金城柑菜は勇者である   作:ソフ

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久しぶりの投稿です。
投稿が遅れたのは全て私の怠惰が原因です(すみません)
次回以降は原作に関わる独自設定が山盛りでどうしようかと悩み中ですが、なるべく早く投稿できるようにします。


第十話 感情という名の足枷

 12月16日夜、友奈は自室のベッドに座って考え事をしていた。

 

(スズカ先輩、大丈夫かな…)

 

 今日の昼頃に明日にもスズカ先輩が勇者になると聞かされてからずっと同じ心配をしている。

 カンナ先輩を失った悲しみに勇者になる理由の消滅。スズカ先輩が勇者になることに対する二人の間でのすれ違いも解消できていない。心の機微が命取りになりかねない勇者のお役目において、これらの要素が悪影響を及ぼすのは避けられない。

 

 私はベッド横の机に置かれた一冊の冊子を手に取る。

 カンナ先輩の勇者御記。遺品整理をする過程で特別に一時的に預からせてもらったものだ。この御記にはカンナ先輩の本音がありのままに綴られている。

 

(やっぱりこれをスズカ先輩にも見せるしか…)

 

 この前二人で話をした時、スズカ先輩はカンナ先輩の本心を気にしていた。この御記を通してカンナ先輩の気持ちが正しく届けば、それがスズカ先輩の力になるかもしれない。勝手に死者の日記を持ち出していいのかと葛藤する部分もあるが、不安要素を取り除くにはもはやこうする他ない気がする。

 

(……よし)

 

 私はスズカ先輩に御記を見せる決心をし、早速それを電話で伝えるため、御記を鍵付きの机にしまってから部屋を出た。

 私は個人の携帯を持っておらず、電話をしたければ、大赦の共用電話機が設置されている場所まで行く必要がある。

 

 部屋を出てから5分ほど歩いただろうか。目的地まであと3分の1といったところだ。

 

(やっぱり遠いなあ…)

 

 大赦の廊下は無駄に長くて薄暗い。薄暗さに関しては、一部を神樹の恵みに依存している電力の節約が理由なのは理解しているが、この廊下の長さに関しては目的が不明なのでいつも不思議に思っている。

 

(スズカ先輩、まだ起きてるかな?)

 そう思いながら薄暗い廊下を歩いていると、突然背後に人の気配を感じた。

(・・・?)

 その気配はいきなり現れ、私とずっと一定の距離を保っている。

 

(誰かにつけられてる…?)

 背後が気になりゆっくり振り返ろうとしたその時、腰に鋭い痛みが走り、私の意識はそこで途切れた。

 

 

◇◇◇

 

 

 柑菜が戦死してから2日後、地元の神社を借りて勇者端末継承の儀が執り行われた。

 そこで鈴風は正式に勇者となり、初めてのお役目があったのはそれから一週間後のことだった。

 

 淡く茫洋とした空間の広がり。この景色を見るのもこれで2度目だ。

 柑菜はここで孤軍奮闘し、命を燃やした。本来なら今鈴風の隣には柑菜がいて二人で共に戦うはずだったのだが、その柑菜はもういない。

 あまり戦う気力が湧かなかったが、ただずっと突っ立っているわけにはいかない。

 鈴風は勇者端末を取り出し、勇者に変身する。

 

「……いくぞっ!」

 

 鈴風は自分を無理やり奮い立たせるためにわざと大声を出し、地面を力いっぱい蹴って跳躍した。

 前にも一度柑菜につかまって勇者の驚異的な跳躍力を体験したことがあったが、やはりこのスピードには未だに少し恐怖を感じる。

 

 高い場所から見下ろすと、神樹の根は思ったほど密集はしておらず、高低差もそれなりにあって戦いづらそうだ。

 そんなことを考えていると、目の前から星屑が襲いかかってきた。

 

「はあっ!」

 

 鈴風が刀を振ると、敵はあっさりと切断された。それなりの力が必要かと思っていたが、勇者服の効果なのか武器が特殊なのか豆腐を切る感覚で敵を斬ることができる。これなら問題なくやれそうだ。

 

 ふと地上を見下ろすと、今度は根の上を全速力で駆ける小さな影が見えた。

(あれは…ジェミニ?)

