金城柑菜は勇者である   作:ソフ

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今回から数回、前書きでメインキャラ3人の名前に関する設定を深掘りします。
初回となる今回は一人ひとりの名前の由来についてです。

金城柑菜は『金柑』、立森鈴風は『風鈴草』という花が元になっています。
一方、花折友奈は『花は折りたし梢は高し』という諺が元になっています。

花言葉や諺の意味を知ってから読むと、もしかすると見方がほんの少しだけ変わるかもしれません。


第五話 巫女の友奈

 入院中の私のもとに一人の少女が訪れた。

 その少女は花折友奈(はなおりゆうな)と名乗り、今私の隣に座っている。

 

「花折さんって確か柑菜の巫女ですよね」

 巫女の存在は既に柑菜から聞いている。花折友奈という名前もその時聞いた。

「はい。あなたのことはカンナ先輩からよく聞いています。私のことは呼び捨てでいいですよ。敬語も必要ありません。私の方が1歳年下ですから」

 少女は落ち着いた口調で話す。

 

「わかった。それで今日は友奈一人みたいだけど、何の用なんだ?」

 私は大赦の人間が訪れると聞き、てっきり大人の神官が来るとばかり思っていた。それが蓋を開けてみれば、私より幼い少女が一人入ってきただけだった。大赦は一体何を考えているのだろうか。

 

「実際は外で神官さんが待っています。ここには私からお願いして連れてきてもらいました。私はスズカ先輩に謝罪がしたかったんです」

 友奈一人でここまで来たのかと思っていたので、神官が外で待っていると聞いて少し安心した。それでも謝罪とは一体。

「謝罪…?」

「今回の出来事は全て私のせいで起こったことです。本当にすみませんでした」

 友奈は深々と謝る。私には言っている意味が理解できなかったが、友奈はすぐに詳細を語り出した。

 

「私は大赦で最も神樹様に近しい存在です。スズカ先輩が神官さんと言い合っていた時、その二人の声が私の耳にも届いていました。話を聞いて私はスズカ先輩の意見に共感しました。だから私はスズカ先輩が勇者になれるよう願ったんです。そしてその願いが最悪の形で神樹様に届いてしまったんだと思います」

 確かに神官はあの時近くに巫女の教育施設があると言っていた。もしかしたら友奈はそこにいたのだろうか。

 

 それはそうと、友奈は今願いが神樹様に届いたと言った。もしかして、友奈の力を借りれば私も勇者として戦えるのだろうか。

「謝らなくていいよ。私も勝手なことをしすぎた。それより、友奈は神樹様の行動に影響を与えられるのか?」

「そ、そうみたいです…」

 友奈は静かに頷く。

「だったら私を勇者にするようもう一度神樹様に頼んでもらえないか。私も勇者になって柑菜を守りたいんだ。だから…頼む…」

 今度は私が友奈に頭を下げた。

 

「スズカ先輩… 気持ちは分かりますが、先輩は一度樹海に飛ばされて死にかけています。もう一度同じ目に遭わせるわけには…」

 友奈は心配の表情を浮かべながらかぶりを振る。

「それは私が勇者の力を持ってなかったからだ。神樹様に選ばれさえすれば、大赦の人だって私を勇者にしようと動いてくれるんじゃないか?」

 浅はかな考えかもしれないが、私が勇者になるにはもうそれしか方法が思いつかない。

 

「確かに神樹様から神託を引き出せれば、大赦の皆さんは動かざるを得ないかもしれません。ですが、神託を引き出すのは私の力でも難しいと思います。それに、出世のために『勇者の子を持つ親』という称号を欲しがる大赦の人間は多いです。実際大赦の中から二人目の勇者を輩出しようとする動きもあります。そんな中ただの一般人が勇者になれば、少なからず反感を買われるかもしれません」

 

「ちょっと待ってくれ。大赦は勇者を増やそうとしているのか?」

 そんなことは初めて聞いた。もちろん柑菜からも聞いたことがない。

「本当に最近の話ですが、そういう動きがあることは確かです。現状では反対勢力の方が強いのでカンナ先輩にはまだ伝えてませんが…」

 

 友奈はそこまで言うと一瞬口ごもり、言いづらそうにしながら再び口を開いた。

「…実は最近バーテックスの侵攻が3か月では終わらない可能性がでてきました。そのことだけはカンナ先輩に伝えています。そしてそれに乗じて身内を勇者にしようとする動きが徐々に目立つようになってきました。その野望のために私を利用しようする人もいます。それでも私は、そんな人たちに加担するくらいならスズカ先輩が勇者になった方がいいと思っています。だから私はあの時…」

