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第三十一話 野生のイッセーが一斉に飛び出してきた!
竜真side
「はぁあ…。眠いな……」
あまりの眠気にあくびを出しながら廊下を歩く。
既に放課後なのだが、提出しなければいけない課題があったので少し遅れて部室に向かう。やっぱ、作文は苦手だな…。
アーシアさんとゼノヴィアも残っていたのだが、俺より早く書き終えて部室に向かった。……おかしいな。目元が濡れてきた。
そんな視界に見慣れた顔が映った。イッセーだ。あいつもまだ部室に行ってなかったのか。
イッセーはそのままこっちに走ってくる。俺は声をかけようとする。
「――オラァ!!」
が、予定を変更してイッセーの顔面にパンチを叩き込む。まともにくらったイッセーはそのまま壁に激突する。
「おう、イッセー。テメェ、かつてないほど煩悩全開の顔でどこに向かってんだ、あぁん?」
普通の奴ならわからないが、長年のつき合いの俺にはわかる。
あれは、エロいことをやらかそうとしてる時の顔だ。しかも、普段の数倍はヤバいことをしそうな顔だった。
とっちめるためにイッセーに近づこうとする。
「――キャアアァァァァァ!!」
――が、突然廊下に悲鳴が響いたことで、俺は足を止める。この声は、アーシアさんか!?
俺はイッセーに構わず、全速力で悲鳴の発生源に向かう。そして、五秒もしない内にアーシアさんが見えた。
「アーシアさん! どうし――ぶっ!?」
だが、俺はアーシアさんに近づいた瞬間吹き出してしまった。なぜなら、アーシアさんは全裸でうずくまっていたからだ。
「あ、竜真さん!? み、見ないでください!」
「す、すいません! と、とりあえず、これを!」
俺はワイシャツを脱いでアーシアさんに被せる。少しはマシになっただろう。
「で、何がどうなれば学校の廊下でそんな格好に?」
「イ、イッセーさんがこっちに来たと思ったら、突然服を吹き飛ばされて…」
何? 俺はその答えに思わず顔をしかめる。
確かに、アーシアさんの衣服は下着を含めてバラバラになって床に散らばっている。こんなことを一瞬の内にやってのけるのは、イッセーの<洋服破壊>くらいだ。
でも、あいつはアーシアさんを妹のような存在として見ている。そのアーシアさんに、あいつが酷いことをするとは考えられない。
つーか、まずイッセーがほぼ同タイミングで二人いる時点でおかしい。さっき俺がぶっ飛ばしたイッセーは立ち上がった形跡はなかったし、第一移動が速すぎる。
「――アーシア! 何かあったのか!?」
ああ、余計にややこしいことになった。
俺たちの前から来たのは、今話していたイッセーだった。さっき俺が会ったのとは逆方向から来たし、イッセーの声は本気で心配してる時のものだ。アーシアさんが言った<洋服破壊>をやった奴でもないだろう。
イッセーは俺とアーシアさんの現状を見て、俺に掴みかかってきた。
「竜真! お前アーシアに何しやがった!?」
「待て待て、イッセー! 俺は何もしてないし、アーシアさんの服をひん剥いたのはお前らしいぞ?」
「はぁ?」
イッセーは何を言ってるんだという顔で俺を見る。だろうな。俺も自分でおかしいことを言ってるのはわかってる。だからそんな目で見るな抉るぞ」
「怖いこと言うなよ!?」
あ、いつの間にか漏れてたみたいだ。
「うぅ…。酷いです、イッセーさん…。いきなり服を吹き飛ばすなんて……」
「………え、マジで?」
「な?」
「――い、いや、ちょっと待て! 俺はアーシアに<洋服破壊>をした覚えはないぞ!」
まあ、過去に誤ってぶちかましたことはあるらしいが、あれは事故らしいしな。それに眉や瞳孔、視線を見るが嘘はついてないようだ。
この相手の顔を見て嘘を見抜く方法は、海斗さん直伝だ。人は動揺したり、嘘をついたりすると、体のどこかに変化が現れる。慣れてる人なら誤魔化すこともできるが、その上で変化を隠すのが難しいのは、パーツが多く、相手にさらけ出している顔。
――まあ、それ以前にこいつは誤魔化すのが下手だし、嘘をついてるなんてことはないだろう。
「どうにも、妙な事態になってるみたいだな。――とりあえず、部室に行こう。誰か、この異常について知っている人がいるかもしれない」
「「お、おう(は、はい)」」
俺たちはその場から移動しようとするが、曲がり角の向こうから誰かの気配を感じた。それと同時に、俺の体に悪寒が走る。この感覚があるということは……あいつか。
「む! 見つけたぞ、イッセー!」
やって来たのは、デュランダルを持ったゼノヴィアだった。やっぱり、さっきの悪寒はデュランダルか――って、そんなもん校舎内で出すなよ!?
おまけに、ゼノヴィアも<洋服破壊>をくらったのか、全裸の状態で大きな二つの果実を惜し気もなく揺らしながらこちらに迫る。
つーか、少しは隠せよ!?
だが、そんなゼノヴィアでも服を吹き飛ばされたのは許せないのか、怒った表情でデュランダルでイッセーに斬りかかる。
「――私を裸にしておいて、襲わないとはどういうことだ!」
……あー、うん。ツッコんだら負けなんだろ? 怒るところがおかしいとか言っちゃダメなんだろ? 知ってるよ。今は現実逃避して――る場合じゃない! このままじゃ、イッセーが消滅する!
