いつものように文章を書き、進めたいところまで進めていたら、20000文字を突破していた。
な、何を言ってるかわかるだろうが、俺も何を言ってるか充分わかっているんだ。
才能だとか、駄文だとか、そんなチャチなもんじゃ断じてねぇ…! もっと恐ろしいバカさ加減を味わったぜ…!!
――というわけで、今回は自分でも呆れるほど長いです。一気に読みたい人は時間のある時に読んだ方がいいです。
それと、通算40000UA突破しました! ありがとうございます! これからも不定期ですが、気長にお待ちください!
それでは、本編をどうぞ!
竜真side
……俺は、どうすればいいんだ?
部室を出たあと、あてもなく道を歩いていた。
家に帰ろうとは思わない。帰ったところで、イッセーたちに会うのは気まずいし、その覚悟もない。
「…………結局、俺はなんなんだ?」
人間でもなく、悪魔でもなく、アラガミでもない、曖昧な存在。
……いや、そんなのはどうでもいいか。それ以前に、自分が生きていく意味がわからない。
「………母さん…」
今まで否定してきた――いや、今となっては拒絶していたというのが正しいんだろう。俺が、母さんを殺したという事実を――。
そう思いながら夜空を見上げていると、頬に水滴が落ちてきた。そして、十秒もしない内に大量の雨粒が降り注ぐ。久々の大雨だな…。
……このまま雨に紛れて消えることができたら、どれだけ楽なことか。
もちろん、そんなことできるはずがない。此処に突っ立って雨に濡れても風邪を引くだけで、死ねるわけじゃない。
だが、俺はその場から動こうとはしない。母さんを殺しておいて、呑気に生きている自分を気遣うような行動をとる気にはなれないからだ。
俺はただ、夜空を見続けるだけ。――いや、正確に言えば、俺は夜空の雨雲を見ているわけじゃない。
あの雲の先の空の先にあるであろう天国を見つめている。もちろん、実際に見えるわけじゃないし、そこにあるのかもわからない。
ただ、もしも天国がそこにあって、そこに母さんがいるとしたら、今の俺を見てどう思っているんだろう――
「ニャーン」
「ん?」
色々考えて暗くなっていると、突然足元から鳴き声が聞こえてきた。
下を見ると、そこには一匹の黒猫がいた。首輪もつけてないし、この辺りの野良猫だろう。
もちろん、その黒猫もこの雨のせいでずぶ濡れだ。こんな雨の中を普通に歩き回ってるとは、よほど腹が減ってるのか?
だが、生憎と今の俺は食料を何一つ持っていない。いくら餌をねだろうと、こいつの腹が満たされることはない。
「悪いな。食べ物が欲しいなら、他を当たってくれ」
猫の顎を優しく撫でながらそう言い、俺はその場から離れる。
「………」
だが、後ろから俺と全く同じペースでついてくる気配が一つある。いや、なんの気配かはわかってるんだが…。
俺はため息をついて後ろに振り返る。そして、あとをついてくる黒猫に声をかける。
「あのな、俺は食い物なんて持ってないぞ。わかるか? 餌が欲しけりゃ他所に行った方がはやいってことだ」
言葉がわからないというのはわかってるが、今はなるべく一人でいたいんだ。この猫には悪いが、早くどこかに行ってほしい。
「ニャ~ン」
……やっぱりダメか。黒猫はこちらに応えるように鳴くが、離れる様子はない。むしろ、足に擦りついてくるようになってしまった。
このまま無視してもいいが、こいつも確実に風邪を引いちまうな。………はあ、仕方ないか。
俺はしゃがんで黒猫を抱える。多少は抵抗するかと思ったが、擦りついてくるだけあってかおとなしくしている。
「もう一度言うが、餌は持ってないぞ。それでもついてくるか?」
「ニャ!」
俺の質問に対して元気に鳴く黒猫。その元気な様子に思わず苦笑いしてしまう。
「そっか。――それじゃ、雨宿りできるところを探すぞ。俺自身はどうでもいいが、野良猫のお前が風邪引いたら辛いからな」
そう言ったあと、俺は黒猫を抱えたまま走り出した。
――――――――――
「――やれやれ。我ながら、ありきたりな場所を選んだな」
あのあと、近くの公園に移動した。今入ってるのは……名前は知らんが、出入口に穴があるドーム状のあれの中だ。
とりあえず、この中ならこれ以上雨に濡れることもないだろう。
だが、何か拭くものが欲しいな。このまま濡れた状態だと、こいつが風邪を引く。
最悪、俺の制服を使って拭いてもよかったんだが、さっきまで俺も雨に当たっていたため制服どころかシャツとパンツまでビショ濡れだ。こんなので拭いたところで大した意味もないだろう。
どうすべきか考えながら黒猫に目を向ける。
「ニャ?」
……意外と大丈夫かもしれないな。
というのも、黒猫は確かにビショ濡れのはずだが、微塵も震えていないのだ。
むしろ、黒猫は俺に比べて体温をしっかり保てている気がする。その証拠に、優しく抱きしめると心地いい温もりを感じる。ああ、落ち着く……。
だが、俺の心の奥底までは落ち着くことはない。今も、黒猫を抱きしめながら、母さんのことを考えている。
……やっぱり、母さんは俺のことを恨んでいるだろう。
いつも母さんは、俺を一人の息子として見てくれていた。周りから差別されようが、俺を見捨てることはなかった。…それなのに、その息子に殺されたんだ。恨まない方がおかしい。
「……これから、俺はどうやって生きればいい? 母さん」
返事が返ってくるはずもない質問を呟く。
小さい頃は、ただ母さんと生きていければいいと考えていた。
その母さんを失ってからイッセーと出会い、救われた。だから、俺はイッセーを護ることを生きる目的にした。
だが、俺が母さんを殺したと知った瞬間、ある疑問が生まれたんだ。
母さんを殺した俺に、誰かを護る権利があるのか――と。
一番大切な人を殺した奴が、誰かを護るなんておこがましい。なら、俺は一体何を目的に生きればいい?