 バーテックスの情報は事前に勇者端末で確認している。それによると、ジェミニ・バーテックスは圧倒的なスピードで一直線に神樹を目指して走り続けるという特性があるらしい。敵が神樹に到達すると世界が終わってしまうため、何としてでもジェミニの侵攻は止めなければならない。

 

(そうはさせるか…!)

 鈴風は空から斬りかかろうとする…が、ジェミニは直前で直角に曲がって回避した。

(動きが速い…!)

 鈴風はジェミニを追おうとすぐさま方向転換したが、次の瞬間にはジェミニが斜め上から蹴りかかろうとしていた。

 

(…!?)

 ジェミニは樹海の高低差を巧みに利用し、曲がった先の高くにある根を蹴って動作を反転させていたようだ。

 鈴風は刀を使って受け流そうとするが、うまくいかずに吹っ飛ばされる。

 

「がはっ…!?」

 神樹の根に叩きつけられた衝撃で一瞬意識が飛び、気づけば鈴風は根の上でうつ伏せになっていた。

 

(いたた…)

 痛む背中を押さえながら目線を上げると、今度は目の前からは星屑が迫ってきている。

 鈴風はすぐに起きあがろうとした…が、この既視感のある状況から、以前丸腰のまま樹海に飛ばされて死にかけた日のことを思い出し、その時助けに来てくれた柑菜の後ろ姿が脳裏をよぎった。

 

(あ…)

 

 鈴風の動きが一瞬鈍くなり、回避が遅れる。

 星屑は容赦なく鈴風の足先を噛み砕いた。

 

「があああああっ…!」

 

 あまりの痛みにその場に蹲る。

 自分の足元を見ると、欠けた靴の隙間から流れ出た血が血溜まりを形成している。

 その血溜まりが広がるにつれて鈴風の意識が遠のいていく。

 

(このままだと無駄死にしてしまう… 私は一体何のために…)

 

 柑菜を思って戦う道を選んだが、皮肉なことに柑菜のことが戦う上で足枷になっている。

 誰かのために。その思いで起こした行動が全て悪い方向に働いている。

 これは昔からそうだった。鈴風が小学生だったあの時から…

 

 

◇◇◇

 

 

 鈴風は責任感が強く、真面目な子だった。

 規律正しい警察官である父に憧れ、学校でも規則の遵守を絶対とし、廊下を走る行為や勝手なお菓子の持ち込みなど、規則に反する行為を見かける度にそれが友達だろうと問答無用で注意をしていた。

 

 そういった呼びかけが安全な学校生活に繋がることはみんなも幼いながらに理解はしていた。

 しかし、やんちゃで無鉄砲な子供にとって鈴風のような生真面目な人間は鼻につく存在だ。最初のうちはみな素直に指摘を受け入れていたが、少しずつ鈴風を煙たがるようになってくる。

 

「鈴風ちゃんっていつもだめだめ言ってるよね」

 

「ほんと嫌な先生みたい」

 

「鈴風なんかほっといて私たちだけで遊ぼうよ」

 

 徐々にクラスから孤立していき、やがてひとりぼっちになると、煩く思われる性格とも相まって徐々にいじめに発展してきた。

 

 初めのうちは陰口を叩かれる程度だったが、いじめはあっという間にエスカレートしていく。

 ノートは勝手に落書きされ、筆記用具は勝手にのりでベタベタにされる。給食の時間は食べ物を牛乳まみれにされて、掃除の時間は雑巾を顔に投げつけられる。そんな日々が毎日のように続いた。

 

「最近学校はどう? 楽しい?」

 

 家では母が度々学校生活について聞いてくる。それは子供の学校での過ごし方が気になる一種の親心。

 鈴風は家族を心配させたくなかったので、学校のことを聞かれる度に笑顔を取り繕っていじめの事実を隠し続けた。

 

「うん、楽しい」

 

 こうなったのには自分に責任がある。自分が口うるさいからみんなに嫌われたんだ。そんな自分の失態で親に心配をかけるわけにはいかない。全て自分が悪い。全て自分のせいだ。自分のせいだ。自分のせいだ。だから私はこのいじめと一人で向き合うしかないんだ。

 