俺はできるだけの魔力を込めて炎の盾を出して、デュランダルを受け止める。半分くらいまで食い込んだがなんとか止まった。オーラを抑えてる状態でこれだもんな…。味方になってくれてよかったぜ。
「なぜ止めるんだ竜真!? こういうことに関してはむしろ厳しい方じゃないか!」
「待てって、ゼノヴィア! 色々とおかしな状況なんだ! 少し落ち着け! ――いや、それよりも前を隠せ! お前少なくとも女だろうが!」
ゼノヴィアにそう言ったが、当の本人は首を傾げている。ああ、ダメだ。こいつアーシアさん以上に一般常識に疎い。いや、知ってたけどさ。
「あー、この際それはいい! だけどなゼノヴィア、お前を襲ったイッセーは少なくともこいつじゃない! 偽物だ!」
「む? どういう意味だそれは?」
「――こういうことよ」
突然、後ろから聞き慣れた声が聞こえてきた。それに覚えのある気配もする。
振り返ると、そこにはリアスさんに朱乃さん、祐斗と小猫とギャスパーがいた。オカ研の残りメンバーが揃ったか。
――そして、朱乃さんが持つ魔力の縄には、縛られたイッセーが。
「部長!」
「皆無事――というわけではないみたいだけど、早めに合流できてよかったわ。このまま全員で部室に飛ぶわよ。朱乃」
「はい」
朱乃さんが魔方陣の準備をする。その後、リアスさんがため息をつきながらこっちを向いた。
「ゼノヴィア。とりあえずあなたは前を隠して、デュランダルをしまいなさい」
……言ってることは正しいんだが、なんだろうか。リアスさんが裸に対して説教してもあまり説得力がない気がする。
――――――――――
「皆。この学園内の状況はわかってるわね?」
魔方陣で部室まで直行しあ俺たちは、現在オカルト研究部で緊急会議を開いている。
「はい。信じがたいですが、イッセーと瓜二つの存在――というか、イッセーそのものが学園中に大量に湧いて出てますね。早く<
「人を虫みたいに言うな、竜真! 俺だって自分がたくさんいるなんて嫌なんだよ! というか、<殺変態>ってなんだ!? 殺虫剤か!? 変態用の殺虫剤なのか!?」
今言ったように、原因は不明だがこの駒王学園におびただしい数のイッセーが出現している。そのイッセーは、見境なしに女生徒に<洋服破壊>を使って平和な学園内を大パニック状態にしている。
生徒会が対処に当たってくれているが、いかんせん数が多すぎて手に負えないようだ。
「――それで、アザゼル先生? ことの発端はなんですか? 早くおっしゃってください」
アザゼルに対して、問い詰めているのは柊先生だ。なぜ柊先生が此処にいるのかというと、この騒ぎにいち早く気づいて俺たちより先に部室に来ていた。
なんでも、柊先生はこの騒動の原因はアザゼルにあるのではないかと予測したんだとか。……まあ、こんなことを引き起こせるような技術を持つ奴はこいつしかいねぇし、実行しようとするのもこいつくらいだろう。
アザゼルは面倒くさそうに頭をかく。
「ったく。俺がやったのは確定事項なのかよ。――まあ、確かにこの事態になったのは俺の実験が失敗したせいだけどよ」
やっぱりお前のせいじゃねぇか。
「実験? それは兵藤くんを使った実験だったんですか?」
「ああ。ちょっとドッペルゲンガーの実験をしていてな。実行段階でちょうどよくイッセーを見かけたもんでよ。協力してもらったんだが、見事に失敗して大量のイッセーが湧いちまったんだ」
ドッペルゲンガーか。確か自分の生き写しで、もしそれを見たら死んでしまうとも言われてるものだ。
そんな危険なものにイッセーがよく協力したな。
「何が協力だ! あんた俺になんの実験か説明もないまま強制的に変な装置に入れたくせに!」
どうやらイッセーの意思は関係なかったようだ。
「なんだよ。減るもんじゃなし」
「いや、そのせいでこの現状があるんだが。――で? そのドッペルゲンガーはおおよそ何体なんだ?」
「ざっと三百くらいだ。しかも調整をミスったのか、本体の性欲を数倍にしたものが出ちまったよ」
「おっぱいを! おっぱいをくれぇぇぇぇ!」
檻の中に入れてあるドッペルイッセーが騒ぐ。これが三百か…。予想以上に多いな。少し手こずりそうだ。
冷静にそう分析した俺だが、皆の反応は違っていた。
「アザゼル先生、あなたはなんということをしてるんですか! この学園を混沌に陥れるつもりですか!? イッセーくんはただの変態じゃないんですよ!」
「…変態が増えるなんて悪夢です。一刻も早く退治しましょう」
いつになく焦る祐斗と、いつもより殺気を放つ小猫。いや、言ってることはあってるんだが、もう少し言い方をだな…。
「まあ、三百もいるイッセーなんて害虫と同じだ。駆逐した方がいい」
「元凶であるあなたが言う資格はないと思いますけど…。というか、それだと兵藤くんも死ぬことになりますよ?」
アザゼルの発言にツッコむ柊先生。まったくもってその通りだ。
「まあ、そんな細かいことはおいといてだ。とにかく、対策をうつか」
アザゼルがそう言うと、手元に一つの魔方陣が出る。それを少しいじると、少し空気が変わるのを感じた。柊先生はなんなのかわかったようで、アザゼルに質問する。