「ニャ~?」
暗くなっているのがわかるのか、黒猫が頬を触ってくる。…猫に気遣われるなんてな。お返しに頭を撫でてやる。
「――鬼城さん…?」
そんな時、第三者の声が聞こえてきた。しかも、知らない声じゃない。
俺は声の聞こえてきた方に目を向ける。
「……荒山さん」
そこには、傘をさしてこちらを驚いた顔で見ている荒山さんがいた。
――――――――――
「…どうぞ、上がってください」
「すいません、荒山さん。おじゃまします」
「ニャ~ン」
俺は今、荒山さんの家に上がらせてもらっている。
あのあと、荒山さんからなんであんなところにいたのか聞かれたが、俺は気にしないでほしいと答え、黒猫の面倒を見てほしいと言ったが、俺も面倒を見られることになった。
本当は、黒猫だけ預けてあのままあそこに居座る気だったのだが、それを話したら怒られてしまった。怒った荒山さんは初めて見たので少し驚いた。
まあ、少し目付きが鋭くなって語気が強くなった程度だからおとなしい方だが。
「ね、猫ちゃんの体は私が拭いておくので、鬼城さんはシャワーを浴びてきてください」
「え、いや。俺のことは気にしないで――」
「ダ、ダメです! そのままじゃ風邪引いちゃいますよ!」
て、言われてもな……。
「じゃ、じゃあ、言い方を変えます! 濡れた服のまま歩かれても困りますから、シャワーを浴びてきてください…!」
…そうきたか。まあ、確かにこのまま上がったら荒山さんに迷惑だな。
「……わかりました。それじゃあ、お借りします」
そう言って歩き出そうとするが、俺はあることに気づく。
「あ、でも、俺これ以外に服なんて持ってきてないですよ?」
シャワー出たあとにまたこのビショ濡れの服着たら意味ないし、まさか荒山さんの服を借りるなんてできるわけねぇし…。
「だ、大丈夫です。それについてはちゃんと考えがあるので、心配せずに入ってきてください」
本当だろうか…?
まあ、俺には信じるくらいしか選択肢がないんだが。
「……そうですか。じゃあ、荒山さんを信じます」
今度こそ歩き出そうとする。
「ニャ~」
だが、それは黒猫によって止められてしまった。歩こうとした俺の足に引っ付いてる。なんだ?
「おい。お前は俺に構ってないで、早く荒山さんに体を拭いてもらえ」
「ニャ、ニャ~!」
俺がそう言っても黒猫は首を横に振り、遂には離れたくないという感じに前足で俺の足にしがみついてきた。器用な奴だな。
…ん? 離れたくない?
「……まさか、一緒にシャワー浴びたいのか?」
そんなバカなと思いつつ、黒猫に質問する。
「ニャン!」
しかし、返ってきたのは嬉しそうな鳴き声だった。マジか。猫だからてっきり風呂関連は嫌いだと思ったんだが…。
だがよく考えりゃ、この黒猫はこっちの言葉をある程度理解して受け答えできるようだし、一般的な猫のカテゴリーに入れて考えるのはやめた方がいいかもしれない。
別に猫と一緒に入っても、なんも問題ないしな。
「…はあ、わかったよ。それじゃ、一緒に――」
「ダメです!」
黒猫を持ち上げようとしたが、その直前に荒山さんが凄いスピードで黒猫をかっさらった。速っ!? 普段の荒山さんからは考えられない動きだぞ!?
しかも顔を見てみると、今までにないくらいの剣幕になっている。ど、どうしたんだ?
「ね、猫ちゃんは私が面倒見てますから! 早くシャワーを浴びてきてください!」
「は、はい…」
有無を言わせない迫力にたじろぎ、俺はそのままシャワー室に向かった。
――――――――――
「ありがとうございました、荒山さん。さっぱりしました」
「い、いえ。こちらこそ、無理やり入らせてしまって……」
「いいですよ。荒山さんは当たり前のことを言っただけですから、気にしないでください」
あれからそう時間をかけずにシャワーから上がり、今は荒山さんと黒猫と一緒にリビングにいる。
心配だった服に関しては、湿り気がなくなった洗濯したての服のようになっていた。どうやったのか凄く気になるが、今はいいか。
俺はさっぱりしたし、黒猫もなんとか荒山さんになついたみたいだし、俺がこれ以上此処に留まる意味はない。
「じゃあ、荒山さん。俺はこれで失礼しますね。ご迷惑をおかけしました」
俺は立ち上がって荒山さんに頭を下げる。そして、そのまま玄関に向か
「ま、待ってください!!」
――おうとしたが、荒山さんに呼び止められたので荒山さんの方に振り向く。
「…な、なんで鬼城さんはあんなところにいたんですか? それに……いつもより元気がないように見えますよ?」
……荒山さんにバレるとはな。あまり悟られないように表情には気をつけてたんだが、意味がなかったようだ。
「な、何か悩みごとがあれば、私が相談にのりますよ……? アドバイスもできるかもしれませんし――あ、す、すいません! 私生意気なことを言ってしまって…!」
「――いえ、気にしてませんよ」
最初はいつになく積極的だったのに、いつも通りになった荒山さんを見て思わず微笑んでしまう。
それに今の言葉を聞いて、ある決心がついた。
「……荒山さんの言う通りですね。胸につっかえているものは、吐き出さなきゃいつまでもスッキリできませんから」
俺はそう言って元の位置に戻り、椅子に腰掛ける。
「――何があったか話します。でも、アドバイスをくれとはいいませんよ。荒山さんはただ聞いてくれるだけでも結構です。――それだけでも、俺は充分です」
そして、俺は閉じかけた口を開いて話し始めた。これを言ったら、荒山さんからも化け物と呼ばれ、距離をおかれるかもしれない。そんな不安があるにも関わらず、俺は話すのをやめない。
――それ以上に、誰かに自分の胸の内を打ち明けたかった。
――――――――――
あれからしばらくして、俺は先日、そして過去にあったこと(アラガミや〈禍の団〉とかは伏せて)話し終わった。
荒山さんは、静かに俺の話を聞いてくれていた。空気を読んだのか、荒山さんの膝の上でじゃれていた黒猫も、話をしてる間はおとなしくしていた。
「……荒山さん。人殺しはいけないことだと思いますか?」
「え………は、はい…。基本的には、そうだと思います」
「そうでしょう? その上、俺はその中でも最悪な部類――親殺しをやった。親が自分に危害を加えようとしてたならまだしも、むしろ支えとなってくれていた母さんを、です。しかも、俺は自分が殺したと気づかないまま、今日まで生きてきたんです」
母さんを殺しておきながら、自分はやってないと主張し、周りから孤立していた。自分で聞いていても思う。――なんて滑稽なんだ、と。
「……本当、バカですよね。自分で生きる目的を壊しておきながら、新しい目的を見つけて希望を抱いて生きて。しかも、その目的が護ることですよ? その壊してしまった目的が、他でもない護るべきものだったのに…!」
自然と語気が強くなり、爪が食い込んだ拳からは血が出てきている。それほど許せないのだ、自分のことが。
「今の俺には生きる目的が――意味がないんです。……よく考えれば、俺はそういう明確な目的がなきゃ生きていけないようになってるってことですね」
ああ、なんだ。そう考えたら、俺はもう充分壊れてるじゃないか。
そんな奴が目的を失ったんだ。こうなるのも当然だな。
「――ま、まだ頑張れますよ!!」
荒山さんが、今まで聞いた中では一番大きい声で叫んだ。その顔は、怒りと悲しみが混じっていた。
「き、鬼城さんは、今まで頑張れてきたじゃないですか! それに、昔に比べれば今は研究部の皆さんや、親友みたいに支えてくれる人たちがいるじゃないですか! なのに、なんで諦めるんですか!?」
……そう。昔に比べりゃ、今の俺は充分すぎるほど恵まれている。仲間も、友人も、家族も、あの頃では考えられないことだ。――だからこそ、また自分の手で壊すのが怖いんだ。
「…支えだから怖いんですよ。優しいから、俺を認めてくれるから、またそんな人を壊してしまうのかって考えると恐ろしくて……!」
「だから、逃げるんですか…? やっと認めてくれる人たちに会えたのに、それでいいんですか?」
「なら、どうしろって言うんですか!!」
思わず怒鳴ってしまう。それほど余裕がないんだ。どうすればいいか、わからないんだ…!