 鈴風は自分にそう言い聞かせながら、ひたすらいじめを耐え続けた。いつか自然といじめがなくなる、そんな日が来ることを願って。

 しかし、そんな日々は望まない形で終わることになる。

 

「あなたの"お友達"から聞いたんだけど、クラスの子から嫌がらせされてるの?」

 

 ある日遂に担任の先生に呼び出され、いじめの有無について尋ねられた。

 ここで先生にいじめのことを知られると、間違いなく親にもその話が伝わる。だからどうしても認めることはできない。

 

「いや、そんなことは…」

「本当に?」

「本当です。私は嫌がらせなんてされてません。私は…」

 

 私は大丈夫。そう言おうとしたが、突然体が熱くなり、言い切る前に頬から一筋の涙が流れ出た。

 

「あれ…いや…これは違って……私は…うっ…大丈夫…うぅ…ですから……うううぅ…」

 

 ただ大丈夫の一言が言いたかっただけなのに、言葉を発しようとすると余計に涙が止まらなくなる。

 

「……正直に話してごらん」

 

 こうなればもう言い逃れはできない。鈴風は正直に全てを打ち明けた。

 話を聞いた先生は事態を深刻に受け止め、すぐ解決に向かって動いた。当然その話は親にも伝わる。

 学校としては当たり前の対応。それは鈴風の理想とは乖離していたが、いじめの自然消滅なんて都合のいい話はない。

 

「鈴風、大丈夫…? 学校行くのが辛かったらしばらく休んでもいいからね」

 家に帰ると母が心配した様子で話しかけてくる。

「うん…ありがとう…」

 

 鈴風はあまり心配させないよう、いつも通り笑顔を見せようとする……が、その時にはもう笑い方が分からなくなっていた。

 

 

◇◇◇

 

 

(まだだ…まだ終わりじゃない…)

 

 嫌な記憶とともに遠のく意識に抗うかのように焦燥感が湧いてくる。

 

(こんなところで死ぬわけにはいかないんだ…)

 

 友奈が大赦の人間から反感を買われてまで交渉してくれたんだ。そして何より柑菜に反対されてまで勇者になったんだ。それなのにこんなにあっけなく終わるなんて絶対に許されない。

 鈴風はやっとの力で立ち上がり、躍起になりながら次々と敵を斬っていく。

 

(あいつはどこだ…!?)

 

 鈴風は必死になってジェミニを探す。急いで見つけなければ、先に体力が尽きて今度こそ終わりだ。

 

(いた…!)

 

 探し始めて数分後、地を駆けるジェミニを発見した。

 鈴風は腕を振り上げて斬りかかろうとした…が、ジェミニの素早さには敵わず、腕を蹴られて鈴風は宙を舞う。

 

「がっっ…!」

 

 今の一撃で利き腕が使い物にならなくなった。

 しかし、それでもやるしかない。

 鈴風は刀の柄を口に咥え、地面のジェミニにしっかり標的を定め、空中まで伸びた根を全力で蹴る。

 

(いけえええぇぇっっ……!!) 

 

 刃は遂にジェミニを切り裂き、これで全ての敵を殲滅することができた。

 

「ぐうぅぅ……」

 

 今の衝撃で歯が数本折れ、激痛が走る。

 ギリギリの闘いだったが、なんとか勝利を収めることができた。

 

 しかしそこには喜びも達成感もなく、ただひたすらに虚しさが残るだけだった。

 

 

 その日の夜、私は眠れずにスマホの写真を眺めていた。

 アルバムには柑菜と一緒に撮った写真が残っている。

 古いものから順に見ていくと、最後に撮った一枚には友奈も写っていた。

 

(…そういえば友奈は元気にしてるかな)

 

 この前友奈と会ってからは全く連絡が取れていない。

(そういえば私には巫女として友奈がつくことはないのかな…?)

 以前柑菜から聞いた話によると、勇者には専属の巫女がつくらしい。

 柑菜には友奈がついていたし、私を勇者にしてくれたのも紛れもない友奈だ。その2点を勘案すると、友奈が引き続き巫女として選ばれてもおかしくないはずなのだが、私が勇者になった途端に音沙汰がなくなるのは少し違和感がある。

 

(明日栗原先生に聞いてみようかな?)