「これは、結界ですね?」
「ああ。とりあえず、これで学園全体を覆った。万が一にも学園からイッセーが一人でも出たら誤魔化しようがないからな。それと、これ以上混乱が起きないように学園にいる他の奴らは眠らせると同時に小型の防御壁を張っておいた。これでイッセーや他の男子は女子に襲いかかれない」
今のだけでそこまでしたのか・・・。あの魔方陣の仕組みを詳しく知りたいな。
皆はその手際のいい行動に拍手を送る。
おい、偉そうな顔してんじゃねぇよ。元凶はお前なんだからこのくらい当然だろうが。
「さて、それじゃあイッセー駆逐作戦を始めるか」
「アザゼル先生! その作戦名はやめてほしいんですけど!」
「まあ、作戦と言っても、あることをすれば楽なんだが……」
イッセーを無視して話を進めるアザゼル。そのあんまりな扱いにイッセーは泣き、アーシアさんがそれを慰める。哀れだ…。
そう思っていると、なぜかアザゼルがこっちを見てきた。
「竜真。これにはお前の協力が必要だ。…力を貸してくれるか?」
やけに真剣に聞いてくるアザゼル。まあ、それでこの騒動が解決するならいいか。
「ああ。別に、力を貸すのは構わない」
「おお、サンキュー! それじゃあ、イッセーと同じ装置に入って――」
「――だが断る」
「危ねぇ!?」
俺はアザゼルに割りと本気のパンチを放つ。残念なことに避けられたが。
「お前なぁ…! ことの発端である装置をまた使おうとするとかバカか? 俺のドッペルゲンガーまで暴走したらどうすんだ!?」
しかもイッセーみたいに性欲が増えた奴らだったら、俺はその場で発狂する自信がある。それにハンニバルの暴走のおまけつきだ。いや、自分で考えといてあれだがシャレにならないからな?
「んだよ。だってお前がイッセーを一番理解してるんだから、お前に殲滅してもらえば早いじゃねぇか。それなら多少失敗してもいいだろ?」
「いいわけあるかぁ! それにな、俺はここのメンバーでは身体能力高い方なんだぞ! イッセーならともかく、そんな奴らが大量に襲ってきたらどう対処するんだ!?」
「んー。その時は俺が直々に装置に入って――」
「あのな? 学習しろって言ってんの。その装置を使って解決しようすれば負のスパイラルができあがるだろうが! というか、お前のドッペルゲンガーなんて絶対に出させねぇぞ! 変な装置を複数作って被害が拡大する未来しか見えねぇよ!」
そうなれば、最悪学園の外にまで被害が出る。それだけは絶対に避けなきゃならない。
「はぁ…。だがまあ、あんたの言う通り、この中でイッセーの行動パターンを一番知ってるのは俺だ。――というわけで、このドッペルイッセー殲滅作戦の指揮は俺がとろうと思うんだが、皆はそれでもいいか?」
一応皆の、特に主であるリアスさんの意見が気になる。
「私はそれでいいわ。竜真がイッセーの考えを読んでいるのは、一緒に住んでいて痛感しているし」
「はい! 竜真さんなら信頼できます!」
「実際、この作戦で竜真くん以上のリーダーはいませんわね」
「…竜真先輩になら、安心して任せられます」
「うん。僕も竜真くんが適任だと思うよ」
「確かに。竜真ならイッセーの行動を先読みすることもできそうだ」
「た、竜真先輩! 頼りにしてます!」
「竜真のリーダースキルがどれほどか見極めるいい機会だ」
「鬼城くんがどこまでやるか、見せてもらうわ」
意外と快く許可してくれた。さて、あとは――
「イッセー。お前はどうだ?」
「俺も文句はねぇよ。竜真なら、アザゼル先生ほど酷いことはしないだろうし――」
「え?」
「え?」
まあとにかく、俺の指揮の元、ドッペルイッセー殲滅作戦が開始された。
――――――――――
あれから本校舎の廊下に移動した俺たち。だが、この場は静寂に包まれ、皆の顔にも緊張が走っている。
此処は戦場と変わらない。一瞬の反応の遅れが命取りになる。遅すぎず、速すぎず、最高のタイミングで――
「――フィィィィッシュ!!」
「こっちも釣れたよ!」
「す、凄い食いつきです!」
祐斗とアーシアさんも見事に釣り上げている。
いざ新校舎に来てみると、あれだけいたはずのドッペルイッセーはいなくなっていた。異変を感じてどこかに隠れたようだ。なので、まず手始めとして、俺たちは釣りでドッペルイッセーを誘い出すことにした。
ちなみに、釣り竿はアザゼルに頼んで転送してもらった(暇な時は釣りをしていることもあったようで、それなりの数を持っていた)。
餌はイッセーが好きそうなタイプの女性が表紙のエロ本だ。これが面白いくらいに食いつく。まあ、ドッペルイッセーがおっぱいを見ると落ち着くとか言ってたしな。
「…変態は滅ぼします」
「イッセーには悪いが、さすがにこの人数は逆に害になるからね」
そして、俺たちが釣り上げたドッペルイッセーたちは小猫とゼノヴィアが片付けてくれている。小猫から怒りのオーラが滲み出ているのは気のせいじゃないだろう。
「た、竜真先輩! 物陰から出てこないイッセー先輩がいます!」
ギャスパーが言うように、今までのに反応せずにこちらを窺うドッペルイッセーが見える。ドッペルゲンガーにも好みがあるのか?