「――考え方を変えればいいと思いますよ?」
考え方を……変える?
「鬼城さんは、お母さんを殺してしまったから誰かを護る権利はないと考えてるんですよね? でも、その考えは間違ってると思います」
「……何が間違ってるんですか? 大切な人を殺したこの手で、誰を護れるっていうんですか?」
俺は軽く睨みつけながら問う。それに対して荒山さんは怯むことなく、口を開いた。
「殺してしまったからこそ、二度と起こさないために皆さんを護るんですよ。鬼城さんのお母さんの分も」
母さんの分も……?
「少しでもそのことを後悔しているのなら、その罪を償うためにそれ以上にたくさんの命を護ればいいと思います。そうすれば、鬼城さんも生きていられるじゃないですか」
「……でも、母さんは俺を――」
「恨んでませんよ。鬼城さんのお母さんは。少なくとも、
今は? それはどういう意味だ?
「鬼城さんがこのまま死にたいと思い続けるようなら、お母さんは恨むと思います。私を殺しておいて死にたいなんて何を言っているの、って」
荒山さんは、自分の胸に手を当てる。
「私の勝手な考え方ですけど、殺すということは、その殺した者の分も生きることだと考えています。食べるため動物を殺して今日を生きる糧とするように、誰かを殺したのなら、その人の分も生きて多くを護ることこそが、償いになる。そう考えても悪くはないと思いますよ」
いつもと違う、荒山さんのその言葉は俺の心に大きな衝撃を与えた。
……殺した分も生きる、か…。
「…………プッ、ハハハ…!」
いつの間にか、俺は吹き出していた。
「ハハハハハハ! アッハハハハハハハハ!!」
そして、そのまま大声で笑う。その様子を見ていた荒山さんは戸惑っている。
「す、すいません荒山さん。自分のバカさ加減に思わず笑ってしまって――ハハハッ!」
ああ、本当にバカだ俺は。罪の意識が強すぎて生きるという選択肢を消して考えていた。
――でも荒山さんのおかげで、自分がどうすればいいかわかった。
「ふぅ…。――ありがとうございます、荒山さん。おかげで楽になりました」
「え…? 本当ですか?」
「ええ。スッキリしましたよ。心の底から感謝します」
俺は荒山さんに深く頭を下げる。
「い、いいですよ! 頭を上げてください! むしろ余計なお世話だったんじゃ…?」
「いえ、そんなことありません。本当に、ありがとうございます。――だから、今日はこのまま別れましょう。例え、敵だとしても」
俺がそう言った瞬間、荒山さんの雰囲気が一変した。いつも臆病な顔をしていた頼りない女性は、不適な笑みを浮かべる大人の女性となった。
「あら? 気づかれちゃってた?」
喋り方も全然違う。ここまで違うと凄いな。
「ええ。まあ、気づいたのはついさっきですがね。動揺していたとはいえ、不覚です」
「そんなことないわよ。同じアラガミでも、気配を感じ取るなんて普通はできないもの」
「
今の会話でもうわかるだろう。――荒山さんも俺と同じで、アラガミを宿している。そして、俺はついこの前アラガミを宿しているであろう男に会った。つまり――
「ですが、荒山さんも<禍の団>の一員だったとは、驚きましたね。今までのは演技ですか?」
「演技と言われるのは好きじゃないわね。荒山清美も、一人の私なのよ」
なんか、威圧してきた。妙なこだわりがあるようだ。
「まあでも、あなたを騙してきたのは事実ね。ごめんなさい」
「別にいいですよ。その代わり、本当の名前を教えてくれますか?」
「ええ、それくらいはいいわ。――アレシー。それが私の本当の名前。それと、別に敬語を使わなくてもいいわよ。これからは敵同士なんだから」
「……わかったよ、アレシー。――じゃあ、そろそろ失礼するわ」
俺は席から立ち上がり、アレシーに近づく。
「何?」
俺はそのまま手を伸ばして、頭に手を置いて撫でる。
「――じゃあな。強く生きろよ」
「ニャッ!」
黒猫は元気に鳴く。…………なんだ? まさかアレシーにやると思ったのか? やるわけないだろ下手すりゃセクハラだわ。
「そういや、この黒猫はどうするんだ? できれば逃がしてほしいんだが…」
「大丈夫よ。殺したりはしないわ」
「そうか。ならいいさ」
俺はそれを聞いて玄関に向けて歩き出す。
「――ああ、ちょっと待って」
が、アレシーに止められる。なんだよ……。つーか、今日はよく歩くのを中断するな。
振り返ると、アレシーが何かを取り出そうとしている。
「あ、あった。はい、前回来た時の忘れ物よ」
そう言ってアレシーが俺に差し出したのは――俺の携帯!?
……そういや、最近なくして焦っていたっけか。まさか、此処に忘れていったとは。
「サンキュー。にしても、よく親切に持ってくれていたな」
「ちなみに、データはちょっと弄っておいたわ」
「おいコラ」
「冗談よ。それより、バルザーのことは謝らなきゃいけないわね。――ごめんなさい。あいつが余計なことをしたせいで、あなたを追い詰めることになって」
アレシーは頭を下げてくる。いやいやいや。
「いや、そんなこと謝られてもな。敵なんだから当たり前じゃねぇか」
と言ってるが、アレシーは頭を上げようとしない。
「……わかった。それじゃあ謝罪として、一つ伝言を承ってくれ。もちろん、相手はバルザーな」
「…いいわ。で、内容は?」
ようやく顔を上げてくれた。……よし、こんなんでいいか。
「――次は負けねぇ。その雷ごと焼き尽くしてやる」
「凄い挑戦的ね……。わかった。伝えておくわ」
よし。じゃあ、今度こそ失礼するか。
「待った。最後にこれあげるわ」
アレシーが三枚のチケットを取り出した。ん? このチケット見覚えが…。
「以前渡したのと同じ割引券よ。結局、一度も来てくれなかったわね」
「……いや、色々あって行く暇がなかったというか」
間違っても忘れてたとは言えない。
「まあ、今さら責める気はないからいいわ。ただ、せっかく人数分あげたんだから有効活用しなさい」
「…ありがとう」
俺は割引券を受け取ってポケットにしまう。
「当たり前だけど、そこに行っても私はもう働いていないわよ」
「そんなのわかってるよ。あーあ、サービスされるチャンスを逃しちまったか」
「残念ね。まあ、忘れてた自分を呪いなさい」
忘れてたというのはもうバレたようだ。思わず苦笑いしてしまうが、すぐに息をついて切り替える。
「じゃあ、もう行くぜ。本当、ありがとな」
「いいわよ、別に。――それじゃあ、今度会う時は敵として」
「ああ。手加減なしだ」
俺は振り返ることなくそう言って、扉を開けてアレシーの家から出ていった。
竜真side out
no side
「……………」
竜真が出ていったあと、アレシーは少し寂しそうに扉を静かに見つめていた。
「――そんなに敵対するのが嫌なら、勧誘すればよかったんじゃないかにゃ?」
その静寂を破るように、アレシー以外の女の声が響く。人影は見当たらないのにだ。
「……妹と敵対してるあんたに言われたくないわよ。第一、話を聞いた感じだとそっちはこっちと違って険悪じゃない」
アレシーは振り返りながら、声の主にそう言い返してジッと見つめる。だが、その視線は下の方にいっており――床に立つ黒猫を捉えていた。
「それを言われると耳が痛いにゃん」
そして、黒猫が口を動かすと先程の声が聞こえてきた。
そう。さっきの声はこの黒猫のもの。さっきまでは猫の声しか出していなかったが、普通に人の言葉を話せるのだ。
ポンッ!