 

 

 翌日私は早くに学校へ行き、栗原先生を探した。

 幸運なことに職員室に訪れるとあっさり会えたので、すぐに話をすることができた。

 

「巫女がついていない…?」

 

 私から現状を話すと先生は驚いたような反応を見せる。

 先生も事情を知らないとは完全に予想外だった。

 

「友奈は元気にしてますか?」

 事情を知らないのに聞いても仕方ない気がしたが、そう感じるよりも先に言葉が出る。

「んー…… 私と花折さんはあまり接点がないから詳しいことはわからないわ。ちょっと後で確認してみるわね」

 

 私は後で確認するという言葉を聞いて安堵する。

「よろしくお願いします」

 私は先生に頭を下げ、そのまま教室へと戻った。

 

 

◇◇◇

 

 

 立森さんが職員室から出て行くのを見届けた後、私は早速金城さんに電話をかけてみた。金城さんなら何か知っているかもしれない。

 

 しかし、しばらく待っても一向に繋がる気配がない。

(あれ…?)

 少し時間を空けてからもう一度かけ直してみたが、やっぱり繋がらない。

(何かあったのかしら?)

 私は急に心配になった。

 

 今の立森さんは恐らく親友を失った悲しみで精神状態が不安定だろうし、少しでも安心させるために、花折さんの状況は早めに聞いて本人に伝えたい。

 どうしようかと悩んだ末、私は今から大赦に行ってみることにした。

 

 

「一般人が勇者になったところで無駄死にするだけだ!」

「今の乃木家に大赦をまとめる資質はない!」

 

 数時間電車に揺られて大赦に来てみると、あちこちから不満の声が聞こえてくる。

 前に訪れてからまだ一週間ほどしか経っていないが、この前とはまるで雰囲気が違う。

 

「すみません、一体何があったんですか?」

 私は近くを通りかかった人に声をかける。

「何がって… 我々は外部の人間を勇者にするという乃木様の独善的な判断に怒っているんですよ」

「は、はぁ…」

 確かにそのことに関しては反対の声が根強かったことは聞いている。

 しかし、たった一週間のうちにここまで激変するものなのだろうか。

 

(……とりあえず金城さんを探さないと)

 考えても仕方なかったので、私は本来の目的に戻って金城さんを探すことにした。

 

 

 しばらく歩いていると、どこからか乃木様を批判する声が聞こえてきた。

 

「外部の人間を勇者にするとは乃木様は何を考えておられるのか! 子供の主張に判官贔屓の心をくすぐられたのか? だとしたらとんだ愚か者だ! 我々の未来をかけた闘いが子供の感情一つに振り回されることなどあってはならない!」

 

 声のする方向へ近づいてみると、一人の神官が多くの聴衆に囲まれながら演説をしているのが見えた。あれは……塩谷さんだ。

 

「感情というものは実に厄介だ。非合理的な話でも感情だけで見せかけの筋を通せてしまう。我々は一体何のために"仮面"をつけているのか? 頂点に立つ者がその理念を無視するのなら、我々も容赦なく怒りを解放する!」

 塩谷さんは熱く聴衆に語りかけている。

 

(うーん……)

 確かに乃木様は何故立森さんを勇者にする許可を出したのか私にも分からない。

 しかし、塩谷さんの推測は間違っているように思う。私の知る乃木様は感情で動くような御方ではない。塩谷さんの推測はなんというか、大赦の内部で蓄積された鬱憤を解放させる流れを作るという目的のもと、乃木様の動機をでっち上げているように感じる。

 

「塩谷さん!」

 私は耐えきれずに聴衆の声援を遮る声量で名前を呼ぶ。

「これはこれは讃州中学教員の栗原じゃないか」

 塩谷さんは私の大声にも動揺せず、落ち着いた様子を見せてくる。

「そこで一体何をしているのですか? まるで立派なアジテーターじゃないですか!」

 私は乃木様のことを尊敬している。そんな乃木様を憶測だけで悪く言われるのは少々不愉快だ。

 

「……どうやら邪魔が入ったみたいだ。演説の途中で申し訳ないが、私はこの栗原と少し話をしてくる。……ついて来い」

 流石の塩谷さんも今の発言は許容できなかったのか、演説を打ち切って私を物陰に呼び出した。

 