「じゃあ、こっちの方を使え。少しマニアックだが、このタイプも読んでいたから食いつくと思うぞ」
「なあ、竜真。よく考えたらこれって俺の性癖が皆に暴露されてるのと同じだよな?」
「安心しろ。ほとんどの人はむしろ得してるから」
「意味わかんねぇんだけど!?」
だって、お前の好みが知れるんだから女性陣には得だろ?
そんな会話をしつつ、ギャスパーに本を渡す。それと、これらのエロ本もアザゼルに出してもらったものだ。
あんた(部下には)モテモテの総督のくせにこんなの持ってるのかと思ったが、イッセーも異性との過激な触れ合いが多いくせにエロ本やエロDVDとかまだ持ってることを思い出して黙っておいた。
「わっ、す、凄い! 食いつきました!」
とか考えている間に釣れたようだ。ゼノヴィアと小猫がそれを蹴散らす。
「…竜真先輩、後ろです」
と、小猫がそう言いながらこっちに走ってくる。ん? 後ろって確か――
「ぶげっ!?」
俺は小猫を止めようとするが間に合わず、イッセーは殴り飛ばされた。
「大丈夫ですか、竜真先輩?」
「いや、えっと。普通ならありがとうなんだけどな、小猫。それは本物だぞ」
「…何を言ってるんですか。本物はもっといやらしい顔をしています」
……イッセー。もう少し信頼されろよ。
「違うって。ドッペルゲンガーなら一撃で消えてるはずだ。だけど、あれは消えてない。わかるな?」
「…わかりました」
なんとかわかってくれたようだ。小猫はドッペルイッセー殲滅に戻っていった。
「おーい、イッセー。大丈夫か?」
「……小猫ちゃんのパンチ。いつもより力が込もってたんだけど…」
だろうな。
――――――――――
「……来ないな」
「ああ。いくらドッペルゲンガーとはいえ、こういうのは学習するんだな」
あれからしばらく釣り上げを続けたが、出てくる人数はドンドン減っていき、今は完全に隠れてしまった。
「エロ本じゃあ刺激が弱いか。……しょうがない。これはあまりやりたくはなかったんだがな」
俺はため息をつきながらアザゼルに近づく。
「アザゼル。簡単なのでいいから、試着室を作ってくれ」
「おう。それと、服はこんなのでいいか?」
「……まあ、これなら食いつくだろうけどなぁ…」
アザゼルからある服を受け取り、朱乃さんの元に向かう。
「朱乃さん。大変申し訳ないんですけど、この服に着替えてくれませんか?」
「その服ですか? ――あらあら、これは中々過激ですわね」
さすがに朱乃さんも少し驚いている。まあ、こんなの着ろって言われたらな…。
だが、イッセーを確実に誘い出すためにはこれしかない。それに、朱乃さんは色気が強いから確実性が増す。
「本当、申し訳ないです。でも、朱乃さん以外に適任がいないんです。リアスさんは最後の切り札のようなものなので、このタイミングで使うのはまだ早い。だから、どうか――」
「そんなに低姿勢でお願いしなくても大丈夫ですわ、竜真くん。下心があって頼んでくるのならあれですけど、竜真くんはこの異変を一刻も早く解決しようという一心ですもの。喜んで協力しますわ」
「朱乃さん……」
「――それに、また一つ竜真くんに返させる借りを作ることができますわ。うふふ」
アカン。この人目がマジだ。いざという時に何を頼まれるかわからねぇ。
「とにかく、安心していいですわ。ちゃんと着てあげますから」
「は、はい…。さっきの言葉を聞いたあとだと素直に喜べませんけどね……」
とりあえず朱乃さんに服を渡し、試着室に入ってもら――
「あ、ちょっと待って、竜真くん」
おうとしたところで、柊先生に声をかけられたので一旦止まる。
「……なんですか、柊先生?」
「あー! なんでそんなに嫌そうな顔するの!?」
いや、物事がうまくいきそうだという時に止められたらそりゃ嫌になるでしょう。
「酷いわ! せっかく協力してあげようと思ったのに…」
「え、マジで?」
「マジよ。でも、嫌だっていうなら別に――」
「もし平気なら、お願いしたいです」
俺は頭を下げて頼む。その方がイッセーが出てくる確率も上がるかあらありがたい。
「う~ん、でもな~。あんなに嫌そうな顔されたしな~」
「よし朱乃さん。気にせずに着替えてきてください」
「ああ、待って! 協力する! 協力するから無視しないで!」
あまりに懇願してくるので、結局朱乃さんと一緒に着替えてもらうことにした。ちなみに、衣装はいつの間にか転送してきたものを渡した。
「うわぁ、姫島さんやっぱり大きいわね…。羨ましいわ……」
「あらあら。柊先生だって小さすぎるわけではないじゃありませんか。プロポーションも充分整ってると思いますわ」
……試着室からそんな女子トークが聞こえてきたが、無視しておいた。こういうのに男が入るとロクなことにならんしな。
「――終わりましたわ」
少しして、二人が試着室から出てくる。
二人が今来ている服は、いわゆるバニースーツだ。露出は高く、胸元も強調されているので、これならドッペルイッセーも食いつくだろう。……実際、本体が鼻息荒く興奮してるし。
「じゃあ、お願いします。朱乃さん、柊先生」
「ええ。任せてください」
「私たちにかかればお茶の子さいさいよ」
自信満々に答える二人。そして、朱乃さんが大きく息を吸い――
「イッセーくーん!! おっぱいですわよー!!」
大声で叫ぶ。学園中に声が響いたあと、少し静かになる。
「「「「「「「「おっぱい!!」」」」」」」」
だが、大量のドッペルイッセーがそこら中から出てきたことでその静寂は破られる。これだけいると凄い迫力だ。走る音が地鳴りになっている。
「あらあら。本物なら好きなだけ触らせてあげるのですが、ごめんなさいね」
朱乃さんはそう言いながら目の前に雷を出す。欲望に忠実なドッペルイッセーたちは朱乃さんに飛び込むが、その勢いのまま雷に呑み込まれていく。なんという悲惨な絵面…。
「やるわね、姫島さん。私も負けてられないわね。――兵藤くーん!!」
柊先生も大きな声を上げる。ドッペルイッセーたちはそれに釣られて柊先生を見る。それを確認した瞬間、柊先生はその場に座る。
――ただし、足を大きくM字で開いた状態で。
いや、なんつーポーズしてんだあんた!? 角度的にこっちからは見えないとはいえ、教師が校舎内で何してやがる!?