そんな効果音が聞こえそうな感じで、黒猫を覆うように煙が出る。
そして、煙が晴れると黒猫の姿はなく、その代わりに黒い着物を少し崩して着ている女が立っていた。その頭と尻からは、なぜか猫耳と二股の尻尾が生えていた。
「耳が痛いのは、余分に二つも頭についてるからじゃない? なんなら、毒で使い物にならなくしてあげましょうか、黒歌?」
「絶対に遠慮するわ。あんたのはシャレにならないでしょ」
「そう遠慮しなくてもいいのよ? あんたと私の中じゃない」
アレシーは凄みのある笑顔を女――黒歌に向けている。見る者が違えば気絶しそうな迫力だ。
「……もしかして、まだシャワーの一件を怒ってる?」
「当たり前でしょう。どさくさに紛れてあんたは何をしようとしてたのよ?」
「ケチ臭いにゃん。ただ、どんなものを持っているのか気になっただけなのに…。――それに、あの子に会えたのは私が気で場所を教えたおかげでしょ? このためだけに町中を猫の姿で何日も歩き回ったんだから、何か見返りがなきゃ割に合わないにゃ」
どうやら、今回の遭遇はこの二人によって仕組まれたものらしい。
「その見返りは、今度あんたの用事につき合うってことになっているはずよ。勝手なことはしないで」
「はいはい、わかった。――じゃあ、用事も済んだし、ヴァーリたちのところに戻りましょ」
黒歌が転移用の魔方陣を展開する。
「ええ。記憶操作は済ませておいたし、此処にいる理由はなくなったものね」
アレシーはそう言いながら魔方陣の中に入る。だがその際に、微かに口を動かした。
「(……ありがとう、鬼城さん)」
その顔は、アレシーではなく荒山清美が見せた笑顔だった。
「ん? 何か言った?」
「いえ、何も」
魔方陣の輝きが増し、二人を包み込む。光が止んだ時には二人ともその場から消え、残ったのは人の気配と明かりがなくなった部屋だけだった。
――――――――――
一誠side
「金森くん」
「はい」
「神崎くん」
「はい」
朝のHR。柊先生が出欠を確認している。……あんな美人教師が、魔王様の護衛だなんて未だに信じられないな。
それでも、いつもと変わらない時間だ。いつも通りの先生。いつも通りの生徒。変わらない光景だ。
「鬼城くん――は、今日も休みね」
――親友がいないということ以外は。
と言っても、竜真が休んでいるのは今日だけじゃない。意識を失ってた三日間も竜真は欠席扱いだった。
……でも、あのあと竜真が家に帰ってくることはなかったんだ。大丈夫だとは思うけど、心配だ。……最悪、このまま帰ってこないんじゃないかと、俺だけじゃなく、部長とアーシアも不安な一日を過ごした。
今も、俺とアーシアとゼノヴィアは落ち込んでいる。竜真が呼ばれた瞬間に全員俯いてしまった。本当どこにいるんだよ、竜真?
「――ホラホラ、オカルト研究部の三人! そんなに暗くなっちゃダメじゃない」
落ち込んでいると、柊先生が手を叩きながら声を上げた。顔を上げると、少しふくれっ面の柊先生が見えた。
「鬼城くんが帰ってきた時、誰が迎え入れてあげるの? あなたたちでしょ? その役目を担う人たちが暗かったら、彼だって元気をなくしちゃうわよ?」
――っ!! 柊先生の言葉を聞いて、俺はハッとなった。
「――だから、あなたたちはいつも通りでいなさい。それが、今あなたたちが彼にできることよ」
……ヤベぇ、俺泣きそう。
柊先生は、アザゼル先生から事情を聞いているから、竜真が休んでる本当の理由を知ってる。だからこそ、俺たちのことを考えて励ましてくれてるんだ。
俺、この人が担任でよかった……!
感動している俺と同じようで、アーシアとゼノヴィアもさっきより雰囲気が明るくなっていた。そうだよな! 竜真がいつ帰ってきても迎え入れるように、俺たちはいつも通りでいよう!
――もし竜真が、俺たちと離れると決めても。
――――――――――
「へぇ。柊先生がそう言ったのかい?」
「ああ。俺、感動して泣きそうになっちまったぜ」
授業も全て終わり、放課後の旧校舎。珍しく部室に行く前に全員が合流し、そのまま部室に向かって歩いている。
その間、俺は今朝あった感動的な出来事を話していた。それに対して、皆はとても驚いていた。え? なんでそんな意外そうな反応?
「あの柊先生がね…。私はあまり関わったことはないけど、結構おちゃらけたイメージがあったから意外だわ」
「そうですわね。魔王様の護衛とはいえ、教師としてはあまり真面目な印象はありませんでしたわ」
「……意外な一面」
部長、朱乃さん、小猫ちゃんが立て続けにそう言う。み、皆その認識はあんまり………間違ってないから否定できない。
いや、仕方ねぇだろ? 俺の担任なんだぞ。そこら辺の性格はここにいる皆より理解しちまっているんだよ!
「ぼ、僕はよくわかりませんけど……その先生の言う通りだと思います! 僕らが落ち込んでちゃダメです! 先輩が帰ってきたら、元気を出してもらえるように僕らが明るくいないと!」
俺が言い返せずにいると、ギャスパーがそう言った。おお、いい気合いだぞギャスパー!
