金城柑菜は勇者である   作:ソフ

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サブタイトルは真面目ですが、今回は日常回です!
ここまで平和な話はあと1回くらいしかないかも…


第二話 先代達が遺したもの

 幼い私がお母さんの前で泣いている。

 

「お父さんはいつ帰ってくるの?」

「お父さんはね、今日も忙しくて帰りが遅くなるみたい」

「嫌だっ! お父さんに会いたい…! すずはお父さんと遊びたいの!」

 

 駄々をこねる私を前にお母さんは困り顔だ。

 ずっと泣いていると、今度はどこからともなくお父さんが現れた。

 

「ごめんな鈴風。でもな、そうやって母さんを困らせてばかりだとお父さんみたいにはなれないぞ。警官に必要なのは何があっても大切な人を守りきる覚悟と逆境でも笑える心の強さだからな」

 

 それは私によく言い聞かされた言葉だった。

 それを聞くたび私はその言葉を胸に刻み込んでいた。

 それは今でも変わらない。

 

 でもいつからだろうか。

 私は『笑う』ということに強い苦手意識を持つようになっていた。

 

 

 朝だ。どうやら私は夢を見ていたらしい。

 カーテンを開けるとお日様の光が部屋全体に広がる。今日もいい天気だ。

 リビングへと向かうと、お母さんがテレビを観ながらくつろいでいた。

 

「おはよう」

「おはよう鈴風。朝ごはんできてるからね」

「うん。ありがと」

 

 私はテーブルにつき、朝食をとる。

 

(そういえば昔の私は警察官になりたがってたんだったな)

 

 ふと夢の内容を思い返していると、お父さんが居ないことに気付いた。

 今日は土曜日。休日の朝は決まってお母さんとテレビを観ながら休んでいるはずだ。

 

「そういえばお父さんは?」

「朝早くに呼び出しがあったみたい。道路が陥没して交通規制をしないといけなくなったんだって」

 

 テレビに目をやるとちょうど朝のニュースで報じていた。

 

「今日は柑菜ちゃんとお出かけなんだよね。最近原因不明の災害が多いみたいだし、鈴風も一応気をつけなよー」

「はーい」

 

 お母さんの言う通り、今日は柑菜と会う約束をしている。一緒に遊ぶのは柑菜が勇者になってからは初めてだ。

 私は食事を済ませると遅れないようすぐに出かける準備をした。

 

 

◇◇◇

 

 

「えい!」

 掛け声とともに右手を前に突き出す。

(すぅ…)

 呼吸を意識しながら滑らかに受けへと繋げる。

 私は有明浜で栗原先生から空手の稽古を受けていた。

 

「そこまで!」

 

 特訓の終わりを告げる声が爽やかな早朝の海に広がる。

 私は額の汗をぬぐい、ふぅ…と小さな吐息を漏らす。ここに来る前にもバーテックスとの戦闘があったので、今日は既にかなり体を動かしたことになる。

 

「特訓はこのくらいにして朝食の時間にでもしましょうか」

 

 その言葉を聞き、私は体中の汗が全て蒸発する勢いでテンションを上げる。

 それは昨晩いきなり特訓後にお弁当が出されると聞かされてからずっと楽しみにしていた時間だった。

 感謝の言葉を述べて妙に子供っぽいデザインのお弁当箱を受け取ると、私は早速近くのベンチに座って蓋を開ける。

 オムレツにウィンナーにオクラの和え物。まさに朝ごはんといった感じの中身だ。私は合掌をしてからおかずを口いっぱいに頬張った。

 

「どう? 美味しい?」

 

 小さな幸せを噛み締めていると、栗原先生が声をかけてくる。

 食べ物を口に含んでいて喋れなかったので素早く2回頷いて反応すると、栗原先生は一瞬微笑んでから私の隣に座った。

 

「今朝も御役目があったのに、その上特訓までさせちゃってごめんなさいね」

 

 栗原先生は申し訳なさそうにそう呟く。襲撃のことはあえて言わなかったのだが、栗原先生は大赦の職員だということもあり、しっかり知られていた。

 