「私、保健体育の担当ってわけじゃないけど、ある程度は教えられるわ。それでもいいなら特別授業をしてあげるけど――どう?」
柊先生は妙に色っぽい声を出してドッペルイッセーを誘惑する。あの手の見え方からすると、おそらく太ももの辺りを撫でているのだろう。
「「「「「「「「よろしくお願いしまぁぁぁぁす!!」」」」」」」」
その誘惑に耐えれるはずがなく、ドッペルイッセーたちが柊先生目掛けてダッシュする。
「ここまでうまくいくと面白いわね。――でも残念。レディはそう簡単に体を許したりはしないものよ?」
……俺の周りのレディは恋をした相手とはいえ簡単に体を許してるんですがそれは。
そう思っていると、柊先生がナイフを取り出す。それを目の前に刺した瞬間、全てのナイフが光に包まれデュランダルに変わる。〈名は力の象徴〉か。
「……凄いな。私の持つデュランダルがあんなに…」
その光景を見ていたゼノヴィアが驚く。ああ、そういえば能力を聞いただけで、実際に見るのは初めてだったな。
まあ凄いんだが、そのデュランダルに突っ込んでいくバカたちが全てを台無しにしている気がする…。
そんな中、アザゼルがイッセーの肩を叩いてきた。その手にはビデオカメラが。
「なあ、この光景同僚に見せていいか? おもしろすぎだろ」
「俺、あんたを殴っても怒られないと思うんだ」
「よし、イッセー。俺も加勢するぞ」
そこからしばらくの間、アザゼルとの殴り合いが始まった。元凶が何を楽しんでやがる!
――――――――――
「さてと。さすがにもう出てこないよな」
朱乃さんと柊先生の誘惑作戦を続けたが、いい加減どうなるかわかったようでドッペルイッセーも出てこなくなった。……学習するまでの犠牲が多すぎるのは気にしないでおこう。
そんなわけで、ドッペルイッセーの残りも相当少なくなっているはずだ。――次が最後。こちらも、切り札を切ろうじゃないか。
「お待たせしました。リアスさん、出番です」
「ええ。待ってたわ」
リアスさんは若干ウズウズした感じで返事をする。まあ、これまでの作戦でリアスさんには不参加で通してもらっていたからな。なんでもいいから参加したかったのだろう。
「それと、アザゼル。あんたにも手伝ってもらおう。というか手伝え。拒否権はない」
「扱いが酷いな…」
元凶が何かぼやいている。まあ、大した問題ではないだろう。
「それで竜真。どんな作戦なの?」
「簡単ですよ。まずは――」
俺は二人に作戦の説明を始めた。
――――――――――
「――フハハハハ!! 愚かなイッセーどもめ!」
アザゼルがいかにも悪役なセリフを高らかに叫ぶ。
此処は駒王学園の屋上。俺とアザゼルはそこにいる。
ちなみに、アザゼルは黒い甲冑とマントをつけた衣装を、俺はアザゼルの甲冑小さめマントなしバージョンの衣装を着ている。簡単に言えば、ボスキャラと幹部キャラだ。
「これを見ろ!」
アザゼルがそう言うと、屋上の一部が開き、そこから三メートルほどの十字架が出てくる。それには、ドレスを着たリアスさんが張りつけにされている。
「見ての通り、お前の主リアス・グレモリーは捕らえさせてもらった! フハハハハ!」
いやー、さすがは堕天使の総督。まるで違和感がないな。
「いいか、イッセー! 俺は今から、リアスの胸を揉む! いいか、揉むぞ!? お前がしたこともない触り方をしてやるぜ!」
アザゼルが指をわしゃわしゃと動かしながら言う。それを聞いたリアスさんは悲鳴を上げる。
「きゃー、イッセー。たすけてー」
なんという悲鳴だ。まるで感情の込もっていない見事な棒読み。これにはドッペルイッセーも反応する――わけあるか!