「ギャスパーくんの言う通りだ。僕らは僕ららしくいよう」
「ああ。それに、柄にもなく落ち込んでしまっていた。柊先生も言っていたし、私たちはいつも通りでいよう」
「はい! 竜真さんには日頃からお世話になっていますし、なにより大切な家族の一員です!ちょっとでも励ましてあげたいです!」
「……私も、竜真先輩とは仲良くしてもらっていたので、もし助けになるなら何かしてあげたいです」
「私は先輩として、貴重な男子の後輩を失いたくはないですわ。からかいがいもありますし。うふふ」
「……個人的に、竜真には一誠とは違う思い入れがあるわ。それに、パーティの時に励ましてくれたもの。そのお返しをしないといけないわ」
ギャスパーに続いて皆もそれぞれの竜真への思いを口にする。……竜真。お前は自分を厄介者だと思ってるんだろうけど、そんなことないみたいだぞ。
話している内に、部室についた。俺は皆の言葉を聞いてる内に、すっかり気分も晴れていた。
「よし! それじゃあ、今日も一日頑張ろうぜ!」
そう言って部室の扉を勢いよく開く。
「お、ようやく来たな」
俺は部室にいる声をかけてきた人物を見て、思わずその場でずっこけてしまう。皆もずっこけこそしないが、凄く驚いている。そりゃそうだ。だって――
「――竜真!?」
今部長が叫んだ名前の親友――竜真がソファに座っていた。
一誠side out
竜真side
「どうも。いやー、間に合ってよかった。実を言うと、ここに来たの十分前なんですよ」
若干一名倒れたが、あまり気にせずに話す。扱いが酷いって? いつも通りだから問題ない。
「た、竜真!! お前どこ行ってたんだよ!? 皆心配したんだぞ!」
放っておいたイッセーが、立ち上がりながら問い詰めてきた。……流石に怒るよな、そりゃ。
「…悪かった。けど、あの時は皆といたくなかったんだ」
「……私たちじゃあ、あなたの助けにはならないということ?」
リアスさんが寂しそうに聞いてくる。
「違いますよ。むしろ、その逆です。凄く助かります。――けど、皆の優しさに甘えて逃げるなんてことは、あの時はしたくなかったんです」
そう言うと、皆気まずそうに俯いてしまった。……やれやれ。
「そう落ち込まないでくれよ。せっかくさっきまで皆との思い出を振り返ってたのに、気分が悪くなっちまう」
「思い出……ですか?」
「ええ、アーシアさん。あなたはもちろんここにいる全員、この部室で些細ではあるが、色んな思い出があります」
俺はそう言って部屋を見渡す。ここはあくまで部室なので、来るのは必然的に放課後がほとんどになる。だが、放課後になったからといって、全員がすぐ集まれるわけではない。
そんな時、俺は先に来ていた人と二人で過ごしていた。
『なあ、祐斗。炎の剣の参考にしたいから、魔剣一本創ってくれないか?』
『別に構わないけど、どういう感じのが見たいんだい?』
『刀身が少し細めのがいいな。斬撃と刺突を臨機応変にできる感じで』
『わかったよ。そういえば、炎の槍があったんじゃないかい? それでことたりるんじゃ――』
『それはそれ、これはこれ。さあ、早く出してくれ』
『あはは…』
祐斗とは、よく魔剣を見せてもらってた。イメージが重要だから結構助かった。
『お、小猫。その菓子なんだ?』
『私のお気に入りです。…食べますか?』
『いいのか? サンキュー。――おお、うまいな』
『…行きつけの駄菓子屋で売ってるんです。教えますか?』
『ん~。ありがたいんだが、菓子を買う余裕がな……』
『……一回くらいは奢ります』
『…悪いな』
小猫とは、よく一緒に菓子を食っていた。……ほとんど向こうの物だったが。
『じゃあ、アーシアさん。これ、なんて読むかわかりますか?』
『え、えーと…! き、<きがとう>です!』
『……俺の名前から連想したんでしょうけど、違います。これは<
『はうぅ…。また間違えました……』
『そう落ち込まないでください。むしろ、よく
『はい! 頑張ります!』
アーシアさんとは、よく漢字の読み書きの練習をしていた。実際に教えていると、本当に物覚えがいいことがわかったな。
『こんな感じなんですが、どうですか朱乃さん?』
『ここはもう少し変えた方がいいですわね。例えば、こういう感じで…』
『ああ、なるほど。えっと、ここを、こうですか?』
『うふふ。それじゃあ逆ですわ』
『あ、違った。早く直し――ヤバっ!? 集中力が乱れたせいで魔方陣が崩れた!』
『あらあら、落ち着いてください』
朱乃さんとは、魔方陣におかしなところがないか見てもらうことが多かった。……見せる度に間違っていたが。
『リアスさん。気になってたんですけど、上級悪魔の劵属ともなるとお偉いさん方と会うのって多くなりますか?』
『ええ。他の悪魔と比べて会う機会はずっと多いわ。夏休みになったら若手悪魔の集まりがあるし、その時に魔王様を含めた方々に会うことになるわよ』
『そうですか。…どうせライザーみたいな下級、転生クソくらえって思考の奴ばかりなんでしょ? あーあ、面倒くせぇ』
『否定はできないけど、中にはソーナやお兄様みたいに差別しない人もいるから大丈夫よ。そんなに機嫌を悪くしないで。――はい、チェックメイト』
『……参りました』
リアスさんとは、色々悪魔について聞きながらチェスで勝負していた。……一回も勝ったことないがな。
『ほら、ギャスパー。日光浴すんぞ』
『ヒィィィィ!! 日差し嫌ですぅぅぅ!』
『黙れ。悪魔で吸血鬼とはいえ、仮にもデイウォーカーなんだろ? なら少しは太陽に慣れろ。夜だけだと行動が制限されすぎるからな』
『元々昼間に行動するつもりはないですぅぅぅぅぅ! お願いだから放してぇぇぇぇ!』
『だが断る。時を停める修行はイッセーたちに任せる代わりに、俺は一人間としての修行をつけてやる。――それとも何か? 俺が時を停める修行を請け負っていいのか? そうなったら容赦なく散弾銃をぶっ放すぞ? 能力が発動しなきゃ穴だらけだぞ?』
『うわぁぁぁぁん!! 先輩は鬼畜ですぅぅぅぅぅぅ!』
ギャスパーとは……外に連れ出す前の攻防(俺の全勝)しかないな。
『なあ、鬼城』
『ん? なんだ、ゼノヴィア』
『イッセーは、どんな女が好みなのだろうか?』
『……決まってんだろ。胸のデカい女性だよ。今更なんだ?』
『いや、万が一イッセーが小さい胸の方が好きだというのなら、子作りの時に支障をきたすかもしれない。その場合、整形手術とかいうのを受けて胸を切り取る必要が――』
『オッケー。説教が足りてないようだな』
ゼノヴィアとは………イッセーとの子作り発言に対する説教(物理)がほとんどだな。
『なあ、竜真。ふと思ったんだが――』
『なんだ、イッセー?』
『――なんでおっぱいってそれぞれで感触が違うんだろうな?』
『よし、その喧嘩買った』
イッセーとは…………どうでもいい質問をされて殴るってのが大体だな。
……後半三つがおかしいが、気にしないでおこう。
俺がそうやって思い出を振り返っていると、周りの空気がドンドン重くなっているのに気づいた。アーシアさんに至っては泣きそうになっている。どうしたんだ?
