金城柑菜は勇者である   作:ソフ

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ここら辺の話がこの物語を考える上で最初に思いついた内容だったので、ようやくここまできたかという感じです


第十三話 高嶋友奈と花折友奈

 高嶋友奈。大赦でその名前を知らない者はいない。過酷な運命に抗いながら、最期まで身命を賭して戦ったとして今でも大赦内で語り継がれる西暦時代の勇者だ。

 そんな歴史上の人物が今私の目の前にいる。

 

「やっと会えたね」

 高嶋様は私に優しく微笑みかけてくる。

 その容姿は私と非常に似ていたが、当然同胞(はらから)でもなければ子孫でもない。

 

「これは夢…ですよね?」

 遥か昔の偉人が目の前に現れるなど夢の中でしかあり得ないことなのだが、夢と呼ぶには意識があまりにもはっきりとしすぎている。

「んー… 正確にはちょっと違うんだけど、まあ夢みたいなものかな!」

 高嶋様はふわふわとした返答をする。

 

「は、はあ…」

「硬いよー! ほらほら、リラックスリラックス!」

 高嶋様はそう言うと、私の手を引いて樹海を一望できる場所まで案内した。

 

 

「綺麗な景色だよねー」

 高度の高い根の上に横並びで座り込むと、高嶋様は樹海を見下ろしながら口を開いた。

「はい……でも、ここって戦場なんですよね…」

 高嶋様の言う通り絶景であることには違いなかったが、ここで多くの勇者たちが戦死したと考えるとなんとも言えない気持ちになる。

「そうだね… 私もこの景色を楽しむ余裕なんてあの時にはなかったな…」

 高嶋様はしんみりとしている。

 

「そういえば高嶋様って神樹様の一部になったんですよね」

「うん。最期の戦いで私の魂は神樹様に吸収されちゃったんだ」

「怖くはなかったんですか?」

「あの時は必死だったから。私に選んでいる時間なんてなかったんだ。でも結果的にこうして友奈ちゃんと会えたし、これで良かったのかなって。それに…」

 高嶋様は私の方を向き、私の手を両手で握る。

 

「それに、今の私なら友奈ちゃんたちの力になれるかもしれない」

「私たちの…力に…?」

 

「友奈ちゃんにも神託が届いているよね」

「あっ…」

 それはかつてない規模の襲撃を予感させる神託。カンナ先輩が命を落としたあの日を彷彿とさせる神託だった。

 このままではきっとスズカ先輩も…

 

「もしかしてどうにかできるんですか…!?」

「それは友奈ちゃん次第だよ」

「どういう…ことですか?」

「友奈ちゃんは樹海化中でも動けるんだよね? だから友奈ちゃんには襲撃の日、樹海化が起こった後に神樹様の根っこのすぐ近くまで来てほしいんだ」

 

「神樹様の…根っこ?」

「ほら、あそこに神樹様が見えるよね。あの根元まで来てくれたら私も何か力になれるかもしれない」

 高嶋様は立ち上がって神樹様の方を向く。

 樹海の中の神樹様は普段の姿からは想像できないほど巨大であった。

 

「でも今の私は捕まってて…」

「友奈ちゃんを助けようと動いている人がいるみたいだから、きっと大丈夫だよ」

「本当…?」

「うん、ほんと!」

 もはや助けは来ないとばかり思っていたので、その言葉を聞いて少し希望が持てた。

「だったら私、やってみます!」

 私の爽やかな返事を聞くと高嶋様はにっこりと笑った。

 

「そうだ、神樹様のもとには勇者端末も持ってきてほしいな。そうすればそれを介して私の力を分け与えられると思うから!」

「わかりました。…でも、そんなこと可能なんですか?」

 高嶋様はさも当たり前のように力を分け与えると言うが、それは一体どういう仕組みで一体どんな力なのか気になった。

 

「勇者端末が勇者の魂と繋がってるのは知ってるよね?」

 それはもちろん知っている。神聖な儀式を通して勇者端末に使用者本人の魂の情報を刻み込むことによって様々な機能が使えるようになる。端末を使った変身や樹海化中の位置情報特定がその機能の代表例だ。

 そしてその魂が強固であればあるほど神樹様から引き出せる力が大きくなる。

 

「さっき私の魂が神樹様に吸収されたって言ったように、こうやって友奈ちゃんとお話できていても私には実体がないんだ。でも逆に言えば魂だけはある。そしてその魂さえあれば勇者端末にアクセスできて少しだけ力になれると思うんだ」

 流石にここまでくると話が抽象的で飲み込むのに時間がかかりそうだが、確かに説得力はある気がする。

 

「魂だけになっても私の気持ちは同じなんだ。みんなを助けたい。みんなといっぱい笑っていたい。みんなと…大好きなみんなとずっとずっと一緒にいたい。……友奈ちゃんもそうだよね?」