「あの、リアスさん? もう少し感情を込めてくれませんか? それじゃあいくら頭の悪いドッペルイッセーでも誘い出せませんよ」
「そうだぞ、リアス。ノリが悪いぞ。こっちもやる気がなくなるじゃねぇか」
「そんなこと言われても、こんな作戦がうまくいくの?」
まったく信用していない目でこっちを見る。その気持ちはわかりますよ。
だって、最後の作戦がただのお芝居なんだから、拍子抜けしても仕方ない。
「大丈夫ですよ、リアスさん。いくら性欲が強化されてるドッペルイッセーとはいえ、本質は変わらないはずです。だから、リアスさんが変なことをされるとわかれば、絶対に出てきますよ」
「でも…」
うーん。まだ納得できないか。
「仕方ねぇ。こうなりゃ本当にリアスの胸を揉みしだいて――」
「許可した覚えがない。勝手な行動はやめろ」
アザゼルに拳骨を入れる。確かにここまでの演技は流れを言っただけで、セリフとかはアドリブだったが。
「……………はぁ、仕方ないか」
俺は悪魔の翼を出してリアスさんの前に飛ぶ。
「竜真?」
「リアスさん。今度お詫びするので、我慢してください。――おい、イッセー!!」
俺は振り返って、学園全体に聞こえるように叫ぶ。そして――
「今からリアスさんの処女をもらうぞ!!」
爆弾発言をしてやった。
「「「「「「「「………」」」」」」」」
全員驚くかと思ったが、一周回って逆に黙り込んでしまっているようだ(柊先生はどこかいつもとは違う笑顔を浮かべ、アザゼルはニヤけてるが無視だ)。――まあ、いいさ。俺がやることに変わりはない。
俺はリアスさんの方に顔を向ける。顔を向けられたからか、リアスさんは再起動した。
「え、えっと竜真。い、今のは冗談よね? もしくはお芝居の続きよね?」
それでも俺の言ったことが理解できてないのか、信じられないという顔で質問してくる。
俺はその質問に答えず、リアスさんに顔を近づける。互いの息がかかりそうな距離まで近づいたところで止まり、ドレスのスカートに手をかけ少しずつ(下着は見えないように)たくしあげていく。
ある程度足が出たところで、太ももにそっと触れる。少し力を抜けば浮くような加減で触れているからよくはわからないが、とても柔らかそうだ。
「ん……っ!!」
リアスさんはみるみる内に顔を真っ赤にしていく。それに、俺がリアスさんに触る度にビクッとなっている。なんともかわいらしいその様子に、思わずニヤけてしまう。
俺は空いている右手でドレスの胸元に手をかける。そして――
「「「「「「「「竜真あああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」」」」」」」
我慢の限界がきたドッペルイッセーたちがこちらに全速力で走ってくる。やっぱり怒りで我を忘れて突っ込んできやがったな。
「竜真、テメェ!! 部長に何やっとんじゃボケェ!!」
ちなみに、本物もブチギレて俺の方に向かってこようとしてるが、祐斗と小猫が取り押さえてくれている。まあ、皆さっきの光景を見たせいか顔を赤くしてるが。
「じゃあ、アザゼル。処理は頼む」
「やれやれ、随分羨ましいことしてんな」
「あんたは俺よりずっと経験豊富だろ? それに、一応怒りの導火線に火は点けたとはいえ、俺が行為をやめて止まったらあれだしな。あと少しだけリアスさんには耐えてもらう」
「わかった。じゃあ、ボスらしく一掃してやろう!」
アザゼルはそう言うと、手から光線を放つ。それがグラウンドの一角に当たると爆発が起き、何人かのドッペルイッセーが呑まれる。強さはまさしくボス級だな。
「ハハハハハ!! 見ろ、イッセーがゴミのようだ!」
「そのゴミを量産したのはあんたということを忘れんなよ?」
そう言って再びリアスさんの方を向く。ずっと静かだとは思っていたが、その目は涙ぐみ、耳まで赤くなっている。
……はっきり言おう。申し訳ないとは思うが、それ以上に…。
「すいません、リアスさん。あと少しですので、我慢してください」
――Sっ気がくすぐられる。
俺は声をかけつつ抑えられない笑みを浮かべて顔を近づける。キスをされると思ったのか、リアスさんは目を瞑った。だが、俺は少し横にずれて耳に優しく息を吹きかける。
「ふゃ――!?」
普段からは想像できないかわいい声を上げるリアスさん。これがギャップ萌えというやつか。ああ、朱乃さんでもないのにもっといじめたいと思ってしまう。
――っと、いかん。楽しんでどうする俺! ギリギリ理性を抑え、先程から爆発音が絶えないアザゼルの方を向く。
「アザゼル。もう終わったか?」
「いや、まだだ。最後の一人がしぶとくてな」
グラウンドに目をやると、確かにドッペルイッセーは一人しかいない。だが、そいつはボロボロになりながらもアザゼルからの攻撃をかわしている。随分と頑張るな。なんであんなに――
「部長を助けるんだ!!」
――っ!!
その言葉を聞いた瞬間、俺はあることに気づいた。……いや、普通なら気づいていたんだ。ああ、俺はバカだな…。
次の瞬間、本物のイッセーが倒れるドッペルイッセーの元に向かう。そして、その手を差し出す。ドッペルイッセーもその手を掴んで立ち上がり、今度は二人で突っ込んでくる。
「なんだなんだ? あいつら結託しやがったぞ?」
アザゼルは少し戸惑いつつも光線を放つ。あくまで狙いはドッペルイッセーの方なので、イッセーに対して放つ光線は少なめだ。だが、イッセーはドッペルイッセーを護るようにその前に立つ。オイオイ危ねぇって!
