戦いでは煙幕は使われなかったのだろうか。それとも完成体とは名ばかりで、敵も少しずつ進化を遂げていたのだろうか。

 どちらにしろ、煙幕と遠距離攻撃の組み合わせはとても厄介だ。

(早く近づかないと…!)

 

 そう思った次の瞬間、突然柑菜の体に異変を感じた。

 

「げぼっ…!」

 

 異変を感じるやいなや、口から大量の血を吐き出す。

 

「あれ……」

 嫌な予感がする。

(この煙幕って…)

 間違いない。この霧には有毒な成分が含まれている。

 だとすると、一刻も早くここから抜け出さなければならない。

 

 しかし、それを許さないかのようにカプリコーンがドリルで地震を発生させ、そこにヴァルゴが帯で追撃してくる。

 怒涛の攻撃に避けきれず、体中の肉を大きく抉られる。

「ぐっ…」

 柑菜はヴァルゴの帯を蹴ることでなんとか毒霧から抜け出し、そのまま神樹の根の隙間に逃げ込んだ。

 

「はぁ… はぁ… はぁ…」

 呼吸が荒くなり、手足が僅かに痺れてきている。

「ぐはっ…!」

 再び口から血を吐き、柑菜はその場に倒れ込んだ。

 

「なんでこんな目に…」

 柑菜の目から涙が流れる。その涙は傷口へと流れ込み、余計に痛みが強くなる。

 

「すずかちゃんはこれでも勇者になりたいって言うのかな…」

 柑菜はふと鈴風の顔を思い浮かべる。

 

 柑菜にとって鈴風は自分のことを誰よりも近くで見守ってくれる存在だった。

 産みの親はもちろん、ここ数年は育ての親とも離れた生活を続けていたので、柑菜は誰かと一緒に過ごす時間に飢えていた。多くの愛が自分に向けられていることを理解しながらも、柑菜の心は常に満たされなかった。

 そんな寂しさを埋めてくれたのが他でもない鈴風だ。

 

「すずかちゃんなら言うんだろうな…」

 鈴風のことを思うと、柑菜は少しだけ元気をもらえた気がした。

 じっとしていてもただ死を待つだけだ。

 もはや選択の余地はない。

 今ここでやるしかないんだ。

 

 柑菜はゆっくり立ち上がって根の隙間から飛び出し、もう一度大型バーテックスに向かい合う。

 

(すずかちゃんと一緒に戦うって決めてたんだ…)

 

 柑菜の目の前にはヴァルゴにカプリコーン、そして、ほんの少しの星屑たちが浮遊している。

 

(でも……)

 

 再び涙が出そうになるが、拳をぎゅっと握って泣くのを堪える。

 

(ごめんね、すずかちゃん。一緒に戦えそうにはないや…)

 

 柑菜は覚悟を決め、空に向かっていった。

 

 

◇◇◇

 

 

 樹海化が解け、柑菜は龍王宮へと戻される。

 あれから全ての敵は倒せたが、ここから病院に向かう体力まではもう残っていない。

 

(はあ…… はあ……)

 次第に薄れる意識の中、柑菜は病院とは真逆の方向に歩き出した。

 

 一歩進むたびに血が地面に滴り落ちる。

 

「きゃーっ!?」

「誰か! 誰か救急車を…!」

 

 血だらけの柑菜を見た通行人が何か叫んでいるが、柑菜の耳には届かない。

 

(ううっ……)

 やっとの思いで防波堤に到着すると、柑菜はその場にゆっくりと倒れ込む。

 

(みんな…)

 柑菜の頭の中にふと友達や家族の顔が浮かんだ。

 

 鈴風に友奈に栗原先生に育ての親。唯一産みの親の顔だけは全く思い出せなかったが、お弁当を通して多くの愛を感じていた。

 

 柑菜はそんなみんなのことが大好きだ。でも……

 

(もう少しみんなといっぱい会いたかったな…)

 

 一番の心残りを心の中で呟くと、穏やかな波風と波音に包まれながら、柑菜はそのまま眠りについた。

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