「うん…」

 私がそっと頷くと高嶋様は静かに微笑み返す。

「だから私に任せて」

 高嶋様のその言葉は穏やかでありながらもとても力強く、そして心強かった。

 

「でも本当にそんなことができるもんなんですね…」

「勇者端末に魂を共有して神樹様の力を借りるっていうのは大赦の人たちが生み出した技術で、神樹様がもともと持ってる力じゃなかったんだ。でも私の勇者端末も神樹様に吸収されちゃったから、それで神樹様もパワーアップしたみたい」

 相変わらず私には到底理解が及ばない話であったが、高嶋様の堂々とした物言いからも本当にそうなのだろう。

 

 しかし、今の話には一つだけ引っ掛かるところがあった。

「友奈様の勇者端末が吸収された…?」

「うん。私の端末も魂と一緒に吸収されちゃったんだ。だから私がいなくなった後、当時の大社は私の生体反応をうまく拾えなかったんじゃないかな」

 そんなはずはない。私は少し前に大赦の倉庫で4台分の勇者端末を見かけている。それは西暦時代に丸亀で戦った勇者の人数と一致しており、一緒に保管されていた勇者御記を使って確認もした。

 

「でも私は最近勇者端末が4台保管されているのをこの目で見ました。乃木様、土居様、伊予島様、そして高嶋様。ちゃんと全員分あったと思うのですが…」

「それってもしかして…」

 私が見たままのことを話すと、高嶋様は何かを察したようだ。

「ぐん…ちゃん…」

 

 高嶋様の口からは知らない名前が飛び出す。

「ぐんちゃん?」

「うん、私の大切な…大切な友達。……そっか、ヒナちゃんはちゃんと残しておいてくれてたんだね」

「・・・?」

 高嶋様の顔には嬉しそうで寂しそうななんとも形容しがたい表情が浮かんでいる。

 その表情の裏で様々な記憶が駆け巡っていることは想像に容易いが、その詳細まではわからない。

 

「ああ、ごめんごめん。反応に困っちゃうよね」

 高嶋様は私が困惑していることに気付くと、そのぐんちゃんさんについて教えてくれた。

「ぐんちゃんはね、郡千景って言って私たちと一緒に戦った勇者なんだ」

 

「勇者って5人いたんですか…!?」

 勇者が5人いたなんてこれまで聞いたことがない。恐らく大赦でもほとんどの人が知らないだろう。

「実はそうなんだ。ちょっと色々あって名前を残せなくなっちゃったみたいだけど…」

 私はその詳細が気になったが、高嶋様の寂しげな表情を見て聞くのが躊躇われた。

 

「…やっぱり名前、残っててほしかったですか?」

「ちゃんとした考えがあっての結果だから仕方ないよ。でも私たちはヒナちゃんも含めて6人でずっと一緒だったから、できればぐんちゃんのこともみんなに知っててほしかったな…」

 

 私は高嶋様の嘆きにやるせなさを感じずにはいられなかった。

 命懸けで世界を守ってもその存在すら消し去られるなんてあまりにも報われないのではないか。

 

「だったらひと段落ついたら何か残せないかやってみますよ!」

 私は高らかにそう宣言する。

「ありがとう、気持ちは嬉しいよ。でも今からでも可能なのかな…」

「それは分かりません。ですができる限りのことはやってみようと思います」

 完全に勢いだけの発言でプランはないがやるしかない。話を聞いてそう感じた。

 

「そっか。じゃあまずは色々と片付けないとだね!」

「はい!」

 

 

「もうすぐ目が覚める頃だね」

 それから間もなくして高嶋様がそう呟く。

「襲撃は1月10日。頑張ってね、友奈ちゃん」

 高嶋様は笑顔で私に手を振る。

「ありがとう、友奈……さん」

 私も最後は名前で呼ぼうと思ったが、恐れ多くて中途半端な感じになってしまった。

「えへへ、うんっ!」

 

 

◇◇◇

 

 

 目が覚めると私はいつもの煤けた檻の中だった。

(そりゃあそうだよね…)

 起きたら地上なんてことも期待していたが、流石にそこまで都合のいい話はなかった。

 

 しばらくすると、いつもの神官が朝食を届けに来た。

「明けましておめでとうございます、友奈さん」

 神官の物言い的にいつの間にか年が明けていたようだ。

「一晩経って返事の方は決まりましたか?」

 神官は昨日の答えを求めてくる。昨日の私は心が壊れかけていたためか、神官は私を自分たちの仲間に引き入れられるという絶対の自信を持っているようだ。

 

「返事はもう少し待ってもらえませんか」

「・・・!?」

 私が堂々と返事の先延ばしを要求すると、神官は私のメンタルが回復していることに驚きを露わにする。

「そうですか…まあいいでしょう。時が来れば必ず答えを聞かせてもらえますよ」

 神官は少し不機嫌そうに捨て台詞を吐いて去っていった。

 