しかし、その光線は祐斗とゼノヴィアが出した聖魔剣とデュランダルで防御された。それに続くように他の皆もイッセーたちに加勢し、こちらに向かってくる。……やれやれ。俺としたことが、とんだミスだ。
「お、おい! あいつら全員裏切りやがったぞ! どうする竜真!?」
「どうするって? ――決まってるさ」
俺は屋根から跳び、グラウンドに下り立つ。
「「竜真ぁぁぁぁ!!」」
先頭にいるイッセーズが拳を構える。
――俺はそれを正面からくらって倒れる。
「「え?」」
なんの抵抗もせずにくらったのが予想外だったのか、イッセーズは驚いた声を上げる。
「いてて…! さすがになんの対処もしねぇとイッセーの拳もいてぇな」
「た、竜真。どういうつもりだよ?」
「どういうつもりも何もねぇよ。――例え本物じゃなかろうが、イッセーはイッセー。性欲が増そうが、根本的なところは何も変わってない。なのに、それに気づかずあんなことをしちまった。……本当にすまん」
俺はその場で土下座をする。これじゃあ、親友失格だな…。
「……本当なら許さねぇけど、竜真は俺のことを結構考えてくれてるからな。今回みたいなミスもあるさ。だから、俺は許す! ――お前はどうだ?」
イッセーがドッペルイッセーに尋ねる。
「許す!」
ドッペルイッセーも声を上げる。……まったく。お人好しだな、お前らは。
「悪いな。にしても、そもそもの元凶を野放しにしてた俺はどうかしてたとしか思えないな。――つーわけで」
俺は籠手を出して飛び上がり、アザゼルのところに行く。そして、無駄にはためいてるマントを掴む。
「ん、なんだ?」
「オラァ!!」
「うおおぉぉぉぉぉ!?」
そのまま引っ張り、落ちる勢いのまま地面に叩きつける。
「いてて…。――はっ!?」
ようやく気づいたようだな。アザゼルが叩きつけられたのは、俺たちの中心だということに。
「さーて、アザゼル。いきなりで悪いが、ドッペルイッセーの駆除する手伝いだけじゃ、お前が今回巻き起こしたこの騒動の被害と合わない。――だから、ちょっとしばかれろ」
朱乃さんとアーシアさんとギャスパーはリアスさんの救出に行ったので、残りの皆が構える。それを見てアザゼルは表情を苦くする。
「くっ! いっそひと思いに殺したらどうだ!?」
「それじゃあ意味がないだろ? 少しずつ追い詰めなきゃな」
((((((((鬼畜…))))))))
なんか失礼なことを思われてる気がするが、気にしないでおこう。
「アザゼル、問題だ。俺は今からあんたを殴るつもりだが、右と左、どっちだと思う?」
「右と左? そんなの、利き腕の右だろ?」
「No! No! No! No!」
「え? ……じゃあ、左か?」
「No! No! No! No!」
「……ま、まさか、両方か!?」
「Yes! Yes! Yes! Yes! ――Yes!!」
「もしかしてオラオラかぁ!?」
「Oh,year! Are you ready?」
俺は両腕に力を込める。今の俺なら、某星の白金のごときラッシュをくり出せるだろう。
「に、逃げるが勝ち――」
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ――オラァ!!」
逃げようとしたアザゼルに限界突破のラッシュを叩き込む。それをまともにくらい、アザゼルは吹っ飛んだ。
「――ふぅ、スッキリした。じゃあ、皆。あとは好きにやってくれ」
俺はそう言って屋上に飛ぶ。そこでは、ちょうどリアスさんが解放されていた。
リアスさんがこっちに気づくと、顔を赤くして俯いてしまった。あー、相当気にしちゃってるな。
「あらあら、意外と大胆な竜真くんじゃないですか」
「竜真さんがあんなに大胆な人だとは思いませんでした。はうぅ…。自分のことでもないのに、思い出したら顔が熱く…」
「竜真先輩は凄いですぅぅぅ! 僕にはあんなまね絶対できませんんんん!」
それぞれ思い思いの感想を言う。勝手に言ってくれ。
俺はリアスさんに歩み寄り、頭を下げる。
「すいません、リアスさん。今度しっかりお詫びしますので、今回の行いは許してくれませんか? まだ許せないなら、尻叩きでもなんでも罰を受けます」
できればこれで許してほしいんだが、普通は許してくれるわけ――
「……いいわよ。今回の件は許すわ」
「え、そんなに簡単にいいんですか?」
俺が言うのもあれだが、リアスさんのプライドはだいぶ傷ついたのではないのかと思ったのだが……。
「(そんなことを言ったら、以前のキス未遂だってそうでしょ? あれは私がふざけすぎたからだし、これでお相子にしましょう)」
「(ああ、なるほど。了解です)」
「(ただ、一つだけ聞かせてちょうだい。……楽しんでた?)」
「さーて、そろそろアザゼルへの仕置きも終わったろうし、下に下りましょう」
「もう、竜真!」
リアスさんから逃げるようにグラウンドに下りる。そこには、だいぶ傷ができたアザゼルがいた。
「よう。少しは懲りたか?」
「けっ。よってたかって大人を殴るなんざ、大人気ねぇぞ」
「俺ら学生だもの」