「特訓は特訓でちゃんとやらないとですから! それに悪いのは全部バーテックスですよ!」

「……確かにその通りね」

 

 ここに来る途中、通行人の会話から道路陥没の話を聞いている。私がバーテックスを素早く倒せてさえいればそんな災害は起こらなかった。だから私はもっと強くならなければならない。そのためには特訓が必要不可欠だ。

 

「それにしても先生が空手得意だなんて知らなかったです」

「昔取った杵柄よ。私の家系では古くから護身用に琉球古武術を学ぶ風習があって、その過程で空手もやってたの」

 

 琉球。学校の授業で聞いたことがある。

「琉球って確か西暦の時代にあった沖縄のことですよね?」

「ええ。私の先祖は沖縄生まれでね、バーテックスの襲来時に多くの仲間と四国に逃れてきたの。そしてその時もあなたと同じ勇者様が守ってくださった。残念ながら勇者御記にはその時の記録が残っていないみたいだけど、私たちの中ではいつまでも語り継がれているわ」

「勇者御記……」

 

 西暦時代の勇者は勇者御記と呼ばれる日記をつけており、今の私もそれに倣って同じものを書かされている。

 せっかくなら先代勇者の御記を読んでみたかったのだが、御記を書くよう指示した神官に頼んでも読ませてはもらえなかった。私の巫女にも一度頼んだことがあったが、保管場所が分からないとしてやっぱり断られている。

 

「先生! 私、勇者御記を読んでみたいです!」

 

 私は御記の読みたさに話をやや強引に切り替える。

 

「あったとしても私から見せることはできないわ」

「どうしてですか?」

「大赦内には神世紀初頭頃に上里家の指示で作られた先代勇者様の遺物を保存する倉庫があるんだけど、私のような位の低い人間は立ち入れないの。恐らく勇者御記もそこにあるわ」

 

 結局断られてしまったが、新しい情報は手に入った。場所さえ分かればいつか読める日が来るかもしれない。

 

 しばらくして食事を終えた私はお弁当箱を返却する。

 

「すごく美味しかったです! もしかして先生の手作りですか?」

「それは……ええ、そうね。また次もあると思うわ」

(・・・?)

 

 先生の返答はどこか歯切れが悪かった。

 しかし今一人暮らしをしている私にとって、お弁当の存在はとてもありがたい。勇者になってからまた一つ楽しみが増えた気がした。

 

 その後栗原先生と別れ、私は琴弾公園の目立たない場所に隠れて勇者に変身する。

 この後はすずかちゃんと会う約束をしており、せっかくなのでこの姿で集合場所まで一気に飛んでいこうと思う。

 

(遊ぶぞー!)

 

 私は前のめりになりながら目的地に向かって飛んでいった。

 

 

◇◇◇

 

 

 私は柑菜よりも先に集合場所で待っていた。

 スマホの時計を確認すると、時間までまだ20分ほどある。

 

(ちょっと早すぎたかな…)

 

 柑菜はどちらかといえば時間ギリギリに来るタイプだ。それが分かっていながらも早めに来てしまったのは、私自身も楽しみにしていたからだろうか。

 これはしばらく待つことになる、そう思ったその時だった。

 

「おおーい!」

 

 どこからか柑菜の声が聞こえる。

 辺りを見回すが、柑菜の姿は見当たらない。

 

「上だよー!」

 

 私はその声を聞き、上を見上げる。するとそこにはこっちに向かって高速で落下してくる柑菜の姿があった。

 

「ぅわぁっ!?」

 

 驚きのあまり声が裏返ってしまい、それを聞いた柑菜はニヤニヤしながら着地する。そのにやけ顔さえなければ、漫画のヒーローのようなかっこいい登場だった。

 

「驚いたでしょ!」

「ま、まあな…」

 

 柑菜は満足げに私の顔を覗き込む。

 まんまと驚かされたことに少々悔しさを感じたが、その感情は初めて勇者姿を見た興奮ですぐに上書きされる。

 