 

 侵攻が3か月で終わらない可能性。私はその言葉を聞いて驚愕した。

「そんな…この前の神官は極めて順調に計画が進んでいると言ってたのに…。あれは全部嘘だったのか…?」

「神官さんだって気軽に一般人に内情を話すわけにはいかないと思います。どうかあまり責めないであげてください…」

 友奈は悲しそうな顔で神官を擁護する。確かにあの時の私は部外者以前にただの不審者だ。そんな私に全てを明かしてくれるはずなどない。友奈の言い分は尤もだ。

 それでも話を聞けば聞くほど大赦への不信感が募ってくる。果たして大赦は本当に信頼できる組織なのだろうか。

 

「まあ、何よりスズカ先輩が無事そうで良かったです。それじゃあ私はそろそろ大赦に戻らないといけないので… 色々お話できて良かったです」

 私がしばらく黙っていると、友奈はそう言いながら席を立った。

 

「もう帰るのか…?」

「はい。……あっ、スズカ先輩…」

 帰ろうとしていた友奈だったが、扉の前で足を止めて振り返る。

「カンナ先輩のことをよろしくお願いします」

 

 私はその言葉を聞いてはっとした。

 

 今が勇者になって柑菜を守れる最大のチャンスなんじゃないのか?

 こんな絶好の機会は恐らくもうないだろう。

 

「待って、友奈!」

 私は帰ろうとする友奈を呼び止める。

「やっぱり私を勇者にしてくれないか」

 私は友奈にもう一度同じことを頼む。今ここで友奈を説得するしかない。

「スズカ先輩…でも…」

「頼む…この通りだ…!」

 私はベッドから立ち上がり、頭を深々と下げる。

「……わかりました」

 友奈は困惑しながらも、私の覚悟が伝わったようだった。

 

「大赦に戻ったら神官さんと交渉してみます。すぐに結論はでないかもしれませんが、何かあれば私からスズカ先輩に直接連絡します。先輩の連絡先を教えてください」

 喋っているうちに、友奈の表情も真剣になる。私は連絡先を教えた。

「いい知らせができるよう頑張りますね」

「ああ。ありがとう、友奈」

 

 

 その後私はまた一人になった。

 何もできないまま無の時間だけが流れていく。

 

 時々柑菜が会いに来てくれたが、やって来る度に傷が増えていた。私が把握できるのは手と顔の傷くらいなのだが、それでも傷の増加が分かるほどだった。きっと見えない部分はもっと悲惨なことになっているのだろう。

 柑菜は学校で起きた面白い出来事や期間限定のお菓子が美味しい話など、色んな話を楽しそうにしてくれる。柑菜とお喋りをしている時は楽しかったが、柑菜が帰った後はまた会えるのだろうかという不安と恐怖に支配されていた。

 

 時間の経過とともに怪我が増えていく柑菜と怪我が治っていく私。その違いを意識する度に何もできない自分が嫌になっていく。

(友奈はうまくやれてるかな…)

 私は友奈がうまくやってくれるのを信じることで精神をなんとか保たせていた。

 

 そして12月8日、私は約1か月の入院の末、ようやく退院することになった。

 私は女医さんに頭を下げて病院を後にする。

 

 その帰り道、まるで私の退院を待っていたかのようなタイミングで友奈から吉報が届いた。

 

「スズカ先輩! 大赦から許可が下りました!」

 

 

◇◇◇

 

 

 今日はすずかちゃんが退院してから初めての学校だ。

 

「それにしても一緒に登校するのは久しぶりだね!」

 私は久々にすずかちゃんと学校に通えるのが嬉しくて、一緒に登校しようと約束していた。二人で登校するのはこれまでにも滅多にないことだ。

「そもそも私は学校に行くこと自体が久々だけどな。授業ちゃんとついていけるかなあ…」

 私たちはお喋りをしながらゆっくり学校へと向かう。

 

「そういえば、すずかちゃんは私に何か話があるんだよね?」

 今日の約束をした時、すずかちゃんは私に話したいことがあると言っていた。一体何の話なんだろう。

「……柑菜に大事な話があるんだ」

 道の途中ですずかちゃんは突然足を止める。

 ずっと横に並んで歩いていたが、私の反応が遅れて数歩すずかちゃんの前に出た。

「すずかちゃん?」

 私はすずかちゃんの方に振り返る。

「私も勇者になって柑菜と一緒に戦える日がもうすぐ来るかもしれない」

 