そんなやり取りをしてると、ドッペルイッセーの体が消えかかっているのに気づいた。さすがにダメージが限界だったようだな。
見つめ合っていたイッセーズが敬礼をする。それを見ていたゼノヴィアとアーシアさん、ギャスパーも敬礼をする(後者二人は俺のすぐあとにリアスさんと朱乃さんと一緒に下りてきていた)。
一時的にとはいえ、共に戦った仲間としての友情が芽生えたようだ。その戦友に見送られながら、ドッペルイッセーは消えていった。
何はともあれ、これで解決したな。
――そう思っていた。
――――――――――
「あー、疲れた」
「お前はほとんど見学だったが、まあ精神的には一番疲れたろうな」
あのあと全員部室に戻ってきた。なぜか柊先生も来てるが。
「いやー、にしてもある意味いいものを見せてもらったわ。これを使って――」
「はい
柊先生がいつの間に撮っていたのか、手に持つビデオカメラを嬉しそうに見ていた。それを見た瞬間に俺は炎の剣を出してビデオカメラを斬り捨てる。
「あー!? せっかくのからかいネタが!」
「やっぱりそういうことに使う気でしたか。これ以上あなたに振り回されるのは嫌なので、乱暴ですが止めさせてもらいました」
「酷いわ! これは今回の一件についてアザゼル先生の失態を知らせるためのものでもあるのに!」
「ナイスだ、竜真!」
「そうだったんですか!? ………チッ」
「おい、あからさまな舌打ちするなよ」
アザゼルの失態を映してたなら先に行ってほしかった。それなら壊すこともなかったのに。
「そういえば、アザゼル先生。俺のドッペルゲンガーに<洋服破壊>された女子たちってどうなったんですか?」
イッセーがアザゼルにそう質問する。そういやそうだ。服はどうにかしただろうが、心配なのは記憶だ。一つは今回に関わる記憶を完全に消すか、あるいは――
「ああ。それなんだがな、記憶を完全に消去しちまうのも悪影響を与えてしまう可能性があるからな。だから、少しだけ記憶は残しておいた」
ああ、どうやら心配していた方だったようだ。とりあえず――
「イッセー。頑張れ」
「え、何が?」
「お、竜真はもうわかったのか。いやー、その残しておいた記憶っていうのがな――」
アザゼルが続きを言おうとした時、部室の扉が勢いよく開かれる。入ってきたのはギャスパーだった。
「た、大変ですぅぅぅぅ! この旧校舎に、女子の皆さんが押し寄せてきてますぅぅぅぅぅ! 怖いぃぃぃ!」
ギャスパーはそのまま部室に常時置いてあるギャスパー用の段ボールに入る。こいつも大分部室に出るようになったが、時たまあの<開かずの部屋>に戻ってる。まあ、ずっと住んでいたところだから仕方ない。
と、それはさておき、女子たちがこっち来てるんだっけか? 窓から下を見てみる。イッセーも隣から見る。
「あ、兵藤がいたわ!」
「出てきなさいエロ兵藤! 裸にされた恨み、あんたをぶん殴って晴らさせてもらうわよ!」
「もうお嫁に行けない! こうなったら、兵藤も婿入りできないくらいにボコボコにしてやるわ!」
そこには、殺気立つ学園中の女子がいた。あーあ、かつてないほど怒ってるな。
「な、なんだこれ!? 記憶消したんじゃ!?」
「イッセー、言ったろ? 全部消したら悪影響が出るって。だから、お前にひん剥かれたというところだけは変えずにそれ以外の記憶を消したってわけだ」
「はああぁぁぁぁぁ!? それほとんど消えてねぇじゃねぇか! どういうこと――」
「要するに――」
俺はイッセーを掴む。そして、そのまま持ち上げる。
「え、ちょ、竜真!? お前まさか――」
「イッセー。前に言ったよな? この世は理不尽だと。多数が助かるためには、少数が犠牲にならなければならないんだ。――悲しいが、友よ」
「待て! いい感じに言ってるが、要するに俺を生贄にする気だろ!?」
「うん、そう」
「軽っ!?」
「そーいうわけで――逝ってらっしゃーい!!」
足で窓を開けて、イッセーを放り投げる。そして、即座に窓を閉める。
「竜真ぁぁぁぁぁ!! 覚えてろぉぉぉぉ!」
なんか聞こえてくるが、気のせいだろう。
「俺が言うのもあれだが、大丈夫なのか?」
「大丈夫だ。あいつは女子たちに殴られなれてるし、今までの覗きの回数を考えればあれで丁度いい。何より、あの程度でくたばるわけないだろ? ――あ、小猫。そのチョコ一個くれるか?」
「……はい。どうぞ」
「サンキュー」
うん。まろやかな甘みと、仄かな苦みだ。どっかのバカの日常と同じだな。……圧倒的に甘みが多い気がする。
「……羨ましいねぇ」
この章ですが、あと一話ほど日常パートを書いたあと、竜真の過去を書きたいと思っています。
ちなみに、章の名前は日常平和のカオスロードという名前でいこうと思います。これからも何回か使うことになります。カオスロードって? ああ! それって裁きの龍とベエルゼ?←デュエリスト脳
今回は筆がよく進んだため早めに投稿できましたが、次もこの勢いでいけるかはわからないので、気長にお待ちください。
それでは、この辺で。さようなら。