そんな中、リアスさんが静かに口を開く。
「……それで、竜真? 戻ってきたということは――」
「はい。答えが決まりました」
俺は、はっきりとそう言った。だがその瞬間、更に空気が重くなった。アーシアさんなんてもう泣き出してるし、他を見るとイッセーとギャスパーまで涙を流している。だからなんだよ!?
「そんな…! 竜真さんと、これで、お別れだなんて……!」
「うわぁぁぁぁぁん!! こんなの酷いですぅぅぅ! 悲しすぎますぅぅぅ!」
…………え?
「ギャスパー! 男が泣くなだらしない……!! お、俺のこれは汗だからな! …グスッ!」
「……ギャーくんもイッセー先輩もだらしないです。もう少し泣くの我慢してください」
「小猫ちゃん。目に涙が溜まっているよ?」
「木場。そういう君も目が潤んでいるぞ?」
「あらあら。しょうがないですわね」
「ほら、皆。これから竜真を見送るんだから、笑顔でいましょう?」
全員目に涙を溜めながらそう言った。……いやいや。
「待て待て、皆。俺の答えは――」
「待ってくれ竜真! もう少ししたら笑顔になれるから!」
「いや、そうじゃなくて――」
「ああ、大丈夫だ! 親友を送り出すのに泣き顔はみっともないからな!」
「だから――」
「クソ! 止めようと思ってるのに止まらねぇ! さすがに親友と別れるのは辛いぜ…!」
「………」
「でも、家から引っ越すまではいつも通りに接して――」
「待てってんだボケェ!!」
「ごふぁ!?」
話を聞かないイッセーに我慢の限界がきて、俺はその腹に拳を叩き込んだ。
「あ、ああ…。この拳をくらえるのも、あと数回だけなんだな……。よく味わっておくぜ…!」
「よし、わかった。それ以上口を開くな」
聞き方によってはMと思われる発言を涙を流しながら言う親友の首を絞める。これなら喋れないだろう。
他の皆は、俺とイッセーのやり取りを見て少しは落ち着きを取り戻したようだ。皆黙ってこっちを見ている。これ以上のチャンスはないと判断した俺は、答えを言うことにした。
「誰が皆と別れるって言った? 俺は答えが出たと言っただけだぞ?」
「で、でも、思い出を振り返ったじゃない」
……あー。確かに、今まで楽しかったという意味で思い出を振り返るのが普通か。
――けど、違うんだよな。
「別に、俺は別れを惜しむために思い出を振り返ったわけじゃありませんよ。ただ、なんて充実した日々だったんだと思っただけです。本当、昔の俺と比べたら、天国ってレベルじゃないですかね? まあ、この場にいる全員悪魔ですけど」
昔の俺には、友人と呼べる奴は片手で数えれるくらいしかいなかった。その他は知り合い、敵しかいなかった。
それが今はどうだ。化け物と呼び、俺を蔑む奴はごく少数。友人は両手両足でも数えれない数できた。更には、俺を頼ってくれて、頼れる仲間がこんなにいる。
「正直言って、ここにいるメンバーと知り合ってからの毎日は、人生の中で一番楽しかった。――だからこそ、この最高の日々を失いたくないと、手放したくないと思ったんです」
あ、そろそろイッセーが限界みたいだ。凄い青くなってる。
さすがにまずいので、解放してやる。イッセーはそのまま床に倒れて足りない酸素を補給しようと深呼吸を繰り返す。
「……俺は、親殺しをした最低な男。でも、もしこの罪を償って生きていくことが許されるのなら、ここにある幸せを、皆を、母さんより多くの人々を護ることで償いたい。――でもその過程で、今回以上に迷惑をかけることになると思う。それでも俺を受け入れてくれるというのなら…」
俺はそこで一呼吸置いて、改めて皆を見る。
「――これからも、皆と一緒に歩んで行きたい。それが、俺の答えだ」
そう言ったあと、しばらくその場を静寂が包む。え、反応なし?
そう思っていたが、ようやく口を開いた者が一人。
「た、竜真…」
意外なことに、それはさっきまで酸欠になっていたイッセーだった。
「なんだ?」
「それって、まだ一緒にいられるってことだよな?」
「そうだ。それ以外の意味があるのか?」
バカにした感じで答えてやる。いつもなら、ここで少し眉を寄せて不機嫌な表情になるのだが――
「――っ!!」
今は、むしろ嬉しそうに泣いている。まあ、感動の涙ならみっともなくないのかな?
と、そんな風にイッセーを観察していると、アーシアさんがフラッとその場に倒れそうになっているのが見えた。
「ちょ――!? 大丈夫ですか、アーシアさん!?」
俺は慌てて移動してアーシアさんを支える。よく見ると、アーシアさんは静かに泣いていた。
「よかったです…。これからも、竜真さんがかけることなく、イッセーさんと部長さんとお父様とお母様と一緒に暮らしていけるんですね……」
……優しい人だ。そこまで長いつき合いでもないのに、形だけの家族のために泣ける人がどれだけ少ないことか…。
「うおぉぉぉぉぉ!! よかったぜ、竜真ぁぁぁぁぁ!!」
「うわぁぁぁぁぁぁん!! 先輩ぃぃぃぃぃぃ!!」
「野郎はノーセンキューだ」
「ぶげっ!?」
「きゃん!?」
抱きつこうと跳びかかってきたイッセーとギャスパーを受け流して後ろに放り投げ、尻から落下させる。ところでギャスパー。男なのにその悲鳴はどうなんだ。
「アーシアさん。もうそろそろ大丈夫ですか?」
「は、はい…。――これからもよろしくお願いします、竜真さん!」
眩しいくらいの笑顔でそう言ってきたアーシアさん。これは、俺も笑顔で返さなきゃな。
「こちらこそ、よろしくお願いします。アーシアさ――おがっ!?」
だが、その最中に突然背中に衝撃と共に痛みが走った。何事かと振り返ってみると、小猫が俺の背中にパンチを打ち込んでいた。
「えっと、小猫?」
「……紛らわしいです。ただでさえ心配していたのに、余計な勘違いをさせるなんて最低です」
ぐっ…。否定できない。
言い返せずにいると、小猫は拳を引っ込め、代わりに俺の腰に両腕を回してきた。一瞬このまま締めつけられるのかと思ったが――
「…でも、よかったです。戻ってきてくれて」
予想とは違い、小猫は普通の力加減でそのまま抱き締めてきた。……この娘にも、随分心配させたみたいだ。
「……心配かけてごめんな。――ありがとう、小猫」
小猫の頭に手を置いて優しく撫でる。普段なら殴られるだろうが、今は素直に受け入れてくれてる。
そうしてると、祐斗が近づいてきた。
「お帰り、竜真くん」
「ああ、ただいま祐斗。――しかし、俺も人のことを言えないな。お前と同じく、いなくなって迷惑をかけちまった」
「そうだね。まあ、僕の場合は自分も同じことをやったわけだし、お相子ってことでいいんじゃないかな?」
「……ありがとよ」
まともな同性というのはこういう時に頼りになるな。……イッセー? あの変態のどこがまともだと言えるんだ?