「それで、お前は私の邪魔をしにきたのか?」

 塩谷さんは不機嫌そうにしている。

「金城さんを探していたら偶々見かけただけですよ」

「…そうか」

 一応信じてもらえたみたいだが、それでも私のことを訝しんでいる。

 

「塩谷さんは金城さんを見かけませんでしたか?」

 私から話しかけたとはいえ、こんなところで油を売っている場合ではない。私は少しでも情報が手に入るならと、ダメ元で金城さんのことを聞いてみる。

 すると、塩谷さんは何やら不穏なワードを口にした。

 

「最近見かけてないな。あのお方のことはもう放っておけ。我々の計画で犠牲になる存在だ」

「計画…?」

「ああ。乃木様をトップの座から引き摺り下ろす。それが我々の計画だ」

 私はそれを聞いて驚愕した。直前までおかしな扇動はしていたが、まさか本気で乃木様の首を狙っているなんて。

 

「そんな… 想定外の事態で忙しい今、そんなことをしている場合ではないでしょう!」

「いや、今だからこそだ。乃木様は一般人からの勇者輩出を中心に多くの怒りを買ってきた。そして今、その怒りが金城柑菜の訃報をきっかけに爆発しつつある。こんな絶好の機会が他にあるか?」

 

 塩谷さんは嬉々として現状を語る。まるで仮面の下の笑顔が透けて見えてくるようだ。

 

「そんなことをしてどうするつもりなの?」

「当然我々が実権を握って我々の思うようにさせてもらうさ。具体的には勇者の扱いを変える。これまでは勇者を甘やかしすぎた。今回の予想外の事態も原因はそこにある。そこで勇者を我々の監視下で徹底的に教育・管理し、心のゆらぎによる不確定要素を排除させることで戦力を安定させるというのが我々の基本的な考えだ」

 

「勇者になれるのはたった10代半ばの少女よ。心が敏感な年頃の少女に対してそんな機械的な扱いをしたところで寄り添えはしないわ。戦力が安定するどころか、余計に精神状態を悪化させて戦力低下に繋がるだけよ」

「もちろん"普通の子供(部外者)"はそうだ。だが大赦で育った子供は違う。我々の裁量次第で心という弱点を克服した理想の勇者を簡単に生み出すことができる」

 

「あなたは勇者をただの駒としか思っていないの?」

「いくら我々が手厚くもてなしたところで本質的に駒であることには変わりない。それならば感情一つで崩れてしまうような脆い駒ではなく、それすらも超克できる丈夫な駒を使おうというだけの話だ。これまでは神樹様の気まぐれで狙った者をピンポイントで勇者にすることが叶わなかったが、花折友奈のいる今ならそれが可能だ。だから私は理想のためにあいつを拘束したんだ」

 

 花折友奈。我を忘れる勢いで言い合っていたが、その名前を聞き、本来の目的を思い出す。

 しかし、それと同時にとんでもないことも耳にした。

「花折さんを…拘束…? どうしてそんなことを…?」

「あいつは我々が計画を実行する上で障害にも成功の鍵にもなり得る。だから私は予めあいつを私のコントロール下に置いた。お前たちが過ちを犯し続ける裏で我々は大きな目標に向かって動いていたんだ」

 

「・・・」

 私はあまりの衝撃に言葉を発することすらできなくなる。

「立森鈴風…だったかな? あいつは友達を守りたいというくだらない私情が戦う動機の十割を占めるような人間だ。そして今となってはその動機を失い、やり場のない感情だけが残っている状態だろう。悪いがあいつは長くは持たない。その感情が仇となっていつか勝手に身を滅ぼす。そしてその日が乃木家最後の日になるだろう」

 塩谷さんはそう言い残し、薄ら笑いを浮かべながら去っていった。

 

(立森さんに一体どう伝えれば……)

 私は塩谷さんが去った後もしばらくその場に立ち尽くしていた。

 

◇◇◇

 

 

 立森鈴風の初陣の前日。

 

「金城、お前に頼みたい仕事がある。これはお前にしかできない仕事だ」

 

 突然乃木様に呼び出され、私はとある任務を任された。

 

「高知へ行き、行方不明になっていたお前のかつての旦那と話をしてきてほしい」

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