(・・・ふん)

 相変わらず環境は劣悪で神官はいけ好かない感じだが、高嶋様のおかげで今なら平静を保てる気がする。

 後はただ助けを待つだけ。今私にできることがないのはもどかしかったが、高嶋様の言葉を信じて負の感情に呑まれることなく待ち続けた。

 

 そしてその時は突然訪れる。

 

 神官が去ってから数時間も経たないうちに今度は別の神官がやって来た。

「君が花折友奈か…?」

 その神官は何やら様子が変わっている。

「そ、そうですけど…」

 私は予想外の質問にきょとん顔で答える。

 

「私を覚えているか?」

「えっ、いえ…」

「まあそうだよな…」

 ずっと奇妙なやり取りが続いている。

 私は神官の正体をはっきりさせるためにストレートな質問をぶつけた。

「あなたは一体誰なんですか?」

 

「私は…金城竪吉だ」

 私はその名前を聞いて驚駭する。

「カンナ先輩のお父さん…!?」

 

「ああ。今日はお前に言いたいことがあってここに入れてもらった」

「言いたいこと…ですか…?」

「・・・」

 カンナ先輩のお父さんは言いたいことを口にするのに妙に間を空ける。私はその間に様々な思考が脳内を駆け巡った。

 

 数年前に行方不明になっていた人物が目の前にいるのも不思議だが、そもそもカンナ先輩のお父さんは今でも記憶喪失に陥っているはずだ。それなのに私に何の用があるのだろうか。

 

(もしかして記憶喪失の原因が私にあるって吹き込まれたのかな…)

 私の祈りが原因でそうなったことを大赦の人たちは察しているようだったし、その可能性は十分にある。

(だとしたら今日ここに来た目的って……復讐!?)

 

「あ…あの…私…」

 大ごとになる前にどうにかしようと口を開いた次の瞬間、カンナ先輩のお父さんの声が狭い地下牢の一室に響いた。

 

「本当にすまなかった!」

 

「えっ…?」

 何か良くないことが起こると警戒していたばかりに、逆に呆気に取られる。

「かつての私は権力を守ることに固執しすぎて周りが見えなくなっていた。娘を権力維持のための道具として乱暴に扱った挙句、それを謝罪できないまま娘が戦いで命を落としたと聞いて私は一生をかけても償い切れない罪を背負った。それでも私はできる限りの償いをしたい」

 カンナのお父さんは懺悔の言葉を紡ぐ。それは私がかつて記憶していた人物像からはまるで想像できない内容だった。

「だから今日は娘と仲の良かったお前を助けに来た。お前にも柑菜のことで色々と心配をかけたと思う。本当にすまなかった」

 

「その気持ち、本当ですか…?」

「ああ…本当だ」

 あまりに唐突な話に困惑するが、嘘をついているようには見えない。

 私は少し考えた後、カンナ先輩のお父さんの言葉を信用することにした。

「……わかりました。だったら私からお願いがあります」

「何でも言ってくれ」

 

「もうすぐかつてない規模の敵が攻めてきます。このままでは今の勇者も命を落としかねません」

 私は今置かれている状況を手短に説明する。

「今勇者を失っては大赦を転覆させようとする勢力の思う壺です。なので今の勇者には戦いに備えてモチベーションを上げてもらう必要があるんです」

 

「それで私はどうしたらいい?」

「これを…」

 私は肌身離さず握りしめていた鍵をカンナ先輩のお父さんに渡した。

「これは…?」

「私の部屋にある机の引き出しの鍵です。そこにはカンナ先輩の勇者御記が入っています。その御記を今の勇者、立森鈴風さんに渡してほしいんです」

 これは私が捕えられる直前にやろうとしていたことだ。

 スズカ先輩は恐らくカンナ先輩のことを引き摺っている。自分が勇者になろうとしたことが却ってカンナ先輩を苦しめたと思って悩んでいるはずだ。

 それは違うとカンナ先輩の御記を通して伝えることで悩みを解消できれば、きっと全力で戦えるとそう信じている。

 

「それともう一つ。襲撃当日、1月10日の早朝に私をここから出してください」

「今じゃなくていいのか?」

「1月10日の早朝にお願いします」

 私には襲撃の日、神樹様の根元に行くという使命がある。

 今私がここから脱出すれば必ずその日のうちに捜索が開始される。そんな中で一週間以上身を隠すのはリスクが高い。

 

「…わかった。必ずなんとかしてみせる」

 カンナ先輩のお父さんは力強く返事をする。その言葉からはただならぬ覚悟を感じた。

「あ、ありがとうございます…!」

 

 これで一先ず今やるべきことは達成できた。

 後はスズカ先輩がどうなるか…

 

(必ず… 必ず上手くやってみせる…!)

 私は高嶋様が与えてくれた微かな希望を無駄にしないよう心に固く誓った。

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