「うん。私はまだつき合いが長くないから皆ほどじゃないが、よかったんじゃないかな?」
近寄ってきたゼノヴィアがそう言った。
「まあ、無理に感動しろとは言わねぇよ。俺もお前との思い出を振り返ったら説教の思い出しかなくて自分で引いたからな」
「仕方ないさ。まあ、君が悪い奴ではないことはもうわかってることだし、これから少しずつ分かり合っていこうじゃないか」
「そうだな。つーわけで、改めてよろしくなゼノヴィア。それと、名前で呼んでいいぞ」
「わかった。よろしく、竜真」
ゼノヴィアは微笑みながらそう言ってきてくれた。まあ、こいつも一般常識を知らないだけで根は善人のようだし、仲良くやっていけるだろ。
「あらあら。何はともあれ、戻ってきてくれてよかったですわ、竜真くん」
今度は朱乃さんが話しかけてきた。
「ありがとうございます、朱乃さん。でも、それっていじる相手がいなくなるからってことじゃないですか?」
俺って朱乃さんにからかわれること多いし。……ってまあ、軽い冗談で言っただけだがな。
「ないと言えば嘘になりますけど、ほとんどは純粋に心配していましたわ」
ほら、朱乃さんもこう言って――え?
「……冗談ですよね、朱乃さん?」
「どうでしょうか? ――うふふ」
あ、ヤバい。凄く黒い笑みを浮かべてる。もしかしなくても怒ってるよこの人。
危険だと判断した俺は、小猫に解放してもらってからすぐさま土下座をする。
「まことに申し訳ありませんでした!」
「………」
朱乃さんは黙っているが、果たして許してくれるか…?
「――そんなに低い位置に頭があると踏みたくなりますわね」
「ノーマルだから勘弁してください」
危険な言葉が聞こえてきたので、腰の角度はそのままにして立ち上がる。油断ならない人だ…!
「そんなに警戒しなくて大丈夫ですわ。――けれど、他の方法でお仕置きはしておきませんと」
頭を上げて朱乃さんを見ると、楽しそうな笑みを浮かべていた。ははは…………なるべく痛くないのでお願いしたいな。
「――竜真」
ああ、とうとう来たか。その性格のために、一番心配してたでろう人が。
俺は覚悟を決めてそちらに顔を向ける。
バシンッ!!
そして、その瞬間に頬をはたかれる。改めて顔を向けると、今にもこぼれそうなくらい目元に涙を溜めているリアスさんがいた。
「……どれだけ心配したか、わかるわね?」
「…はい」
「ショックを受けたとはいえ、いきなり姿を消すなんて、身勝手にも程があるわ」
「……本当に、すいません」
俺は謝ることしかできない。今にも泣き出しそうなリアスさんを見ていると、罪悪感で押し潰れそうになる。
リアスさんが右手を振り上げる。再びビンタがくるんだろう。俺は受け入れるように静かに目を閉じる。
――だが、やってきたのは柔らかく、暖かいものだった。
目を開けてみると、リアスさんは俺に抱きついていた。
「……もう、勝手に消えたりしないで」
震えながらそう言うリアスさんにいつもの優雅さはなく、そこにいるのは一人の女の子だった。
「……大丈夫です。もういなくなりません。それに――」
俺はリアスさんをこっちに向かせる。その顔はあの時のように悲しみに染まり、涙を流している。
「あなたに悲しみの涙は、もう流させたくないですから」
その涙を指で拭き取る。この人の涙は、俺のために流すにはもったいない。
リアスさんは目を潤ませながらも、いつもの優雅さが漂う顔に戻った。
「…そう。――じゃあ、竜真。改めて、私の<兵士>としてよろしくお願いするわ」
「ええ、当然です。我が主、リアス・グレモりー。俺はあなたの下僕として、命に代えても護り通す」
そう言うと、リアスさんは満足そうに俺から離れる。
「さて、と。まあ、今回のお詫びと言ったらなんですが――これ奢るから、皆で食べに行きませんか?」
俺は懐からアレシーからもらった割引券を人数分出す。
「あら。それって、竜真のお得意様からもらったものよね? そういえば、全然行く機会がなかったわ」
「でしょ? というわけで、今日の夕飯はこれになるけど、いい?」
俺が皆に聞くと、全員が頷いてくれた。ふぅ…。これで嫌とか言われたらどうしようかと思ったぜ。
「……迷惑かけられた分食べまくります」
「ははは…。加減してくれよ、小猫?」
「………」
あの、返事は?
俺の財布の財力が尽きてしまいそうな予感がする中、イッセーが近づいてきた。
イッセーは黙ったまま右拳を前に出す。俺もそれを見て右拳を当てる。
「――お帰り、親友」
「――ただいま、親友」
なんともシンプルであっさりとしたやり取りだが、俺たちにはこれで充分だ。決して抱きつきとかはいらない。
「それで、あんたはどうするんだ? 言っておくが、教師が生徒に奢ってもらおうとか思うなよ?」
「――んだよ。少しくらい、いいじゃねぇか」
俺はさっき部屋に入ってきたアザゼルに問う。皆は気づいてなかったのか、凄く驚いた顔をしている。
「……いつの間にいたの、アザゼル?」
「ついさっき入ってきたばっかだ。とはいえ、鬼城竜真以外気づかねぇとはな。これから先大変だぜ?」
「何言ってんだよ。これから強くなっていけば問題ねぇだろ? あと、フルネームで呼ばなくていい。面倒だろ?」
「まあ、そうだな。竜真の言う通りだ。……けどよ、そっちは口調変えないのか?」
口調? ああ、敬語を使えってことか?