「それにしても勇者ってそんな感じなんだな。想像よりもだいぶ派手というか、なかなかカッコいいじゃん」

「え? …まあ確かに勇者っぽくない見た目だけど、着れば力が漲るし動きやすいしで気に入ってるんだ〜」

 

 柑菜はドッキリ大成功のくだりを引き伸ばしたかったのか、急な話題転換に一瞬硬直したが、勇者服が褒められていると分かると再び楽しそうに喋り出した。とても分かりやすい。

 しかし、そんな柑菜は突然妙なことを言い出した。

 

「なんならすずかちゃんも着てみる?」

「え? 柑菜のをか?」

「うん! すずかちゃんにも勇者服のすごさを体感してほしいな〜」

 

 柑菜は何故か瞳をうるうると潤ませながら私を見つめてくる。私はその様子を見てただ私に勇者服を着せたいだけなんじゃないかという気がしてきた。

 

「…もしかして私に着せたいだけなのか?」

「い、いや、そんなことは…」

「どっちにしろこんな所では着ないぞ」

「そ、そうだよね…」

 

 確かに興味自体はある。ただ、柑菜のものを着るとなると少し恥ずかしい。

 私が柑菜の提案を断ると、柑菜は残念そうに俯いた。

 

「とにかくそろそろ行かないか? カフェに行くの楽しみにしてるからさ」

 

 ここで時間を潰していてもしょうがないので、私は出発を促した。

 今日は荘内市にある古民家カフェに行くことになっている。その店が柑菜のお気に入りと聞きいてから、私は二人で行くのをずっと楽しみにしていた。

 

「そうだね! でもその前に少しだけ買い物に付き合ってもらってもいいかな?」

「別にいいけど、何を買うんだ?」

「ちょっと長袖の服をね!」

 

 

 私たちはバスに乗って荘内市のショッピングモールまでやって来た。

 服屋に入ると柑菜は早速服を探し、いい感じのものを見つける度に私に似合うか聞いてくる。

 

「これとかどう?」

「いいんじゃないかな」

「じゃあちょっと試着してくるね!」

 

 柑菜は背を向けてるんるんで試着室へと向かう。その楽しそうな後ろ姿に私は思わず微笑んだ…が、それも束の間、突然柑菜の足が止まる。

 その瞬間私は微かに嫌な予感がし、次に振り返った柑菜の目はやはりよからぬことを企んでいるようだった。

 

「ねえ、すずかちゃんも一緒に試着室に入らない?」

「え…?」

「そこならすずかちゃんも勇者服に着替えられるよね!」

 

 嫌な予感は的中し、再び勇者服の話に戻ってしまった。

 

「商品の試着以外で試着室を借りるのは迷惑なんじゃ…」

「ちゃんと試着目的もあるから大丈夫だよ!」

「そ、そうなのか…?」

「そうそう! だから一緒に行こ!」

「いや、私は…」

 

 私は頑張って抵抗しようとしたが、それも虚しく結局柑菜の押しに負けてしまった。

 店員に許可をもらって二人で同じ試着室に入ると、柑菜は勇者に変身してから服を脱ぎ始める。

 

「ちょ、ちょっと待って!」

「今更何を恥ずかってるの〜。私たち女の子同士でしょ〜?」

 心なしか柑菜の言い方が少しいやらしい。

「違う! そういうことじゃなくて…!」

「何が違うの〜?」

「…っ!」

 

 ここまできたら仕方がない。私はいい加減覚悟を決めることにした。

 

「おおー! かわいい! かわいいよすずかちゃん!!」

 勇者服姿の私が鏡に映っている。私の勇者姿を見た柑菜は大興奮だ。

「……柑菜の新しい服もいいと思う」

 私は柑菜の服を褒めることで恥じらいの気持ちを誤魔化した。

 

「それにしても力が漲る感じはしないな…」

 

 柑菜の勇者服を着てみたが、何か力を得た感覚はない。どうやら勇者服を着るだけでは勇者の力を扱えないらしい。

 