「え…?」

 すずかちゃんの口からは全く思ってもみなかった言葉が発せられた。

「実は私の入院中、友奈に会って私を勇者にしてもらえないかと頼んだんだ。友奈の交渉のおかげでその話が大赦からも認められて、今は勇者を増やすための準備をしている段階らしい」

 すずかちゃんが入院中にゆうなちゃんと会っていたなんて知らなかった。しかもすずかちゃんが勇者になるなんて、そんな話は一切聞いていない。

 

「私そんな話聞いてない…」

「決まったのがつい昨日の話なんだ。多分もうすぐ柑菜のところにもその話がくると思う」

 急な話に理解が追いつかない。ただ一つはっきり分かるのが、すずかちゃんもバーテックスとの戦いに巻き込まれるということ。

 その瞬間、すずかちゃんがバーテックスに殺されそうになったあの日のことが頭をよぎった。

 

「やめて…」

 私の声が震える。

「お願いやめて! すずかちゃんは勇者にならないで!」

「柑菜…?」

 必死の叫びにすずかちゃんは驚いた表情を見せる。

「私は柑菜の力になりだけ… 柑菜を守りたいだけなんだ…! 私の知らないところで戦って、私の知らないところで傷ついていく柑菜はもう見たくないんだ…! 分かってくれ…」

 すずかちゃんも必死になって訴える。

 

「分かってる…! 分かってるけど、私だってすずかちゃんが傷つくところは見たくない…! すずかちゃんがバーテックスに襲われて意識を失った時、あのまま目を覚さないんじゃないかと思ってすごく怖かった。もう二度とすずかちゃんと会えなくなるかもしれないと思うと涙が止まらなかった。私のお母さんも同じだった。お母さんも私を庇って事故に遭った。もう私のために大切な人が不幸になるところは見たくないよ…」

 

「あの時は勇者の力がなかったからああなったんだ。でも今度は違う。ちゃんと戦える。それに私にとって最大の不幸は何もできないまま柑菜を守れずに後悔することだ。私は後悔したくない。柑菜にはずっと笑顔でいてほしいんだ…!」

 

「すずかちゃん…」

 すずかちゃんの優しさが痛いほどに突き刺さる。

 本当はそう言ってもらえて嬉しかった。心強かった。しかし、2度も大切な人をなくしかけた記憶がすずかちゃんの言葉を拒絶する。

 ちぐはぐな感情に拍車をかけるかのように目から涙が溢れた。

 

 私は耐えきれずにその場から走り去ってしまった。

「柑菜! 待って…!」

 

 どんどん強くなっていく敵。

 お役目が3か月では終わらない可能性。

 終わりの見えない戦いに大切な人を巻き込みたくない。

 二人で勇者になってもきっと二人で苦しむだけだ。

 

 

 この日、私とすずかちゃんが話すことはなかった。せっかくまた一緒に学校に通えるようになったのに、お互い今朝のことを思い出して声をかけられずにいた。

 

「金城さん、朝から元気がないみたいだけど何か悩み事?」

 休み時間に私の様子を心配した栗原先生が声をかけてくる。私は廊下で先生に全てを打ち明けた。

「すずかちゃんが勇者になるかもしれないんです…」

「立森さんが…?」

 意外なことに先生は驚いている。どうやら先生も知らなかったらしい。

「そんなの大赦の人間が許すはずがないわ」

「ゆうなちゃんの交渉の末に大赦から許可が下りたらしいです」

「いくら花折さんでも彼女の一存で大赦を動かすことはできないはずだわ。だって彼女はまだ子供で……いや、まさか…」

 その瞬間、先生は何かを察したようだった。

 

 

◇◇◇

 

 

 12月中旬、私は大赦に訪れた。

 金城さんから立森さんが勇者になるという話を聞いた時、私の頭にとある人物の顔が浮かんだ。きっと立森さんを勇者にする許可が下りたのは、あの人の働きかけが大きいだろう。

 

「栗原さんじゃないですか! 大赦に来るのはかなり久しぶりですよね。何か用事でも?」

 私のことに気づいた神官が話しかけてくる。

 

「今日は金城(きんじょう)さんに用があるんですよ」

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