「俺は基本敬える人にしか敬語は使わないから、学校ではともかく普段はこれでいかせてもらうからな」
「いや、ここ学校だろうが」
「関係者以外いないからいいんだよ」
まあ、流石に他の生徒がいたら(面倒だが)敬語を使うが。
「――さてと! それじゃあ全員揃ったことだし、オカルト研究部。今日も張り切っていくわよ」
「「「「「「「「はい、部長」」」」」」」」
俺もここは空気を読んで部長と言っておく。いつもと変わらない日常。だが、今の俺にはこれで充分だ。
過去のことは覆せないし、未来のことはわからない。だが、せめて今だけは、こいつらと共に行こう。
――それが、俺の生きる意味になるのだから。
竜真side out
no side
『――つーわけで、竜真はリアスの眷属として残るみたいだぜ』
「……そうか」
『嬉しそうだな、サーゼクス』
此処は魔王サーゼクス・ルシファーの部屋。今サーゼクスが魔方陣を通して話しているのはアザゼル。
竜真が目覚める前から、竜真の決断についてはサーゼクスとアザゼル、そしてミカエルが話し合っていた。最初はアザゼルとミカエルも、これ以上苦しめずに封印した方が竜真のためになるのではという考えだったが、サーゼクスは二人を全力で説得した結果、竜真の意思に任せるということになっていたのだ。
「安心はしたさ。だが、そんなに分かりやすかったか?」
『まあな。どうにも、お前はあいつに<妹の眷属>以上の思い入れがあるみたいだな』
「……思い入れではないさ。――これは、私に科せられた罰だ」
サーゼクスは悲しそうにそう言った。彼の脳裏には、かつて親友だった女性の姿が浮かんでいる。
『……まあ、深入りはしねぇよ。だが、それが判断を鈍らせるような結果にならないようにしろよ?』
「ああ。わかっているさ。これでも、悪魔の王なのだから」
『わかってるならいいが……。――それで、あの封印はどうなってるんだ?』
アザゼルはいつになく真剣な顔になって問う。サーゼクスもその質問を聞いた瞬間、顔が引き締まった。
「以前確認したが、やはり封印は破られてはいなかった。破られた痕跡もなかった。――だが、封印していたものが消えていた」
『封印を解かずに中身だけを持ち出したっていうのか? どんな奴がやったんだ?』
「能力はわからない。…だが、やったであろう人物はわかっている」
いつも朗らかなサーゼクスが、僅かに殺気を漏らす。これでも抑えているのだが、それでも漏れてしまうほどその人物への殺意が強いのだ。
『そいつの居場所は?』
「……もう死んでいる。竜真くんによって、殺されたはずだ」
『……悪い。余計なこと聞いたな』
「構わないさ。――とにかく、竜真くんの中にいるのはハンニバルだ。それは間違いないだろう」
『まあ、暴走した時の竜真はあの時のあいつそっくりだった。――だが、一つだけ気になることがある。ハンニバルは確かにドライグの能力が使えたが、いくら赤龍帝であるイッセーが近くにいるとはいえ、力を取り戻すスピードが異常だ。何か、原因があるはずだが…』
「すまない。そのことついては、私もわからない。だが、全力で調査に当たらせるよ。――それに、他のアラガミのこともある」
先日、魔界に現れたアラガミ。数はそこそこあり、対応が遅れていれば相当な被害が出ていただろう。
『だな。確か、またそっちで出たらしいな。大丈夫なのか?』
「心配ない。前回と同じく、私が信頼できる二人に任せた。あの二人ならなんの問題もなく終わらせてくれるだろう」
『そうか。ならいいがな。――じゃあ、今度は冥界に行った時に会おうぜ』
「ああ。では、リアスたちを頼むぞアザゼル」
『あいよ』
そこで魔方陣は消え、アザゼルとの通信は切れる。サーゼクスは天井を見上げ、溜めこんでいたものを吐き出すように大きく息を吐く。
「……よかった。彼は、まだ頑張れそうだ。あとは――」
サーゼクスは机の引き出しを開ける。そして、二重構造になっていた底板を外して、一枚の写真を出す。
「…私たちのことを、いつ思い出してくれるかだな」
その写真には黒髪で赤い目の少年と、美しい紅髪の少女が写っていた。
――――――――――
「――ふぅ。これで全部か」
此処は、魔界の辺境。この周辺には誰も住んでいない。危険な魔物がたくさんおり、済むには安全性がかけているためだ。
――そんな場所に、彼はいた。
緑よりも鮮やかなエメラルド色のストレートの髪。その目は黄色く、目つきは鷹のように鋭い。
だが、それ以上に目を引くのが彼の右腕にあった。そこには大きくて機械的な腕輪がついており、その手に巨大な剣を持っている。
その剣も腕輪と同じく機械的で、刀身の下には半分に割れた盾と、小さなガトリング状の銃身がついている。
「それにしても、こっちのアラガミは僕の知ってるのとは少し勝手が違うな」
そう言って、彼は足元にある白いアラガミ――オウガテイルの死体を見る。……いや。その周りにもオウガテイルのみならず、多数のアラガミの死体がある。
拷問器具のアイアンメイデンに似たもの。目玉と女性を無理やり合わせたような不気味なものと、生物らしいものもいれば、生物としては不自然なものまである。
「コアを取れば死ぬが、死体がいつまでも残ってるし、少し頑丈になってる気がする」
「そうなのか? 俺にとっては大したことなかったが」
いつの間にか、彼の後ろには一人の男がいた。ため息をつきながら彼は後ろに振り返る。
「いや、少なくとも
彼はその男――海斗に苦笑いしながらそう言った。
「そうなのか? どいつもこいつも力が中途半端だから、つまらなかったぜ」
「いや、腕力だけなら強いコンゴウがいたはずなんですが…」
「ああ、あの猿みたいなのか? 一撃で沈んでたが?」
それを聞いて彼は痛そうに頭を押さえる。異常になれた彼でも、アラガミ相手に素手で圧倒する海斗は異常すぎるようだ。
「いくら大型はいないとはいえ、なんでそんな当たり前のように言えるんですか…?」
「実力だ。そりゃそうと、俺の知り合いの話は覚えてるか?」
ドヤ顔で言う海斗だが、すぐに話を切り替える。
「ええ。アラガミを宿してる人ですよね? しかも、特殊なハンニバルを、ですよね?」
「ああ。それで、今度そいつがサーゼクスの妹と冥界に来る。その時に修行をするんだが……」
「その人の修行を手伝えばいいんですね? わかりました。引き受けます」
「悪いな」
「いいですよ。でも、海斗さんが他人のことで頼み事をするなんて珍しいですね」
「別に、お前なら見返りも求めないだろうから気軽に頼めるだけだ」
「……そういうことにしておきましょうか」
あくまで態度を崩さない海斗に少し笑いながら、彼は空を見上げる。
「にしても、僕と似ている人に会うのは、結構楽しみですね」
彼はそう言って剣にかけていたマントを羽織る。――その背には、狼の顔の紋章がついていた。
いい前書き(誤魔化し)だ。感動的だな。――だが駄文だ。
……今回自分で書いてて無理やり感があった気がします。すいません…。
最後に出てきたキャラはオリキャラです。まあ、どんなキャラなのかはわかる人にはわかりやすいですね(笑)
次回は、どうしようか迷っています。
短編(竜真の過去含む)を書くか、原作進めちゃうかで悩んでます。ただ、いい加減もう片方の小説を更新しないとマズいので、時間がかかるのは確定ですね(いつもの)
気にせずにいつもの日常を過ごしながらお待ちください。
それでは、この辺で。さようなら。