「そっかー… でも私はすずかちゃんの勇者姿を見られたから満足だよ!」

「やっぱり私にこれを着せたかっただけなんじゃ…」

「えへへ… 私のわがままに付き合ってくれてありがとね、すずかちゃん♪」

「えっ…ああ…」

 

 今でも少し恥ずかしいが、ここまで喜んでくれるなら着た甲斐があったようにも思えてきた。

 

 

◇◇◇

 

 

 私の買い物が終わるとちょうどお昼になっていたので、私たちは再びバスに乗ってカフェへと向かった。

 目的地に近づくにつれ、すずかちゃんのテンションが上がる。

 

「確かチーズケーキが美味しいって話だったよな。楽しみだなあ…」

「お菓子は日で変わるみたいだからあるといいね!」

 

 途中でバスを降り、他愛もない会話を楽しみながら堤防沿いを歩いていると、ようやく目的の建物が見えてきた。

 

「あれだよ!」

「おお…! あれか!」

 

 古民家を改装しただけあって外見は全くカフェのようには見えないが、そこで出されるコーヒーは一級品だ。さらに二階席からは瀬戸内海を一望でき、その景観の美しさは他のどんなカフェにも負けないと思っている。

 お店に入ると、私たちは外の景色がよく見える二階席に座った。

 

「やった! 今日はチーズケーキの日だぞ!」

 

 店内の『今日のおやつはレアチーズケーキ』という張り紙を見て、すずかちゃんは珍しく目を輝かせる。

 私とすずかちゃんは同じチーズケーキとホットコーヒーのセットを頼み、しばらくするとケーキとコーヒーが運ばれてきた。

 

「お前ってコーヒー飲めたんだな」

「私だって子供じゃないんだから」

 

 コーヒーを片手に私を揶揄うすずかちゃんに、私は頬をむっと膨らませながらチーズケーキを口へと運ぶ。

(あ〜… 美味し〜…)

 ケーキを口に入れた瞬間私の顔がふやける。そんな表情がコロコロ変わる私を見てすずかちゃんはくすりと笑った。とても幸せな時間だ。

 

 窓の外をじっと眺めると、遠くにうっすらと神樹様の壁が見えた。

 先代の勇者もきっとこのかけがえのない日常を守るために戦ったのだろう。

 私もこの日常を守りたい。そう思うと勇者のお役目に俄然やる気が湧いてきた。

 

 

 カフェを満喫した私たちは讃州市まで帰ってきた。

 

「今日は楽しかったね!」

「私も楽しかったよ。ありがとう」

「それにしても、あんないい店どこで知ったんだ?」

「実は何年か前にお母さんと行ったことがあったんだ〜」

 

 私はかつてお母さんと二人で暮らしていた。

 お母さんは数年前の交通事故で介護が必要になってしまい、一時期は私が介護をしていたが、私の負担を減らすため今は施設に入っている。

 

「柑菜のお母さんって確か…」

「気にしないで。お母さんは元気なんだから」

「そうか…」

 

 気付けば私たちは学校の近くまで帰ってきていた。

 今日はここでお別れだ。

 

「じゃあまた月曜な」

 すずかちゃんはそう言いながら手を振る。

 

「うん! またね!」

 私はすずかちゃんより手を高く上げて振り返した。

 

 

 すずかちゃんと別れた後、私は考え事をしながら歩いていた。

 

(お母さんかあ… そういえば最近会いに行けてないな…)

 

 私が最後にお母さんと会ったのは今年の夏休み前だ。夏休みは大赦の神官から勇者について説明を受ける日が多かったので、なかなか会いに行くことができなかった。もしかするとお母さんは私が勇者になったことを知らないかもしれない。

 

(久しぶりに会いに行こうかな!)

 

 私は心の中でそう呟き、明日にでも会いに行こうと考えた。

 

 

◇---◇---◇

今日はとても充実した一日だった。

戦闘に特訓に息抜き。最高に勇者の日常って感じ!

 

神託によるとこれから敵の襲撃が激しくなるらしい。

今日みたいな日常を守るためにももっと頑張らないと!

 

--神世紀二四一年九月 金城柑菜

◇---◇---◇

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